goo

ユーティランヌス

また、すごいものが出てきた。ティラノサウルス類、大型、羽毛とキーワードが揃っては、将来の恐竜博の目玉になること確実だろう。

ユーティランヌスは、白亜紀前期(義県層)に中国遼寧省に生息した大型の基盤的ティラノサウロイドで、2012年に記載された。3個体のほとんど完全な全身骨格が発見されており、最大の個体は全長9m、体重1,414 kgと推定される。頸、前肢、尾などに繊維状の羽毛の跡があったことから、大型の恐竜でも、全身が羽毛に覆われていたことを示す最初の証拠と考えられた。ユーティランヌスはシノカリオプテリクスの60倍、ベイピャオサウルスの40倍重く、これまで知られている羽毛恐竜の中で最大である(ギガントラプトルなどは羽毛の痕跡が見つかっていない)。

ユーティランヌスは大型のティラノサウロイドで、他のティラノサウロイドとは次の固有の形質で区別される。1)前上顎骨と鼻骨からなる、ごつごつした多数の孔のあいた正中のとさかをもつ、2)後眼窩骨に、前腹方に突出した眼窩突起orbital processがある、3)後眼窩骨の外側面に大きな凹みconcavity がある、4)外側下顎窓がほとんど上角骨の中にある、である。
 またユーティランヌスは、同じく基盤的なティラノサウロイドで断片的な化石が見つかっているシノティランヌスとは、前上顎骨の上顎骨突起の外側面が背側を向いている、上顎骨に前方突起がない、maxillary fenestraが後方に位置する、などの点で異なっている。

ユーティランヌスの頭骨の最も顕著な特徴は、グァンロンやカルカロドントサウルス類コンカヴェナトルのものに似た、高度に含気性の正中のとさかである。ユーティランヌスではこのとさかは、互いにゆるく関節した前上顎骨と鼻骨からなる。とさかの背側縁には、一連の低い隆起prominences があり、これらは白亜紀後期のティラノサウルス類にみられる粗面rugositiesと相同かもしれない。
 ユーティランヌスの頭骨には、基盤的なティラノサウロイドに共通するいくつかの形質がみられる。楕円形の外鼻孔は大きく後方に位置している。前上顎骨の前縁に沿ってはっきりした溝が走っている。上顎骨にも、前眼窩窩の腹側縁と平行して走るはっきりした溝がある。頬骨には隆起した、前後方向を向いた縁がある。上角骨の前方フランジは長い。
 しかし、他の多くの頭骨の形質は派生的なティラノサウルス類と似ている。頭骨は大きく丈が高い。前上顎骨の骨体main bodyは比較的丈が高く、上顎骨突起の外側面は背側を向いている。上顎骨の腹側縁は顕著に凸型であり、骨体は後方で先細りになっている。涙骨は「7」の形をしている。涙骨の角状突起cornual processは大きく円錐状の構造である。後眼窩骨には、幅広い頬骨突起と眼窩の中に伸びる下眼窩突起suborbital processがある。鱗状骨には前後方向を向いた方形頬骨突起があり、下側頭窓の中に突き出している。外側下顎窓は小さい。

脊椎骨はティラノサウルス科にみられるほどには含気性が発達していないが、進化したティラノサウルス類に典型的ないくつかの特徴の兆しがみられる。頸椎と胴椎の神経棘の前縁と後縁に、靭帯が付着するための顕著なフランジがある。後方の頸椎の神経棘が高い。胴椎は前後に短く、神経棘が後方にある。
 肩帯は全般に原始的で、肩甲骨体scapular bladeは比較的太い。前肢も他の基盤的ティラノサウロイドと同様に、3本指の手など典型的なコエルロサウルス類のデザインを保っている。
 腰帯にはいくつかの派生的な特徴がある。腸骨の背側縁はほとんどまっすぐで、腸骨の後寛骨臼突起postacetabular process の腹側縁には、顕著な葉状lobe-like のフランジがある。恥骨ブーツpubic bootは大きく、はっきりとした前方の膨らみを形成している。後肢は全体として他の基盤的ティラノサウロイドと同様で、遠位の要素は相対的に短く、ティラノサウルス科よりもアロサウロイドや基盤的ティラノサウロイドと似ている。

羽毛の痕跡は3体すべての標本に保存されている。最も大きい個体では尾椎にみられ、互いに平行な密集した繊維構造が、尾椎の長軸に対して約30°の角度で並んでいる。羽毛の長さは少なくとも15 cmある。2番目に大きい個体では腰帯と足の付近に繊維状構造がみられる。3番目の個体では頸の背側とおそらく上腕骨と思われる骨の近くにあり、頸の背側の羽毛は20 cm、上腕骨のは16 cmである。これら3体の標本の羽毛の分布から、この恐竜はほとんど全身が羽毛で覆われていたことが強く示唆される。
 哺乳類では、ゾウのように巨大化したものでは体の表面積と体積の比率から体温を保持するのに毛が必要でなくなり、被毛を失うことが知られている。同様の理由から巨大なティラノサウルス類も全身が羽毛で覆われてはいなかったと考えられてきた。しかしユーティランヌスの発見は少なくとも1種の大型ティラノサウルス類は全身に羽毛を持っていたこと、巨大化したからといって必ずしも羽毛を失うとは限らないことを示している。もし白亜紀後期の大型ティラノサウルス類も全身が羽毛で覆われていたとすれば、哺乳類とは異なる進化傾向を表していることになる。あるいはまた、白亜紀後期の大型ティラノサウルス類は羽毛ではなくウロコを持っていたとすれば、ユーティランヌスの状態は気候に対する適応なのかもしれないという。ユーティランヌスの生息した白亜紀前期の遼寧省は、白亜紀後期の同じ緯度の地域に比べてかなり寒かったと推定されている。大型哺乳類でも寒冷な地域に棲むものは毛皮をもつように、ユーティランヌスも羽毛で寒さをしのいでいた可能性があるという。

獣脚類全体のデータと比較した系統解析の結果、ユーティランヌスはティラノサウルス上科に含まれた。次にティラノサウルス上科の中での系統関係を調べるための系統解析の結果、ユーティランヌスは白亜紀前期の基盤的なティラノサウロイドの中で、エオティランヌスに近くやや基盤的な種類と位置付けられた。
 個人的な印象では、全体としてコンカヴェナトルに似た動物のように思える。大型化にともなって体型もややがっしりとして、ディロングやエオティランヌスよりもアロサウロイドのような体型にみえる。ティラノサウルス科と異なり、後肢もあまり長くない。側面図ではとさか部分の厚さ(幅)がよくわからないが、とさかといってもグァンロンのように突出した装飾的なものではなく、上顎と一体化して頭骨を強化しているような感じである。基盤的なティラノサウロイドにみられるとさかを保持したまま、全体として頑丈になろうとしたかのようである。顔は、頭骨復元図でみるとティラノサウルス科に似てきている。全長9mといえばゴルゴサウルスに近い大きさであるが、大腿骨の長さはユーティランヌス85 cm、ゴルゴサウルスは最大104 cmであるという。

参考文献
Xing Xu, Kebai Wang, Ke Zhang, Qingyu Ma, Lida Xing, Corwin Sullivan, Dongyu Hu, Shuqing Cheng & Shuo Wang (2012) A gigantic feathered dinosaur from the Lower Cretaceous of China. Nature 484, 92-95.
コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )