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カルカロドントサウルスもすごい




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カルカロドントサウルス類のイラストを描きたい場合に、断片的な標本しかない種類だと想像図になってしまうので、いまひとつ盛り上がらない。サウロニオプスを描かないのはそのためである。ギガノトやマプも関節状態ではない。頭骨については、カルカロドントサウルスとアクロカントサウルスがいかに貴重なものであるかわかる。あとはコンカヴェナトルである。



上野の科博で常設展示されていたカルカロ頭骨は、リニューアルで引退してしまった。このSereno et al. (1996) のネオタイプは、前上顎骨、鱗状骨、方形頬骨、方形骨が見つかっていないが、あとはほとんど完全なものである。下顎は見つかっていない。歯骨があるのはイグイデンシスである。



福井に展示されているカルカロ頭骨は別物で、2010年に大阪のゴンドワナ展で展示されたもののようだ。今年のヨコハマ恐竜博でウェブサイトには載っていたが、製作が間に合わなくて展示されなかった(スタッフの方に訊いた)のは、もしかしてこれと同じものだろうか。これも大変迫力がありすばらしいが、どの部分がオリジナルなのだろうか。ある程度の部分が見つかっていて、あとは復元したもののように見える。額のあたりがちょっと凹んでいるのは「ティラノ化」されていることはないだろうか。

カルカロドントサウルス類の頭骨は、幅が狭く丈が高い形をしている。獲物に咬みついた際の衝撃に対して、それなりに頑丈にできているはずだ。ティラノサウルスには及ばないとしても、他の肉食恐竜と比べてどうなのだろうか。

 Snively et al. (2006) は、ティラノサウルス類の摂食装置(歯、鼻骨、頭蓋)がカルノサウルス類に比べて頑強であることを定量的に表した研究をしている。ティラノサウルス類では左右の鼻骨が癒合し、丸天井のように盛り上がっているvaultedことが、強度を高めているというのが中心で、詳しく記述されている。ゴルゴサウルス、アルバートサウルス、ダスプレトサウルス、ティラノサウルスと大型化するにつれて、ティラノサウルス類では鼻骨の強度が指数関数的に増加しているという。それに対してアロサウルス(小、中、大)では直線的に増加しているに留まる。鼻骨についてはコントロール(比較対照)としてアロサウルスだけを用いているので、さらに大型のカルノサウルス類のデータはない。
 次に著者らは、頭骨(頭蓋)全体の強さを比較している。頭蓋全体の形状をコンピュータ上に取り込み、3Dモデルを作成した。その多数の横断面について、台形(殻のような形の断面なので枠状)で近似して断面積や断面二次モーメントを計算した。断面二次モーメントsecond moment of areaは、構造力学の用語で、曲げようとする力に対する梁などの変形のしにくさを表した量である。この場合、上下方向(背腹)の曲げに対する強さと左右方向(内外側)の曲げに対する強さの2通りがある。また、捻るような変形に対する強度は「断面二次極モーメント」で表されるという。
 結果は図のグラフのようになり、一般にティラノサウルス類の頭蓋は同じ大きさのカルノサウルス類の頭蓋と比較して、より大きい断面二次モーメントをもつ。特にティラノサウルスではその傾向が増幅されたもので、どの指標をみてもアクロカントサウルスやカルカロドントサウルスを引き離している。しかし逆にいうと、ティラノサウルス類とカルノサウルス類のラインはダスプレトサウルス以下ではほとんど重なっている。つまりティラノサウルスは確かにすごいが、明らかにティラノサウルス類がカルノサウルス類より頑丈となったのはダスプレトより後ということになる。ゴルゴサウルスの頭蓋は少し大きいアロサウルスの頭蓋よりも頑丈であるが、それは原始的なシンラプトルと同様のレベルである。より大きいアクロカントサウルスの頭蓋はダスプレトサウルスの頭蓋よりも頑丈であることになる。頭蓋の形状については結構そんなものなんだ、というのが感想である。
 左右方向の曲げに対する強さIyでは、ティラノサウルス類(というよりティラノサウルス)の頑丈さが圧倒的であるが、これは吻や後頭部の幅が広いことから納得できる。リスロナクスなども強いのかもしれない。しかし、上下方向の曲げに対する強さIzでは、ティラノサウルス類とカルノサウルス類のラインの差はより小さい。つまり、大型カルカロドントサウルス類が健闘している。この方向の頑丈さでは、カルカロドントサウルスが小さめのティラノサウルスを上回っている。大きさでカバーする面はあるがアクロカントサウルスでさえダスプレトサウルスよりは勝っている。



図 左右方向と上下方向の断面二次モーメントと断面二次極モーメントの比較
Gl: ゴルゴサウルス・リブラトゥス、Dt: ダスプレトサウルス・トロスス、Tr: ティラノサウルス・レックス、Af: アロサウルス・フラギリス、Sd: シンラプトル・ドンギ、Aa: アクロカントサウルス・アトケンシス、Cs: カルカロドントサウルス・サハリクス
Copyright: Snively et al. (2006)

著者ら自身が述べているが、この解析は、有名なRayfield らのアロサウルス頭骨の有限要素解析ほど緻密なものではなく、かなり粗い近似かもしれない。ここで用いた殻状モデルshell-like modelは、頭骨にあいた孔(窓)や関節、口蓋を考慮していない。実際はカルノサウルス類の方が前眼窩窓などの孔が大きい。またティラノサウルス類では二次口蓋が強度を高めているという。頭蓋の3次元形状だけに注目して比較すると、上記のようになるということである。よって孔なども含めて考えるとティラノサウルス類の方がさらに頑丈となるのかもしれない。しかしカルノサウルス類の場合は、頭骨を軽量化しつつなるべく強度を保つという必要に対する最適解のはずだ。

さらに頭蓋の形状だけでなく歯や鼻骨の形も考慮すると、ティラノサウルス類の方が骨までかみつぶす摂食様式に適応していることは間違いない。ただしそれはそもそも戦略の違いであって、カルカロドントサウルス類はコストをかけて骨まで砕く必要はなく、肉を切り取ることに専念すればよかった。そのような環境に適応して進化したともいえるかもしれない。ティラノサウルス類が頂上捕食者として台頭したのはカンパニアン以後であり、白亜紀の大部分はカルカロドントサウルス類の時代であったことは繰り返し指摘されている。ティラノサウルスを讃えるばかりではなく、カルカロドントサウルス類も正当に評価されるべきである。


参考文献
Snively, E., Henderson, D.M., and Phillips, D.S. (2006). Fused and vaulted nasals of tyrannosaurid dinosaurs: Implications for cranial strength and feeding mechanics. Acta Palaeontologica Polonica 51 (3): 435-454.
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