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トンティアンロン


オヴィラプトル類の楽園にまた仲間がふえたようだ。一流誌に載るような研究は当然そうであるが、Lü 博士の論文は記載が明確で読みやすく、お手本のような論文に思える。今回もBrusatteと組んでいる。英語が読める方は是非Scientific Reportsの原文を参照されたい。
トンティアンロンは、白亜紀後期(マーストリヒティアン、Nanxiong Formation)に中国の江西省贛州市に生息したオヴィラプトル類で、2016年に記載された。ほぼ完全に近い3次元的な全身骨格が見つかっているが、尾椎はないようにみえる。前肢の先端や右の後肢も失われているとある。No. 3 high school of Ganxian赣县区第三高等学校?の建設工事現場とあるが、ぜひ校庭に復元像を飾ってほしい。工事で岩盤を砕かなければ発見されなかったのだから、建設工事さまさまである。

オヴィラプトロサウルス類は、最近アジアや北アメリカで多くの新しい化石が発見されたことにより、よく理解されるようになってきた。中国南部の江西省贛州市(カンチョウ、ガンジョウ、Ganzhou area)は、近年オヴィラプトロサウルス類の発見のホットスポットとして台頭してきた。この地域の白亜紀後期(マーストリヒティアン)の地層からは、過去5年ほどの間に5つもの新属が発見されている。今回Lü et al. (2016) は、贛州産の6番目のオヴィラプトロサウルス類Tongtianlong limosusを報告している。これは前肢を広げ、頭を持ち上げた珍しい姿勢の保存のよい全身骨格に基づいている。トンティアンロンは派生的なオヴィラプトル類(オヴィラプトリダエ)で、他のオヴィラプトル類とはユニークなドーム状の頭蓋天井、前方に突出した前上顎骨などの頭骨の特徴で識別される。贛州という地域に、摂食に関連した頭骨の形態が異なるような多くの種類のオヴィラプトロサウルス類が存在したことは、アジアの白亜紀末の最後の時期において、これらの恐竜の進化的放散があったことを示している。これは白亜紀末の大絶滅直前の、最後の多様な恐竜相を明らかにするのに役立つだろうとしている。

トンティアンロンは、以下の形質の組み合わせ(固有形質を含む)をもつオヴィラプトル類(オヴィラプトリダエ)である。頭蓋天井がドーム状で、最も高い部位が眼窩の後背方端の上にある;前上顎骨の前縁が側面から見て顕著に突出している;頭頂骨の前縁の中央に突起がある;板状の涙骨軸lacrimal shaftが前後に長く、外側面が平坦である;大後頭孔が後頭顆よりも小さい;歯骨の顎間結合の腹側の突起がない;胸骨に顕著な側方剣状突起がない。
 また著者らは、トンティアンロンがバンジー、ガンジョウサウルス、ジャンシサウルス、ナンカンギアなどの他の贛州産のオヴィラプトル類と異なる点について説明している。


Copyright Lü et al. 2016

頭骨はほとんど完全に保存されている。頭骨の最も目立つ特徴は、頭蓋天井がドーム状で、最も高い点が眼窩の後背方端の上にあることである。他の多くのオヴィラプトロサウルス類も頭蓋の装飾をもっている。しかし他の種類では、これらの「とさか」は通常、トンティアンロンのドーム状の状態よりも薄いものである。さらに、他の種類では「とさか」の頂点はトンティアンロンよりもずっと前方にある。つまり吻の前端で外鼻孔や前眼窩窓の上にあるか(バンジー、シティパティ、オヴィラプトル、ネメグトマイア)、あるいは頭蓋のほぼ中央で眼窩の真上にある(リンチェニア、フアナンサウルス、アンズー)。よってトンティアンロンの、後方に頂点があるドーム状のとさかはオヴィラプトロサウルス類の中でも固有の特徴である。この標本の3次元的な保存状態の良さから考えて、このドーム状のとさかの形が変形などのアーティファクトとは考えられない。
トンティアンロンでは、大きな卵形の外鼻孔が、三角形の前眼窩窓よりも上方にある。つまり外鼻孔の前腹方端が、前眼窩窓の後背方端よりもずっと上にある。これはネメグトマイアとリンチェニアにはみられるが、他のほとんどのオヴィラプトロサウルス類にはみられない特徴である。眼窩はオヴィラプトロサウルス類に典型的にみられるように、大きくほぼ円形である。外側側頭窓(下側頭窓)は長方形で、その長軸はやや前腹方に傾いている。これは他の多くのオヴィラプトロサウルス類の円形や正方形の形とは異なる。
 前上顎骨の前縁は強く凸型にカーブしている。これはトンティアンロンの固有形質である。シティパティやカーンなど他のほとんどのオヴィラプトロサウルス類では前上顎骨の前縁は直線的である。ユロンとバンジーでは前縁が少し丸みを帯びているが、トンティアンロンほどではない。


Copyright Lü et al. 2016 外鼻孔と前眼窩窓の位置関係のいろいろ

トンティアンロンは、江西省贛州のNanxiong Formationからの6番目のオヴィラプトロサウルス類である。これまで記載された種類はバンジー、ガンジョウサウルス、ジャンシサウルス、ナンカンギア、フアナンサウルスである。また隣の広東省のNanxiong Formationからも、シシンギアが見つかっている。これらの最近の発見により、中国南部はオヴィラプトロサウルス類の進化を考える上できわめて重要な地域となっている。なぜ中国南部のこの地域から、これほど多くの種類のオヴィラプトロサウルス類が発見されるのだろうか?
 これに対してLü et al.は2つの可能性があると論じている。1つは、最近の発見ラッシュは分類学的インフレーションであり、いくつかの標本は以前から知られていた種類の成長段階や性的二型の変異にすぎないという可能性。もう1つは、Nanxiong Formationは実際に、恐竜時代の最後の数百万年にオヴィラプトロサウルス類が進化的放散した過程を表している、というものである。この2つを完全に検証することは困難であるが、いまのところ後者のシナリオを支持するデータが蓄積しつつあるという。
 確かに贛州のオヴィラプトル類の中に同じ種類が含まれている可能性は存在する。これらの標本には形態学的に違いがあるのは明らかであり、固有形質や形質の組み合わせによって識別できることはわかっている。しかし形態の変異は分類学的違いによるとは限らず、個体発生や雌雄の差、その他の変異によるものも考えられる。もしも贛州のオヴィラプトル類の差異で種の違いでないものがあるとすれば、最も考えられるのは個体発生の変異であるという。例えばバンジーのホロタイプとトンティアンロンでは大きさがずいぶん異なるからである。
 現在のところ、個体発生上の変異が贛州のオヴィラプトル類にみられる変異のどの程度を説明できるか明らかではない。残念ながら獣脚類の形態が個体発生の過程でどのように変化するかについては、少ししか知られていない。系統的には離れているが植物食恐竜である角竜やハドロサウルス類では、頭部にとさかなどの装飾構造をもつものも多い。これらの恐竜では、個体発生の過程で頭部の装飾が劇的に変化することがよく知られている。よってオヴィラプトロサウルス類の頭部の装飾も成長過程で大きく変化する可能性があり、組織学的解析なしには成長段階と種の違いを区別することは困難なのかもしれない。
 しかしながら、個体発生上の変異だけでは贛州のオヴィラプトル類にみられる形態の変異を説明できないと考えられる。オヴィラプトロサウルス類の頭部の装飾は成長過程で変化したかもしれないが、贛州のオヴィラプトル類の標徴形質は、ほとんどとさかの形態には基づいていない。種間の解剖学的差異のほとんどは、頭骨の孔の形と位置、顔面の骨の形と方向、そして特にくちばし、下顎、頭骨の筋付着部の特徴に関するもので、これらは摂食に関係した形質である。例えば新しい種類であるトンティアンロンでも、強く突出した前上顎骨の前縁や、歯骨の腹側突起の状態、歯骨側面の深いくぼみ(筋付着部)に特徴がある。著者らはいまのところ、これらの違いは個体発生というよりも、実際の種間の違いを反映していると考えている。この種分化は、まだよく知られていないオヴィラプトロサウルス類の食物をめぐるニッチ分割に関連して起こっただろうという。
 これらのことから、中国南部のオヴィラプトロサウルス類の非常な多様性は真実であると考えられる。つまり白亜紀の最後に、実際に多くの種類のオヴィラプトロサウルス類が生息していた。これは、例えば遼寧省の義県層では、非常に多様な肉食ないし雑食のドロマエオサウルス類が存在したことを考えると不思議ではない。ただしNanxiong Formationは結構厚く、詳細な層序学的研究は進んでいないため、これらのオヴィラプトル類の詳細な生息年代はわかっていない。6種のオヴィラプトル類は同時に共存したのではなく、いくつかは時代が離れていたのかもしれないという。

贛州市
Copyright Lü et al. 2016
参考文献
Junchang Lü, Rongjun Chen, Stephen L. Brusatte, Yangxiao Zhu & Caizhi Shen (2016) A Late Cretaceous diversification of Asian oviraptorid dinosaurs: evidence from a new species preserved in an unusual posture. Sci. Rep. 6, 35780; doi: 10.1038/srep35780 (2016).
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浅草でラプトル教室



ヴェロキラプトルを中心にドロマエオサウルス類についての「ラプトル教室」は、さすがに人気を反映してか、参加人数も多く大盛況でした。
 ドロマエオサウルス類については、いろんな人がいろんな仮説を出しているわけですが、講義の内容はオーソドックスで納得のいくものと思いました。ミクロラプトルは胴が長く後肢は細く、二足歩行には適していない。樹上を四肢ではいまわりムササビのように滑空する動物と考えるべきとかですね。
 あとでグレゴリー・ポールの新しい本について、盛り上がりました。私は買っていないので、らえらぷすさんに見せてもらいましたが、なるほどね。勝手に属名が変わっているくらいで驚いてはいけない。「グレゴリーポール本の正しい読み方」みたいな解説書が必要ではないか、とか。

私は今回体調が悪かったので、途中に休憩タイムがあれば良かったかなと思いました。それぐらい皆さん熱心に集中していたということですね。
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ヴィアヴェナトル




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ヴィアヴェナトルは、白亜紀後期サントニアン(Bajo de la Carpa Formation)にアルゼンチンのパタゴニア(ネウケン州)に生息したアベリサウルス類で、2016年に記載された。Viavenator exxoniの由来は、viaが道路で「道路の狩人」。種小名はエクソンモービルがこの化石産地La Invernada areaの保全に貢献したことにちなむ。
ヴィアヴェナトルは、アベリサウルス類の中でも南米で進化したブラキロストラに属し、さらに系統解析の結果、ブラキロストラの中に新たに設けられた進化型のクレード、フリレウサウリアFurileusauriaの最も基盤的なメンバーであるという。フリレウとは現地の言葉で「堅い背中」を意味し、進化したアベリサウルス類では脊椎が強化される傾向があることを表す。フリレウサウリアにはヴィアヴェナトル、カルノタウルス、アベリサウルス、アウカサウルス、キルメサウルス、ピクノネモサウルスが含まれる。

ホロタイプは部分骨格で、完全な脳函と関節した後眼窩骨、鱗状骨、舌骨、不完全な歯と歯冠の断片、環椎、第3、4、5、7から10頸椎、第2、4、5、7から10胴椎、5個の前方の尾椎、5個の中央の尾椎、1個の後方の尾椎と最も末端の尾椎、肩甲烏口骨、座骨の一部、頸肋骨と肋骨、腹肋骨の断片、血道弓からなる。

特徴は16もあるが、どれも細かく難解である。フリレウサウリアらしい脊椎骨の特徴としては、頸椎のエピポフィシスの先端が前方を向いている(第4から第7頸椎においてよく発達する)、ハイポスフェン-ハイパントラム関節が第2胴椎から存在する、中央と後方の胴椎でinterspinous accessory articulation system (iaas)が発達している、といったところだろうか。interspinous accessory articulation system(訳すとすれば棘間付属関節系)とは、神経棘の先端に余分の関節ができて前後につながっているということである。第7-10胴椎は関節して見つかっており、その神経棘の先端には前方と後方に1対の短い突起があり、一つ前の神経棘をはさみ込むように関節している。アベリサウロイドであるダハロケリにも、後方の胴椎の神経棘の先端に短い突起があるが、ヴィアヴェナトルの強く発達した構造はダハロケリのものとは異なる。

頭骨の骨としては、脳函と関節した後眼窩骨、というあたりはアルコヴェナトルと似ているが、上顎、下顎などがないのはいかにも残念である。さらに残念なことに、前頭骨にも後眼窩骨にも角などのわかりやすい特徴がない。ヴィアヴェナトルの前頭骨は、エクリクシナトサウルスやアルコヴェナトルと同様に平坦であり、アベリサウルスやアウカサウルスのような眼窩上の隆起は発達していない。この眼窩上隆起はカルノタウルスの角と相同な構造とされる。またヴィアヴェナトルの前頭骨には、マジュンガサウルスやラジャサウルスのような1本の正中の角状突起もない。復元図でもシンプルな頭部に描かざるをえない。
 ヴィアヴェナトルでは、前頭骨、後眼窩骨、涙骨の間に孔がない。この孔は、原始的なルゴプス、エクリクシナトサウルス、マジュンガサウルス亜科にはみられるが、派生的なアベリサウルス、アウカサウルス、カルノタウルスにはみられない。この孔がないことは、フリレウサウリアの共有派生形質とも考えられるという。
 ヴィアヴェナトルでは、エオアベリサウルス、カルノタウルス、アベリサウルス、マジュンガサウルスと同様にinteorbital septumが骨化している。また後眼窩骨は、他のアベリサウルス類と同様に派生的なL字形をしている。ヴィアヴェナトルの後眼窩骨はカルノタウルスと同様に比較的長く、前腹方突起が涙骨の近くまで伸びている。後眼窩骨の背側縁は、強く発達しているスコルピオヴェナトル、エクリクシナトサウルス、アルコヴェナトルの状態とは異なる。この点も残念である。アルコヴェナトルでさえ、後眼窩骨の背側の稜を角質で強調するなどして特徴を表現することができるのに、ヴィアヴェナトルの場合はそれもできない。またヴィアヴェナトルでは、前腹方突起の後縁の中ほどに顕著な屈曲がある。これはカルノタウルスとアベリサウルスにはみられるが、フリレウサウリア以外のアベリサウルス類にはみられないという。

系統解析はTortosa et al. (2014) のデータセットを拡張・修正したものを用いている。すでに指摘されているように、クリプトプスの上顎骨と胴体は別の個体(つまりキメラ)と考えられるので、別々の単位として用いた。また暫定的にアルコヴェナトルとされたPourcieuxの上顎骨も別物として扱ったようである。結果的に「クリプトプスの胴体」とPourcieuxの上顎骨はケラトサウリアの外側に出てしまった。これらはテタヌラの可能性があるが、より多くのサンプルを加えた将来の研究を待たなければならない。
 タラスコサウルスなど2種の断片的な標本を除くと、アベリサウルス類の中の解像度がよい分岐図が得られた。アベリサウルス科の中でクリプトプスとルゴプスが最も基盤的なものであり、それ以外はマジュンガサウルス亜科とブラキロストラに分かれた。マジュンガサウルス亜科はインド・マダガスカルのグループ(ラジャサウルス、インドサウルス、マジュンガサウルス)とヨーロッパのグループ(ゲヌサウルス、アルコヴェナトルなど)に分かれた。
 ブラキロストラの中ではゼノタルソサウルスが最も基盤的となった。次いでダハロケリとラヒオリサウルスが基盤的な位置にきたが、これらの位置は不安定である。それ以外のブラキロストラは2つのグループに分かれた。1つはイロケレシア、エクリクシナトサウルス、スコルピオヴェナトルのグループであり、もう一つはフリレウサウリアである。フリレウサウリアの中ではヴィアヴェナトルが(キルメサウルスなど他の断片的な種類とともに)基盤的で、より進化したグループと姉妹群をなした。後者の中ではアベリサウルスとアウカサウルスがクレードをなし、それとカルノタウルスが姉妹群をなした。このような分岐パターンはこれまで報告されたことがないという。
 過去にはアベリサウルス類の系統関係について多くの変遷があったが、それにより分類群の名称にも影響がある。昔はアベリサウルスとカルノタウルスがかなり系統的に離れていると考えられていたので、アベリサウリナエとカルノタウリナエに分けられたこともあった。最近はアベリサウルスが「昇格」したので、これらの名称はあまり用いられない。また今回のようなトポロジーだと、カルノタウルスとアウカサウルスが最も近縁とした「カルノタウリニ」は用いるべきでないとなる。確かにカルノタウルスとアベリサウルスがこれくらい近縁とすれば、優先権から代表種として用いられるのはアベリサウルスの方になるだろう。
 ヴィアヴェナトルが系統的にスコルピオヴェナトルなどのグループと進化したグループの中間に位置することは、サントニアンという年代ともよく一致するとしている。アウカサウルスより少し古い種類であるが、脊椎の形質にはより特殊化した点もあるという感じである。


参考文献
Leonardo S. Filippi, Ariel H. Mendez, Ruben D. Juarez Valieri, Alberto C. Garrido (2016) A new brachyrostran with hypertrophied axial structures reveals an unexpected radiation of latest Cretaceous abelisaurids. Cretaceous Research 61, 209-219.
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