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肉食の系譜
カルカロドントサウルス・イグイデンシスも解体される?
これは多分サハリクス
Brusatte & Sereno (2007) によるカルカロドントサウルス・イグイデンシスの模式標本は、ニジェールのEchkar Formation産の分離した上顎骨である。参照標本(部分的な頭骨と脊椎骨)はホロタイプの上顎骨から3 km 離れた地点で見つかったもので、上顎骨は含まれていない。Brusatte & Sereno (2007)は、それらの形態がカルカロドントサウルス・サハリクスとよく似ていることと、同じ地層に3種類(ルゴプス、スピノサウルス類、カルカロドントサウルス・イグイデンシス)以上の大型肉食恐竜がいたことはありそうにないとして、それらの骨をカルカロドントサウルス・イグイデンシスとした。しかし、それに対してChiarenza and Cau (2016) は、ある地層で大型肉食動物の種類が3つに限定される理由はなく、また重複する骨がない場合、同じ層から見つかったすべてのカルカロドントサウルス類の標本を同一種とする理由もないといっている。つまり参照標本はカルカロドントサウルス・イグイデンシスとは限らないというわけである。実際にこの参照標本に含まれる頸椎は、シギルマッササウルスあるいは近縁のスピノサウルス類と考えられることが指摘されている。
カルカロドントサウルス・イグイデンシスの参照標本のうち、歯骨と脳函は狭い範囲の中で近接して見つかったことから、同一個体のものと考えられる。これらはカルカロドントサウルス科の共有派生形質はもっている。しかし、カルカロドントサウルス亜科(カルカロドントサウルスとギガノトサウルスを含む)の共有派生形質は欠いているという。それらは1)前頭骨の涙骨との関節面が肥厚している、2)上側頭窩の前内側面が深くえぐれている、3)三叉神経の神経孔が項稜nuchal crestよりも後方にある、である。この3つはカルカロドントサウルス・サハリクスとギガノトサウルスのみに共通している。
カルカロドントサウルス・イグイデンシスとされる脳函は、これらの3つの形質についてアクロカントサウルスなどのより原始的なカルカロドントサウルス類と同じ状態であり、カルカロドントサウルスではなく、もっと基盤的なカルカロドントサウルス類の可能性がある。
Brusatte & Sereno (2007)はこれらの点についてカルカロドントサウルス・イグイデンシスの固有形質である(原始状態への逆戻りreversal)といっているが、Chiarenza and Cau (2016) はキメラの可能性を避けるため、カルカロドントサウルス・イグイデンシスの名称はホロタイプの上顎骨に限定すべきであるといっている。
というわけで最悪の場合、
ホロタイプの上顎骨―――――カルカロドントサウルス・イグイデンシス
歯骨と脳函―――――――――より基盤的なカルカロドントサウルス類
頸椎――――――――――――シギルマッササウルスまたは近縁のスピノサウルス類
というように解体される可能性もあるということである。もちろんBrusatte & Sereno (2007)の言う通り同一種の可能性もある。しかし同一個体でない標本は、常にこういう可能性も考慮して注意深く扱う必要があるということだろう。
どこかで聞いたような。軽いデジャヴを覚える。Sereno & Brusatte (2008) のアベリサウルス類、クリプトプスも上顎骨と胴体の骨は離れた場所から見つかっている。この上顎骨は胴体に比べて少し小さいのだが、Sereno & Brusatte (2008)はアベリサウルス類ではカルノタウルスのように頭骨が小さいものもいるので、おかしくないと述べていた。しかし最近のアベリサウルス類の論文では、クリプトプスはキメラとして扱われていることが多い。クリプトプスは上顎骨に限られ、胴体の骨(神経棘が高い)は恐らく共存していたカルカロドントサウルス類エオカルカリアのものではないか、ともいわれている。
参考文献
Chiarenza, A. A. and Cau, A. (2016). A large abelisaurid (Dinosauria, Theropoda) from Morocco and comments on the Cenomanian theropods from North Africa. PeerJ 4:e1754; DOI 10.7717/peerj.1754
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海生爬虫類の胎生:主竜形類
一般向けのニュース記事では最初、意義がわからなかったが、論文を読むとわかる。
これは、このディノケファロサウルスという首の長い爬虫類が、首長竜でもコリストデラでもなく、主竜形類ということがポイントですね。
爬虫類の中でも、現生のトカゲ・ヘビはもちろん、絶滅した海生爬虫類の魚竜類、鰭竜類、モササウルス類、コリストデラ、メソサウルスでは胎生が知られていたが、主竜形類では知られていなかった。このディノケファロサウルスは、主竜形類のプロトロサウルス類だそうです。分岐図をみるとタニストロフェウスの仲間(タニストロフェイダエ)のようですね。なるほど。
爬虫類の中で多くの系統で独立して胎生が進化してきたが、ワニ、恐竜などの主竜形類はすべて卵生と考えられてきた。しかし主竜形類でも基盤的な種類の中に胎生が見つかったことで、主竜形類が(何らかの制約により)胎生を発達させる能力がなかったわけではないことがわかった。まあ、進化した主竜類は全体として陸上生活に高度に適応したグループだから、水に戻ることはあまりなかったということはあるでしょう。海生ワニの研究はどうなのか知りませんが、この論文が初めてということは見つかっていないということでしょう。
参考文献
Liu, J. et al. Live birth in an archosauromorph reptile. Nat. Commun. 8, 14445 doi: 10.1038/ncomms14445 (2017).
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恐竜チョコ
今年は1800円のティラノや、1600円のトリケラ頭部も出ている。しかし食べるのがそれほど好きではないので、ネタ目的で1800円はちょっと出せない。こちらはジュラシックダンスという商品で380円とお手ごろです。アジア設定なのか。。。
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モロッコの大型アベリサウルス類
Copyright 2016 Chiarenza and Cau
白亜紀後期セノマニアンのモロッコ産の大型アベリサウルス類の存在が報告されている。といっても大腿骨の近位端のみで、復元図を描けるようなものではない。この化石はモロッコのTaouzで発見され、現地の化石業者から購入した人によって、2005年にイタリアのパレルモにある“Gaetano Giorgio Gemmellaro”地質古生物博物館に寄贈されたものである。例によってこの化石も現地の住民によって発見されたため、正確な産地と層準はわからない。ただし付着した母岩(固着した赤色砂岩)の性状から、Taouzで恐竜化石を多産するセノマニアンのKem Kem Compound Assemblageのものと考えられた。
Chiarenza and Cau (2016) はこの標本を記載し、同時代のモロッコ、ニジェール、エジプトなど北アフリカの獣脚類と比較するとともに、それらの分類学的現状についてレビューしている。
この標本OLPH 025は、右大腿骨の近位端で骨頭、頸部、転子を含む。しかし、これだけの断片的な化石から、どのようにしてアベリサウルス類のものとわかるのだろうか。
OLPH 025の保存された部分の軸はS字状で、ベルベロサウルスやマジュンガサウルスと似ており、よりまっすぐな形のカルカロドントサウルスとは異なる。
大腿骨頭は骨幹に対して直角というよりも、やや遠位側(下方)を向いており、これはマシアカサウルスやアベリサウルス類と似ている。一方、カルカロドントサウルスとデルタドロメウスでは、大腿骨頭はかなり近位側(上方)を向いている。
小転子は関節端に対して遠位側にあり、より近位側にあるデルタドロメウスや多くのテタヌラ類とは異なる。小転子が遠位側に位置することは原始的な状態で、コエロフィソイド段階の獣脚類、ケラトサウルス類、アベリサウロイドに共通している。trochanteric shelfはみられない。またバハリアサウルスやデルタドロメウスにあるaccessory trochanterもみられない。後方から見ると、骨幹の軸に沿って稜状の第4転子の近位端がある。ケラトサウルスやアベリサウロイドと同様に、第4転子はテタヌラ類よりも近位側にある。
OLPH025にみられる多くの特徴はケラトサウリアにみられるものである。またケラトサウルスにははっきりしたtrochanteric shelfがあるが、OLPH025にはない。結局OLPH025は、遠位側に傾いた大腿骨頭、trochanteric shelfがはっきりしない、遠位側に位置するがっしりした翼状の小転子、近位側にある第4転子、粗面のある筋付着部位、などの点で、アベリサウルス類の大腿骨と似ている。テタヌラ類以外で白亜紀後期の大型獣脚類として知られるのはアベリサウルス類のみであり、また実際にケムケムからはアベリサウルス類の骨が知られているので、OLPH025はアベリサウルス類である可能性が最も高いと考えられた。
大きさの推定も行っている。OLPH025の大腿骨の骨幹の直径は115 mmと推定された。カルノタウルスでは直径95 mm、長さ1018 mmとされているので、そのまま当てはめるとOLPH025は長さが1200 mmとなり、これはバハリアサウルス、カルカロドントサウルス、ティラノサウルスに匹敵する大型恐竜となる。しかし、アベリサウルス類の中にはもっとがっしりした太い大腿骨をもつ種類もいるので、スレンダーなものと比較するのは過大評価になるかもしれないといっている。OLPH025の直径は、がっしりしたアベリサウルス類エクリクシナトサウルス(直径115 mm、長さ776 mm)とほぼ同じである。また多くの獣脚類の大腿骨の長さと直径のデータベースとの比較からは、OLPH025の長さは924 mmと算出された。これらのことから著者らは、776 mmと924 mmの間くらいというのが無難な数値だろうとしている。
最新のGrillo and Delcourt (2017)の結果では、カルノタウルスの大腿骨の長さは従来よりも短くなったので、推定も上の計算よりも小さくなることになる。Chiarenza and Cau (2016)はOLPH025の全長を最大9 mとしているが、これもカルノタウルスやエクリクシナトサウルスの全長が縮んだことにより、少し小さくなるはずである。
参考文献
Chiarenza, A. A. and Cau, A. (2016). A large abelisaurid (Dinosauria, Theropoda) from Morocco and comments on the Cenomanian theropods from North Africa. PeerJ 4:e1754; DOI 10.7717/peerj.1754
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