goo

アオルン




大きい画像

アオルンは、ジュラ紀中期から後期(Shishugou Formation)に中国新疆ウイグル自治区のWucaiwan localityに生息した原始的なコエルロサウルス類で、2013年に記載された。化石が発掘された地層は、ちょうどジュラ紀中期Callovianと後期Oxfordianの境界付近で、おそらくジュラ紀中期Callovianの終わり頃と考えられた。アオルンは、モノロフォサウルス、シンラプトル、グァンロン、リムサウルス、ズオロン、ハプロケイルスに続いて、Shishugou Formationから発見された7番目の獣脚類である。(モノロフォサウルスとシンラプトルは100 km離れたJiangjunmiao locality、その他はWucaiwan locality)
 アオルンとは、西遊記に登場する西方の竜王の名Ao Runということである。

発見されたのは、頭骨、頸椎、胴椎、尾椎、左の尺骨、左の手、恥骨遠位部、関節した左右の脛足根骨、中足骨、趾骨である。脛骨の組織学的観察から、この模式標本は生後1年以内の幼体と考えられた。

アオルンは、以下のような形質の固有の組み合わせをもつ小型のコエルロサウルス類である。maxillary fenestraが大きく前眼窩窩の大部分を占める、上顎骨歯の後縁にのみ非常に小さく先端側を向いた鋸歯がある、頸椎の椎体が弱く後凹型、前肢のカギ爪(末節骨)の構成が特徴的で、1番目の指の末節骨は大きく曲がっているが、2番、3番の指の末節骨は小さくあまり曲がっておらず腹側面が直線的である、などである。

アオルンは幼体なので、そのまま系統解析に用いると問題があるかもしれない。そこで著者らは、アオルンのすべての形質を用いた解析と、成長過程で変化すると考えられる形質を除いた解析の2種類の方法で分岐分析を行った。その結果、アオルンが基盤的なコエルロサウルス類であるという結論は変わらなかったという。
 前者の解析では、アオルンはコエルロサウルス類の中で、ティラノサウルス上科よりも派生的で、コンプソグナトゥス科よりは基盤的な位置にきた。つまりティラノサウルス上科よりも派生的なすべてのグループ(コンプソグナトゥス科、オルニトミモサウルス類、アルヴァレツサウルス類、‥‥)の根元で、コエルルスやスキピオニクスなどと近いところに位置した。
 後者の解析では、アオルンはティラノサウルス上科とオルニトミモサウルス類以外のすべてのグループの根元にきた。

ファルカリウスを研究したZannoらは、初期のコエルロサウルス類の多様化が、肉食から雑食あるいは植物食への食性の変化とともに起こったという説を提唱した。彼らは、ティラノサウルス上科よりも派生的な全てのコエルロサウルス類の共通祖先には、食性の変化に関連した形態学的特徴がみられるのではないかと予測した。面白いことに、前上顎骨歯の鋸歯が失われること、2番め3番目のカギ爪が直線的になることなど、アオルンにみられるいくつかの形態学的特徴は、Zannoらの予測と一致しているという。

新疆ウイグル産の獣脚類の中でも、グァンロンやリムサウルスのようなキャラの立つ恐竜と違って、ズオロンとアオルンは地味な小型のコエルロサウルス類であり、取り上げられることも少ないだろう。しかしジュラ紀のコエルロサウルス類の初期進化を考える上では、重要な貢献をなす種類と思われる。


参考文献
Jonah N. Choiniere, James M. Clark, Catherine A. Forster, Mark A. Norell, David A. Eberth, Gregory M. Erickson, Hongjun Chu & Xing Xu. (2013)
A juvenile specimen of a new coelurosaur (Dinosauria: Theropoda) from the Middle-Late Jurassic Shishugou Formation of Xinjiang, People's Republic of China, Journal of Systematic Palaeontology, DOI: 10.1080/14772019.2013.781067


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

「最新版 恐竜の世界 Q&A」




「最新版 恐竜の世界 Q&A」(小林快次監修、講談社)

恐竜本の中でも手軽で読みやすく、その割にレベルが高いという点でおすすめの一冊。本当に最新版で、最近報告された新種などを中心として収録している。一問一答のクイズ形式なので、どこでも好きなページから読み始められ、待ち時間にも気軽に読めるのが良い。ただ本の体裁については、横書きの文章が縦になっているのはやはり読みにくく、手と首が疲れる。

私は知識が偏っているので、勉強になると思って読んだら実際にためになった。メキシコのコアフイラケラトプスは正確な綴りを知らなかったが、名前は一応見たことがあった。エオトリケラトプスは知らなかった。

活字が大きく、ふりがなが振ってあり、「わかるかな?」などの文体からも子ども向けのはずだが、それにしてはやや難しい問題もある。確かに新種の恐竜の名前を答える問題などは、吸収力が旺盛な子どもの方が得意なのだろう。また、簡単な問題は簡単である。

難しい理由のひとつは、発見(記載)の年号かなと思われた。「2009年にアジアで発見された○○の仲間」という具合に、記載年をヒントにしている問題があるが、歴史の問題のように記載年を憶えることを前提にするのは厳しいのではないか。皆さん記載年なんて意識してますか?逆に考えると、この本を繰り返し愛読している子どもは、新種の恐竜の記載年も憶えてしまうことになる。なんて恐ろしいことだろう。


以下、気になった点をメモする。

Q01:これまで知られている中で最も原始的な恐竜は
 従来はエオラプトルから始まるところ、ここではエオラプトルとパンファギアは原始的な竜脚形類として、答えから除外してある。そして「この問題では、竜盤類が獣脚類と竜脚形類に分かれる前の種類を答えよう」とわざわざ書いてある。ところが、答えはヘレラサウルスやエオドロマエウスで、しかもイラストの説明にはヘレラサウルスもエオドロマエウスも獣脚類と書いてある。これでは整合性がないというか、子どもたちが混乱するのではないか。最新の知見を盛り込もうとしたのだろうが、どうもよろしくない。

Q03の答えA03の中でティラノサウルスの説明文に「ノコギリのようなギザギザのついた円錐形の歯(鋸歯)」
Q35でマシアカサウルスについて「奥歯は‥‥ギザギザのある鋸歯だったけれど、」とある。
 ここの読者には説明するまでもないと思うが、鋸歯とは「ノコギリの歯のような小さなギザギザ」のことであって、「ギザギザのついた歯」全体のことではない。「鋸歯のある歯」が正しい表現で、植物の葉の縁にあるギザギザも鋸歯という。葉に鋸歯があったり、歯に鋸歯があったりするわけである。
 誤用している人がいるのかと思って「鋸歯 肉食」で検索してみると、博物館などのちゃんとした解説では当然正しく使っていて、一部ネットメディアの記者やモンスター系のゲームをやる人が、誤用あるいは別の意味で使っている。(正しい使用例として、過去の小林先生の文章が出てきた。)


Q37:クリプトプスが「中国とニジェールで見つかった」とある。中国でアベリサウルス類の化石が発見され、しかもニジェールのクリプトプスと同属と同定されたということだろうか。これは最新情報なのか、私は知らないので知りたいが。また、眼窩の構造が云々とあるが、このサイトのクリプトプスの記事に書いたように、ニジェールのクリプトプスは頭骨のうち上顎骨しか見つかっていない。中国産?の頭骨は保存が良いのだろうか。


哺乳類ではないのに、「肉食獣」を使うのは不適切である。「恐るべき肉食獣だった」とか、鳥に近いマハカラを「小型の肉食獣」と書いてあるのは非常に違和感がある。肉食動物とか捕食者とすれば済むところである。これはもう少し言葉使いに気を配るべきである。

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )