獣脚類を中心とした恐竜イラストサイト
肉食の系譜
カイウアヤラの集団化石と翼竜の成長
獣脚類でも恐竜でもないが、これはすごい。
ブラジル南部の白亜紀後期の地層で砂漠の中の湖だったとされる場所から、新種の翼竜の少なくとも47個体の化石からなるボーンベッドが発見され、翼竜の生物学的側面を解明する手がかりになると期待されている。この化石は新属新種カイウアヤラ・ドブルスキイCaiuajara dobruskii と命名され、これまで見つかったタペヤラ科Tapejaridaeの中で最も南方に生息した種類であるという。カイウアヤラはタペヤラ科の中でも、いくつかの頭骨の特徴で区別される。カイウアヤラの個体発生における変化は、主にとさかの大きさと傾き方に表れており、幼体ではとさかが小さく傾いているが、成体ではとさかが大きく垂直に近くなる。胴体の骨には、成長に伴った特別な変化はみられなかった。今回得られた結果から、カイウアヤラは群れを作って生活し、おそらくは早熟性で、非常に若いうちから飛ぶことができたことが示唆される。もしかすると、これは派生的な翼竜類に一般的な傾向だったのかもしれないとしている。
ナショナルジオグラフィック日本語サイトの記事は、わかりやすくて適切な紹介記事と思うが、この文中の「両眼の間に骨張った突起が見られるなどの特徴がある。」が全然わからない。一見とさかのことかと思えるが、とさかについては別に記しているので違うはずである。さっぱりイメージがわかない。この一点が気になるので、今回はそのためだけに論文を見た。

カイウアヤラに固有の形質は、前上顎骨の前端が、上顎の腹側縁に対して強く腹側に屈曲している(142~149°);前上顎骨の腹側正中線上に骨の突起があり、nasoantorbital fenestraの内側に突出している;歯骨の咬合面に丸い凹みがある;方形骨の前外側縁に長い溝がある;上顎骨の、nasoantorbital fenestraの前方部分の腹側に顕著な側面の凹みがある、などであるという。
これでも文章だけではわからないが、Fig. 3をみるとわかる。タペヤラ類の頭骨はいつ見ても驚異的であるが、この烏帽子のような巨大なとさかは大部分が前上顎骨でできているようで(pmcr, premaxillary crest)、その下に前眼窩窓に相当するnasoantorbital fenestraという窓がある。前上顎骨の腹側正中線上というのがどこを指しているのかわかりにくいが、とさかの根元でnasoantorbital fenestraに面しているところの正中線上に、稜のような構造があるわけである(expのところ)。これは前上顎骨でできている。「とさかの付け根に内側を向いた稜がある」といった感じである。細かいことをいうと、ここでは骨そのものの構造を論じているのでbony extensionは「骨張った突起」ではなく、「骨の、骨性の突起」である。(もしタペヤラ類全体の特徴をいうなら、とさかという語を使うはずなので、ここはカイウアヤラに固有のbony extensionを訳したものと思われる。)

「新説・翼竜の成長」もちろん頭骨全体も大きくなるが、これは比較のため同じ大きさにそろえたイメージ図ということである。
Copyright 2014 Manzig et al.
参考文献
Manzig PC, Kellner AWA, Weinschu¨ tz LC, Fragoso CE, Vega CS, et al. (2014) Discovery of a Rare Pterosaur Bone Bed in a Cretaceous Desert with Insights on Ontogeny and Behavior of Flying Reptiles. PLOS ONE 9(8): e100005. doi:10.1371/journal.pone.0100005
ブラジル南部の白亜紀後期の地層で砂漠の中の湖だったとされる場所から、新種の翼竜の少なくとも47個体の化石からなるボーンベッドが発見され、翼竜の生物学的側面を解明する手がかりになると期待されている。この化石は新属新種カイウアヤラ・ドブルスキイCaiuajara dobruskii と命名され、これまで見つかったタペヤラ科Tapejaridaeの中で最も南方に生息した種類であるという。カイウアヤラはタペヤラ科の中でも、いくつかの頭骨の特徴で区別される。カイウアヤラの個体発生における変化は、主にとさかの大きさと傾き方に表れており、幼体ではとさかが小さく傾いているが、成体ではとさかが大きく垂直に近くなる。胴体の骨には、成長に伴った特別な変化はみられなかった。今回得られた結果から、カイウアヤラは群れを作って生活し、おそらくは早熟性で、非常に若いうちから飛ぶことができたことが示唆される。もしかすると、これは派生的な翼竜類に一般的な傾向だったのかもしれないとしている。
ナショナルジオグラフィック日本語サイトの記事は、わかりやすくて適切な紹介記事と思うが、この文中の「両眼の間に骨張った突起が見られるなどの特徴がある。」が全然わからない。一見とさかのことかと思えるが、とさかについては別に記しているので違うはずである。さっぱりイメージがわかない。この一点が気になるので、今回はそのためだけに論文を見た。

カイウアヤラに固有の形質は、前上顎骨の前端が、上顎の腹側縁に対して強く腹側に屈曲している(142~149°);前上顎骨の腹側正中線上に骨の突起があり、nasoantorbital fenestraの内側に突出している;歯骨の咬合面に丸い凹みがある;方形骨の前外側縁に長い溝がある;上顎骨の、nasoantorbital fenestraの前方部分の腹側に顕著な側面の凹みがある、などであるという。
これでも文章だけではわからないが、Fig. 3をみるとわかる。タペヤラ類の頭骨はいつ見ても驚異的であるが、この烏帽子のような巨大なとさかは大部分が前上顎骨でできているようで(pmcr, premaxillary crest)、その下に前眼窩窓に相当するnasoantorbital fenestraという窓がある。前上顎骨の腹側正中線上というのがどこを指しているのかわかりにくいが、とさかの根元でnasoantorbital fenestraに面しているところの正中線上に、稜のような構造があるわけである(expのところ)。これは前上顎骨でできている。「とさかの付け根に内側を向いた稜がある」といった感じである。細かいことをいうと、ここでは骨そのものの構造を論じているのでbony extensionは「骨張った突起」ではなく、「骨の、骨性の突起」である。(もしタペヤラ類全体の特徴をいうなら、とさかという語を使うはずなので、ここはカイウアヤラに固有のbony extensionを訳したものと思われる。)

「新説・翼竜の成長」もちろん頭骨全体も大きくなるが、これは比較のため同じ大きさにそろえたイメージ図ということである。
Copyright 2014 Manzig et al.
参考文献
Manzig PC, Kellner AWA, Weinschu¨ tz LC, Fragoso CE, Vega CS, et al. (2014) Discovery of a Rare Pterosaur Bone Bed in a Cretaceous Desert with Insights on Ontogeny and Behavior of Flying Reptiles. PLOS ONE 9(8): e100005. doi:10.1371/journal.pone.0100005
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
サウジアラビアのアベリサウルス類


大きい画像

Copyright 2013 Kear et al.
中東のアラビア半島では恐竜化石は非常に珍しい。出版された報告としては、白亜紀のレバノンからブラキオサウルス類、ヨルダンからティタノサウルス類のそれぞれ分離した歯と骨、オマーン産の未同定の竜脚類の脚の骨、オマーンおよびシリア産の大型獣脚類の胴体の骨、オマーンおよびヨルダン産の断片的な鳥脚類の骨などがある。
サウジアラビアの恐竜化石については事実上何も報告されていなかった。Hughes and Johnsonは、サウジアラムコ(サウジアラビアの国営石油会社)の内部報告書について言及しているが、この報告書では紅海の北東沿岸にある白亜紀後期のAdaffa Formationから、おそらくティタノサウルス類と思われる竜脚類の骨の断片を記載している。2004から2008年にはサウジアラビア地質調査所とエジプト地質学博物館の共同調査が行われ、Adaffa Formationから多くの脊椎動物化石が発掘された。Kear et al.によるとこれらは、サメ、条鰭類、肺魚、カメ、ワニ、エラスモサウルス類、モササウルス類、水生のオオトカゲ類などからなる主に海生の動物相であった。その中にいくつかの恐竜の骨と歯も発見され、Kear et al. (2013)により報告された。
層序学的研究からAdaffa Formationの年代はカンパニア期初期からマーストリヒト期初期とされている。
Aynunah Troughという地溝構造の中の砂岩層から、7個の竜脚類の尾椎と2個の獣脚類の歯が発見された。これらの化石は、渦の作用で集められたらしく、他の脊椎動物の骨や多数の木片と混じった状態で見つかった。恐竜の骨はすべて分離していたが、解剖学的位置や大きさ、分類学的特徴などからそれぞれ同一個体のものと考えられた。
竜脚類の脊椎骨は連続した後方の尾椎と考えられ、多くはひどく浸食された椎体の破片であったが、1個は比較的完全で神経弓が保存されていた。椎体は円柱形で、明らかに前凹型procoelousであるが、これはティタノサウルス類の特徴である。神経弓は前方に位置しており、これはティタノサウルス形類と一致する。ティタノサウルス類であるイシサウルスやネウケンサウルスと似て、神経棘は長くのびて、後方に傾いている。これらのことから竜脚類の尾椎はティタノサウルス類と考えられた。
獣脚類の歯のうち1個は保存が悪く、側面と後縁(遠心)の一部が保存されていた。もう1個のSGS 0090は、比較的完全な歯冠である。歯冠の外形はやや薄く、丈が低く、側面から見てほとんど三角形で、頂点が底面の中心近くに位置している。前縁は丸くカーブしていて鋸歯がないが、後縁は明らかに直線的である。これはアベリサウルス類の上顎骨/歯骨の歯と一致する。後縁には幅広い鋸歯があり、また基部側に傾いたinterdental sulciがある。唇側および舌側の両方の表面に、頂点に向かって収束する縦の稜線がある。同じような縦の稜線は、ドロマエオサウルス類、スピノサウルス類、マシアカサウルスを含むケラトサウルス類で報告されている。これらの形質から獣脚類の歯はアベリサウルス類と考えられた。
著者らはこのアベリサウルス類らしい歯について、定性的な形質だけでなく、一連の定量形態学的な解析を行っている。主に保存の良いSGS 0090について、CBL (crown base length), CBW (crown base width), CH (crown height), AL (apical length), DA, DC, DB (遠心の稜縁distal carinaの頂点部、中央部、基部ごとの鋸歯密度 denticle density), DAVG (平均鋸歯密度) など11個のパラメーターを測定し、一連の多変量解析(主成分分析、判別分析、クラスター分析など)を行っている。
例えばCBL, CBW, CH, AL の4つ、またはCBL, CBW, CHの3つを用いて主成分分析を行い、第1主成分と第2主成分を座標として散布図を描くと、問題のSGS 0090は確かにアベリサウルス類(マジュンガサウルスとインドスクス)のデータの範囲内にプロットされた。判別分析などの他の手法でも同様に、アベリサウルス類のグループに分類された。
この論文ではサウジアラビアから初めて、断片的な化石ながら、定性的にも定量的にも分類群が同定された恐竜化石が報告されたことに、非常に意義があると強調している。ティタノサウルス類とアベリサウルス類が、ゴンドワナの北部により広く分布していたことがわかった。ティタノサウルス類とアベリサウルス類は、アルゼンチンでもインドでも一緒に見つかっているので、切っても切れない縁ということだろう。
断片的な化石とはいえ新しい知見なのだから、通常の記載だけでも短い論文にはなるはずだが、PLoS ONEに載せるためにこれだけの多変量解析を行わなければならないのだろうか。このくらいの解析は標準になったとすれば、結構大変な気がする。
参考文献
Kear BP, Rich TH, Vickers-Rich P, Ali MA, Al-Mufarreh YA, et al. (2013) First Dinosaurs from Saudi Arabia. PLoS ONE 8(12): e84041. doi:10.1371/journal.pone.0084041
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
ヨコハマ恐竜展2014 新説・恐竜の成長

‥‥2年前の大阪と同じだった。よって感想も同じだが、2年前の記事を見るとニュアンスが異なる部分もあるので、違う観点を追加する。
前に述べた通り、この恐竜展は特定の仮説(ホーナーグループの一連の研究成果)を理解させる優れたプログラムになっている。トロサウルスはトリケラトプスの成体である、角やフリルは同種内の識別のため、ドラコレックスもスティギモロクもパキケファロサウルスである、ティラノサウルスはスカベンジャーであった、という一つの主張を強調し、断定している。このホーナー節、あるいはプロパガンダ色については2年前にも言及しているが、今回はリテラシーというものについて考えさせられた。
日本の研究者が監修した恐竜展なら「‥‥と考えられているが、異なる意見もある。」「研究者の間で議論があり、意見が一致していません。」と慎重かつ客観的に述べるところである。他の研究者から「トロサウルスはトリケラトプスではない」という対立した論文も出されている状況で、小さい子ども向けに「洗脳プログラム」を与えることは、日本では考えにくいとも感じた。
科学的知見に対する世間一般の人々の捉え方が、研究者とはかなり異なっていることは、今年の大事件でも明らかになった。一つの論文が出版されたからといってそれで確定ではなく、長い時間をかけて検証されて、定説が形成されていくわけである。新しい根拠によって、長年の定説であったことが覆ることも十分ある。ましてや論文が捏造されたものとわかり撤回されれば、論外である。「なんとか細胞が存在する、作れる」という根拠である論文が否定された以上、検証実験などに意味はない。期限付きの実験を行って決着がつくものではない。意図的な捏造論文はレッドカードで一発退場の事案で、検証実験の結果がどうあれ、罪が軽くなるわけではない。
しかし論文とはどういうものかよく知らない人が、先にマスメディアの情報を聞いて印象付けられてしまうと、「論文不正があっても、なんとか細胞の存在は否定されたわけではない」などと意味不明のことを言い始める。どうしても先に聞いた情報の方を信じてしまうという心理的傾向もある。だからプロパガンダは問題なのである。
特に、提示されている内容以外の、他の考え方、他のデータが存在することさえも知らせないのは問題がある。また解説文の随所に、印象操作のためのレトリックがちりばめてあるのも気になった。それ自体は間違いではないが、特定の方向に誤解を招く表現というのも可能なわけである。
「ティラノサウルスがトリケラトプスを殺した証拠はありません。傷が治癒していないことから、トリケラトプスは死んでいたことがわかります。」これは、(1)捕食者に襲われたが、逃げのびてしばらくの間生きていた------傷が治癒した跡がある、(2)捕食者が生きた獲物を襲い、殺して食べた------治癒した跡はない、(3)屍肉食者が死体を見つけて食べた------治癒した跡はない。つまり治癒した跡がある稀な場合のみ、特定の結論が出せるのであって、治癒した跡がない場合は(2)と(3)の区別はできないのでは?そういえば最近どこかで、何の恐竜だったか(1)の報告を見かけたような。。
国民が、特定の政党や宗教団体の機関紙と知っていて読むなら問題はないが、中立公正な新聞と思っているのに偏向報道するのでは問題がある。常に複数の情報源をあたってその情報が真実かどうか検討する習慣のある人にとっては、あまり問題はない。まさか天下の大新聞が、裏付けも取らずに誤報あるいは捏造記事を垂れ流して、30年も謝罪・訂正しないとは普通の読者は想像できない。捏造や偏向報道の自由などない。この場合も都合の悪い事実は報道しないで、印象操作することは可能なので、リテラシーが大切である。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )