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新宿でアウカサウルス:2015新宿高島屋/東急ハンズ


春休み期間中、新宿高島屋/東急ハンズでは福井県立恐竜博物館とのコラボで恐竜イベントを開催しています。北陸新幹線金沢開業と博物館15周年の記念ということで、北陸新幹線のコーナーもある。ここは集客力がすごいので宣伝効果は大きいでしょう。
 
東急ハンズの入口ウインドウにはおなじみの福井産恐竜の復元画がありますが、新種のイグアノドン類コシサウルスが仲間に加わっていました。ハンズ2階にはフクイラプトルとタルボ頭骨があり、福井県立恐竜博物館のグッズが販売されています。越前和紙のペーパーパズルとか恐竜骨格クリアファイルとか、お菓子類、衣類などですね。




新南口側から高島屋2階入口に入ると、白亜紀前期のよろい竜アニマンタルクスがお出迎え。これはめったに見られるものではないですね。ガラスの反射が気になる人は反対側から撮ると鮮明です。



ウエルカムゾーンとはエスカレーターの間のスペースのことだそうです。ここにはジュラシックツリー、ヘゴ、ナンヨウスギなどの植物とともに、ディプロドクスとステゴサウルスの頭骨、大腿骨などが展示されています。これらの植物も生態画の参考になりそうです。



メインは12階レストランパークの展示スペースの恐竜全身骨格で、フクイサウルス、アウカサウルス、ステゴサウルスがいます。たまたまランチに訪れた親子連れには「今日は得をしたね」などと好評でした。迫力という点ではステゴサウルスはやはりいいですね。

今回のスペシャルゲストはまさかのアベリサウルス類、アウカサウルス。私は過去にもアクロカントの勉強をした直後に丸ビルにアクロカントが来たり、アリオラムスのモノグラフを読んだ後にチエンジョウサウルスの論文が出たりと、妙な「引き」がある。今回はアベリサウルス類の脛骨が見たいと思っていたところに、まさかアウカサウルスが来てくれるとは。このアウカサウルスは私に会いにきたに違いない。ということで、まず同じフロアのタイ料理を食べてから、万全の体勢でアウカサウルスに臨んだわけです。



小さい女の子が「これ多分ティラノだ‥‥前足がちっちゃいから」という、良い間違え方をしていましたが、アベリサウルス類はティラノサウルス類のように「頭が大きく首が短く」という体形ではなく、首はわりと長いままです。この骨格だと前肢以外はアロサウルス的な体形ですが、尾がやや急に終わる感じがします。



今回の観察ポイントは、アベリサウルス類に特徴的な斧形の脛骨。なるほど変わった形をしているのがわかります。フランスのゲヌサウルスなどがアベリサウルス類とされる根拠の一つです。前肢についてはいろいろあるので後でまた取り上げます。
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アルコヴェナトル




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アルコヴェナトルは、白亜紀後期(カンパニア期後期)にフランス南東部のプロヴァンス地方に生息した中型(推定5-6 m)のアベリサウルス類で、2014年に記載された。
 ゴンドワナ地域に広く分布するアベリサウルス類が、ヨーロッパにも生息していたことを示す化石記録は25年も前から報告されてきたが、ほとんどが断片的なものであるために疑問ともされてきた。Tortosa et al. (2014) はフランス南東部のAix-en-Provence Basinから発見された頭骨と胴体の骨に基づいて、アベリサウルス科の新種Arcovenator escotaeを樹立した。また、これまでにフランスで発見されたアベリサウルス類の標本を含めて、系統解析を行っている。
 アルコヴェナトルの完模式標本は、右の後眼窩骨と関節した完全な脳函、左の鱗状骨、1本の歯、前方の尾椎、右の脛骨、右の腓骨からなる。そのほか別の場所で発見された参照標本として3本の歯と2個の前方の尾椎がある。

アルコヴェナトルは、以下の形質の組み合わせにより他のアベリサウルス類と区別される。1)前頭骨が正中でやや肥厚している、2)左右の前頭骨の間の正中線上にmedian foramenという孔がある、3)前頭骨、後眼窩骨、涙骨の間の頭蓋天井に小さな孔frontal fenestraを伴う低い凹みがある、4)後眼窩骨の背側面が発達して顕著な粗面のある眼窩上隆起supraorbital browをなす、5)後眼窩骨の腹方突起と後方突起の間に薄い骨の板がある、6)後眼窩骨の腹方突起に側方結節lateral tuberosityがある、7)耳後頭突起の背側縁と腹側縁が2本の稜状に盛り上がり、その間の中央部が凹んでいる、などである。(全部で10まであるが省略)
 正確な復元は無理である(身もふたもない)が、想像図を描きたい場合は後眼窩骨の形だけ注意すればいいのではないだろうか。

アルコヴェナトルの脳函はほとんど完全に保存されている。他のアベリサウルス類と同様に、頭骨の要素は互いに癒合し、前頭骨、頭頂骨、後眼窩骨、鱗状骨の表面に装飾ornamentationがみられる。アルコヴェナトルの前頭骨は、アベリサウルスやアウカサウルスと同様に中ぐらいに肥厚している。これは非常に厚いカルノタウルスやマジュンガサウルスと、薄いエオアベリサウルスやルゴプスの中間である。アルコヴェナトルの前頭骨にはマジュンガサウルスのような角はないが、同じ位置にわずかな盛り上がりslight domeがある。この後部の正中線上にmedian foramenという孔がある。これは松果体の開口部かもしれないという。前頭骨は側方には広がっておらず、カルノタウルス、アウカサウルス、アベリサウルスのような目の上の角あるいは膨らみはない。
 アルコヴェナトルの最も目立った特徴は、後眼窩骨の背側縁が肥厚して、眼窩の上に突出した顕著なpostorbital browをなすことである。この形は、アベリサウルスやイロケレシアなどのものとは異なっている。他のアベリサウルス類と同様に、後眼窩骨の腹方突起は眼窩内に突出している。頭頂骨は、幅が狭く丈の高い矢状稜sagittal crestをなす。この状態は、カルノタウルス、マジュンガサウルス、ラジャサウルスと似ているが、アベリサウルス、アウカサウルス、エオアベリサウルス、ルゴプスにみられる低い矢状稜とは異なる。
 アルコヴェナトルの脳函は、鼓室陥凹tympanic recessや脳神経、静脈、動脈の通る孔の配置が、マジュンガサウルスとよく似ているという。また脳函を後方から見たときに、基底後頭骨basioccipitalの基底結節basal tuberositiesが長方形の枠をなしているが、その左右の縁がアルコヴェナトルでは背方で少し広がっている。これはマジュンガサウルスと同じである。アベリサウルスやカルノタウルスでは左右の縁は平行か、むしろ少し背方で狭まっている。またアルコヴェナトルではマジュンガサウルスと同様に、基底後頭骨の後面に低い正中の膨らみbulgeがあり、後頭顆の基部に向かって延びている。アベリサウルスとカルノタウルスでは、この部分にははっきりした稜crestがある。

 ホロタイプと参照標本の歯の形は、1988年にごく近い場所と地層で見つかったPourcieux specimenのものとよく似ている。高さ3ないし5.5 cmで、前縁と後縁の両方に鋸歯がある。鋸歯密度は位置によって異なる。歯冠の頂点は、(アベリサウルス類によくみられる中央ではなくて)基部の後端より後方にある。つまりわりと細長い。
 尾椎はマジュンガサウルスのものによく似ているが、やや丈が低い。椎体の関節面は亜楕円形で、マジュンガサウルスやラジャサウルスにみられる楕円形と、ケラトサウルス、アウカサウルス、イロケレシア、ラヒオリサウルスのような円形の中間である。他のアベリサウルス類と同様にアルコヴェナトルにはcentrodiapophyseal laminaがあり、またマジュンガサウルスなどと同様に、前方の尾椎に余分のハイポスフェン-ハイパントラム関節はない。横突起の角度は、マジュンガサウルスやラヒオリサウルスと同様に水平よりわずかに上方を向いている状態(20°)である。カルノタウルスのようなブラキロストラでは、横突起の角度は30°以上であるという。
 アルコヴェナトルの脛骨は長さ51 cmで、アベリサウロイドに特徴的なよく発達したcnemial crestをもつ。アウカサウルスやゲヌサウルスなど多くのアベリサウルス類ではcnemial crestの先端が凸型あるいは斧型hatchet-likeになっているが、アルコヴェナトルでは前方部が破損していて観察できない。アルコヴェナトルの脛骨は細長い形で、アウカサウルス、マジュンガサウルス、ゼノタルソサウルスと似た状態である。fibular crestはゼノタルソサウルスのようにわずかにカーブしており、この点はゲヌサウルスと異なる。

著者らはフランス産のアベリサウルス類の系統的位置を定めるため、初めてこれらの標本を含めて本格的な系統解析を行った。その結果、アベリサウルス上科の中ではベルベロサウルスとエオアベリサウルスが最も基盤的なものであり、それ以降は古典的なノアサウルス科とアベリサウルス科に分かれた。アベリサウルス科の中では、白亜紀中期の南米のゼノタルソサウルスやアフリカのクリプトプス、ルゴプスとともに、白亜紀後期のフランスの断片的な種類(ゲヌサウルスやタラスコサウルスなど)、残りの派生的なアベリサウルス科がポリトミーをなした。派生的なアベリサウルス類は、2つのグループ、マジュンガサウルス亜科MajungasaurinaeとブラキロストラBrachyrostraに分かれた。マジュンガサウルス亜科には、ヨーロッパ産のアルコヴェナトルとPourcieuxアベリサウルス類と、インド/マダガスカル産のマジュンガサウルス、インドサウルス、ラヒオリサウルス、ラジャサウルスが含まれた。ブラキロストラの中ではイロケレシア、エクリクシナトサウルス、スコルピオヴェナトルが基盤的なものであり、アベリサウルス、アウカサウルス、カルノタウルスなどは派生的なグループを形成した。
 系統解析の結果、新しい系統群としてマジュンガサウルス亜科が認識されたので、ここでマジュンガサウルス亜科の共有派生形質が定義されている。マジュンガサウルス亜科の共有派生形質は、1)前眼窩窓が前後に広がっている、2)頭頂骨が前方で広がった三角形をなし、後方に盛り上がった矢状稜sagittal crestがある(この形質は実はカルノタウルスにはみられるが、他のブラキロストラにはない)、3)上後頭骨稜の両側にmiddle cerebral veinの血管孔がある、4)後頭顆の背側にある溝の幅が広い、であるという。
 アルコヴェナトルでは上顎骨が見つかっていないのに、ここで上顎骨の形質が入っているのは、Pourcieux specimenのためらしい。Pourcieux specimenはアルコヴェナトルと同じ地域で非常に近い層準から発見されたもので、上顎骨と歯がある。この歯がアルコヴェナトルとよく似ている。また上顎骨はマジュンガサウルス亜科の形質1)をもつ、つまりマジュンガサウルスと似ている。これらのことから、Pourcieux specimenは暫定的にアルコヴェナトルと同属と考えられるという。

ゴンドワナの分裂に関する従来のモデルでは、白亜紀中頃のヨーロッパにアベリサウルス類(科)であるゲヌサウルスが生息したことなどをうまく説明できない。今回の研究成果は、新しい古生物地理学的モデル、ユーロゴンドワナ・モデルあるいはアトラントギアAtlantogeaモデルでよく説明されるという。これは、ゴンドワナが分裂した後の白亜紀後期においても、アフリカがヨーロッパとゴンドワナ地域の間の生物相の交流路として機能したという仮説である。白亜紀前期の終わりに南アメリカとアフリカが分離した後に、ブラキロストラとマジュンガサウルス亜科がそれぞれの大陸で生じた。その後マジュンガサウルス亜科はアフリカから、多島海だったヨーロッパやアフリカ東海岸に近かったインドマダガスカル亜大陸に広がったと考えられるという。

参考文献
Thierry Tortosa, Eric Buffetaut, Nicolas Vialle, Yves Dutour, Eric Turini, Gilles Cheylan (2014) A new abelisaurid dinosaur from the Late Cretaceous of southern France: Palaeobiogeographical implications. Annales de Paleontologie 100, Issue 1, 63-86. (オンラインは2013)

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