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肉食の系譜
トルボサウルスの最近の進展(2)アメリカ産とポルトガル産
Copyright 2014 Hendrickx and Mateus
ポルトガルのロウリニャ層で発見された上顎骨と断片的な尾椎は、2006年にはアメリカのトルボサウルスと同種として報告されていた。その後、Hendrickx and Mateus (2014)がこの標本をアメリカのトルボサウルス・タンネリと詳細に比較した結果、いくつかの重要な違いが見出されたので、トルボサウルス属の新種トルボサウルス・グルネイとして記載された。
トルボサウルス・グルネイのホロタイプは、不完全な左の上顎骨と近位の尾椎の後方部分である。その他、別に見つかった脛骨と大腿骨の断片、分離した歯なども暫定的にトルボサウルス・グルネイと考えられている。
トルボサウルス・グルネイはほとんど上顎骨しかないので、著者らは世界中の大型獣脚類の上顎骨を比較研究している。多くの進化した獣脚類では、上顎骨の前眼窩窩にmaxillary fenestraという孔があいている。(わからない方は過去の記事の「アロサウルスの成長」「アリオラムスの頭骨を観察しよう」、「ヴェロキラプトル」、「丸ビルでアクロカント」などに図がある)トルボサウルスではこれが貫通した孔ではなく、浅い凹みになっている(「トルボサウルス1」参照)。
上顎骨の歯が収まっている歯槽の内壁は、歯間板 interdental plateという構造でできている。多数の歯間板が前後に並んでいるが、一部の獣脚類では歯間板が互いに癒合してひとつながりの板になっている。トルボサウルスでも歯間板が癒合して歯間壁interdental wallという構造になっている。
Hendrickx and Mateus (2014)はトルボサウルス属、トルボサウルス・タンネリ、トルボサウルス・グルネイの特徴を記述しているので簡単に記録する。
トルボサウルス(属)の特徴は、上顎骨の前眼窩窩に(貫通したmaxillary fenestraではなく)浅いmaxillary fossaをもつこと、前眼窩窩の前端腹側でmaxillary fossaの下に隆起した稜があること、歯間壁が上顎骨の内側面の1/2を占めること、などである。
トルボサウルス・タンネリの特徴は、歯間板の腹側縁が広いV字形で、歯間壁が上顎骨の外側壁より短い(上下にずれている)、内側棚の前方部で前内側突起anteromedial processの後方に隆起がある、である。
トルボサウルス・グルネイの特徴は、上顎骨の歯槽の数が11より少ない、歯間板の腹側縁がほぼ直線状、歯間壁が上顎骨の外側壁とほとんど一致している(揃っている)、内側棚の前方部で前内側突起anteromedial processの後方に隆起がない、である。(論文ではメガロサウロイドの中で固有の形質と、タンネリとの違いに分けて書いてあるが、重複するのでここではまとめて書く)
トルボサウルス・タンネリとトルボサウルス・グルネイの違いのうち、最もわかりやすいのは歯の数である。Britt (1991) によると、トルボサウルス・タンネリの上顎骨には11個の歯槽が観察され、全部で推定12-13個と考えられた。Hendrickx and Mateus (2014)の観察では確実なのは10個で、推定11-12個と考えている。それに対してトルボサウルス・グルネイでは8個しかみられず、最大でも10個と考えられた。歯の数は同種内でも個体によって変異がみられるので、これを種の特徴とするのには慎重でなければならないが、メガロサウロイドの中で上顎骨の歯の数が11より少ないのはトルボサウルス・グルネイだけである。
トルボサウルス・タンネリでは、歯間板の腹側縁が広いV字形をしている。一方トルボサウルス・グルネイでは歯間板の腹側縁が直線状で、歯間壁全体にわたって隣と連続している。V字形の歯間板は、多くの獣脚類にふつうにみられる。例えばノアサウルス類マシアカサウルス、アベリサウルス類ルゴプス、多くのメガロサウルス類、アロサウロイド(アロサウルス、ネオヴェナトル、シンラプトル、マプサウルス)、ティラノサウルス類(アリオラムス、タルボサウルス、ティラノサウルス)などである。一方、直線状(長方形)の歯間板は、ケラトサウルス類(ケラトサウルス、ノアサウルス、アウカサウルス、マジュンガサウルス)、メガロサウルス類メガロサウルス、アロサウロイドのシャオチーロン、ティラノサウロイドのエオティランヌスにみられる。
もう一つの違いは上顎骨の外側縁に対する、歯間板(の癒合した歯間壁)の腹側への伸展の度合いである。トルボサウルス・グルネイでは、歯間壁は上顎骨の外側縁とほとんど同じくらいまで伸びている。一方トルボサウルス・タンネリでは、歯間壁は短く、上顎骨の外側縁よりもかなり上(背側)で終わっている。このような歯間板の相対的な伸展の程度は、ケラトサウルス、マジュンガサウルス、メガロサウルス、アロサウルスなどの同種内の異なる標本の間では違いはみられなかった。それに対してカルカロドントサウルス・サハリクスとカルカロドントサウルス・イグイデンシスの間では違いがあり、前者の歯間板の方がより腹側まで伸びている。このことから歯間板の相対的な伸展は種間で異なるものであり、2種のトルボサウルスを識別する特徴と考えられるという。
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参考文献
Hendrickx C, Mateus O (2014) Torvosaurus gurneyi n. sp., the Largest Terrestrial Predator from Europe, and a Proposed Terminology of the Maxilla Anatomy in Nonavian Theropods. PLoS ONE 9(3): e88905. doi:10.1371/journal.pone.0088905
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