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ヘレラサウルス1



 ヘレラサウルスは、三畳紀後期に南アメリカのアルゼンチンに生息した最も初期の肉食恐竜である。ヘレラサウルス類(科)にはヘレラサウルスの他、ブラジルのスタウリコサウルスやアメリカのチンデサウルスなどが含まれるとされる。ヘレラサウルスでは非常に原始的な特徴と進歩した獣脚類の特徴がモザイク的に混在している。寛骨臼が完全に貫通していないこと、仙椎が2個しかないことは従来の恐竜の定義から外れかねないほど原始的な形質である。後肢には第5趾(中足骨と1個の趾骨)が残っている。前肢には痕跡的な第4指,第5指が残っている。第1指、第2指、第3指の3本の指に鋭いカギ爪を備えているが、このうち第3指が最も長い。腸骨が短い。恥骨の先端が拡大しやや後方に向いている。後の獣脚類と同様に下顎内に可動性の関節がある。

ヘレラサウルス類は、獣脚類の中で最も原始的な系統である古獣脚類に含まれるとするセレノらの意見が、一般的には紹介されてきた。しかし系統上の位置について研究者の間で議論があり、獣脚類でも竜脚形類でもない竜盤類とする意見や、さらには竜盤類でも鳥盤類でもない恐竜形類とする意見さえある。The Dinosauria 2nd ed. (2004)では、ヘレラサウルス類を獣脚類とするセレノらの考えでは三畳紀の他の原始的な竜盤類(古竜脚類など)と比較していないことを問題視し、鳥盤類、ヘレラサウルス類、エオラプトル、真の獣脚類、竜脚形類を広く含めた分岐分析を行った結果,ヘレラサウルス類は原始的な竜盤類であるが、獣脚類ではないと結論している。このときの分岐図では竜盤類の中でまずヘレラサウルス類が分岐し,次にエオラプトルが分かれ,その後に獣脚類と竜脚形類が分かれたとなっている。頭骨の特徴ではヘレラサウルス類よりもむしろエオラプトルの方が、獣脚類(と竜脚形類)に近い点が多いという。
 ヘレラサウルス類で恥骨の先端が拡がっているのは、先端が後方に曲がることによるもので、実際に前後の幅が拡大しているテタヌラ類のpubic footと相同なものではないと指摘されている。
 下顎内に可動性の関節があることは獣脚類の特徴であるが、ヘレラサウルス類の下顎内関節が獣脚類のものと相同な構造かどうか明らかではなく,独立に進化した形質である可能性があるという。結局ヘレラサウルス類と獣脚類だけに共通した形質は、下顎内関節、手の末節骨のひとつ手前の指骨が大きい、鋭いカギ爪の発達など捕食性に関するものであり、肉食への適応による収斂進化とも考えられる。そうだとするとヘレラサウルス類はこの時代の原始的な竜盤類の中で、いち早く二足歩行の捕食者として適応した系統ということになる。
このような傾向を反映してか、現在Wikipediaでも、ヘレラサウルス類は竜盤類の中で獣脚類の外に置かれている。

 ところでヘレラサウルスの全身復元骨格は何度も公開されており、1998年の大恐竜展をはじめ、2004年、2006年の恐竜博では尾を水平に伸ばして行儀よく立っているポーズであったが、この2005年の恐竜博のポーズはダイナミックで魅力的である。斜めのラインで構成されていると美しくみえるのは恐竜でも人間でも同じなのだろう。
 またこの動物は、後の進化した獣脚類の祖先ではないが、肉食恐竜らしさを十分そなえている。体の各部にあか抜けない点があるが、原始的なものの魅力というのもある。鋭い歯とがっしりした顎に加え、前肢もかなり発達している点などはなかなかのバランスとも感じる。
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