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ラヒオリサウルス補足


恐竜について事実が知りたいだけで、文献考証学をやりたいのではない。しかしなぜslender-limbedなのか、ヒントになるかもしれないことがあるので参考までに補足を書き留める。

実はChatterjee and Rudra (1996) は、「インドスクスの復元骨格図」を掲載している。新たに発見された胴体の骨格(後にラヒオリサウルスとなる)と、過去に作成した復元頭骨を合わせて、全身骨格を発表しているのである。(この復元頭骨自体が、全く別々に発見された骨を組み合わせて復元したものである。)そもそも別々に発見された骨を、同一種とする根拠なしに組み合わせて復元してしまうこと自体が、学問的には認められないはずである。
 1996年の時点では、著者らはおそらくインドスクスとしてまとめて記載したいと考えていたのだろうが、結局インドスクスとは同定できなかったので、胴体部分だけが新種ラヒオリサウルスとなった。
 当時はアベリサウルス類といってもアベリサウルス、カルノタウルス、インドスクスくらいしか知られておらず、アベリサウルス類全体がどんな体型の恐竜であるか、認識されていなかった。そのため「インドスクスの復元骨格図」はアロサウルスのような姿に描かれた。「カルノタウルスとは異なり、インドスクスの前肢はアロサウルスと同じくらい長い」とまで述べているが、これは前述のようにラヒオリサウルスの論文で否定された。

ラヒオリサウルスの後肢については1996年当時すでに、本文では「インドスクス」の後肢はがっしりしている、と記述しているのに、「インドスクスの復元骨格図」はほっそりしたアロサウルスのような体型に描かれている。それに対してWilson et al. (2003) はラジャサウルスの論文中で「Chatterjee and Rudra (1996)は、本文ではがっしりしていると記載しているのに、骨格図をみるとそれほどがっしりしていない」と指摘している。つまり、骨格図が不正確なのではないかと暗に批判しているのである。そして後のNovas et al. (2010) でも、記載本文ではがっしりしていると書いているのに、Discussionでslender-limbedと書いている。過去にスレンダーな骨格図を発表してしまったために、引っ込みがつかなくなったのではないかとも疑われる。

 ラジャサウルスもラヒオリサウルスも、アベリサウルス類の中で描き分けるほど正確な体型は復元できないというのが正しい。関節状態で見つかったアウカサウルスやスコルピオヴェナトルの化石が、いかに貴重であるかわかる。
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ラヒオリサウルス




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ラヒオリサウルスは、白亜紀後期マーストリヒト期(ラメタ層Lameta Formation)に、インド西部グジャラート州ケダ地方ラヒオリ村に生息した、ラジャサウルスとは異なるアベリサウルス類である。
 インドのアベリサウルス類としては、長年にわたりインドスクスやインドサウルスなどの断片的な化石しか報告されていなかったが、ラヒオリ村近郊のテンプル・ヒルTemple Hillから発掘されたラジャサウルスのまとまった化石が2003年に記載された(Wilson et al., 2003)。一方、それとは別に、Chatterjee and Rudraはラヒオリ村近郊のラメタ層に恐竜のボーンベッドを発見しており、1996年に報告した。このボーンベッドには、分離しているが互いに関連した多数のアベリサウルス類とティタノサウルス類の骨が含まれていた。Chatterjee and Rudra (1996) は、「完全に近いインドスクスの骨格を発見した」と記しているが、この骨格が研究の結果、新種のアベリサウルス類ラヒオリサウルスとなった。
 複数の個体の骨格が産出しており、右の脛骨が7個あることから、少なくとも7個体分の骨が含まれていると考えられた。ラヒオリサウルスの骨格は、胴体についてはかなりの骨が得られているが、頭骨については前上顎骨しか見つかっていない。発見されたのは前上顎骨、部分的な頸椎、胴椎、仙椎、尾椎、肩甲烏口骨、腸骨、恥骨、座骨、大腿骨、脛骨、腓骨、中足骨、趾骨である。Chatterjee and Rudra (1996)は上腕骨と撓骨も見つかったと考えていたが、検討した結果この上腕骨にはアベリサウルス類の特徴がなく、ティタノサウルス類の幼体のものと考えられた。また撓骨とされた骨は中足骨が割れたものとわかった。つまり前肢の骨は見つかっていない。

 ラヒオリサウルスは、(1)前上顎骨の歯間板が癒合していて、垂直の稜がない、(2)dental foraminaがない、(3)前上顎骨の歯の断面が涙形teardrop-shapedである、(4)腸骨の後寛骨臼突起postacetabular processの後縁に深い切れ込みnotchがある、(5)第1中足骨が棒状rod-likeである、(6)第2中足骨が近位で強く細まっている、という固有の形質をもつアベリサウルス類であるという。

 カルノタウルスやマジュンガサウルスの関節した標本でみると、アベリサウルス類の脊椎骨の数は、頸椎が10個、胴椎が13個である。仙椎の数はアベリサウルス科の中でも変異があり、マジュンガサウルスでは5個、カルノタウルスでは7個あるという。
 ラヒオリサウルスでは脊椎骨はほとんどバラバラで見つかっているが、仙椎はいくつか癒合した状態のものが複数ある。そのうち最も保存の良いISIR 511-514 と ISIR 404-407b は、カルノタウルスやマジュンガサウルスとの比較からそれぞれ第1~第5仙椎と考えられた。そして第4、第5仙椎の直径と形状から、ラヒオリサウルスではカルノタウルスと同様に7個の仙椎があったと考えられるという。腸骨の内側面のスペースからも、7個と推定されるといっている。つまりこの点ではマジュンガサウルスと異なり、カルノタウルスと似ていることになる。
 また並んだ仙椎を横からみると、中程の仙椎が細くなっているため腹側が凹んだアーチ状のカーブをなしている。ラヒオリサウルスではこのカーブが、マシアカサウルス、マジュンガサウルス、ラジャサウルスよりも顕著であるが、しかしカルノタウルスほどではないという。

 全部で46個の尾椎が見つかっているが、前方(近位)の尾椎は1個だけで、あとは中央か後方の尾椎である。これらは成長段階の異なる複数の個体のものが混じっている。近位の尾椎の椎体は、長さよりも高さの方がやや大きい、短いものであり、側面からみて平行四辺形をしている。この非対称な形から、仙椎に近い位置の尾椎とわかるという。横突起はカルノタウルスとは異なり、ほとんど側方(わずかに背方)に突出している。横突起の先端は欠けているので、南米のアベリサウルス類のように扇形fan-shapedであるかどうかはわからない。しかし、横突起の前縁が強く凹んでいて、顕著な前縁が発達している。この状態は南米のアベリサウルス類にもみられる。


 過去に記載されたインドスクス、インドサウルス、ラメタサウルスといったアベリサウルス類は、断片的な化石に基づいているため、分類学的位置を定めるのは困難である。残念ながらこれらの模式標本には、明確な固有の特徴がないため、同じ発掘地から新しい化石が見つかった場合に、これらのどの種類とも同定することができない。ラヒオリサウルスでは多くの骨が発見されているが、インドスクスなどの過去の標本を整理するのに役立つ情報はあまり得られなかった。そんなわけで、著者らはインドスクス、インドサウルス、ラメタサウルスは疑問名と考えなければならない、としている。

 ラジャサウルスが発見されたテンプル・ヒルとラヒオリサウルスの発掘地は、わずか400 mしか離れていない。すると、ラジャサウルスとラヒオリサウルスは本当に異なるのか、どこが違うのかという点が注目される。
 頭骨の要素としては、ラジャサウルスで発見されているのは脳函(前頭骨、頭頂骨含む)だけであり、ラヒオリサウルスで発見されているのは前上顎骨だけである。ラジャサウルスの固有形質は前頭骨の角や側頭窓の形状であり、ラヒオリサウルスの固有形質の半分は前上顎骨の特徴であるが、これらについては比較ができない。
 ラヒオリサウルスとラジャサウルスの間で比較できるのは、仙椎、腸骨、大腿骨遠位部、腓骨、第2中足骨などの共通した骨に限られる。前述のようにラヒオリサウルスの仙椎は、ラジャサウルスに比べて腹側のカーブがより顕著である。ラヒオリサウルスの腸骨は、ラジャサウルスと異なり後寛骨臼突起に深い切れ込みがある。またラヒオリサウルスでは寛骨臼の背縁が放物線状であるが、ラジャサウルスでは円状である。さらにラヒオリサウルスではラジャサウルスに比べて、第2中足骨の近位部がずっと細くなっている。
 著者らはDiscussion中で、ラヒオリサウルスの後肢はラジャサウルスに比べて細長いと述べているが、長さと太さの比率などを定量的に示してはいない。大腿骨、脛骨、中足骨の記載中にはラジャサウルスよりも細長いという記述はないようにみえる。写真では大腿骨も脛骨も結構がっしりしているように見え、脛骨についてはstout と書いている。しかし、ラジャサウルスは重々しい脚の太いstout-limbedアベリサウルス類であるのに対して、ラヒオリサウルスはよりほっそりした、脚の細長いslender-limbedアベリサウルス類であると述べている。つまりラジャサウルスはさらにがっしりしているということなのか。ラジャサウルスとの違いを強調するための表現にもみえる。
 そこでラジャサウルスの記載論文(Wilson et al. 2003)をみると、ラジャサウルスの後肢は、大腿骨、脛骨とも遠位部分しか保存されていない(完模式標本には右大腿骨も含まれるとあるが、これはなぜか記載されていない)。第2中足骨はよく保存されているが、ラヒオリサウルスと比べて太いようには見えない。つまりラジャサウルスの脚の長さや相対的な太さ自体、わかっていない。これでどうしてラジャサウルスよりもラヒオリサウルスの方が細長いと結論できるのか、出版されたデータからは釈然としない。ラヒオリサウルスは複数個体の骨が出ているので、亜成体などが含まれていて平均すると細長いということだろうか。


参考文献
Chatterjee, S, Rudra, D (1996) KT events in India: impact, rifting, volcanism and dinosaur extinction. In: Novas, FE, Molnar, RL (eds) Proceedings of the Gondwanan Dinosaur Symposium. Brisbane, QLD, Mem Queensland Mus, 39(3): 489-532.

Wilson, JA, Sereno, PC, Srivastava, S, Bhatt, DK, Khosla, A, Sahni, A (2003) A new abelisaurid (Dinosauria, Theropoda) from the Lameta Formation (Cretaceous, Maastrichtian) of India. Contr Mus Paleontol Univ Michigan, 31: 1-42.

Novas, F. E., S. Chatterjee, D. K. Rudra, and P. M. Datta. (2010). Rahiolisaurus gujaratensis, n. gen. n. sp., a new Abelisaurid theropod from the Late Cretaceous of India; pp. 45-62 in S. Bandyopadhyay (ed.), New Aspects of Mesozoic Biodiversity. Springer, Heidelberg.
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アルクトメタターサルの歌




アルクトメタターサルの歌   (作詞:Theropod)

ティラノ、オルニト、トロオドン
派生的な種類では
第3中足骨 近位部が
第2、第4にはさまれる

これはショックアブソーバー
速く走ると本領発揮
ゆっくり歩くと目立たない
歩くと目立たざる

速く走ると本領発揮
ゆっくり歩くと目立たない
歩くと目立たざる
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2012年池袋ミネラルショー

金曜日に行きました。まずGeorgeさんのところで、庶民には買えないことを確認します。デイノニクスの歯や、珍しいところではエリオプスの歯もありました。パキケファロサウルスの頭のこぶというのもありましたが、まもなく売れたようです。



Treasure of the Earthは、別の意味で買えないものが多い。唯一興味をひかれたのは、このタルボサウルス頭骨ですが。「本物のレプリカ」ならこんな格安のはずがないので二次レプリカ?の疑いが強いですが、形はかなり良いと思いました。少なくとも隣のティラノよりは。。。



パレオサイエンスでは、どこかで見たようなものが販売されています。25万ということですので財力のある方はどうぞ。



3階では透明標本やGalvanicと並んで、水生古生物のオルドビスさんのブースがあり、甲冑魚、モササウルスやリオプレウロドンもいました。



今回の収穫は、Zoic Srlのカルカロドントサウルスの頸椎。これはおそらく第5頸椎ということです。



もう一つは、フランスのEldoniaから、カザフスタンの「タルボサウルス」の歯です。昔ロジェストヴェンスキーがカザフスタン東部で発掘したもので、Tyrannosaurus cf. bataar とある。かなり太い歯です。ちなみにロシア産のキレスクスの歯もありました。





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