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ヘピン続き


 当サイトではいくつかの恐竜のイラストを描く際に、恐竜博などで実際に見た復元骨格を参考にしているが、参考にできない場合もある。このヘピンゲンシスの場合、復元骨格のポーズに難があり、描く気にならなかった。いちいち説明することもないが、胴体が水平なのに頭と首は45°上を向き、尾は垂れ下がっていた。また足の指にはパッドがあるとしても、少しつま先立ちすぎではないか等々。今回「無理やり水平化」してみたが、直しきれない点も残っている。

 また、細かい話になるが、ヘピンゲンシスの復元骨格の体型(プロポーション)にも気になる点がある。2005年のジュラ紀大恐竜展では、実物化石が来ていた。頭骨と全身骨格の両方に「実物」と書かれていた。頭骨はガラスケースに入って警備員さんが見張っていた方が実物だから、全身骨格の頭はレプリカで、四肢はほとんど推定で作ったはずだが、脊椎骨や肋骨、腰帯などが実物と解釈した。脊椎骨が全部実物なら大きさが狂うはずはなく、信頼できるはずである。シンラプトルもヤンチュアノサウルスも大体アロサウルスと似た体型と思えば違和感はない。実際、この恐竜展の主役を張る堂々たる全身骨格で、胴が長めのアロサウルス体型であった。
 しかし2007年の名古屋の「恐竜大陸」では、ポーズは2005年と同じだったが、ひとまわり小さくなったような気がしたが気のせいだろうか。さらに2008年の幕張の「恐竜大陸」では、ポーズも変わってゴジラ立ちというか、尾を下げて立ち上がった姿勢であった。幕張の方が会場スペースが小さかったためかもしれない。全く同じかどうかわからないが北京自然史博物館にあるキャストも立ち上がった姿勢のものである。これをみると頸が短くティラノサウルス的なプロポーションとも見える。

 Gao (1992)によると、頭骨の長さは1040 mm、頸椎の合計の長さは890 mm、胴椎の合計は1550 mmとある。素直に考えると、10:9で頭骨よりも頸が短いのであり、頭が大きく、頸が短かめ、胴も短かめのティラノサウルス的な体型に思えるのだが。実際、先述のようにヤンチュアノサウルスと比べて頭が大きいのは確かで、頭骨:頸椎:胴椎が1 : 0.9 : 1.6とすると、頸椎+胴椎に対する頭骨の比率が1/2.5で40%になる。すると(実物を使っているはずの)ジュラ紀大恐竜展の復元骨格は、体が少し大きく作られているのではないか。頸と胴が少しずつ長くなっているようにも見える。それとも椎間板など関節部分の軟骨の長さを考慮すると、自然にこのようになるのだろうか。よく見ると、後方の胴椎(哺乳類の腰椎にあたる)で椎体と椎体の間に隙間が空いているが、自然にこうなるのか、意図的にしたのか。大きさの比率といっても、ポーズや見る角度によっても変わるので、本当のところは測ってみないとわからない。個々の骨は実物だが、隙間を空けるなど組み立て方によって大きくなったのか。(実物はほんの一部で、脊椎骨は10%くらい大きく作ったキャストということはないのか。)

 しかし、顔に関してはジュラ紀大恐竜展の方が正確というか、実物化石に忠実な気がする。立ちポーズの方の顔は、微妙に人工的なニュアンスが感じられる。当然ながら、ジュラ紀大恐竜展の実物頭骨はすばらしかった。後眼窩骨のごつごつした表面には、トゲ状に尖った部分もみられた。名古屋の恐竜大陸ではレプリカがあったが、表面のディテールが失われていて残念であった。
 このヘピンゲンシスはかなり立派な肉食恐竜だし、せっかく保存も良いのだから、願わくは正確なプロポーションで、かつ自然な姿勢の復元骨格が見たいものである。
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シンラプトル・ヘピンゲンシス(ヤンチュアノサウルス・ヘピンゲンシス)



 2005年の「ジュラ紀大恐竜展」で「ヤンチュアノサウルス」が来日したのは記憶に新しい。あのときの図録には、「この恐竜は現在、シンラプトルという意見もあります」という説明が付されている。しかしこれでは、最初に何をもってヤンチュアノサウルスと同定され、それがなぜ後にシンラプトルとされることになったのか、全くわからない。2007、2008年の「恐竜大陸」でも登場したが、日本ではヤンチュアノサウルスのまま紹介されている。
 この恐竜は1992年に自貢恐竜博物館のGaoによってヤンチュアノサウルスの新種、Yangchuanosaurus hepingensisとして記載された。その後、1993(1994)年にCurrie and Zhaoのシンラプトル・ドンギの記載論文の中で、シンラプトル属の第2の種であろうと示唆された。ただしCurrie and Zhaoは実際の標本を観察して正式に記載したわけではないので、いまのところ"Yangchuanosaurus" hepingensisとしておくのが妥当な気もする。ところがThe Dinosauria 2nd.ed. やWikipedia(英語版)でもCurrie and Zhaoの意見を採用してすっかりSinraptor hepingensis になっている。欧米の多くの研究者にはそのように認識されていることになる。Wikipediaではフロリダ州マイアミに展示されたこの恐竜のキャストの写真があるが、Sinraptor hepingensisとあるから、アメリカではシンラプトルとして展示されたということだろうか。


 自貢恐竜博物館の模式標本ZDM 0024は、完全な頭骨、9個の頸椎、14個の胴椎、5個の仙椎、35個の尾椎が関節状態で保存されている。また肩帯、腰帯もほとんど完全に保存されているが、四肢はほとんど見つかっていない。

 体は大きく全長8mに達する。頭骨はがっしりしており、顔の部分は長く丈が低い。第1前眼窩窓(=前眼窩窓)は大きく前後に長く、二等辺三角形をなす。第2前眼窩窓(=Maxillary fenestra)は小さく四角形である。その他に上顎骨にはMaxillary depressionという窪みがあり、これは長い楕円形である。頭頂骨の後方突起がよく発達している。上後頭骨は幅が狭く、正中の稜がよく発達している。涙骨は傾斜している。歯骨は厚く頑丈で、比較的丈が高い。歯は比較的小さく、前上顎骨と上顎骨の歯は薄い。前上顎骨歯は4本、上顎骨歯は13本、歯骨歯は16本ある。
 9個の頸椎は後凹型で、後方の頸椎には腹側の稜がある。14個の胴椎は、比較的短い両扁平型の椎体と、丈の高い板状の神経棘をもつ。5個の仙椎は互いに癒合している。尾椎は両凹型で、中央と後方の尾椎には長い前関節突起がある。腸骨は丈が高く前方突起が腹側に曲がっている。恥骨のpubic footは短く幅広い。座骨の遠位端は拡がっている。

 Gao (1992)によると、この標本は以下のような多くのヤンチュアノサウルスの特徴を示すという。頭骨は頑丈で、長さと高さの比率が中程度であり、6対の開口部をもつ。外鼻孔は卵形である。下側頭窓は中くらいの大きさで、その最も前後に長い部分は腹側中央にある(下ぶくれの形)。上顎骨には窪み(Maxillary depression)がある。頭頂骨にはよく発達した後方突起がある。前頭骨と頭頂骨が癒合している。下顎窓は大きい。前上顎骨歯は4本で、上顎骨歯は15本を超えない。頸椎は後凹型で、胴椎は両扁平型である。胴椎の神経棘は長方形で丈が高い。5個の仙椎は互いに癒合している。尾椎は両凹型で、前方の尾椎の神経棘は丈が高い。腰帯は頑丈で、pubic footは中程度に発達している。これらの特徴から、ヤンチュアノサウルスに属するとしている。
 しかし、この標本にはそれまでに発見されていたヤンチュアノサウルスとは異なる点も多くみられた。例えば、この“ヤンチュアノサウルス”・ヘピンゲンシスとヤンチュアノサウルス・シャンヨウエンシスが異なる点は、以下のようである。仙前椎(頸椎+胴椎)の長さに対する頭骨の長さの比率が、ヘピンゲンシスでは41%であるが、シャンヨウエンシスでは31%である。第1前眼窩窓は、ヘピンゲンシスでは前後に長い二等辺三角形であるが、シャンヨウエンシスでは正三角形である。第2前眼窩窓は、ヘピンゲンシスでは長方形であるが、シャンヨウエンシスでは三角形である。歯はヘピンゲンシスでは比較的小さく扁平であるが、シャンヨウエンシスでは比較的大きく太い。歯骨はヘピンゲンシスでは比較的丈が高いが、シャンヨウエンシスでは丈が低い。胴椎はヘピンゲンシスでは14個で椎体が短いが、シャンヨウエンシスでは13個で椎体が比較的長い、などである。またヤンチュアノサウルス・マグヌスとも比較している。これらの特徴から、ヤンチュアノサウルス属の新種、ヤンチュアノサウルス・ヘピンゲンシスとされた。


 Currie and Zhao (1993)は3種のヤンチュアノサウルスのうち、ヘピンゲンシスをシンラプトルに属するとした。シンラプトルはヤンチュアノサウルスと比較して頭骨がより長く、丈が低いこと、下側頭窓が大きいこと、後眼窩骨の側頭窓間突起が鱗状骨に覆われていること、後眼窩骨の粗面が発達して涙骨と後眼窩骨の間がほとんど閉じていること、などで区別できるとしている。

参考文献
Gao, Y. (1992) Yangchuanosaurus hepingensis - a new species of carnosaur from Zigong, Sichuan. Vertebrata PalAsiatica 30: 313-324.

(Translation of Gao (1992) was by J. Jin and obtained courtesy of the Polyglot Paleontologist website (http://www.paleoglot.org).)

Currie, P. J., and X.-J. Zhao. (1993) A new carnosaur (Dinosauria, Theropoda) from the Jurassic of Xinjiang, Peopleユs Republic of China. Canadian Journal of Earth Sciences 30: 2037-2081.

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