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2015生命大躍進



恐竜展ではないが、進化・古生物ファンにとって見逃せないイベントである。実際に、貴重な実物標本の数とクオリティの高さは圧巻だった。
 まずはバージェス動物群の実物化石のラインナップに圧倒される。これだけで充分に展覧会ができるくらいのものである。あまり詳しくない私でも、オパビニアやアノマロカリスを目の前にするとさすがに感動した。ピカイアは角度によるかもしれないが、照明の反射が強かった。ハイコウイクティスの頭部は小さいが、メタスプリッギナのプラナリアのような頭部には強く印象づけられた。CG映像のメタスプリッギナの顔には「気持ち悪い」という声が聞かれたが、その気持ち悪さの一因は「顎がないこと」かとも思われた。これの胴体の筋節の見え方は、ピカイアやハイコウイクティスとは違っている。黒い帯状の部分は筋節の間の組織なのか、筋節なのかいまひとつわからなかった。

ダンクルオステウスの全長が6-10mと幅があるのは、体の後半部分が軟骨性で保存されていないためらしい。しかしコッコステウスでは脊椎が保存されている。板皮類の中で、軟骨性と硬骨性の系統があるということか。大型化とともに軟骨化したのか、その辺がよくわからない。
 ユーステノプテロンの頭部の内部構造を観察するために、研磨機で削りながら断面を記録し、ワックスで3次元再構築した話は興味深かった。
 メソサウルスの全身化石も奇跡的な保存状態だったが、最古の爬虫類の卵化石としてメソサウルスの卵は興味深かった。すでに漿尿膜でガス交換できたということだろう。

単弓類はイノストランケヴィアなどおなじみの種類もあるが、テロケファルス類など初めて見るものもあった。コティロリンクスは、剣竜なみに頭が小さいですね。ACTOWの頭骨レプリカも出演していた。ディメトロドンはよくできていると思ったが、結局は知名度のある種類をメインに取り上げるのだなという気がした。ガチャの商品化でも、「顎の獲得」、「陸上生活」などの獲得したものの大きさでいうと、ディメトロドンよりはジュラマイアではないか?しかし全身の姿がよく知られていること、知名度、特徴的な形態と見栄えでディメトロドンなのだろう。ジュラマイアは割とシンプルな展示で、それはそれでよかった。

「胎盤の獲得」のところでは、考えさせられることがあった。胎盤の形成に関わるPEG10のような遺伝子がレトロトランスポゾン由来であることは、最近の進化発生学で大きな話題となった知見である。しかしCG映像では、ジュラマイアらしい哺乳類がレトロウイルスに感染してダウンし、生き延びた個体の中で‥と何か説明があるのかと思いきや、一行も説明がなくて拍子抜けした。これでは、PEG10遺伝子の獲得と胎盤の形成がどう結びつくのか、全くイメージがわかない。展示としてはこれが限界というのもわかるが、ひとことくらい何かあってもよかった。
 なぜこの胎盤のところだけが気になったのか、考えてみた。「顎の獲得」でも第1鰓弓から顎が生じたというだけで、メカニズムの説明は一切ない。しかし「顎のない魚」と「顎のある魚」の標本が目の前にあるので、どういう変化かは何となく頭にイメージされるのではないか。骨格系の変化は化石に残っている。胎盤や子宮は化石に残らないので、ビジュアルのイメージが何もないのである。博物館の展示物としての骨格、外骨格、生体復元のような標本に、今回は遺伝子、ゲノムという概念が加わった。しかし骨格以外の組織、器官の説明が抜けているきらいがある。胎盤の形成については、メカニズムの説明は全くなくても、爬虫類(または単孔類)の胚膜はこうなっている。真獣類の胚膜はこうなっていてこの部分が胎盤になった。という絵があればよかったのではないか。

ジュラマイアがジュラ紀の中国ということで、モノロフォサウルス、ヤンチュアノサウルス、アンキオルニスが映像化されている。それと対応して今回、ヤンチュアノサウルスの頭骨が見られたのは嬉しかった。

休憩所とトイレのコーナーを曲がると通常は緊張がゆるむところだが、「哺乳類の時代」の選りすぐりの哺乳類化石がまたすごい。これも実物か、という具合である。「イーダ」は位置づけがよくわからなかったが、奇跡的な化石にはちがいない。ネアンデルタールと交雑した痕跡がゲノムに残っているというのが最後のトピックスであった。くたくたになったが有意義な一日を過ごせた。

全体を通して、この特別展は単に各時代の生物群を紹介し、進化の過程を学ぶだけではなく、それぞれの大進化の痕跡が我々のゲノムに刻まれている、ということがミソになっている。ボディプランの獲得、ゲノムの四倍化、時には他の生物種の遺伝子を取り込むというようなイベントを経て、現在の我々の姿があるということを理解してもらおうという企画である。これは博物館の企画としても、野心的で壮大な試みと思われる。ボディプランという見慣れない用語に、「ボブディラン?」と言っていた中年女性がいた。このような比較ゲノムや進化発生学の成果を取り入れようとする試みが、今後他の博物館の企画に影響を与えるのか、注目されるところである。


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