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カルノサウリアは復活するか (補足)



さきのアスファルトヴェナトルの記事に書いてあるが、よくわからない人もいるかもしれない。ある程度、恐竜の分類や研究史を知っている方なら「カルノサウリアの復活」といえばピンとくるのであるが、初心者の方にはさっぱりわからない方もおられるだろう。
 私はサイエンスライターでもないし、わかりやすく解説する適役でもないが、たまには噛み砕いて説明してみようと思う。

昔(結構むかし)
 恐竜研究の初期には、獣脚類のうち大型肉食恐竜をカルノサウリア(カルノサウルス類)、小型の肉食恐竜をコエルロサウリア(コエルロサウルス類)と分類していた。そのため、現在は別々の系統であるケラトサウルスも、メガロサウルスも、アロサウルスも、ティラノサウルスも、みんな一緒くたにされていた。カルノタウルスでさえ、発見の初期にはカルノサウリアと称されていたくらいである。

現代(分岐分類の普及から現在、図のA)
 その後、恐竜の分類研究が進み、多数の形質を用いた分岐分析で系統研究が行われるようになると、それまでのカルノサウリアにはどうも異なる系統が含まれていたことがわかってきた。ケラトサウルスはケラトサウリアという、かなり根本から異なる系統に属し、他の多くの肉食恐竜はテタヌラ類という大きなグループに含まれた。テタヌラ類の中ではメガロサウルスの仲間が最も原始的な部類で、メガロサウルス類とよばれる。メガロサウルス類とスピノサウルス類、あとピアトニツキサウルスなど若干の種類を含めてメガロサウルス上科(メガロサウロイデア)といい、これがテタヌラ類の中で最も基盤的なグループである。(注1)
 より進化的なテタヌラ類がアヴェテロポーダで、これはアロサウルス上科(アロサウロイデア)とコエルロサウルス類(コエルロサウリア)に分かれる。アロサウルス上科(アロサウロイデア)にはメトリアカントサウルス科、アロサウルス科、カルカロドントサウリア(カルカロドントサウルス科とネオヴェナトル科)が含まれた。
 一方のコエルロサウルス類のうち、基盤的なところからティラノサウルス上科(ティラノサウロイデア)が分岐し、その中のティラノサウルス科が白亜紀末の大型捕食者を生み出した。
 ということで「カルノサウリア」は昔のよくわかっていなかった時代の概念で、今では肉食恐竜の代表のように思われるティラノサウルスは、実は鳥に近い小型のコエルロサウルス類の一員なんだよ、というのが、よく恐竜本などに説明されていることである。単純化していえば、アロサウルスとティラノサウルスは、原始的なメガロサウルスと比べれば互いに近縁ということだった。
 もう一点、最近はカルノサウリアという用語自体があまり使われなくなっていた。「カルノサウルス類」と「(広義の)アロサウルス類」はどう違うの?ということでモヤモヤしている方もいるだろう。多くの場合、(テタヌラ類が確立した後の)カルノサウリアとアロサウロイデアの内容は同じだったが(カルノサウリアの中にアロサウロイデア以外の種類を含める考えもある)、昔の混とんとした時代の「カルノサウリア」との混同を嫌って、カルノサウリアは用いないでアロサウロイデアが用いられるようになった。最近の獣脚類の文献ではcarnosaurs (カルノサウルス類)はあまり用いられず、より明確にallosauroids (アロサウロイド)と表記されることが多い。このブログで常にアロサウロイドと書いているのはそのためである。メガロサウルス上科の動物はメガロサウロイドmegalosauroids とするか、基盤的テタヌラ類 basal tetanurans と括られるので、カルノサウリアを使う必要はないわけである。

つい最近の一部の研究 (B)
 2012年のスキウルミムスの研究で、幼体ではテタヌラ類の各系統を分類するのが困難であることと、メガロサウルス上科とアロサウルス上科を合わせて、コエルロサウルス類は含まない「カルノサウリア」の可能性が浮上した。そして2019年、アスファルトヴェナトルの発見により、再び「カルノサウリア」の可能性が指摘されたことになる。
 ここで注意すべきこととして、「カルノサウリア」の復活といっても、昔のようにケラトサウルスやティラノサウルスが戻るわけではない。コエルロサウルス類が根元から分かれていて、メガロサウルス上科とアロサウルス上科がより近縁になったということである。つまり単純化すると、ティラノサウルスに対してメガロサウルスとアロサウルスがより近縁になった。
 さらにアスファルトヴェナトルの解析結果では、メガロサウルス上科は単系でなく、アロサウルス上科へと向かう系統の側枝である可能性も出てきたということである。

もちろん、「つい最近こうなった」とか、確定したという話ではない。可能性があるということである。しかしスキウルミムスは幼体なのでどうかなーと思われたが、アスファルトヴェナトルは成体でアロサウロイドとメガロサウロイドの中間的なものが出てきたということで、意外と可能性があるのではないかと。

結局、大してわかりやすくなく、難しい説明になった。


注1:ここは簡略化して説明しているので、不正確だと突っ込まないように。厳密にいうと最も基盤的なテタヌラ類は、メガロサウロイデアにも属さない。ここはメガロサウロイデアとアヴェテロポーダを合わせたオリオニデスの話をしている。
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アスファルトヴェナトル・ヴィアリダディ



(解説は前の記事参照)
なんだかんだいってもアルゼンチンはすごい所で、アベリサウルス類もまるっと出るし、メガラプトル類も次々に発見されている。そしてピアトニツキサウルスよりも完全な、こんなものがほぼ全身骨格で見つかるとは。

にせアロサウルスの見分け方
 かなりアロサウルスと似た動物で、体形も大まかには同様である。頭骨図を見ると眼窩の幅が狭く縦長のようにも見えるが、写真を見ると必ずしも言い切れないかもしれない。
 外観上確実なのは、後眼窩骨にちょっと突起がある、下顎の歯骨の先端が微妙にふくらんでいる、手の第3指が小さい、といった所だろうか。
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スキピオニクスはカルカロドントサウルス類の幼体かもしれない



スキピオニクス・サムニティクスScipionyx samniticus は、前期白亜紀アルビアン(Calcari Selciferi e Ittiolitiferi di Pietraroja Formation )にイタリアのBenevento Province に生息した小型の獣脚類である。極めて保存が良いことで知られ、ほとんど全身の関節状態の骨格のほか、軟組織や内臓の痕跡も保存されている。Dal Sasso & Maganuco (2011) によって、骨格や軟組織を含めて詳細に研究したモノグラフが出ている。スキピオニクスのホロタイプ標本は保存された部分が24 cm、失われた尾椎を含めて全長 46 cmと推定されている。
 スキピオニクスの系統上の位置について解析した研究はいくつかあるが、いずれもスキピオニクスは基盤的なコエルロサウルス類、特にコンプソグナトゥス科に含まれるとしている。多くの解析では、これは小型のコエルロサウルス類だろうということで、最初からコエルロサウルス類以外の獣脚類の可能性は想定していなかった。Dal Sasso & Maganuco (2011)も述べているように、スキピオニクスの系統上の位置を決めるためには、唯一の標本が非常に未熟な発生段階にあることが障害となっている。ホロタイプにみられるいくつかの特徴は、この種類の成体の形質とは異なるかもしれず、このことが成体しか見つかっていない他の獣脚類との正確な比較を困難にしている。大型の恐竜では、同じ種類の成体と幼体で形態が大きく異なるため、過去には成体と幼体が別の種とされてきた例がある。

コンプソグナトゥス科に含まれる種類はいずれも全長2m以内の小型の獣脚類で、他のコエルロサウルス類と比べて形態が特殊化していないのが特徴である。コンプソグナトゥス類の生息年代は後期ジュラ紀から前期白亜紀にわたり、これはカルノサウルス類(アロサウロイドとメガロサウロイド)の生息年代と一致する。多くのコンプソグナトゥス類の体のサイズは、大型のテタヌラ類の幼体の推定サイズと一致する。さらにコンプソグナトゥス科とされる種類のいくつかは、非常に幼若な個体しか見つかっていない(ジュラヴェナトル、スキピオニクス)。非常に未成熟な標本しかない、もう一つのコンプソグナトゥス段階の種はスキウルミムスで、これはメガロサウロイドとされている。一方、大型のテタヌラ類の幼体の化石はほとんど見つかっていない。このことを解決する一つの方法は、コンプソグナトゥス類全体か少なくともその一部が、大型のテタヌラ類の幼体であると考えることである。この仮説によると従来のコンプソグナトゥス科は単系群ではなく、異なるテタヌラ類の系統の非常に未熟な個体を含む多系群ということになる。ただし、この仮説は一部の種類が、真に小型で特殊化していない単系のコンプソグナトゥス科をなすことを否定するものではない。

そこでCau (2021) は、マニラプトル類以外のテタヌラ類について2通りの方法で系統解析を行った。1つ目の方法は、最新の2018年の形質データを用いて、従来のように系統解析を行った。2つ目の方法は、未成熟な標本しかない3種(ジュラヴェナトル、スキピオニクス、スキウルミムス)について、幼体であることの影響を受けないような特別なスコアリングを考えて適用してみた。1つ目の解析では、この3種は非常に近縁となり、コエルロサウルス類のコンプソグナトゥス科の中でクレードをなした。この結果は過去の多くの研究と一致している。一方、2つ目の解析では、ジュラヴェナトル、スキピオニクス、スキウルミムスはテタヌラ類のそれぞれ異なる系統に振り分けられた。ジュラヴェナトルはメガロサウルス科のエウストレプトスポンディルス亜科に含まれた。スキウルミムスは基盤的なメガロサウロイドとなった。そして、スキピオニクスはアロサウロイドのカルカロドントサウルス科に含まれた。

では、スキピオニクスのどの辺がカルカロドントサウルス類と似ているのだろうか。他のコンプソグナトゥス類にはみられないスキピオニクスのいくつかの特徴は、アロサウロイドあるいはカルカロドントサウルス類との類縁を支持している。例えば5本の前上顎骨歯(アロサウルスとネオヴェナトルにみられる);上顎骨の上行突起にはっきりしたmaxillary fenestra がなく、代わりに内側の閉じた窪みがある(アクロカントサウルスなど多くのアロサウロイドにみられる)、上顎骨の後端がpreorbital bar(涙骨の腹側突起あたり)よりも後方まで伸びている(多くのカルカロドントサウルス類にみられる)、鼻骨が前眼窩窩の縁に参加している(アロサウロイド)、後眼窩骨の腹側突起に凸型の突起がある(カルカロドントサウルス類の眼窩下突起の萌芽的な状態かもしれない)、腸骨の前端に切れ込みがある(コンカヴェナトルとティラノサウルス類にある)、前方の尾椎の側面にプレウロシールがある(カルカロドントサウルス類)、などである。その他のスキピオニクスの形質もカルカロドントサウルス類との類縁を否定するものはないという。

もともと、コンプソグナトゥス類の前上顎骨歯は4本なのにスキピオニクスは5本とか、コンプソグナトゥス類の歯冠は根元がまっすぐで先端が急に屈曲する特徴的な形をしているが、スキピオニクスはその特徴を示さないとか、いくつかの違いが指摘されていた。手の第3指の長さの比率も異なるという。
 スキピオニクスの成体の大きさを論じるのは難しいが、コンプソグナトゥス類という想定からせいぜい2m以内と推定されていた。それがカルカロドントサウルス類となると、アロサウルス以上の大きさでもおかしくない。最近、イタリアからはティタノサウルス類の化石も出ていることから、この時代の北アフリカにみられるような中型ないし大型の恐竜相が、イタリアにもあった可能性があるという。
 これは、恐竜化石が少ないイタリアの恐竜ファンにとっては嬉しい研究だろう。ぜひ成体の化石が見つかってほしいものである。



参考文献
Cau, Andrea (2021). "Comments on the Mesozoic theropod dinosaurs from Italy". Atti della Società dei Naturalisti e Matematici di Modena. 152: 81–95.
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ジムマドセニE



新年おめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

イラストについては、「ワイト島に2種類のスピノサウルス類がいた様子」のようなテーマ性のある絵に興味が出てきたが、それを描くのは時間がかかりそうだ。
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