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エラフロサウルス



エラフロサウルスは、ジュラ紀後期キンメリッジアンにタンザニア(テンダグル層)に生息したノアサウルス類で、ヤネンシュJanenschによって1920年に命名され1925年に詳細に記載された。ほっそりした体形から、かつてはオルニトミムス類と近縁と考えられていたが、最近の詳細な系統解析により、ケラトサウリアの一員と考えられるようになった。ただしケラトサウリアの中での系統的位置については、研究者によってまちまちで、最近まで定まっていなかった。
 エラフロサウルスのホロタイプ標本は、組み立てられて1929年以来、ベルリンの自然史博物館で展示されてきたため、再研究ができなかったが、最近の博物館の展示改装の際に、完全に解体されることになった。そこで、この機会にRauhut and Carrano (2016) はエラフロサウルスの再記載と系統解析を行った。

推定全長6 mでオルニトミムス類のような体形であり、系統的にはリムサウルスと最も近縁なので、ここでは歯のないクチバシで植物食と推測した。前肢は断片的にしか見つかっていない。一言でいうとケラトサウリアの中で、オルニトミムス類のように速く走れる植物食に進化したものと思われる。つまりケラトサウルスやアロサウロイドのような捕食者に襲われる側であろう。

エラフロサウルスのホロタイプ標本は、胴体の部分骨格で頭骨はない。Janensch (1920, 1925)が記載したオリジナルのホロタイプは、16個の仙前椎、6個の仙椎、18個の尾椎、中央の尾椎の血道弓、左の上腕骨、左右の腸骨、左の恥骨、左右の座骨、左の大腿骨、脛骨、腓骨、距骨‐踵骨、中足骨II, III, とIVの基部、3個の趾骨である。その後Janensch (1929)は、左右の肩甲烏口骨、右の中手骨II、左の中手骨IVを追加で記載した。これらは同じ発掘地から発見され同一個体と考えられるので、今回の論文でもホロタイプに含まれている。一方、Janenschは多数の歯をエラフロサウルスに含めているが、頭骨が見つかっていない以上、これらの歯はエラフロサウルスとは認められない。

エラフロサウルスの特徴は、本文中には厳密な標徴形質の記述があるが、論文の要旨ではもっと分かりやすく丸めた表現で書いてある。それは、非常に長く中央がくびれた頸椎、幅広い肩帯と特殊化した前肢、比較的小さい腸骨、細長い後肢と非常に小さい距骨の上行突起、である。
 他のノアサウルス類とも区別されるエラフロサウルスに固有の形質は、頸椎の後部に顕著なventrolateral lamina がある;頸椎の前関節突起と後関節突起が細長く、長さが幅の1.5倍以上ある;頸椎にエピポフィシスがない;第2中手骨の遠位端が腹側に曲がっていて明確な段stepがある;距骨の上行突起が非常に小さい、などである。
 その他に、形質の固有の組み合わせとして、肩甲骨が幅広く幅が長さの20%以上;肩甲骨の基部で関節窩の上に深い窪みがある;腸骨のbrevis shelf が側方に拡がっている、などの形質が多数あげられている。これらの中にはノアサウルス類に共通の形質も含まれているようだ。



頸椎と胴椎はすべて前後に長いが、特に頸椎は長く伸びている。中央の頸椎では、椎体の長さが高さの4倍以上あり、これはコエロフィシス類やオルニトミムス類と同様である。また頸椎の椎体は、中央で背腹に強くくびれているだけでなく、左右にもくびれている。椎体の側面は前後2対の含気窩によってえぐられているので、本来の椎体は正中線上の壁のような部分だけとなっている。その椎体の腹側面は平面的でキールはないが、エラフロサウルスでは腹側面の後半部は左右のventrolateral laminaの間で凹んだ形となっている。リムサウルス、マシアカサウルス、カルノタウルス、マジュンガサウルスなど多くのケラトサウルス類でも椎体の腹側面は平面的で、側面との間は稜になっているが、エラフロサウルスのように腹外側に突出したフランジ状になっているものはない。

頸椎の前関節突起の最も著しい特徴は非常に細長いことで、神経管孔の幅の70%よりも細い。ディロフォサウルス、ケラトサウルス、アベリサウルス類、アロサウロイドなど多くの獣脚類では、頸椎の前関節突起は長さよりも幅が大きい。ノアサウルス、マシアカサウルス、シギルマッササウルス、オルニトミムス類は比較的細長い前関節突起をもつが、これらもエラフロサウルスには及ばない。
 それに対応して後関節突起も細長い形をしている。また、ほとんどの非鳥型獣脚類と異なり、後関節突起の上にエピポフィシスが存在しない。多くのアベリサウロイドでは頸椎のエピポフィシスが強く発達している。



肩帯は左右とも不完全であるが、保存された部分を比較すると肩甲骨は非常に幅広く、幅が長さの25%以上もあると推定される。これは多くの獣脚類の肩甲骨が20%以下であるのと対照的である。珍しい特徴として、肩甲骨の基部(烏口骨の近く)で関節窩の上にはっきりした窪みsupraglenoid fossa がある。同じような窪みは、他にはカルノタウルスとマシアカサウルスにのみみられるが、これらではエラフロサウルスほど発達していない。

エラフロサウルスの前肢は上腕骨と2個の中手骨しか見つかっていない。上腕骨は細長く、三角筋稜は非常に小さく縮小している。獣脚類では珍しく上腕骨頭が内側に傾いているが、この特徴はマシアカサウルスとアルゼンチンで発見されたアベリサウロイドの上腕骨にみられる。
 Janenschは2個の中手骨をIと IVとしたが、大きい方の骨は遠位の関節面が対称形であることからIとは考えにくい。この骨はリムサウルスの第III中手骨と似ているが、全体の形は多くの獣脚類の第II中手骨と近いことから第II中手骨と同定された。背側の伸筋溝のあたりが窪みになっており、その端にはっきりした段stepがある。



関節した中足骨II, III, IV は非常に細長い。IIIが最も太く、長いようであり、IIはそれよりもやや短いが、IVの遠位側2/3は保存されていない。第II中足骨は近位の関節面がD字形になっていて第III中足骨と接する面が直線的である。
 第II中足骨の軸は第III中足骨に寄り添うように細く、縦に扁平になっていて、前後の長さ(奥行き)が左右の幅のほとんど3倍にもなっている。これはノアサウルス、ヴェロキサウルス、マシアカサウルスと同様である。また第II中足骨の幅は第III中足骨の約40%しかなく、これはヴェロキサウルス、マシアカサウルスと同様である。

第III中足骨の近位の関節面は、後方で内側外側ともに拡がったT字形をしている。これをアンタークトメタターサスantarctometatarsusという。
  第IV中足骨の近位の関節面は非常に幅が狭くなっており、前後の長さが左右の幅の2.5倍ある。これは他のどの獣脚類にもみられないエラフロサウルスの固有形質である。ヴェロキサウルスやマシアカサウルスでも第IV中足骨の幅はもっと広い。


Rauhut and Carrano (2016)の系統解析では、ケラトサウリアの中にケラトサウルス科とアベリサウルス上科があり、アベリサウルス上科はアベリサウルス科とノアサウルス科に分かれた。ノアサウルス科の中には2つのクレード、エラフロサウルス亜科とノアサウルス亜科がみとめられた。エラフロサウルス亜科にはエラフロサウルスとリムサウルスが含まれ、ノアサウルス亜科にはノアサウルス、マシアカサウルス、ヴェロキサウルスが含まれた。


参考文献
Rauhut, O. W. M. and Carrano, M. T. (2016) The theropod dinosaur Elaphrosaurus bambergi Janensch, 1920, from the Late Jurassic of Tendaguru, Tanzania. Zoological Journal of the Linnean Society, 178, 546-610.
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