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アジアティラヌス



アジアは広すぎるので、ガンジョウティラヌスとかジャンシティラヌスでよかった。

アジアティラヌスは、後期白亜紀マーストリヒティアン(南雄層Nanxiong Formation)に中国江西省贛州市Ganzhou Cityに生息したティラノサウルス類(ティラノサウルス亜科)で、2024年に記載された。
 江西省贛州市の南雄層は恐竜を含む豊富な化石を産出してきたが、獣脚類のほとんどはオヴィラプトル類で、7種も発見されている。それ以外の獣脚類は、吻の細長いアリオラムス族のティラノサウルス類チアンジョウサウルスのみであった。その後、2017年に贛州市の建設工事現場で新たなティラノサウルス類の化石が発見され、浙江自然博物館Zhejiang Museum of Natural Historyでクリーニングされた。吻が短く丈の高いティラノサウルス類としては初めて発見されたものとなった。

アジアティラヌスのホロタイプ標本は、ほとんど完全な頭骨と分離した胴体の部分骨格からなる。尾椎、右の大腿骨、脛骨、腓骨、中足骨、趾骨とより不完全な左後肢である。まあ胴体のほとんどは保存されておらず、頭骨と後肢という感じである。

アジアティラヌスは小型ないし中型のティラノサウルス類で、他のティラノサウルス類と区別される特徴は、前上顎骨の外側面で外鼻孔の近くに2つの小さな深い窪みがある(Fig.6を見る限り左右一対のようである);大きく四角形に近いmaxillary fenestra;鼻骨の後方の突起群が結合して、2つの直列に並んだ正中の稜を形成する(3つか4つの小さい突起がまとまって、ひとかたまりになる。それが2かたまりあって縦に正中線上に並んでいる。おそらくmedium ではなくmedian);頬骨に低い稜状の副次的な角がある;後眼窩骨の下行突起の表面に前背方を向いた線条がある;postorbital barが細くまっすぐで、その前縁と後縁がほぼ平行である、などである。postorbital barは眼窩の後縁の柱状の部分で、後眼窩骨と頬骨からなる。

腓骨の切片の組織像から年齢の推定をしている。13本のLAG(成長停止線)が確認されたことからホロタイプの個体は死亡時に少なくとも13歳であったと思われた。しかし保存が不完全なことから正確なLAGの総数やEFS (external fundamental system)の有無は決定できないという。外側にいくほどLAGの間隔が狭くなっていることや二次的なリモデリングがみられることから、アジアティラヌスのホロタイプは完全に成長した成体ではないが、最も成長が盛んな時期は過ぎていると考えられた。アジアティラヌスの頭骨には、いくつかの成熟した形態学的特徴がみられることから、著者らはこれを成熟に近づいた亜成体と考えている。カンパニアンからマーストリヒティアンの大型ティラノサウルス類では、14歳くらいで指数関数的な成長を示す。それに比べるとアジアティラヌスでは指数関数的な成長の時期が少し早いようである。ホロタイプの大腿骨の長さは、同じような成長段階のゴルゴサウルスなど大型ティラノサウルス類の半分ほどであり、アジアティラヌスは比較的小型のティラノサウルス類と思われる。アジアティラヌスの頭骨の長さは47.5 cmで、全長は3.5-4 mと推定されている。これはチアンジョウサウルスの半分くらいである。

上顎骨の腹側縁は下に凸形にカーブしており、これはティムルレンギアや後期白亜紀の大型ティラノサウルス類と同様で、ほとんどまっすぐなグァンロン、ディロン、シオングァンロン、ススキティランヌスとは異なる。上顎骨の本体はティラノサウルスやタルボサウルスのような大型ティラノサウルス類と同様に短く丈が高く、アリオラムス・レモトゥス、アリオラムス・アルタイ、チアンジョウサウルスの長く丈の低い上顎骨とは異なる。
 上顎骨の外表面には、ダスプレトサウルス、タルボサウルス、ティラノサウルス、ズケンティラヌスにみられるような背腹方向の溝や稜はみられない。上顎骨と前上顎骨の関節面は多くのティラノサウルス類と同様に背腹方向を向いており、関節面が強く後背方に傾いたアリオラムス族とは異なる。いくつかの神経血管孔が歯列の背側に並んでいる。
 Maxillary fenestra は大きく四角形に近い形であり、これはタルボサウルスの成体と似ているが、タルボサウルスの幼体では楕円形である。他のティラノサウルス亜科と異なり、maxillary fenestra の前縁は前眼窩窩の前縁とは接していない。それでもmaxillary fenestraは前眼窩窩の中で比較的前方に位置している。一方、アリオラムス・アルタイ、アパラチオサウルス、アルパートサウルス、ビスタヒエヴェルソル、ゴルゴサウルス、ティラノサウルス亜科の幼体では、maxillary fenestraがより中央に位置している。上顎骨の歯列は完全には保存されていない。

涙骨の角状突起は、ゴルゴサウルスのような尖った角状ではなく、全体に膨張したinflatedゆるやかな山形である。これはティラノサウルスとタルボサウルスにみられる状態である。この膨張inflationはラプトレックスにはみられず、またタルボサウルスの幼体ではあまり発達していない。角状突起が尖った角をなすのは、ユーティラヌス、アルバートサウルス亜科、ダスプレトサウルス、アリオラムス・アルタイ、チアンジョウサウルスであるといっている。

論文の全身骨格図をみると、後眼窩骨の眼窩下突起suborbital processがあるように見える。しかしこの描き方が不正確で、後眼窩骨の記述を読むと眼窩下突起はないとはっきり書いてある。皮膚をつければ隠れるとはいえ、注意が必要である。
 アジアティラヌスでは後眼窩骨の下行突起はアリオラムス・アルタイやナノティラヌスと似て舌形で細長い。また下行突起はまっすぐで、前方に広がった眼窩下突起はない。多くの大型ティラノサウルス類(ティラノサウルス、タルボサウルス、アルバートサウルス、ゴルゴサウルス)では下行突起が広がって眼窩内に突き出した眼窩下突起をもつ。それに対して、アジアティラヌスの下行突起の前縁はほとんどまっすぐである。後眼窩骨と頬骨からなるpostorbital barは細長くまっすぐで、前縁と後縁が平行になっている。他の眼窩下突起をもたないティラノサウルス類(ダスプレトサウルスやナノティラヌス)では、下行突起の前縁はむしろ凹形にカーブしている。


系統解析の結果、アジアティラヌスはティラノサウルス科のティラノサウルス亜科に含まれた。アジアティラヌスはティラノサウルス亜科の中では、アリオラムス族やテラトフォネウスよりは派生的で、ダスプレトサウルスよりは基盤的な位置にきた。これはナヌークサウルスと近い段階である。ナヌークサウルスも推定頭骨長60-70 cmと小型ないし中型であるが、最近の知見によるとナヌークサウルスはもっと大きかった可能性があるという。そうするとアジアティラヌスは唯一、確実に小型のティラノサウルス亜科ということになる。
 アジアではモンゴルのタルボサウルスとアリオラムス、中国南部のチアンジョウサウルスとアジアティラヌスというように、吻の丈が高いティラノサウルス類と吻の細長いティラノサウルス類が共存していたことがわかってきた。しかし中国南部では吻の細長いチアンジョウサウルスの方が大型で、体の大きさはモンゴルとは逆転している。吻の形状が異なることから、両者は異なるニッチを占めて棲み分けていただろうとしている。大型だが吻が細長いものと、顎が頑丈だが小型のものでは、どちらも小型の獲物を狙ったような気がするがどうなのだろうか。


参考文献
Wenjie Zheng, Xingsheng Jin , Junfang Xie & Tianming Du (2024) The first deep‑snouted tyrannosaur from Upper Cretaceous Ganzhou City of southeastern China.
Scientific Reports (2024) 14:16276 | https://doi.org/10.1038/s41598-024-66278-5
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