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プロケラトサウルス


プロケラトサウルスは、ジュラ紀中期にイギリスに生息した小型獣脚類である。発見の歴史はかなり古く、Woodward (1910)が最初にこの小型獣脚類の部分頭骨をメガロサウルス・ブラドレイイとして記載し、鼻の上の角や異歯性などの特徴を記したが、詳細な形態学的記載はしていなかった。その後Huene (1926)はこの恐竜をケラトサウルスの祖先形と考えて、プロケラトサウルス・ブラドレイイと命名したが、やはり詳細な考察はしていない。Paul (1988)は新たにこの獣脚類の復元図を描き、全般的な特徴や鼻の上の角をもつことなどから北アメリカのオルニトレステスと近縁と考えた。ただしオルニトレステスの角については、アーティファクトではないかと疑問視する意見もある。最近の大規模な系統解析では、プロケラトサウルスはコエルロサウルス類の最も原始的なものとされたり、オルニトレステスと近縁とされたりしているが、いずれも根拠は比較的弱いものであったという。
 Rauhut et al. (2009) はプロケラトサウルスの模式標本について、後頭部などを新たにクリーニングするとともにCTスキャンを用いて内部構造を観察し、詳細な再記載を行った。さらにグァンロンやディロング、タニコラグレウスなどをも含めて系統解析した結果、プロケラトサウルスは最古のティラノサウロイドとして位置付けられた。

 プロケラトサウルスは、以下のような固有の形質によって同定される。前上顎骨の前方鼻骨突起がやや前背方に傾いており、鼻骨の角nasal horn coreが前上顎骨のinternarial barの上に張り出している。前上顎骨のinternarial barは後方で、後方に向かう枝と背方に向かう枝の2つに分枝している。上顎骨の前眼窩窩の前端は、promaxillary foramen (fenestra) よりもかなり前方かつ腹方にある。最も前方の歯骨歯が前方に曲がっており、その稜縁は舌側と唇側を向いている。またプロケラトサウルスは、次のような形質の組み合わせをもつことで他の獣脚類と区別できる。外鼻孔の長さが頭骨の長さの20%以上あり、外鼻孔が後背方に傾いている。promaxillary foramen (fenestra)の丈がmaxillary fenestraよりも高い。鼻骨の正中線上に、外鼻孔の長さの前から1/3弱の位置から立ち上がる角がある。鱗状骨の方形頬骨突起がシート状に広がっている。前上顎骨歯は上顎骨歯よりもかなり小さい。歯骨の前方の歯が前に傾いている(procumbent)。歯の前縁と後縁で鋸歯の大きさが顕著に異なっている、などである。

頭骨の上部(頭蓋天井)は欠けているが、頭骨の長さと高さの比率は3以上と推定され、これはコンプソグナトゥスやグァンロンなどの基盤的なコエルロサウルス類と同様である。
 外鼻孔は大きく、モノロフォサウルスやグァンロンと同様に、頭骨の長さの20%以上に達する。ただしモノロフォサウルスやグァンロンでは外鼻孔は大体水平になっているが、プロケラトサウルスでは外鼻孔が約30°後背方に傾いている。前眼窩窓は三角形に近く、外鼻孔と同じくらいの長さである。前眼窩窩は大きく、頭骨の長さの40%以上を占める。眼窩は逆卵形である。下側頭窓は細長い腎臓形で、少し中央がくびれている。

前上顎骨は短く、その腹側縁の長さは頭骨全体の腹側縁の6%以下である。この比率は、多くの獣脚類ではもっと大きい(アロサウルス12%、ヴェロキラプトル13%)が、ティラノサウロイドでは小さい(グァンロン6%、ゴルゴサウルス5%)。一方、上顎骨は大きく、その腹側縁の長さは頭骨全体の腹側縁の60%を占める。上顎骨の側面の大部分は、大きな前眼窩窩によって占められている。前眼窩窩の前縁に大きなスリット状のpromaxillary fenestraがあり、CTでみると上方突起の基部の中の含気腔に通じている。ほとんどの獣脚類では前眼窩窩の最も前端にpromaxillary fenestraがあるが、プロケラトサウルスではpromaxillary fenestraは前眼窩窩の最前端よりも背方かつ後方にある。プロケラトサウルスでも、前眼窩窩の最前端には確かに大きな孔があるが、この孔はCTでみると含気腔に通じていないので、おそらく血管孔と思われるという。Maxillary fenestraは小さく、promaxillary fenestraの後方で同じ高さにある。
 鼻骨は一部しか保存されていないが、鼻骨の角(とさか)は前方でやや膨らんでいる。CTで断面を観察すると、内部に腔所があることから、この鼻骨の角はモノロフォサウルスやグァンロンと同様に含気性であったかもしれないという。いくつかの断面では、鼻骨内部の腔所は薄い隔壁で左右に仕切られているという。鼻骨の角はケラトサウルスのように前方に限られていたのか、モノロフォサウルスやグァンロンのようにもっと後方まであったのかはわからない。

系統解析の結果、プロケラトサウルスはティラノサウルス上科の最も基盤的な位置で、グァンロンと姉妹群になった(プロケラトサウルス科Proceratosauridae)。ここでプロケラトサウルスとグァンロンが共有する形質は、外鼻孔が拡大していること、上顎骨の上方突起が上顎骨本体の前縁と少しずれていること、鼻骨の正中線上にとさか(角)をもつことである。
 またプロケラトサウルスが他のティラノサウロイドと共有する形質としては、前上顎骨が非常に短い、頬骨が含気性である、前上顎骨歯と上顎骨歯の大きさが大きく異なる、最も前方の前上顎骨歯の断面がD字形、歯の前縁と後縁で鋸歯の大きさが大きく異なる、などが含まれるという。
 プロケラトサウルスがティラノサウロイドとすると、このグループの進化史はジュラ紀中期から白亜紀末までの非常に長い期間にわたることになり、従来考えられていたよりもかなり多様な種類が含まれていたと推測される。ここでプロケラトサウルス科を提唱したように、ジュラ紀の間にいくつかの系統に分岐したのかもしれないとしている。

参考文献
O. W. M. RAUHUT, A. C. MILNER and S. MOORE-FAY (2010). Cranial osteology and phylogenetic position of the theropod dinosaur Proceratosaurus bradleyi (Woodward, 1910) from the Middle Jurassic of England. Zoological Journal of the Linnean Society, 158, 155-195.

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