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国際恐竜シンポジウム3


 フィリップ・カリー博士の講演は2日目の普及講演「アジアと北アメリカの獣脚類」の方が時間も長く、一般向けなのでわかりやすく、また獣脚類の話なので楽しく聞けました。董枝明博士の竜脚類の話の後をうけて、「私はドン先生のよりも小さい恐竜を研究しています。あるときドン先生から3年がかりで発掘したと聞いたのでよく聞くと、巨大な頚椎だけの話だった。そういうのは私には楽しくない。そこでもう少し小さい恐竜をやっています。私の研究しているのはほとんどが肉食の恐竜です。」という“つかみ”から始まり、アジアと北アメリカの間には恐竜の交流があったことが明らかなので、北アメリカの恐竜について理解するためにもアジアの恐竜研究が必要であると続く。
 非常に保存のよいゴルゴサウルスの全身骨格産状とその頭骨、ティラノサウルスの頭骨などを示し、ティラノサウルスの歯はナイフというよりもバナナのように太く、獲物の生死にかかわらず骨ごと切断するのに適している等の話。また鋸歯のあるゴルゴサウルスの歯と鋸歯のないアウブリソドンの歯を並べ、断面のD字型を説明し、アウブリソドンは何かの幼体かもしれないが少なくともゴルゴサウルスとは違うと説明。一方モンゴルにはタルボサウルスがいたといって、タルボサウルスの幼体と成体の全身骨格を示し、40個体もの化石が産出していること、昔はティラノサウルスと同属とされていたが別のものと考えられるようになった。タルボサウルスはティラノサウルスよりも明らかに前肢が短い、それ以外は非常に似ていると説明。次にダスプレトサウルスの写真を紹介し、カメラのケースがたまたま転がっていった先がダスプレトサウルスの頭の上だったと発見のエピソードを交えながら、ティラノサウルスはタルボサウルスから進化したのではなく、ダスプレトサウルスから進化したのです、と簡潔に説明。
 次にヴェロキラプトルとプロトケラトプスの格闘化石を紹介し、おそらくヴェロキラプトルはプロトケラトプスを殺したが、プロトケラトプスが前肢に噛み付いたまま死んだので、その場から動けなくなり、そのうち砂嵐に埋まってしまったのだろうと説明。ヴェロキラプトルとよく似た種類として北アメリカのサウロルニトレステスを紹介。さらにカエナグナトゥスの下顎、エルミサウルスの中足骨などを紹介し、「ブルドッグのように太い鼻先をした」ドロマエオサウルス類アトロキラプトル?を紹介。さらに新発見の獣脚類の尺骨が、肘頭の形状などからモノニクスのようなアルバレッツサウルス類と考えられると説明。最後にはティラノサウルス類の骨断面の年輪から、成長曲線を解析した仕事を紹介した後、フクイラプトルでも異なる成長段階の多数の大腿骨が得られていることを指摘して、日本でも肉食恐竜の成長速度の研究ができるかもしれないと示唆して締めくくりました。恐竜にも普通の生物学的な観点からの研究が必要であるといっていました。

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国際恐竜シンポジウム2

 李大慶博士の「中国甘粛省のテリジノサウルス類」は興味深い発表でした。甘粛省の酒泉という地域の白亜紀前期の地層から発掘されたテリジノサウルス類で、脊椎骨、肩甲烏口骨、上腕骨などかなり多くの骨の写真が紹介されました。上腕骨は長く、また肩甲骨や恥骨の特徴から新属新種スゾウサウルス?・メガテリオイデスSuzhousaurus megatherioidesと命名されました。分岐分析によると北アメリカのノスロニクスと姉妹群をなし、ファルカリウスやベイピャオサウルスよりは派生的だが、アラシャサウルスやテリジノサウルス科よりは基盤的ということです。このスゾウサウルスは既にテリジノサウルス類としてはかなり大型のもので、この系統では比較的早期に大型化が起こったと考えられる。復元骨格がいま「恐竜大陸」で来ているものです。

 呂君昌博士の「中国河南省ルアンチュアンの脊椎動物群集」もまた面白い話題でした。河南省ルアンチュアンのTantou盆地の白亜紀後期の地層からドロマエオサウルス類のルアンチュアンラプトルが発見された。腰帯、尾椎、血道弓などがある。上顎骨もあったのは別のドロマエオサウルス類か?とにかくこのルアンチュアン動物相では小型や中型の獣脚類が多く、トカゲ、哺乳類なども含まれているそうです。ドロマエオサウルス類、トロオドン類、オヴィラプトル類、オルニトミムス類、アルバレッツサウルス類、ティラノサウルス類まで、モンゴルのネメグトと比較できるような、多様な獣脚類が生息していたようです。ここでティラノサウルス類というのは、昔、董枝明博士が命名したティラノサウルス・ルアンチュアネンシスという1本の?大きな歯のことだそうです。おそらくマーストリヒト期ではないかともいっていた気がします。

 タイのバラブード・スティーソン博士はタイの恐竜全般について解説されました。タイの恐竜は従来、ほとんどが北東部から発見されていたが、最近では西北部と南部(半島部)でも発掘されるようになったようです。最古の竜脚類イサノサウルスをはじめ、プウィアンゴサウルス、シャモティラヌス、円錐形の歯からスピノサウルス類と同定された?シャモサウルスなどが紹介されました。バリオニクスそっくりの復元図がちらっと出ました。柴田先生は日本-タイ恐竜プロジェクトによるタイ北東部ナコーン・ラチャシーマでの発掘状況について報告。イグアノドン類の上顎、下顎と獣脚類の前上顎骨が発見されていること。
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国際恐竜シンポジウム1


 公開シンポジウムということで、久しぶりに福井まで行ってきました。本格的なレポートはできませんが、感想を少し。同時通訳で聞くというのもあまり慣れない体験でした。アジア人でも英語の堪能な方の講演はそのまま聞いた方がよかったりもするし、一方中国の方々は中国語でしたので、同時通訳だけが頼りでした。
 イワン・ボロツキー博士の「アムール川流域のティラノサウルス類」は、ほとんどは歯の話でした。アムール川流域からティラノサウルス類を含む多数の肉食恐竜の歯が見つかっていたが、これまで詳細な解析はされていなかった。カリー博士による歯の形態の定量的な解析手法の報告が出たので、その手法を参考に種々のパラメータを測定した。その結果、主に全長(歯冠の高さ?)に基づいて3つのサイズグループに分けられた。その他のパラメータは全長に依存していた、というようなことでした。例えば大型のものはタルボサウルスと考えられるのか、そうでないとか、あまり踏み込んだ推論はなかったように思います。バルスボルド博士のお話は、あえて具体的な恐竜の出てこない、一種の提言ともいうべきものです。モンゴルでは周知のように、白亜紀後期(上部白亜系)からは非常に豊富な恐竜化石が産出しているが、白亜紀前期(下部白亜系)からはほとんど恐竜化石は出ていない。しかしこの時代は湖が広がり、多数の胞子や花粉が発見され、動物も恐竜こそ出ていないが魚類、両生類、哺乳類、昆虫などが多数出ていることから、中国の熱河にも似た豊かな生態系だったのではないか。その中にこそ、後の恐竜進化につながる手がかりがあるはずで、もっと発掘を推進すべきである。あえて、上部白亜系の豊富な恐竜に目を奪われない勇気をもつ者こそが、新発見をすることができるだろう、という結びが印象的でした。

 東先生は勝山でのフクイラプトル、フクイサウルスの発見史に続いて、第3次発掘調査で発見された竜脚類と小型獣脚類について紹介されました。竜脚類は尾椎が見つかっているが、オピストコエリカウディアでは前方の尾椎が後凹型なのに対して中央・後方の尾椎が後凹型である点で、ボレアロサウルスに似ている。全体的にはティタノサウルス形類の段階だが一部ティタノサウリアの形質も混じっているということでした。獣脚類はいまのところは、ドロマエオサウルス類の原始的なものではないかということです。藤田先生は富山県の恐竜足跡化石、とくに珍しいアンキロサウルス類の足跡や翼竜の歩行跡について、わかりやすく紹介されました。
 「中国の羽毛恐竜」はシノサウロプテリクスから最近のシノカリオプテリクス等まで、発見史を概説したもの。「四川省自貢のジュラ紀恐竜」も大体おなじみの恐竜群の紹介。
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アレクトロサウルス1


 アレクトロサウルスは、白亜紀後期のモンゴルに生息した中型のティラノサウルス類である。アメリカ自然史博物館のアジア発掘調査で、1923年に内モンゴル自治区のイレン・ダバス層から獣脚類のほとんど完全な右後肢の化石(AMNH 6554)が発見された。その後さらに30m離れた地点から、大きなカギ爪を含む前肢の骨(AMNH 6368)が見つかった。1933年にGilmoreは、後肢と前肢は同じ種類のものと考え、細長い後肢と大きな前肢をもつ新種のティラノサウルス類としてアレクトロサウルス・オルセニと命名した。しかし後にPerle (1977)とMader and Bradley (1989)により、大きな前肢はセグノサウルス類のものであることがわかった。よってアレクトロサウルスの模式標本は右後肢(AMNH 6554)である。
 Mader and Bradley (1989)はこの後肢について再記載している。それによるとアレクトロサウルスでは大腿骨と脛骨とがほぼ同じ長さで(ティラノサウルス類では通常脛骨が長い)、中足骨が比較的長い。また他のティラノサウルス類と比べて中足骨が細長く、相対的に指(指骨)が短めであるということで、この後肢の骨の比率をアレクトロサウルスの特徴の一つに挙げている。このような比率(プロポーション)は成長段階で変化するので、系統解析上の意義を認めるにはもっと詳細な研究が必要と断った上で、主にゴルゴサウルスの後肢と比較している。第3中足骨の長さに対する第3指の長さの比率をとると、ゴルゴサウルス(アルバートサウルス・リブラトゥス)の様々な大きさの4つの個体では0.71-0.80であり、特にアレクトロサウルスとほぼ同じ大きさのゴルゴサウルスの幼体では0.73であるのに対して、アレクトロサウルスでは0.62であった。またタルボサウルス・エフレーモフィでは0.70または0.72であった。しかし、より小さいアルバートサウルス・ノボジロヴィ(タルボサウルス幼体)では0.60で、数値だけではアレクトロサウルスと区別できないとしている。しかもこのアレクトロサウルスの模式標本は、成体か幼体かわからないという。その他に足の末節骨の屈筋結節flexor tubercleがゴルゴサウルスより大きいなどの細かい特徴も記載している。
 モンゴルのバイシン・ツァフから頭骨や肩帯を含む新たな標本が発見され、後肢の特徴からPerle (1977)によってアレクトロサウルスと同定された。カリーの総説(Currie, 2000)によると、このアレクトロサウルスの頭骨では前上顎骨歯に鋸歯がなく、上顎骨歯は17本、歯骨歯は19本で、歯は進化したティラノサウルス類よりも細長いナイフ状である。頭骨は長く、丈が低いが、これはある程度成長段階に依存する特徴である。他のティラノサウルス類では鼻骨の表面に粗面があるが、アレクトロサウルスでは鼻骨の表面がなめらかであるという。他のティラノサウルス類よりも前肢が大きいとされたが、カリーによるとゴルゴサウルスと大差ないようである。このアレクトロサウルスの頭骨は、丈が低いだけでなく全体の輪郭がなめらかで、眼窩も丸く大きいなど、なんとなく幼体的な印象を受けるが、原始的だからなのだろうか。カリーの総説では同じ縮尺でアリオラムスの頭骨と並べてあるが、大体同じかアレクトロサウルスの方がやや大きいくらいである。
 ところが、このPerle (1977)の「アレクトロサウルス」の標本は、本当にアレクトロサウルスであるかどうか確かではなく、むしろ疑問視されている。これらの標本は、頭骨を含むものと模式標本と比較できる後肢を含むものとで別々の標本番号がつけられており、同一個体とする根拠は弱いらしい。後肢についてもプロポーション以外に確実な根拠は記されていないという(Mader and Bradley, 1989)。これらはまだ研究が必要らしいので、将来アレクトロサウルスではなく、別のティラノサウルス類とされるのかもしれない。その後さらに新しい標本がモンゴルと内モンゴル自治区の両方から発見されており、現在研究中ということなので、どんなイメージが描かれるのか期待される。

参考文献
Mader, B.J., and Bradley, R.L. (1989). A redescription and revised diagnosis of the syntypes of the Mongolian tyrannosaur Alectrosaurus olseni. Journal of Vertebrate Paleontology 9 (1): 41-55.

Currie, P. J. (2000). Theropods from the Cretaceous of Mongolia. In The Age of Dinosaurs in Russia and Mongolia, edited by M. J. Benton, M. A. Shishkin, D. M. Unwin and E. N. Kurochkin. Cambridge University Press, Cambridge. Pages 434-455.

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