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ウハートルゴドの ”サウロルニトイデス”


最近のトロオドン類の記事を自分で読み返している時に、一見矛盾があることに気づいたので、調べて補足説明します。

メイの記事中で、尾椎の溝は「サウロルニトイデス、‥‥にもみられる」とあるのは、確かにGao et al. (2012) に書いてあるが、このサウロルニトイデスは別物です。サウロルニトイデスのホロタイプ以外に、歴史的にサウロルニトイデスと呼ばれた標本はいくつかあり、その一つがNorell and Hwang (2004) が記載したモンゴルのウハートルゴドの標本です。
 これは部分的な上顎骨、方形骨、頚椎、尾椎、中足骨などからなる断片的な化石で、上顎骨の歯列や表面の溝のパターンなどがサウロルニトイデスに似ていることなどから、暫定的にサウロルニトイデス・モンゴリエンシスとされたもので、あくまでcf. Saurornithoides mongoliensis です。後のNorell et al. (2009) はホロタイプ以外は認めていないので、正式にはサウロルニトイデスとはいえないものです。よってメイの記事中では 括弧付きの”サウロルニトイデス”に訂正します。

この ”サウロルニトイデス”には、3つの後方の尾椎が含まれていて、神経棘がなく背側の溝が走っているとある。残念ながら写真は載っていない。典型的なトロオドン類の形態ということでしょう。

この ”サウロルニトイデス”は非常に断片的ではあるが、ホロタイプより少し大きい。これが持つトロオドン類の特徴は、アルクトメタターサルな足(分離した中足骨から)、上顎骨の歯列が密集していること、外鼻孔の縁に上顎骨が面していること、などである。

上顎骨には5本の歯根が保存されていて、その5本は密集していて境界が不完全、つまりつながった溝に収まっている。最後の5番目の歯の後方には薄いinterdental boneの壁があるので、6番目以降は仕切られた歯槽に収まっていると考えられた。これも典型的なトロオドン類の特徴である。
 また栄養孔や置換孔という孔を通して歯根が観察できるが、成熟した歯の真下、歯髄腔の位置に次の成長中の歯が収まっている。これは、ワニ類やアヴィアラエと同様の垂直交換vertical replacement であるといっている。ほとんどの獣脚類では成熟した歯の内側(舌側)に次の歯が萌出する形になるのに対し、トロオドン類では鳥類と同様の垂直交換様式をとることがわかった、としている。

歴史的にサウロルニトイデスと呼ばれた標本のもう一つは、Currie and Peng (1993) のサウロルニトイデスの幼体とされた小さい足で、これは現在、フィロヴェナトルとなっている。

参考文献
Norell MA, Hwang S (2004) A troodontid dinosaur from Ukhaa Tolgod (Late Cretaceous Mongolia). Am Mus Novit 3446: 1–9.

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2017福井県立・特別展「恐竜の卵」(後)



やっとトロオドン類まで来た。シノヴェナトルの復元骨格・・・これは昔からあるのか、最近作ったものなのか。これは、頭骨も撮ったが細かい形態まで論じるのは無理があるように見える。今回の展示では、重要な特徴として恥骨が後方を向いていることを解説してある。
 一応確認したところ、足はちゃんとサブアルクトメタターサルになっているようだ。また尾椎は見つかっていないはずであるが、神経棘が途中でなくなって溝になっているように作られている。



トロオドンの全身骨格。これも最近作られたものなのか、どうなのか。昔のトロオドンの印象と少し違うような気もする。眼窩や頭の丸みはこんな感じでしたっけ。
 黒い塗料の塗りが厚いのはともかく、骨格が黒で背景が白なので写真を撮ると真っ黒になり、骨の表面の構造や境界線がよく見えないですね。



一応頭骨を観察したところ、一部トロオドンらしくない点があるように見えた。トロオドン類の特徴としては、まず歯骨の側面の溝ははっきりしている。これは真っ黒な写真ではわからないが、クッキーの箱の写真を見ると、確かに神経血管孔が溝の中に並んでいるのがわかる。それから涙骨の前方突起は、前眼窩窓の前縁までカバーしているようだ。lateral flangeもある。上顎骨歯の一部にはトロオドンらしい鋸歯がつけてあるように見える。



しかし歯列が今ひとつトロオドンらしくないように見えた。トロオドン類の歯列は、上顎も下顎も、前方では小さく密集していて後方で大きくなるのであるが、どうでしょう。このキャストの歯は割と一様な感じがする。特に歯骨の歯列が、大きさも密度もほとんど均等な感じに見える。歯の形も微妙に長くてドロマエオサウルス類的にも見えてくる。
 トロオドンの顎に歯が生えそろった状態というのは見たことがないが、1987年の歯骨では前方の歯槽は密集している。またザナバザルでは、前方の歯と後方の歯で大きさが全く異なる。歯の大きさ・分布の点ではあまり意識して作っていない気がするが、どうでしょう。

あとは外鼻孔の下の上顎骨に、溝のような線が見える。これはドロマエオサウルス類のように前上顎骨の突起が長く伸びているようにも見えた。近くでよく見ると、縫合線ではなくてなんとなく溝になっている。下の方から辿っていくと前上顎骨と上顎骨の境界線は途中で消えていて、あいまいな感じになっていた。ここは、ほとんどのトロオドン類では外鼻孔の腹側縁に上顎骨が参加している、つまり面しているはずである。(シシアサウルスなど微妙な場合もあるが)少なくとも側面から見てそう見えることになっている。この点でもこのキャストでは疑問が感じられる。



ヒナが1頭、孵っていて、お母さんはそれを見つめているんですね。。
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2017福井県立・特別展「恐竜の卵」(前)


詳細なレポートではなく、個人的に注目したことだけ記録しておきたい。



 まず卵化石の研究として、現生動物と異なり親がわからない場合がほとんどなので、卵化石は形、大きさ、卵殻の構造などによって分類されていることが説明される。爬虫類の卵、鳥類の卵、カメの卵、翼竜の卵と続いて紹介されている。
 ここで目を惹かれたのは、卵を持った翼竜ダーウィノプテルスのメスですね。これはすごい。



次は「恐竜の卵化石の分類」で、スフェロウーリトゥス、ファヴェオロウーリトゥス、エロンガトウーリトゥス、マクロエロンガトウーリトゥス、プリズマトウーリトゥス、デンドロウーリトゥス、などの標本がずらりと並んでいる。それぞれの化石には、CT画像などの写真、卵殻の構造の模式図、さらに荒木さんの模型が付属していて、わかりやすく解説されている。前半のメインとなる力のこもった展示でした。



これらの模型があることで、イメージが湧きやすくなっている点で、重要な展示物ですね。私はオリジナルフィギュアよりも、むしろこのザナバザルが欲しい。量産して下さい。



続いて恐竜の系統進化に沿って、鳥盤類(ハドロサウルス類)、竜脚類(ティタノサウルス形類)、獣脚類のうちメガロサウルス類、テリジノサウルス類、オヴィラプトロサウルス類、トロオドン類へと、順番に詳しく展示されている。



昔ながらのトルボサウルス。作った部分はあるが、これの方が断然良いと思いますね。骨格のがっしりさが良い。



なにげにグルネイを持って来たようです。歯の数の違いが説明されている。もっと詳しいことは「肉食の系譜」でどうぞ。



これがトルボサウルスの胚か。上顎、下顎はわかるが、それ以外は正直、よくわかりませんね。

浙江省のテリジノサウルス類、ベイベイロンのレプリカ、コリトラプトルのようなものなどが並んでいる。モニター画面では、アニメでそれぞれの恐竜たちの卵の産み方を解説している。



オヴィラプトル類の標本では、ユロンが素晴らしいですね。これもすごい。

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とりあえず行ってきた。



「夏休み特別企画・トロオドン類の真髄を探る」に突入していて、満を持してトロオドンを見に行ったと言いたいところであるが、トロオドンはどうしようかなあと思っていた。なんと、まさかの疑問名ですか。ステノニコサウルスが復活するとなると、それこそサウロルニトイデス科でもいいのでは。(最近の文献中でもトロオドンなので、引用する場合は当面、トロオドンで行きます。)

福井に行ってはきたものの、今回いろいろとアクシデントに遭って大変だった。

特に最悪なのは帰りの行程で、余裕を持って博物館を出たのに、ひどい目にあった。しらさぎ64号で米原に向かっていると、敦賀で停止してピクリとも動かない。北陸本線で架線に障害物があるということで、結局復旧の見通しが立たないため、サンダーバードで京都まで出て、東京行きの新幹線に乗り換える羽目になった。のぞみ62号で帰ってきたが、終電ぎりぎりになってしまった。おにぎり1個しか食べられず、雨にも当たって散々な帰京となった。

特別展「恐竜の卵」は充実した展示だったが、今回、公式フィギュアの価格設定が高すぎませんか?造形はいいけど、価格の絶対値が高すぎる。以前のように2480円くらいなら、みんなもっと買うのでは?トロオドンを楽しみに見に行った私でさえ、今年は公式フィギュアやめようかと躊躇したくらいである。1700円のトロオドンぬいぐるみでも良かったかもしれない。

詳細なレポートをするつもりはないですが、内容はこれから少し記事にします。



邪鬼を踏みつける鍾馗さま・・・か
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由緒正しいサウロルニトイデス



サウロルニトイデス・モンゴリエンシスは、白亜紀後期カンパニアン(Djadokhta Formation)にモンゴルのバヤン・ザクBayan Zagに生息した中型のトロオドン類で、Osborn (1924) によって記載された。その当時、トロオドンの歯は発見されていたが獣脚類と認識されていなかったので、サウロルニトイデスは最も由緒正しいトロオドン類である。実際にトロオドン科は一時期、サウロルニトイデス科と呼ばれたことがある。
 その後ブギン・ツァフのネメグト層から保存のよい頭骨を含む部分骨格が発見され、Barsbold (1974) によりサウロルニトイデス・ジュニアSaurornithoides juniorと命名された。頭骨の特徴がサウロルニトイデス・モンゴリエンシスと似ていることと、モンゴルの上部白亜層から産することから同属とされたものである。しかしさらにその後、Norell et al. (2009)が再検討した結果、これら2種はトロオドン類の中で近縁ではあるが、同属とするほどではないと考えられ、サウロルニトイデス・ジュニアは新属ザナバザル・ジュニアとなった。
 サウロルニトイデスのホロタイプは、ほとんど完全だが侵食された頭骨、一連の胴椎、仙椎、尾椎、部分的な腰帯と後肢の骨からなる。

Norell et al. (2009) はサウロルニトイデスとザナバザルを比較・再検討している論文なので、サウロルニトイデスの特徴は、最も近縁なザナバザルとの違いで表現されている。サウロルニトイデスに固有の形質があまり表現されていないようにみえるが、これでいいのだろうか。

サウロルニトイデスとザナバザルの違い
1)大きさ:最も明らかな違いは全体の大きさで、サウロルニトイデスの方が小さい。頭骨の長さはサウロルニトイデスが189 mm に対してザナバザルが272 mm である。これは1個体同士の比較であるが、どちらも成体である。

2)歯の数:サウロルニトイデスの方が歯の数が少ない。サウロルニトイデスでは上顎骨歯19 、歯骨歯31-33 であるが、ザナバザルでは上顎骨歯19-20 、歯骨歯35 である。

3)頰骨の形:頰骨の眼窩の下の部分がザナバザルではカーブしているが、サウロルニトイデスではまっすぐである。

4)脳函の窪み:サウロルニトイデスでは、脳函の前耳骨の側面で三叉神経孔の背側に、含気性の窪みがある。この窪みはザナバザルにもトロオドンにもない。ただしこの窪みはビロノサウルスやシノヴェナトルにもみられるので、派生形質ではなく原始形質と思われる。

5)サウロルニトイデスの上顎骨歯は後方へいくにつれて大きくなるが、その程度はザナバザルの場合より小さい。

6)サウロルニトイデスの上顎骨歯には交代ギャップreplacement gap がないが、ザナバザルにはある。

著者らは5)6)の点について、サウロルニトイデスはメイやシノヴェナトルと似ており、ザナバザルはビロノサウルスと似ていると言っている。


サウロルニトイデスは派生的なトロオドン類なので、多くのトロオドン類の特徴を一通り備えているようである。下顎はひどく侵食されているので、歯骨の側面の溝は後方 1/3 くらいの部分のみ明確に観察される。また下顎は上顎の内側にはまり込んでいるので、下顎の歯列は内側からのみ観察できる。歯列は上顎も下顎も同じ傾向を示すのであるが、歯骨の先端の歯は保存されていないようだ。上顎骨歯と歯骨歯は典型的なトロオドン類の歯であり、後縁のみに大きな鋸歯がある。
 後肢の骨のうち、足は部分的にしか保存されていないが、第II中足骨が細く第IV中足骨が太い、第III中足骨は近位で細くなっているなど、非対称でアルクトメタターサルと考えられる特徴を示す。第II趾のカギ爪はほどほどに発達している。後方の尾椎は保存されていないので、背側の溝などの情報はない。


サウロルニトイデスの顔は細長いが、意外としっかりしている印象がある。もう少し保存が良ければ、ザナバザルに負けない標本になっていたような気がする。



参考文献
Norell MA, Makovicky PJ, Beaver GS, Balanoff AM, Clark JM, et al. (2009) A Review of the Mongolian Cretaceous dinosaur Saurornithoides (Troodontidae: Theropoda). Am Mus Novit 3654: 1-63.
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