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ラゲルペトン類 (アヴェメタターサリア、翼竜形類)



最新の研究で、翼竜の祖先に最も近いとされる動物。

ラゲルペトン類は、小型から中型(通常1m以内)のほっそりした走行性の爬虫類で、三畳紀中期から後期の南アメリカ、北アメリカ、マダガスカルから知られている。過去にはラゲルペトン類については、脊椎、後肢、わずかな頭の骨しか知られておらず、恐竜形類とされていた。近年、ラゲルペトン類と初期の翼竜の化石が発見され、詳細に研究できるようになったため、Ezcurra et al. (2020) はこれらの標本をマイクロCTなどを駆使して解析し、ラゲルペトン類と翼竜類が姉妹群をなすという結果を報告している。これらの結果はラゲルペトン、イクサレルペトン、コンゴナフォン、ドロモメロンなどという聞きなれないラゲルペトン類の全身の骨格に基づいている。論文の全身復元骨格も、1種類の全身骨格ではなくて、ラゲルペトン、イクサレルペトン、ドロモメロンを合成したものである。

ラゲルペトン類と初期の翼竜類とは、例えば以下のような形質を共有している。
1)上顎骨の前方突起の大部分が、外鼻孔に面している。
2)歯骨の前端には歯がなく、先細りに尖った形をしている。
3)歯骨の前方部分が腹側に曲がっている。
4)歯骨の前方の歯が(マシアカサウルスのように)前傾している。
5)下顎の夾板骨splenialがないか、退化的である。
6)歯骨の歯の数が多い(20以上)
7)歯列の後方の歯冠には3つの咬頭がある。
8)歯間板がない。
9)よく発達し後側方に尖った小脳片葉をもつ。
10)内耳の三半規管の部分は前後の長さより高さが大きく、前方半規管は後方半規管よりもかなり長いアーチをなす。
11)前肢の前腕は上腕骨よりも長い。
12)中手骨は比較的長く伸びている。
13)腰帯の恥骨と坐骨の結合が、腹側縁まで伸びている。
14)大腿骨頭がカギ形(hook-shaped)である。
15)距骨と踵骨が癒合(co-ossified)している。

これらの中で、おっと思ったのは歯の形状である。ラゲルペトンやイクサレルペトンでは歯列の後方の歯が3つの咬頭をもつ。複数の咬頭をもつ歯は主竜形類には珍しいが、初期の翼竜ラエティコダクティルス、カルニアダクティルス、エウディモルフォドンなどにはみられる。こういう飛行と関係ない部分に共通点があるとそれらしい気がする。

系統解析の結果、ラゲルペトン類が翼竜類と姉妹群をなすことが強く支持された。両者を含むクレード、翼竜形類Pterosauromorpha は、少なくとも33の共有派生形質で支持される。これらのうちいくつかの形質は、翼竜形類に固有であるという。内耳の三半規管の高さと長さの比率が0.9より大きい、夾板骨が退縮または欠損している、恥骨と坐骨の結合部pubo-ischial plateが腹側に伸びている、大腿骨頭がカギ形などである。

最も近縁といっても、ラゲルペトン類と翼竜類ではまだまだ多くの形態学的ギャップがある。ラゲルペトン類には、翼竜のような上腕骨の三角筋稜の拡大や第4指の拡大はみられない。第4指が少し伸びていたりすると感動するのだが、そうではない。これはやはり、樹上性とか滑空性という過程があるのだろう。地上に留まったのがラゲルペトン類で、樹上性から滑空に至ったのが翼竜類ということか。第4指が伸びるのは、皮膜で滑空することを前提とした変化のような気はする。ドロモメロンでは手の末節骨の曲がりが強いことから、木登りや獲物の捕獲などに用いた可能性があるといっている。

参考文献
Ezcurra, M.D., Nesbitt, S.J., Bronzati, M. et al. (2020) Enigmatic dinosaur precursors bridge the gap to the origin of Pterosauria. Nature 588, 445–449. https://doi.org/10.1038/s41586-020-3011-4
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2021 ティラノサウルス展大阪ATCホール


私がティラノサウルス類を見る必要性は、IOC会長の銀座散策よりはるかに大きい。不要不急ではない。新幹線はガラガラで、東京の通勤電車よりもはるかに安全だった。
 ひとことで言うと、贅沢な恐竜展だった。福井県立の全面的な協力のもと、量・質とも充実した展示で、夏休みに見るべきものを見た感がある。もし関西在住だったら2回行くところである。
 天気はあいにくの大雨だったが、東京から幕張へ行くよりはずっと近くて助かる。



会場に入ると、最初のつかみとしてAMNHが立ちはだかり、周囲にはグレゴリー・ポールなどのアーティストの恐竜イラストが並んでいる。そこを抜けると、恐竜全体の系統図と荒木さんの精巧な模型を見ながら奥へ進む。アロサウルス対ステゴサウルスやディプロドクスを前座に使ってしまうゴージャス感。このあと獣脚類の進化をたどるので、まず獣脚類以外を軽く見せるという位置づけである。



ミニ獣脚類展というか、ティラノサウルス上科にしぼって解説するので、ヘレラサウルス、コエロフィシス、チレサウルス、フクイラプトルとテタヌラ類まで来て、次はコエルロサウルス類に入るわけだ。シノサウロプテリクスの後、ディロン、ユーティラヌスと行く。
 このユーティラヌスの骨格は、どうも一回り大きいような気がしているのだがどうだろう。実物を見た印象ではもう少しシャープな感じがしたのだが、作り方の問題か。



懐かしいビスタヒの頭骨、これのレプリカなら欲しい。丈が高くてがっしりした印象が良い。小さい子が、ビスタヒエヴェルソルとカタカナで書かれたラベルを指でなぞりながら「ティ、ラ、ノ、サ、ウ、ル、ス!」と叫んでいた。名前を覚える気は無いがティラノサウルスの仲間で十分だと言いたいのか。確かに、これの学名は一般には難しすぎるわな。



ラプトレックスも何度も見たけど、また写真撮ったりして。そろそろ幼体であることが定着してきた扱いである。



ひと夏に2通りのゴルゴサウルスを見られるなんて素晴らしい。このゴルゴサウルスは、2人のお子さんを連れたお母さんに、思わず「ひょえーかっこいい」と言わせるほどの力がある。スタイルいいしね。「早く行こうよ」「ちょっと待って、お母さんこれ見て行く」と言ってました。



リスロナクスの全身骨格は今ひとつ感情移入できない。ポーズかな。

スタンの周りの解説パネルで、ティラノサウルス類の腰帯の説明がある。腸骨側面のリッジとあって、説明なしでリッジと言ってわかるかなと思ったら、図に線を引いてリッジとあったのでいいのか。「稜」と書いてもわからない人にはわからないし、そもそも説明を読む人は少ないか。ちなみに恥骨ブーツの説明文で、恥骨を腸骨とする誤植があった。





他の獣脚類と比べることで、ティラノサウルスの特徴がよくわかると言うふれ込みで、トルヴォサウルス、メガラプトル、カルノタウルス、ジェーンがたたみかけるように並ぶ獣脚類パレードには、さすがの私もやられた。実質この辺がクライマックスだろう。福井にしかできない量と質で圧倒するのはずるい。



 このあたり、全身骨格キャストのポーズが良いですね。メガラプトルもいいし、このジェーンの少し頭を下げた姿勢がいい。ジェーンの正面顔がほっそりして「京美人」だった。細すぎるとも言える。顎の幅がこのくらいだとやはり、トリケラトプスなら本当に小さい幼体でないと無理で、逆にこの体型ならオルニトミムス類を急襲して捕食することは十分可能という感じだ。

福井の研究者の卵や脳エンドキャストの研究を紹介しながら、咬む力を比較するのにワニ、走る速さを比較するのにダチョウやチーターが登場。体重あたりにするとワニが最強ということで、ワニは偉い。獣脚類やネコ科など陸上捕食者は機動力が必要なため、四肢が長く腰などの筋肉量も必要だから、相対的に頭は小さいし。



アイヴァンは中軸骨格と腰、後肢で、脊椎が揃っているのが重要らしい。

全体として研究者らしい視点が感じられた。民間だとティラノサウルスはとにかく大きくて、強くて、速くて、かっこいいんだ!となりがちなところを、冷静に客観的に、学術的に逸脱しないように抑えるトーンが感じられる。ティラノサウルスは速くは走れないとか、咬む力は最強だが体重あたりにすると・・とか、トリケラトプスの脳も大脳の発達は良くなくて本能的な行動が中心とか、やや貶め系とも取れる表現があちこちにある。カルノタウルスの横突起と尾大腿筋の説明のところで、ティラノサウルスはこのような特徴がなくあまり速く走れなかったと言うのは、あえて書かなくてもよかったのではないか。
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