獣脚類を中心とした恐竜イラストサイト
肉食の系譜
「ティラノサウルス 肉食恐竜の世界」その4
爬虫類の形態学では、ずっと昔から腹肋骨という用語が使われてきたと思うのですが、なぜ急に?肋骨ではないから?肋骨とは異なることは承知の上で、使われてきたはずでしょう。内容を理解すればなんの問題もない。「肋骨と相同ではないが、腹部にあり、内臓等を保護するという点で、形態と機能が肋骨と似ている骨」という意味で、「腹肋骨」は特に問題ないと思うのですが。わざわざ変更するほど問題でしょうか。少なくともガストラリアでは、腹部にあることも、骨であることもわからないと思います。
詳しい事情は知りませんが、昔から爬虫類の解剖学に関わっていて、日本語の文章を書いてきた研究者の意見を尊重してほしいです。すでに爬虫類学会では合意が得られている、とかいうことですかね。
哺乳類の分類群でも「食肉目」「偶蹄目」の方が、ラテン語から漢語に忠実に訳された適切な訳語なのに、昆虫など他の生物と統一する名目で「ネコ目」「ウシ目」にされてしまったことも残念です。
恐竜などの古生物の場合は、実際に日本語訳が存在しない用語が無数にあるので、下手に訳語を作らないで原語表記するのが望ましいという原則はわかります。「腹肋骨」の場合は、昔の爬虫類学者が「これは肋骨ではないが、腹部にある肋骨みたいな骨という意味で、「腹肋骨」と訳すのが一番イメージしやすいだろう」と考えた結果、つけられた名称でしょう。それよりも明らかにメリットがあるのでなければ、先人の努力を尊重すべきではないでしょうか。
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「ティラノサウルス 肉食恐竜の世界」その3
「インゲニアと呼ばれた標本」。他の生物種の学名で先取権があるために、インゲニアは使えなくなり、まだ未定ということのようですね。
コンゴウインコそっくりの体色にしたシティパティのイラストは、まあ遊び心でしょう。
アフロヴェナトルが発見されたニジェールのTiouraren formationは、元々は白亜紀前期(オーテリーヴ期からバレム期)と考えられていましたが、その後の研究で2009年に、ジュラ紀中期(バス期からオックスフォード期、164 ~161 mya )とされるようになりました。ジョバリアと一緒にタイムスリップしたわけです。
よって、過去のアフロヴェナトルの記事中で「アフロヴェナトルは白亜紀前期まで生き延びた優等生」云々の文言は訂正しました。昨年の群馬の頃には気づいていたのですが、ほったらかしていました。(最新の図鑑などで初めて知った人は、そういう経緯があったことも気づかないでしょうが。。。)
メガロサウルス類の生息年代が短くなったのはちょっと残念ですが、カルノサウルス類(アロサウロイド)との競合で敗れたのでしょう。
ちなみにアフロベナトール、アフロヴェナトール、アフロベナトル、アフロヴェナトルなどいろいろな表記がありますが、各自が好きなように発音すればいいと思います。このサイトではアフロヴェナトルと表記していますが、私も会話では結構アフロベナトールと発音していたりします。(学問的に正式なのはラテン語のAfrovenator だけですので。)
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「ティラノサウルス 肉食恐竜の世界」その2
アロサウルスは全部、所さん提供だったと思いますが、他では見られないという点ではこの産状レプリカが貴重ですね。
新種かもしれない研究中のティラノサウルス類。
以前、化石レプリカ販売サイトDinocasts でJudith River Formationのティラノサウルス類として、顔の長いのがあったのを記憶しています。現在は載っていないようですが、多分それではないでしょうか。
モンタナ州のJudith River Formationは、8000~7500万年前ということです。獣脚類としては、アウブリソドンやデイノドンの歯、ゴルゴサウルスGorgosaurus sp. が発見されているようです。また未同定のティラノサウルス類が見つかっており、2005年にシンポジウムで予備的な報告がされているようです。
Stein and Triebold (2005). "Preliminary analysis of a sub-adult tyrannosaurid skeleton, known as "Sir William" from the Judith River Formation of Petroleum County, Montana." In The origin, systematics, and paleobiology of Tyrannosauridae, a symposium hosted jointly by Burpee Museum of Natural History and Northern Illinois University, p. 27-28.
アリオラムス(ちゃんとアルタイになっている)は、この産状の形が良い。少しつぶれて歪んでいるのであるが、絶妙なラインに「良さ」がある。歪みを直して復元した頭骨には、どうしても多少の人工的な要素が入ってくる。それでも非常によくできているが。
ダスプレトサウルスは日本では珍しいので、2、3行の説明が欲しいところですね。
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「ティラノサウルス 肉食恐竜の世界」その1
千葉県立中央博物館・特別展「ティラノサウルス 肉食恐竜の世界」に行ってきました。
当然ながら、肉食恐竜好きにとっては満足できるイベントでした。企画展示の1室だけでしたが(カルノタウルスとタルボサウルスは外)充実した空間構成で、よくまとめてあると思います。
恐竜パンテオンで予習していったのですが、そこでも書かれていたように、展示標本の半数近くが所さんコレクションだったような…。しかも新種かもしれないティラノサウルス類とか、ある意味目玉になりそうなものまで。。。
カルノタウルスは、こうして見ると結構大きいですね。
尾椎をみると、横突起(尾肋骨)が強く上方に向いているのは近位の10~11個くらいに限られているのがわかる。なぜ近位の尾椎だけそうなっているのか、ここにはどんな筋肉が付着していたのか、というところが例の研究の着想でしょう。(「カルノタウルスの尾椎」参照)
ただしアベリサウルス類では頸椎や胴椎の神経弓も特徴的な形をしている。カルノタウルスの胴椎をみると肋骨のつき方が変わっている。胴椎の横突起も上方を向いているため、肋骨頭のつく位置が上がっているようである。
この前肢は上腕が前方に曲げてある。最近のマジュンガサウルスの前肢の研究では、いわゆるニュートラルポジションとしては、上腕骨はやはり後下方を向いているとされている。ただし上腕骨には筋肉が付着していたので、動かすことはできた。それにしても、このキャストは曲げすぎでは?上腕骨頭が脱臼しているようにみえる。
当然ながら、肉食恐竜好きにとっては満足できるイベントでした。企画展示の1室だけでしたが(カルノタウルスとタルボサウルスは外)充実した空間構成で、よくまとめてあると思います。
恐竜パンテオンで予習していったのですが、そこでも書かれていたように、展示標本の半数近くが所さんコレクションだったような…。しかも新種かもしれないティラノサウルス類とか、ある意味目玉になりそうなものまで。。。
カルノタウルスは、こうして見ると結構大きいですね。
尾椎をみると、横突起(尾肋骨)が強く上方に向いているのは近位の10~11個くらいに限られているのがわかる。なぜ近位の尾椎だけそうなっているのか、ここにはどんな筋肉が付着していたのか、というところが例の研究の着想でしょう。(「カルノタウルスの尾椎」参照)
ただしアベリサウルス類では頸椎や胴椎の神経弓も特徴的な形をしている。カルノタウルスの胴椎をみると肋骨のつき方が変わっている。胴椎の横突起も上方を向いているため、肋骨頭のつく位置が上がっているようである。
この前肢は上腕が前方に曲げてある。最近のマジュンガサウルスの前肢の研究では、いわゆるニュートラルポジションとしては、上腕骨はやはり後下方を向いているとされている。ただし上腕骨には筋肉が付着していたので、動かすことはできた。それにしても、このキャストは曲げすぎでは?上腕骨頭が脱臼しているようにみえる。
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ケルマイサウルス
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ケルマイサウルスは、白亜紀前期バランジュ期からオーブ期(リャンムギン層Lianmugin Formation)に、中国新疆ウイグル自治区ジュンガル盆地に生息したカルカロドントサウルス類である。化石は断片的で、上顎骨の一部と完全な歯骨だけが知られている。
白亜紀前期のアジアからは大型獣脚類の化石記録が乏しく、同時期の他の大陸の大型獣脚類との比較が困難であった。この時代の貴重な大型獣脚類化石の一つとして、Dong (1973)が記載したケルマイサウルス・ペトロリクスKelmayisaurus petrolicus という上顎骨と歯骨があった。Holtz et al. (2004)はこれを系統不明の基盤的テタヌラ類としたが、Rauhut and Xu (2005) は「模式標本が断片的で、同定可能な形質を欠く」としてケルマイサウルスを疑問名とした。その後、この貴重な化石はアジアの獣脚類の研究から忘れ去られてしまっていた。そこでBrusatte et al. (2012)は、ケルマイサウルスの模式標本を再記載し、初めて詳細な解剖学的記載および他の獣脚類との比較を行った。その結果、ケルマイサウルスは固有の形質をもった、分類学的に有効な種であることがわかった。また系統解析の結果、ケルマイサウルスはカルカロドントサウルス科の一員であることがわかり、シャオチーロンに続いてアジアで2番目のカルカロドントサウルス類となった。
ケルマイサウルスは、歯骨の外側面の前方に、深く刻まれた背側に凹形の溝がある、という固有形質をもつカルカロドントサウルス類である。またケルマイサウルスは、他のどのアロサウロイドにもみられない、ユニークな形質の組み合わせを示す。上顎骨の歯間板の上下の丈が、前後の幅の2倍以上大きいこと、上顎骨に顕著な前方突起があること、そして歯骨の前腹方の「おとがい状」 chin-like の突起がないこと、である。
上顎骨としては、左の上顎骨の前方部分(上方突起の基部から前方)だけが保存されている。はっきりした前方突起が存在する。ケルマイサウルスでは、前方突起の前後の長さ(70 mm)が背腹の高さ(100 mm)より少し小さく、アロサウルス、ネオヴェナトル、モノロフォサウルスに似ている。一方、カルカロドントサウルスやマプサウルスのようなカルカロドントサウルス類では、前方突起は長さよりも高さの方がずっと大きく、はっきりした突起として認めにくい。
上顎骨はひどく浸食されているが、いくつかの部分では本来の骨の表面が保存されている。外側面では、最もよく保存された部分をみると骨表面は滑らかであり、アベリサウルス類やカルカロドントサウルスのような派生的カルカロドントサウルス類にみられる粗面はない。また腹側縁から約15 mm上方に神経血管孔の列がある。
上顎骨の内側面は保存が悪く、歯間板はあちこちで破損しているが、歯間板が癒合して一枚の板になっていることはわかるという。ケルマイサウルスでは歯間板の丈が高く、丈の高さが前後の長さの約2倍ある。これはアクロカントサウルス、カルカロドントサウルス、ギガノトサウルス、マプサウルスのような派生的なカルカロドントサウルス類と同様である。それに対してネオヴェナトル、アロサウルス、シンラプトルのような他のアロサウロイドではもっと丈が低い。
上顎骨には6個の歯槽の痕跡があり、そのうち4個は保存がよい。4番目の歯槽には成長中の置換歯が保存されている。この歯は70 mm の長さで、前縁が強くカーブし後縁はほとんどまっすぐであるが、残念ながらエナメルのしわのような表面の詳細な構造はわからないという。
左の歯骨はよく保存されており、前端と後端のみが少し欠けている。派生的なカルカロドントサウルス類では、顕著なおとがい状の前腹側突起 anteroventral process があるために、歯骨の前端が拡がって四角張っているが、ケルマイサウルスでは前腹側突起がなく、前端は拡がっていない。
歯骨のほとんどの部分で本来の骨表面が保存されている。主要な神経血管孔の列がはっきりしており、これらは後方では深い神経血管溝 primary neurovascular groove に沿って並んでいる。ケルマイサウルスではこの溝が、特に深くくっきりしている。これはある種のメガロサウロイドやいくつかのカルカロドントサウルス類と同様である。アロサウルスとネオヴェナトルではこのような顕著な溝はない。さらに、5番目の歯槽より前方にも顕著な溝 anterior accessory groove がある。この溝の中には4個の孔がある。この溝は他の基盤的テタヌラ類にはみられないもので、ケルマイサウルスの固有形質と考えられる。
歯骨には15個の歯槽があり、前端の欠けた部分にもう1個あったと思われる。どの歯槽も楕円形で、幅より前後の長さがずっと大きい。萌出した歯も成長中の歯も保存されていないが、歯槽の形からみると派生的なカルカロドントサウルス類のように、側扁した歯だったかもしれないという。
参考文献
Brusatte, S.L., Benson, R.B.J., and Xu, X. (2012). A reassessment of Kelmayisaurus petrolicus, a large theropod dinosaur from the Early Cretaceous of China. Acta Palaeontologica Polonica 57 (1): 65-72.
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