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ルカルカン (単品)



ティラノサウルスは個体数の推定でもニュースになるのに、アベリサウルス類はスペクトロヴェナトルのような重要な発見でもニュースに取り上げられない。

ルカルカンも、これまでの知見に照らしてアベリサウルス類の中でどのように位置付けられるか等、自分の興味を掘り下げることに意味があるからやっている。
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ルカルカン


ヴィアヴェナトル対ルカルカン
初めて別種のアベリサウルス類に遭遇して驚くヴィアヴェナトル

ルカルカンは、白亜紀後期サントニアン(Bajo de la Carpa Formation )にアルゼンチンのパタゴニア北部、La Invernada 地方に生息したアベリサウルス類で、2021年に記載された。部分的な頭骨だけが見つかっている。
 ルカルカンはアベリサウルス類の中でも、南米の進化的なグループであるブラキロストラの、さらに進化型のフリレウサウリアというグループに属する。実はルカルカンの化石は、同じフリレウサウリアのヴィアヴェナトルと同じ地域の同じ地層から発見されており、ヴィアヴェナトルと同一ではないかとも思われたが、詳細に検討した結果、異なる特徴がありヴィアヴェナトルとは別種と考えられたため、新属新種となったものである。
 ルカルカン・アリオクラニアヌスLlukalkan aliocranianus の属名は現地のマプチェ語で「恐怖をもたらすもの」、種小名は「異なる頭骨」を意味する。同じ地域から発見されていたヴィアヴェナトルとは異なる頭骨ということである。

ルカルカンのホロタイプ標本は部分的に関節した頭骨で、前上顎骨、上顎骨、頰骨、涙骨、翼状骨、外翼状骨、方形骨、前頭骨・頭頂骨を含み鼻骨・涙骨・後眼窩骨・鱗状骨と関節した完全な脳函、前関節骨からなる。下顎の骨は前関節骨しか見つかっていない。

他のアベリサウルス類と異なるルカルカンの特徴は、1つの固有形質と、いくつかの形質の組み合わせからなる。固有形質は、脳函に後鼓室陥凹caudal tympanic recess があることである。脳函の側面で、前耳骨と後耳骨の境界あたりにcolumellar recess という窪みがある。そのすぐ後方に、ルカルカンではcaudal tympanic recessという窪みがある。これは、他のアベリサウルス類にはみられないルカルカンの固有形質であるという。
 その他、T字形の涙骨に眼窩下突起がないこと(これは成長段階の影響を受ける)、上側頭窩の前内側縁に切れ込みと突出部があること、傍後頭骨突起の形状と方向など、細かい形質の組み合わせにより、他のアベリサウルス類と区別される。

ルカルカンは、以下の共有派生形質をもつことに基づいて、アベリサウルス類(アベリサウリダエ)に含まれる。頭骨の皮骨の表面に稜や溝からなる彫刻sculpture がある;上顎骨の前眼窩窓と前眼窩窩の腹側縁が同じレベル(高さ)にある;上顎骨の前眼窩窩が縮小していて、上行突起の前後長の半分以下にしか及んでいない;上顎骨のpromaxillary foramen が縮小している;歯の前縁は強くカーブし、後縁はほとんどまっすぐである;歯間板は癒合しており顕著な垂直の線条がある。ルカルカンはまた、涙骨と後眼窩骨の結合によって眼窩の縁から前頭骨が排除されているなどの、典型的なアベリサウルス類の頭骨の特徴を示す。


前頭骨の背面には彫刻があるが、基本的に平坦である。カルノタウルス、マジュンガサウルス、ラジャサウルスのような角状突起はない。またアベリサウルスやアウカサウルスのような眼窩の縁に近い盛り上がりdomeもない。つまりルカルカンの前頭骨は、ヴィアヴェナトル、エクリクシナトサウルス、ルゴプス、アルコヴェナトルと似ている。
 他のアベリサウルス類やカルカロドントサウルス類と同様に、涙骨と後眼窩骨が結合しているので、前頭骨は眼窩の背側縁から排除されている。ルカルカンではこの3つの骨が接するところ、つまり前頭骨、涙骨、後眼窩骨の間に穴fenestraはない。これはヴィアヴェナトル、アベリサウルス、カルノタウルス、アウカサウルスと同様である。この特徴はFilippi et al. (2016) によってフリレウサウリアの共有派生形質とされた。一方、ルゴプス、エクリクシナトサウルス、マジュンガサウルスでは穴がある。
 前頭骨は上側頭窩supratemporal fossa の前内側縁をなしている。ルカルカンでは、この上側頭窩の前内側縁に、切れ込みnotchとそれに続く突出部bulge がある。この特徴は、マジュンガサウルスとエクリクシナトサウルスにもみられるが、アベリサウルス類に共通したものではなく、ヴィアヴェナトルにもみられない。

系統解析はいろいろ試行錯誤した結果、タラスコサウルスなどを除くと、Filippi et al. (2016) の結果と似た系統関係が得られた。すなわちクリプトプスとルゴプスが最も基盤的なアベリサウルス類となり、マジュンガサウリナエとブラキロストラが姉妹群となった。ルカルカンは単系のフリレウサウリアに含まれ、ピクノネモサウルス、キルメサウルス、ヴィアヴェナトルとポリトミーをなした。またこれらのそれぞれは、カルノタウルス、アウカサウルス、アベリサウルスを含むクレードと姉妹群となった。

ルカルカンは同じ地層から見つかったヴィアヴェナトルと共有する形質も持つが、異なる形質やユニークな形質も持つ。ヴィアヴェナトルとの最も重要な違いの1つは、脳函の含気性に関するものである。ルカルカンの脳函にはcolumellar recess の後方に小さな含気性の窪みがあり、caudal tympanic recess と考えられる。これはコエルロサウルス類以外の獣脚類には珍しいものである。また脳函の神経や血管の孔の位置と大きさも、ヴィアヴェナトルや他のアベリサウルス類とは大きく異なっているという。
 しかしルカルカンの化石が発見された場所は、ヴィアヴェナトルの発掘地からわずか700mしか離れていない。また推定される頭骨の大きさは、ルカルカンの方が10-20%小さい。これらのことから、ルカルカンがヴィアヴェナトルの亜成体または幼体である可能性も完全には否定できないと思われた。そこでこのことについて1ページくらい費やして考察している。

アベリサウルス類の成長過程に伴う形態変化については、ほとんど研究されておらず、マジュンガサウルスでのみ報告されている(「マジュンガサウルスの成長」の記事参照)。マジュンガサウルスでは頭骨表面の皮骨については亜成体から成体への変化が知られているが、脳函についてはわかっていない。
 ルカルカンが亜成体である可能性に関係するかもしれない骨の一つは涙骨である。他のアベリサウルス類では涙骨の腹側突起に眼窩下突起があるが、ルカルカンでは眼窩下突起がない。マジュンガサウルスの亜成体には眼窩下突起がなく、成体にははっきりした眼窩下突起がある。
 ルカルカンの脳函には片方の鼻骨が結合して保存されているが、この鼻骨の内側面の状態から、左右の鼻骨は癒合していなかったと考えられた。マジュンガサウルスでは、亜成体から成体への成長過程で左右の鼻骨が癒合するので、このこともルカルカンが亜成体である可能性を示唆するかもしれない。しかしアベリサウルス類の中でも、成体のマジュンガサウルスとアベリサウルスでは鼻骨が癒合しているが、カルノタウルスやルゴプスでは癒合していないか部分的にのみ癒合しているので、亜成体の可能性は確かとはいえないという。
 ルカルカンの脳函のそれぞれの骨は完全に癒合しており、これは一般には成体の特徴とされている。
 ルカルカンの固有形質であるcaudal tympanic recess については、このような脳函の含気性の窪みは、成長過程で新たに生じることはあっても、消失することは考えにくいとされている。ヴィアヴェナトルとルカルカンの頭骨の大きさの違いはそれほど大きくはないことを考えると、もしヴィアヴェナトルが成体でルカルカンが亜成体であれば、かなり短期間でこのような大きな変化が起きなければならないことになる。結論としてその可能性は非常に小さく、ルカルカンは亜成体かもしれないが、ヴィアヴェナトルではなく別種と考えられた。

正確な生息年代によるが、ヴィアヴェナトルとルカルカンは、パタゴニア全体といった広大な地域ではなく、もっと限定された同一の地域に、実際に共存していた可能性がある。同一の地域に複数のアベリサウルス類が発見されたことは、この時代のパタゴニアの生態系において、アベリサウルス類がいかに繁栄した、重要な要素であるかを示しているといっている。パタゴニアではチューロニアンに大絶滅があったとされており、サントニアン以降、アベリサウルス類の放散が起きたと提唱されていることを支持するという。

参考文献
Federico A. Gianechini, Ariel H. Méndez, Leonardo S. Filippi, Ariana Paulina- Carabajal, Rubén D. Juárez-Valieri & Alberto C. Garrido (2021): A New Furileusaurian Abelisaurid from La Invernada (Upper Cretaceous, Santonian, Bajo De La Carpa Formation), Northern Patagonia, Argentina, Journal of Vertebrate Paleontology, DOI: 10.1080/02724634.2020.1877151


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