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リスロナクス



 Copyright: 2013 Loewen et al.

またすごいのが出てきた。この「流血王」は、今年2013年に発見・記載された中では最強の獣脚類だろう。一般向けのニュースではライスロナックスなどと表記しているが、これは英語読みなので、日本ではリスロ、リトロ、リュトロなどどれがよいのか表記に悩むところである。また「トカゲ食いの王」サウロファガナクスに合わせるとすれば、ナックスではなくてナクスでしょう。

PLOS ONEは無料なので是非、原著論文をダウンロードすることをお勧めする。英語が読めない方でも、図を眺めるだけで楽しくなってしまうような論文である。内容は、単に新種の記載というのではなく、内海で隔てられた白亜紀後期の北アメリカ西部(ララミディア)のティラノサウルス類を例に、古生物地理学的な議論を展開してまとめるという形をとっている。この論文では新属リスロナクスと、テラトフォネウスの新しい標本の記載をしている。

リスロナクスは、白亜紀後期のカンパニア期中期(Wahweap Formation)に、米国ユタ州南部に生息した大型のティラノサウルス類(ティラノサウルス科)で、2013年に記載された。発見されたのは部分骨格で、右の上顎骨、左右の鼻骨、右の前頭骨、左の頬骨、左の方形骨、右の外側蝶形骨、右の口蓋骨、左の歯骨、左の板状骨、左の上角骨、左の前関節骨、胴椎の肋骨、血道弓、左右の恥骨、左の脛骨、左の腓骨、左の第2と第4中足骨からなる。

リスロナクスの固有の特徴は、上顎骨の外側縁がS字状である、鼻骨の前方部の幅と中央部の幅の比率が2.5より大きい、前前頭骨と後眼窩骨の前頭骨との関節面がほとんど接しそうになっており、非常に狭く深い溝によって隔てられている、頬骨に顕著なsuboccular flangeがある、である。
 またリスロナクスは、次のような形質の固有の組み合わせによって識別される。上顎骨の歯(歯槽)の数が11個(テラトフォネウスとビスタヒエヴェルソルとは同じで、他のものとは異なる);歯骨の凹形の外側縁と頬骨の幅広い後眼窩骨突起をもつ(ビスタヒエヴェルソル、ティラノサウルス、タルボサウルスと同様で、他のものとは異なる);眼窩が前背方を向くほどに頭骨の後方部分が側方に拡がっている(ティラノサウルス、タルボサウルスと同様で、他のものとは異なる);大きく遠位で拡がった恥骨ブーツpubic boot(前後の長さが恥骨の全長の60%以上)をもつ(ゴルゴサウルス、アルバートサウルス、テラトフォネウスとは異なる);距骨の上方突起が背方に伸びていること(上方突起の高さが距骨と踵骨の幅よりも大きい;テラトフォネウス、ビスタヒエヴェルソル、ティラノサウルス、タルボサウルスと異なる)。

これは一言でいうとティラノサウルス科の中でもかなり進化した、タルボやティラノに近い種類である。特徴の繰り返しになるが、上顎骨や頬骨の側面がS字型であり、前頭骨の幅が広いことなどから、リスロナクスの頭骨の後方部分はかなり側方に広がっており、眼窩が前方を向くようになっている。これはティラノサウルス科の中でも、他にはティラノサウルスやタルボサウルスにしかみられない特徴である。一方、テラトフォネウスの頭骨は全体的にアルバートサウルス、ビスタヒエヴェルソル、ダスプレトサウルス、ゴルゴサウルスなどに似ている。

リスロナクスもテラトフォネウスも、上顎骨の歯の数が減少する傾向を示している。また、リスロナクスの上顎骨の歯列は、顕著に異歯性である。前方の5本の歯は、後方の6本の歯よりもずっと大きい。全体の形態としてリスロナクスの上顎骨は非常に頑丈であり、ティラノサウルスに匹敵するほどよく発達した口蓋棚palatal shelfをもつ。リスロナクスの歯骨は、上顎骨のS字状の輪郭や後頭部の広がりを反映して、側面が凹形になっている。歯骨の後端は背腹にも広がっており、タルボサウルスやティラノサウルスと同様に、下顎の歯骨より後方の部分の丈が高かったことを示している。


参考文献
Loewen MA, Irmis RB, Sertich JJW, Currie PJ, Sampson SD (2013) Tyrant Dinosaur Evolution Tracks the Rise and Fall of Late Cretaceous Oceans.  PLoS ONE 8(11): e79420. doi:10.1371/journal.pone.0079420.
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