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恐竜王国2012 内覧会 その3



「ティランノサウルス類研究所」のコーナーは、最新の種類としてアリオラムスとテラトフォネウスが並んでいる。その周りを、過去の恐竜博でそれぞれ目玉であったディロング、グァンロン、ラプトレックスなどが固めるという布陣である。タニコラグレウスなどもいる。あと「ズニのコエルロサウルス類」と呼ばれていたものが、ティラノサウルス類になったようだ。

アリオラムスは気に入った。顔が長いが、確かにティラノサウルス科である感じが良い。美しい全身骨格である。テラトフォネウスも良いが、亜成体としては顔が短めというくらいで、割と普通な感じがする。
 ただ、鼻骨のこぶ状の突起はアリオラムス・レモトゥスが5個で、アリオラムス・アルタイは3個である。展示されているのはアルタイなのに、説明パネルには5個とだけ書いてあるのは、無用の混乱を招く。



ズケンティランヌスの上顎骨が来ているのは大変ありがたい。内側面を上にしてあるので特徴の観察は難しい。肋骨、脛骨、中足骨などが追加で見つかった(同定された)ようである。
 メイン会場には3体のズケンティランヌス全身骨格がいる。倒れたズケンゴサウルスに襲いかかるやつ、ズケンゴサウルスの頸に噛み付いているやつ、シノケラトプスと対峙しているやつである。これらのズケンティランヌス復元骨格は、堂々たる体格でよくできていると思うが、ズケンティランヌスの特徴はほとんど感じられない。まあこれも、細部まで正確に作る気はなくて、あくまで展示用キャストとして作製したというところだろう。
 あきらめながら3体の顔を一つ一つチェックしていたら、気になる発見をした。「ズケンゴサウルスの頸に噛み付いているやつ」の顔を右側からみると、上顎骨に水平の稜がある。ズケンティランヌスに固有の特徴、上顎骨の上方突起の基部にある水平の棚horizontal shelfか?ちなみにこの「個体」は、左側のmaxillary fenestraが長い。この「個体」だけはオリジナルの面影を残しているのだろうか?それとも考え過ぎか。


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恐竜王国2012 内覧会 その2

ユーティランヌスは、企画途中で論文が発表されたため急遽追加されたようで、日中国交40周年のおかげか、特別に便宜を供与されたもののようです。こんな最新の貴重な標本を、この夏に見ることができるのは大変ありがたいことです。恐竜ファンとして関係者のご尽力に感謝します。

ユーティランヌスの実物化石は、当然ながら素晴らしい。実物なので台上に置くしかなく、真上から観察・撮影できないのは残念であるが、仕方ない。全体像はとらえにくいが要所要所は観察できる。(図録には全体像の写真がある。)
 文献ではとさかの形状が今一つ把握できなかったが、実物を観察して理解した。亜成体の方は本当に微妙のようだ。一方、後眼窩骨の形は角度的に観察が難しく、十分確認できなかった。



このように、少なくともティラノサウルスとは異なり、アロサウルスに近い体型の動物であることは示されている。ただし、この全身復元骨格には問題がある。個々の骨が完全にクリーニングされていない状態なので、キャストというよりも参考モデルということだろう。それにしても、この復元骨格はあまり参考にならない。
 頭骨のユーティランヌスの特徴のうち、とさかはともかく、重要な後眼窩骨の特徴が全くなく、2体ともつるんとしている。涙骨の突起がこんなに丸いのも論文の図とは異なる。さらに一見して気づくのは、下顎の外側下顎窓らしい孔が、妙に大きく丸いことである。実物化石で亜成体の下顎は観察できるが、どう見てもこんな形には見えない。
 また、腰帯の腸骨の向きが、前後逆にみえる。(論文のSupplementary information のFigure S2に、亜成体の腰帯の写真がある。)




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恐竜王国2012 内覧会 その1




今年は取材という形で内覧会に参加させていただきました。広報担当のディップス・プラネットの皆さん、恐竜倶楽部の若宮会長、ありがとうございました。

まあ、白亜紀前期のコエルロサウルス類から始まった「羽毛帝国主義」が領土を拡大している最中です。三畳紀のエオラプトルなどの時代からすっかり羽毛になっている。羽毛の起源が従来の推定より古く、よって羽毛の分布が広くなってきた最近の流れは確かなのでしょうが、三畳紀にさかのぼる根拠は、鳥脚類ティアニュロンか。初期の恐竜から既に羽毛という説はかなり以前からあったが、それが定着するのだろうか。
 ヘレラサウルスも原羽毛で覆われてしまったか。個人的には抵抗があるなあ。そうすると「地球最古の」で描かれた恐竜、ワニ類、哺乳類の共存した時代も、恐竜は羽毛で、二足歩行のラウイスクス類はウロコで描き分けられるようになるのか。(それとも翼竜の毛を考慮すると地上性のワニ類にも羽毛を?)



 青い鳥のようなコエロフィシスの群れ。青い羽毛というのは高度に発達した構造色なので、ふさわしくないという意見も聞かれました。私は色については想像なので、センスの問題だと思いますが。現生の鳥類に合わせ過ぎの感はあります。
 それよりも「羽毛恐竜コエロフィシス」というパネルのタイトル。「羽毛恐竜」という用語は、実際に化石に羽毛の痕跡が発見されている種類に用いられてきたはずです。羽毛の痕跡が見つかっているものと、そうではなく系統上の位置から推測されるだけのものとは、やはり区別されるべきでしょう。「羽毛恐竜コエロフィシス」という書き方をしたとたんに、羽毛の存在が既成事実として受け取られる恐れがあるからです。
 ただ、ディロフォサウルスの所にある「ジュラ紀前期の羽毛の跡」は非常に重要ですね。必見です。



 ケラトサウルスまで陥落すると、アベリサウルス類も時間の問題か。しかし、展示説明にもあるが、これらを羽毛で覆うのはケラトサウルスの背中の皮甲やカルノタウルスの皮膚の痕跡とうまく合わないような気がする。
 多くの恐竜は、羽毛を形成する機構とウロコを形成する機構の両方を備えていて、成長段階や環境に応じて使い分けていた、というのが無難な考えではないだろうか。

(続く)




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エオアベリサウルス




 少し大きい画像

エオアベリサウルスは、ジュラ紀中期(カニャドン・アスファルト層 Can˜ado´n Asfalto Formation)にアルゼンチンのパタゴニア(チューブート州)に生息した原始的なアベリサウルス類で、2012年に記載された。
 アベリサウルス類は白亜紀後期のゴンドワナ地域には多数知られているが、ローラシア地域には疑わしい断片的な化石しか知られていない。これまで、最古の確かなアベリサウルス類は、白亜紀前期の南アメリカとアフリカ由来であったが、アベリサウルス類の初期進化史についてはあまり知られていなかった。今回のエオアベリサウルスの発見により、最古のアベリサウルス類の生息年代は4000万年もさかのぼることになった。

 エオアベリサウルスの模式標本は、ほとんど完全な全身骨格であるが、頭骨の前半(吻の部分)や脊椎骨の一部は欠けている。発見されたのは、頭骨の後半部、5個の頸椎、9個の胴椎、完全な仙椎、27個の尾椎、左右の肩甲烏口骨、上腕骨、撓骨、尺骨、遠位手根骨、中手骨、指骨、完全な腰帯、左右の大腿骨、脛骨、腓骨、足根骨、中足骨、趾骨である。

 エオアベリサウルスは全長6 – 6.5 mの中型の獣脚類であるが、固有の特徴はどれも細かく難しい。方形骨の内側遠位の関節端が肥厚し、関節顆が平行に近いという(よくわからない)。中央の胴椎に、二重のV字形の板状部 lamina がある。尺骨の肘頭突起 olecranon process が大きく、尺骨の長さの30%以上を占める。恥骨孔pubic foramenが長く、長さが高さの2倍以上ある(図示されていないのでわからない)。恥骨の周囲突起 ambiens process が大きな、前側方を向いた凸型の膨らみとして発達している。

 吻部は失われているが、右の上顎骨の断片だけは見つかっていて、歯間板が癒合していることはわかるという。他のケラトサウルス類と同様に、頭骨の後半部は丈が高く、卵形の眼窩と大きな下側頭窓がある。涙骨の前眼窩窩は、拡がった層板で覆われている。後眼窩骨の頬骨突起(腹方突起)にはわずかに段がついているが、下眼窩フランジsuborbital flangeはない。頭蓋天井は特に肥厚しておらず、頭部には角などの装飾ornamentationはない。前頭骨は大部分が頭頂骨と癒合している。nuchal crestは盛り上がっているが、進化したアベリサウルス類ほどではない。
 頸椎は前後に短く、椎体の各側に2つの含気孔がある。頸椎の神経弓は含気性が発達しており、顕著なprezygoepipophyseal laminaeと大きなprespinal fossaeをもつ。頸椎の神経棘突起は、前後に短く非常に丈が低い。エピポフィシスはテーブル状で、神経棘と大体同じ高さである。
 前方の尾椎では、神経棘は高く前後に短く、横突起は強く背側方を向き、少し後方を向いている。前方の10個くらいの尾椎にはハイポスフェン – ハイパントラム関節がみられるという。
 

 系統解析の結果、エオアベリサウルスはアベリサウルス科の最も基盤的なメンバーと考えられた。これまで、最古の確かなアベリサウルス科は、南アメリカとアフリカの断片的な化石であり、それよりも古いアベリサウルス上科の記録は断片的で疑問の余地があるものであった。エオアベリサウルスの発見は、アベリサウルス科の生息年代を、4000万年以上も遡ったジュラ紀中期の初め頃まで広げるものである。このことはジュラ紀前期から中期にかけて、広義のケラトサウルス類(ケラトサウリア)が急速に多様化したことを示す。また、ケラトサウリアの主要な系統(「エラフロサウルス類」、ケラトサウルス科、ノアサウルス科、アベリサウルス科)が、この頃までにすべて出揃っていたと考えられる。

 注目されるのは、前肢の形態である。これまでアベリサウルス類の形態については、極端に短縮した前肢をもつ、白亜紀後期の特殊化した種類しか知られていなかった。エオアベリサウルスの発見によって、いままで知られていなかったアベリサウルス科の進化段階が明らかになってきた。エオアベリサウルスの前肢には、原始的な特徴と派生的な特徴のユニークな組み合わせがみられる。
 上腕骨は原始的で、短縮していない。撓骨と尺骨はやや短いが、ケラトサウルスのようなより基盤的なケラトサウルス類と比べて、それほど変わらない。ところが手(手首から先)は強く短縮していて、中手骨は短く太く、指骨は長さと幅が同じくらいで、蝶番状の関節面がなくなっている。末節骨も短くなっている。よって、アベリサウルス類の進化における前肢の変化は、まず遠位の要素から始まり、後になってより近位の要素まで及んだと考えられる。最近、「エラフロサウルス類」(エラフロサウルスとリムサウルス)やノアサウルス類の上腕骨にもアベリサウルス類と同じような変化がみられるといわれているが、今回エオアベリサウルスがアベリサウルス科に位置付けられたことを考えると、それらのグループではアベリサウルス科とは独立に上腕骨が変化したと考えられる。

 ジュラ紀中期で既に指が短縮していたとなると、撓骨と尺骨が短くなったのはいつ頃なのか、白亜紀前期くらいだろうか?いずれにしてもアベリサウルス科は、前肢の退化に関しては、ティラノサウルス科よりもはるかに由緒正しい「名門」だったことになる。(ラプトレックスが怪しいとなるとなおさらである。)また、ジュラ紀中期から白亜紀末まで、非常に長期にわたって繁栄したグループということになる。
 獣脚類では前肢のカギ爪は標準装備であり、スピノサウルス類やメガラプトルのように特に発達させた種類も多い。一方アベリサウルス類では、このエオアベリサウルスで既に、前肢を活用しようという気持ちが感じられない。おそらく、捕食や闘争に前肢のカギ爪を使う習性がなかったのだろう。もしそれがあったら、退化した個体は不利となって淘汰されるはずである。

参考文献
Diego Pol and Oliver W. M. Rauhut (2012) A Middle Jurassic abelisaurid from Patagonia and the early diversification of theropod dinosaurs. Proc. R. Soc. B published online 23 May 2012, doi: 10.1098/rspb.2012.0660

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