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「スタートレック2カーンの逆襲」はスタートレックシリーズの中では平々凡々とした物語の映画なのであったが、映像革命という点では、かなり画期的なシーンが含まれていて、今日もなお語り継がれている作品である。
その画期的とはどのようなシーンだったかというと、月のような生命の無い惑星にある種のエネルギーを放射すると、地球のような生物の栄える惑星に変わるという「ジェネシス計画」というドラえもんに出てくるミニ地球のようなテクノロジーのシミレーションシーンが画期的なのであった。

エネルギーが照射されると月のような惑星は光り輝くエネルギーに包まれ、大気が生まれ、海が生まれ、やがて草が生え、樹木が育成し、青々とした生命力豊かな惑星へと変化する。
この変化していく過程をノンカットで表現した、スピード感溢れるコンピュータグラフィックスが画期的な映像なのであった。

1982年当時のCGといえば、リアルな表現はほとんどできなかった時代でもあった。
一般的なCGといえば、例えばワイヤーフレーム。
線だけで描かれたロボットやパース画が動くという、今よりも非常にデジタルチェックな映像がポピュラーな時代であった。
ロバート・エイブルの「シカゴ」や「ローラーコースター」などがこの頃の代表的な作品といえよう。
またテレビでは「オレたちひょうきん族」のタイトルやNHKニュース「NC9」のタイトルがレンダリング技術を利用した高度なグラフィックスの部類で、今では「Google Sketchのほうがレベル高いで」というようなCGを見て学生だった私は感動していたのだった。

ところがこの「ジェネシス」のシーンはフラクタル理論という当時最新の技術を盛り込んだ超リアルな映像で、まるで写真を生成したような画質は多くの技術者やアーティストの度肝を抜いたのであった。
今では当たり前のこうした映像が当時は「不可能」と思われていた時代だった。

この多くの人々の度肝を抜き、今日もなお語り継がせる映像を制作したのが「ルーカスフィルム」のCG製作部門。
のちのピクサーアニメーションスタジオだった。

伝記やその他ノンフィクションで知られているように、ピクサーアニメーションはアップルコンピュータをクビになったスティーブ・ジョブスが「将来の映像技術を我が物に!」という熱意でジョージ・ルーカスに御百度を踏んで買い取ったCGスタジオだ。

このCGスタジオはルーカス・フィルム時代には「ジェネシス」をはじめスターウォーズシリーズ、ジュラシックパーク、ウィローなどの映画はもちろん、テレビCMやNASAのシミレーション映像でもその技術の高さを誇ったものなのであった。
これがジョブスの手に入ったらどうなったか、というと周知の通り、映像世界、とりわけアニメーションの製作の世界を完全に作り替えてしまうというショックをもたらすことになった。
ジョブスはITでライフスタイルを変えただけではなく、映画というアナログチックな世界をも変革してしまった、革命児だったわけだ。

ジョブスはやがてその天性のビジネス交渉力を発揮し、ピクサーを譲渡することによりディズニーの筆頭株主になり、コンピュータ・通信業界と、映画産業という2つの世界の頂点に立ったのであった。
そのジョブスが無くなって1年。
何の因果か、かつてジョブスにCG部門を売り渡したジョージ・ルーカスは今度は会社ぐるみ、ジョブスの会社だったウォルト・ディズニー・プロダクションへ売り渡すことを決定した。

なんの運命か。
映画産業は実は小さな世界なのか。
驚きに満ちているのは何も映画のフィクションの世界だけではないらしい。

なお、20世紀フォックスのファンファーレではなくディズニーのシンデレラ城がタイトルに出てくるスターウォーズなんか、見たくない、という気がするのは私だけだろうか。

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