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コンカヴェナトル



コンカヴェナトルは、白亜紀前期バレム期にスペインに生息した中型のカルカロドントサウルス類(全長6m)で、2010年に記載された。胴椎の神経棘が長くのびた突起と、前肢の尺骨に羽軸こぶquill knobがあるという目立った特徴をもつ。ニュースでは「背中にこぶのある肉食恐竜」と報じられているが、このように尖った形の突起を「こぶ」とは言わないのではないか。いずれにしても、いつもながら古生物は予想もつかないデザインを見せてくれる。
 スペインのクエンカのLas Hoyasで発見された模式標本は、ほとんど完全な全身骨格が関節状態で保存されており、皮膚の印象が残るほど保存が良い。カルカロドントサウルス類の全身がこのように関節状態で発見されたのは画期的ではないだろうか。頭骨の顔つきをみると、確かにカルカロドントサウルス類らしい顔をしている。

分類の基準となる固有の形質は、鼻骨の側面に4個の窪みがありそのうち3個はつながっている、大きく丸く肥厚した後眼窩骨の突起postorbital browがあり眼窩の高さの1/3を占めている、第11と第12胴椎の神経棘突起が高く椎体の高さの5倍ある、第2と第3尾椎の神経棘突起が比較的高く頭方を向いている、前方の尾椎の神経棘突起の基部に小さなとげ状の突起がある、である。さらに、コンカヴェナトルは以下の形質の組み合わせを示す。より派生的なカルカロドントサウルス類やアベリサウルス類にみられるごつごつした隆起のある鼻骨、頬骨の前端が内側の前眼窩窓より後方にある、涙骨の前方突起が厚い、涙骨に孔がない、涙骨に下眼窩突起suborbital processがない、他のカルカロドントサウルス類と同様に歯冠の稜縁に隣接してエナメルのしわがあり、歯冠の表面を横切ってはいない、歯冠がほとんどカーブしていない、派生的なマニラプトル類のように尺骨の後側方縁に羽軸こぶquill knobがある、ティラノサウルス類と同様に腸骨の前寛骨臼突起の前縁の腹側部分が凸型でカギ状の突起がある、などである。

頭骨はほとんど完全であるが、吻部と後頭部は保存がよくない。前眼窩窩の前方部には1個または2個の窪みがある。涙骨と鼻骨の背側縁には粗面がある。鼻骨の側面には4個の窪みがあり、後方の3個は中央を通る溝でつながっている。大きくがっしりした後眼窩骨の突起postorbital browが眼窩の上縁の上に張り出しており、眼窩の高さの1/3を占めている。後眼窩骨の腹方突起には比較的大きな、三角形に近い眼窩内突起intraorbital processがあるが、これはアクロカントサウルスやカルカロドントサウルス類(亜科)のもっと腹方に位置する突起とも、またエオカルカリアの小さい粗面のある突起とも異なっている。カルカロドントサウルス類、アベリサウルス類、最も大型のティラノサウルス類と同様に、前頭骨は眼窩に面していない。上顎歯は側扁しており、凸型にカーブした前縁とまっすぐな後縁をもち、小さい鋸歯がある。他の多くのカルカロドントサウルス類と異なり、エナメルのしわは高く盛り上がってはいない。

胴椎は13個あるが、第11と第12胴椎の神経棘突起が高く椎体の高さの5倍以上に達する。仙椎と第1尾椎の神経棘突起は低く、腸骨の背縁より低い。前方の尾椎では神経棘突起が再び高くなっている。ということは元々腰の部分にアクロカントサウルスのように連続した「帆」があったのが、二次的に仙椎の部分だけが短くなったかのような形である。ホメオボックス遺伝子の変異が生じれば可能な変化である。そうするとこの恐竜では、腰帯の前に高い突起、腰帯の後に低い突起があったかもしれない。つまりラクダに例えると「ひとこぶ」ではなく「ふたこぶ」だった可能性もあるだろう。

最近の系統解析では、カルカロドントサウルス類は原始的なネオヴェナトル科(Neovenatoridae)と進化したカルカロドントサウルス科(Carcharodontosauridae)に分かれたとしており、両者を含めてカルカロドントサウリアCarcharodontosauriaと呼ぶようである。今回の系統解析の結果、コンカヴェナトルは基盤的なカルカロドントサウリア、または最も基盤的なカルカロドントサウルス科の一員と位置づけられた。


参考文献
F. Ortega, F. Escaso and J. L. Sanz (2010) A bizarre, humped Carcharodontosauria (Theropoda) from the Lower Cretaceous of Spain. Nature 467, 203-206.
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