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コンコラプトルの再記載



モンゴルのオヴィラプトル類の中でも、コンコラプトルは最も豊富に化石が産出しているものであるが、実は十分な研究がなされていなかったという。発見当初の記載は簡略で、その後の研究も断片的だったり大きな系統研究の一部であったりして、コンコラプトル自体の包括的な記載は十分にされてこなかった。現代的な記載としてはFunston et al. (2018) が初めてのような状況だったらしい。そこでFoster et al. (2025)は、コンコラプトルの保存のよい2体の標本について、あらためて包括的な記載をし、今後のオヴィラプトル類の研究に貢献しようと試みた。コンコラプトルの特徴についてはFunston et al. (2018) がホロタイプ標本の頭骨について記載しているが、Foster et al. (2025)はそれに加えて新しい特徴(頭頂骨の横方向の項稜)を見出し、追加してまとめている。

コンコラプトルは小型のオヴィラプトル類で、以下の特徴で識別される。
頭蓋に顕著なトサカがない;前上顎骨の前縁が垂直である;上顎骨に大きな、余分の前眼窩窓がある;鼻骨の背面に3対の孔がある;後眼窩骨がほとんど眼窩の下縁まで伸びている;頭頂骨に低い矢状稜がある;頭頂骨によく発達した横方向の項稜nuchal crestがあり、頭蓋の後面と背面を約90°に分けている;手の第1指が大きい;肩甲骨の肩峰突起が小さい;弱く発達し前外側を向いた脛骨突起;中足骨が近位で癒合していない。

またこの機会に、コンコラプトルと他の近縁のトサカのないオヴィラプトル類との区別についても論じている。例えば“インゲニア・ヤンシニ”は学名に問題があっただけではなく、その復元骨格は実は4つの標本のキメラであり、しかもコンコラプトルのホロタイプの頭骨が付けられていた。この復元骨格が文献に引用されていたことで、“インゲニア・ヤンシニ”のどの部分が実際に保存されているのかについて、大きな混乱が生じていた。さらに“インゲニア・ヤンシニ”の頭骨要素は失われている。“インゲニア・ヤンシニ”はFunston et al. (2018) 以後、へユアンニア・ヤンシニとされているが、このホロタイプ標本とコンコラプトルを比較して、その区別について記載している。
 コンコラプトルでは肩甲骨の肩峰突起が小さいのに対して、へユアンニア・ヤンシニでは肩峰突起が大きい。またコンコラプトルでは肩甲骨が先端で広がっているが、へユアンニア・ヤンシニでは一定の幅(平行)になっている。コンコラプトルでは脛骨の脛骨突起が小さいが、へユアンニア・ヤンシニでは大きく発達している。後方の尾椎の横突起はコンコラプトルでは葉状lobelikeであるが、へユアンニア・ヤンシニでは長方形である。

またカーン・マッケンナイも小型でトサカのないオヴィラプトル類で、コンコラプトルと似ている。コンコラプトルとカーンとの区別についても論じている。Clark et al. (2001) によるとカーンはコンコラプトルと異なる特徴として、外鼻孔の長軸がより水平に近く、鼻骨が癒合している。Foster et al. (2025) はそれに加えて、後頭部の形質を追加している。コンコラプトルでは頬骨が太く、突起も幅広いのに対して、カーンでは頬骨が細く、突起は棹状である。それに伴って方形頬骨の前方突起もコンコラプトルでは太く、カーンでは細い。また後眼窩骨と前頭骨の重なりが、コンコラプトルでは広くカーンでは狭い。コンコラプトルでは頭頂骨に横方向の項稜が発達しているが、カーンでは発達せずよりなめらかである。

そうなると、私の持っているコンコラプトル頭骨は本当にコンコラプトルなのか、気になる。結論としては確かにコンコラプトルのようだ。このレプリカはすばらしく、Funston et al. (2018) に載っているホロタイプの写真よりも特徴がよくわかる。



側面から見ると上顎骨に大きなaccessory antorbital fenestra がある。オヴィラプトル類ではmaxillary fenestra ではないようだ。シチパチやカーンにもかなり大きいaccessory antorbital fenestraがあるので、固有派生形質としてどうなのかと思ったが、コンコラプトルでは確かに大きいようだ。しかも中に仕切りの骨まである。



背面から見ると、鼻骨の背面に3対の孔がある。ミカンの断面のように放射状に窪みがあって、一部が深くなっている。Funston et al. (2018) にはあまり詳しい説明がないが、3対とはこういうことだろう。

後眼窩骨と頰骨の境界は写真では難しいが、かなり下の方にある。
Foster et al. (2025) のいうtransverse nuchal crest はあまりはっきりしないようだが。カーンとの区別は難しいのかもしれない。





参考文献
Foster, W., Norell, M., Balanoff, A. M. (2025) Two new specimens of Conchoraptor gracilis (Theropoda, Oviraptorosauria) from the Late Cretaceous of Mongolia (American Museum novitates, no. 4033)

Funston, G.F.; Mendonca, S.E.; Currie, P.J.; Barsbold, R. (2018). "Oviraptorosaur anatomy, diversity and ecology in the Nemegt Basin". Palaeogeography, Palaeoclimatology, Palaeoecology. 494: 101–120. doi:10.1016/j.palaeo.2017.10.023

Lü, J (2002). "A new oviraptorosaurid (Theropoda: Oviraptorosauria) from the Late Cretaceous of southern China". Journal of Vertebrate Paleontology. 22 (4): 871–875. doi:10.1671/0272-4634(2002)022[0871:anotof]2.0.co;2. S2CID 86359247

Clark, J.M., M.A. Norell, and R. Barsbold. 2001. Two new oviraptorids (Theropoda: Oviraptorosauria), Upper Cretaceous Djadokhta Formation Ukhaa Tolgod, Mongolia. Journal of Vertebrate Paleontology 21: 209–213.
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オクソコ



オクソコ・アヴァルサンOksoko avarsanは、白亜紀後期マーストリヒティアン(Nemegt Formation)にモンゴルのネメグト盆地に生息した、前肢の小さいオヴィラプトル類で、2020年に記載された。ネメグト層では6番目のオヴィラプトル科で、9番目のオヴィラプトロサウルス類である。
 属名のオクソコとは、アルタイ神話の3つの頭をもつワシで、ホロタイプの集合化石が3個体の頭骨を含んでいたことから。種小名はモンゴル語で「救われた」の意で、盗掘から取り戻されたことを意味する。

他のオヴィラプトロサウルス類と区別されるオクソコの特徴は、頂点が肥厚したドーム型のトサカが鼻骨と前頭骨から同等に構成されている;後眼窩骨の前頭骨突起が背側を向いている;頸椎のエピポフィシスが大きい;機能的に2本指の手;腸骨のbrevis fossaに余分の稜がある、などからなる。

前肢は全体として短い。オクソコでは上腕骨、尺骨、第2中手骨の長さの合計が、大腿骨長の109%である。この比率はコンコラプトルで112%、ヘユアンニアで128%、シティパティでは162%である。上腕骨、前腕、手は大体同じくらいの長さであるという。

手の第I指は太く、大きな鎌状の末節骨があるが、他のオヴィラプトロサウルス類と比べて大きいわけではない。第II指はより細長い。第III中手骨は非常に縮小している。指骨III-1は第III指の唯一の指骨のようで、その先端ははっきりした関節顆condyleになっていない。(と本文に書いてあるが、Fig.3fをみると関節面があるようにも見えるが。)指骨III-1は第II中手骨を超えて伸びてはいないので、外観上2本指だったのではないかといっている。

系統的に並べてみると、前肢の縮小はオヴィラプトル科の中でもヘユアンニア亜科で生じており、特にこの仲間が中国南部からモンゴルのゴビ地域へ進出した時期と一致しているという。

オヴィラプトル類といえば、シティパティのように羽毛の生えた長い前肢で抱卵したイメージがあるが、前肢が短いと抱卵するのに不便ではないのだろうか。産卵数が少ないとか、関連があるのだろうか。


参考文献
Funston GF, Chinzorig T, Tsogtbaatar K, Kobayashi Y, Sullivan C, Currie PJ. 2020 A new two-fingered dinosaur sheds light on the radiation of Oviraptorosauria. R. Soc. Open Sci. 7: 201184. http://dx.doi.org/10.1098/rsos.201184
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Baby Louieはベイベイロンに


これは昨年の福井の古生物学会のシンポジウム「恐竜の繁殖」の中でZelenitskyが発表していた話である。ギガントラプトルに匹敵する大型カエナグナトゥス類ということだったが、新種のカエナグナトゥス類ベイベイロン・シネンシスBeibeilong sinensisと命名されたようだ。ギガントラプトルは推定体重1400 - 3246 kgとされているが、ベイベイロンに付随した42 cm のMacroelongatoolithus の卵からは、成体の体重は1100 kgと推定されている。

1980年代から1990年代にかけて、中国河南省の白亜紀後期の地層から、地元の農民たちによって大量の恐竜の卵化石が発掘・採集された。このころ中国政府は化石の輸出を規制しようとしたが、1990年代には多数の化石が違法に海外のマーケットに流出した。このように輸出された卵化石は外国でクリーニングされることもあった。
 これらの中でも最も重要と思われるものが、恐竜の卵化石の中でも最も大きいMacroelongatoolithusとともに見つかった小さな胚の骨格であった。未剖出の化石は1993年にThe Stone Companyという会社が米国に輸入した。The Stone Companyが700 時間をかけてクリーニングした結果、胚の骨格と卵殻が剖出された。この化石はナショナル・ジオグラフィックの表紙を飾り、カメラマンの名をとってベイビー・ルーイBaby Louieと名付けられた。
 2001年にBaby Louieはインディアナポリス児童博物館によって購入され、そこで12年間展示された。2013年になってようやく、Baby Louieは中国の河南地質学博物館に返還された。
 Baby LouieはMacroelongatoolithusと一緒に見つかった唯一の骨格なので、長年謎であったこの卵化石の主を同定するうえで貴重な手がかりである。1994-1995年頃の研究で、卵は大きさを別にすればオヴィラプトル類のものにそっくりであることは知られていた。胚の骨格の研究は困難であったが、徐々にオヴィラプトロサウルス類のものであることがわかってきた。今回、著者らはBaby Louieの骨格と卵が新種の大型カエナグナトゥス類のものであると報告している。

今回、ヤフーニュースのコメント欄では「中国だから信用できない」というレベルのコメントから、「胚の骨格から判定するのは難しいのではないか」という本質を突いたコメントまであったのが面白い。本文中では恐らく胚embryo といっているが、perinate animalという難しい用語も使っている。perinatalは周産期なので、厳密には孵化直前の胚か、孵化したばかりのヒナかわからないということか。ベイベイロンは他の卵の上にいて、卵殻で囲まれてはいなかった。しかし首を曲げて顎が胸の前にくるような、恐竜やワニなどの胚に典型的な姿勢をしていた。また体を曲げた状態で23 cmなので、 40 cmの卵に容易に収まる大きさであった。堆積の過程で卵殻が破れて露出させられた可能性もあるという。

系統解析の結果、他の最近の研究と同様にオヴィラプトロサウリアの中で、カウディプテリギダエ、カエナグナトイデアCaenagnathoidea、オヴィラプトリダエOviraptoridae、カエナグナティダエCaenagnathidae がクレードとなった。ベイベイロンはカエナグナティダエの中で、ミクロヴェナトルよりも派生的で、ギガントラプトルよりは基盤的な位置にきた。この系統的位置は、個体発生の過程で変化すると考えられる形質を入れても入れなくても、変わらなかったという。このことはベイベイロンがギガントラプトルそのものの胚ではないことを示唆しているといっている。しかし本当は成体同士か、胚同士で比較しないと難しいのではないか。

アジア(中国、韓国、モンゴル)や北アメリカでは多数のMacroelongatoolithusの卵化石が見つかっているが、大型カエナグナトゥス類の骨格化石は少ない。しかし今回、Macroelongatoolithusと大型カエナグナトゥス類を関連付ける確かな証拠が得られたことで、カエナグナトゥス類は従来考えられたよりも広く分布し、普通にみられる動物だったことが明らかになってきたという。

参考文献
Pu, H. et al. Perinate and eggs of a giant caenagnathid dinosaur from the Late Cretaceous of central China. Nat. Commun. 8, 14952 doi: 10.1038/ncomms14952 (2017).
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トンティアンロン


オヴィラプトル類の楽園にまた仲間がふえたようだ。一流誌に載るような研究は当然そうであるが、Lü 博士の論文は記載が明確で読みやすく、お手本のような論文に思える。今回もBrusatteと組んでいる。英語が読める方は是非Scientific Reportsの原文を参照されたい。
トンティアンロンは、白亜紀後期(マーストリヒティアン、Nanxiong Formation)に中国の江西省贛州市に生息したオヴィラプトル類で、2016年に記載された。ほぼ完全に近い3次元的な全身骨格が見つかっているが、尾椎はないようにみえる。前肢の先端や右の後肢も失われているとある。No. 3 high school of Ganxian赣县区第三高等学校?の建設工事現場とあるが、ぜひ校庭に復元像を飾ってほしい。工事で岩盤を砕かなければ発見されなかったのだから、建設工事さまさまである。

オヴィラプトロサウルス類は、最近アジアや北アメリカで多くの新しい化石が発見されたことにより、よく理解されるようになってきた。中国南部の江西省贛州市(カンチョウ、ガンジョウ、Ganzhou area)は、近年オヴィラプトロサウルス類の発見のホットスポットとして台頭してきた。この地域の白亜紀後期(マーストリヒティアン)の地層からは、過去5年ほどの間に5つもの新属が発見されている。今回Lü et al. (2016) は、贛州産の6番目のオヴィラプトロサウルス類Tongtianlong limosusを報告している。これは前肢を広げ、頭を持ち上げた珍しい姿勢の保存のよい全身骨格に基づいている。トンティアンロンは派生的なオヴィラプトル類(オヴィラプトリダエ)で、他のオヴィラプトル類とはユニークなドーム状の頭蓋天井、前方に突出した前上顎骨などの頭骨の特徴で識別される。贛州という地域に、摂食に関連した頭骨の形態が異なるような多くの種類のオヴィラプトロサウルス類が存在したことは、アジアの白亜紀末の最後の時期において、これらの恐竜の進化的放散があったことを示している。これは白亜紀末の大絶滅直前の、最後の多様な恐竜相を明らかにするのに役立つだろうとしている。

トンティアンロンは、以下の形質の組み合わせ(固有形質を含む)をもつオヴィラプトル類(オヴィラプトリダエ)である。頭蓋天井がドーム状で、最も高い部位が眼窩の後背方端の上にある;前上顎骨の前縁が側面から見て顕著に突出している;頭頂骨の前縁の中央に突起がある;板状の涙骨軸lacrimal shaftが前後に長く、外側面が平坦である;大後頭孔が後頭顆よりも小さい;歯骨の顎間結合の腹側の突起がない;胸骨に顕著な側方剣状突起がない。
 また著者らは、トンティアンロンがバンジー、ガンジョウサウルス、ジャンシサウルス、ナンカンギアなどの他の贛州産のオヴィラプトル類と異なる点について説明している。


Copyright Lü et al. 2016

頭骨はほとんど完全に保存されている。頭骨の最も目立つ特徴は、頭蓋天井がドーム状で、最も高い点が眼窩の後背方端の上にあることである。他の多くのオヴィラプトロサウルス類も頭蓋の装飾をもっている。しかし他の種類では、これらの「とさか」は通常、トンティアンロンのドーム状の状態よりも薄いものである。さらに、他の種類では「とさか」の頂点はトンティアンロンよりもずっと前方にある。つまり吻の前端で外鼻孔や前眼窩窓の上にあるか(バンジー、シティパティ、オヴィラプトル、ネメグトマイア)、あるいは頭蓋のほぼ中央で眼窩の真上にある(リンチェニア、フアナンサウルス、アンズー)。よってトンティアンロンの、後方に頂点があるドーム状のとさかはオヴィラプトロサウルス類の中でも固有の特徴である。この標本の3次元的な保存状態の良さから考えて、このドーム状のとさかの形が変形などのアーティファクトとは考えられない。
トンティアンロンでは、大きな卵形の外鼻孔が、三角形の前眼窩窓よりも上方にある。つまり外鼻孔の前腹方端が、前眼窩窓の後背方端よりもずっと上にある。これはネメグトマイアとリンチェニアにはみられるが、他のほとんどのオヴィラプトロサウルス類にはみられない特徴である。眼窩はオヴィラプトロサウルス類に典型的にみられるように、大きくほぼ円形である。外側側頭窓(下側頭窓)は長方形で、その長軸はやや前腹方に傾いている。これは他の多くのオヴィラプトロサウルス類の円形や正方形の形とは異なる。
 前上顎骨の前縁は強く凸型にカーブしている。これはトンティアンロンの固有形質である。シティパティやカーンなど他のほとんどのオヴィラプトロサウルス類では前上顎骨の前縁は直線的である。ユロンとバンジーでは前縁が少し丸みを帯びているが、トンティアンロンほどではない。


Copyright Lü et al. 2016 外鼻孔と前眼窩窓の位置関係のいろいろ

トンティアンロンは、江西省贛州のNanxiong Formationからの6番目のオヴィラプトロサウルス類である。これまで記載された種類はバンジー、ガンジョウサウルス、ジャンシサウルス、ナンカンギア、フアナンサウルスである。また隣の広東省のNanxiong Formationからも、シシンギアが見つかっている。これらの最近の発見により、中国南部はオヴィラプトロサウルス類の進化を考える上できわめて重要な地域となっている。なぜ中国南部のこの地域から、これほど多くの種類のオヴィラプトロサウルス類が発見されるのだろうか?
 これに対してLü et al.は2つの可能性があると論じている。1つは、最近の発見ラッシュは分類学的インフレーションであり、いくつかの標本は以前から知られていた種類の成長段階や性的二型の変異にすぎないという可能性。もう1つは、Nanxiong Formationは実際に、恐竜時代の最後の数百万年にオヴィラプトロサウルス類が進化的放散した過程を表している、というものである。この2つを完全に検証することは困難であるが、いまのところ後者のシナリオを支持するデータが蓄積しつつあるという。
 確かに贛州のオヴィラプトル類の中に同じ種類が含まれている可能性は存在する。これらの標本には形態学的に違いがあるのは明らかであり、固有形質や形質の組み合わせによって識別できることはわかっている。しかし形態の変異は分類学的違いによるとは限らず、個体発生や雌雄の差、その他の変異によるものも考えられる。もしも贛州のオヴィラプトル類の差異で種の違いでないものがあるとすれば、最も考えられるのは個体発生の変異であるという。例えばバンジーのホロタイプとトンティアンロンでは大きさがずいぶん異なるからである。
 現在のところ、個体発生上の変異が贛州のオヴィラプトル類にみられる変異のどの程度を説明できるか明らかではない。残念ながら獣脚類の形態が個体発生の過程でどのように変化するかについては、少ししか知られていない。系統的には離れているが植物食恐竜である角竜やハドロサウルス類では、頭部にとさかなどの装飾構造をもつものも多い。これらの恐竜では、個体発生の過程で頭部の装飾が劇的に変化することがよく知られている。よってオヴィラプトロサウルス類の頭部の装飾も成長過程で大きく変化する可能性があり、組織学的解析なしには成長段階と種の違いを区別することは困難なのかもしれない。
 しかしながら、個体発生上の変異だけでは贛州のオヴィラプトル類にみられる形態の変異を説明できないと考えられる。オヴィラプトロサウルス類の頭部の装飾は成長過程で変化したかもしれないが、贛州のオヴィラプトル類の標徴形質は、ほとんどとさかの形態には基づいていない。種間の解剖学的差異のほとんどは、頭骨の孔の形と位置、顔面の骨の形と方向、そして特にくちばし、下顎、頭骨の筋付着部の特徴に関するもので、これらは摂食に関係した形質である。例えば新しい種類であるトンティアンロンでも、強く突出した前上顎骨の前縁や、歯骨の腹側突起の状態、歯骨側面の深いくぼみ(筋付着部)に特徴がある。著者らはいまのところ、これらの違いは個体発生というよりも、実際の種間の違いを反映していると考えている。この種分化は、まだよく知られていないオヴィラプトロサウルス類の食物をめぐるニッチ分割に関連して起こっただろうという。
 これらのことから、中国南部のオヴィラプトロサウルス類の非常な多様性は真実であると考えられる。つまり白亜紀の最後に、実際に多くの種類のオヴィラプトロサウルス類が生息していた。これは、例えば遼寧省の義県層では、非常に多様な肉食ないし雑食のドロマエオサウルス類が存在したことを考えると不思議ではない。ただしNanxiong Formationは結構厚く、詳細な層序学的研究は進んでいないため、これらのオヴィラプトル類の詳細な生息年代はわかっていない。6種のオヴィラプトル類は同時に共存したのではなく、いくつかは時代が離れていたのかもしれないという。

贛州市
Copyright Lü et al. 2016
参考文献
Junchang Lü, Rongjun Chen, Stephen L. Brusatte, Yangxiao Zhu & Caizhi Shen (2016) A Late Cretaceous diversification of Asian oviraptorid dinosaurs: evidence from a new species preserved in an unusual posture. Sci. Rep. 6, 35780; doi: 10.1038/srep35780 (2016).
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アンズー



Copyright Lamanna et al.

アンズーは、白亜紀後期マーストリヒト期(ヘル・クリーク層)に米国ノースダコタおよびサウスダコタ州に生息した大型のオヴィラプトロサウルス類で、2014年に記載された。保存の良い3体分の部分骨格が発見されており、全部合わせると体のほとんどの骨格がそろっている。これまで断片的だった北アメリカのオヴィラプトロサウルス類(カエナグナトゥス科)の形態や系統関係などを解明するのに役立つと期待されている。

大部分のオヴィラプトロサウルス類はアジア、特にモンゴルと中国で発見されている。白亜紀後期のアジア産オヴィラプトロサウルス類のほとんどは、単系のオヴィラプトル科Oviraptoridaeをなす。一方、北アメリカからもオヴィラプトロサウルス類の化石が長く知られているが、残念なことに北アメリカ産のオヴィラプトロサウルス類の標本は非常に不完全なため、その解剖学的形態や分類、系統関係の詳細は明らかでなかった。多くの研究者は、白亜紀後期の北アメリカ産オヴィラプトロサウルス類は、すべて単系のカエナグナトゥス科に属すると考えているが、最近のいくつかの研究ではカエナグナトゥス科は多系群であると考えられている。さらに、多くの研究者がこれらの恐竜の生態・習性について推測しているが、それぞれがまちまちな結論を出している。

系統解析の結果、オヴィラプトロサウルス類の中のいくつかのグループ(カウディプテリクス科 Caudipterygidae、 カエナグナトゥス上科 Caenagnathoidea、 オヴィラプトル科 Oviraptoridae、カエナグナトゥス科 Caenagnathidae)が単系であることが支持された。アンズーは派生的なカエナグナトゥス科のメンバーで、カエナグナトゥスと姉妹群と考えられた。また、白亜紀前期のミクロヴェナトルとギガントラプトルは基盤的なカエナグナトゥス類と位置づけられた。

アンズーの発見によって初めて、カエナグナトゥス科のオヴィラプトロサウルス類のほとんど完全な骨格形態が明らかになってきた。アンズーは推定全長3.5 m、腰の高さ1.5 m、体重200-300 kg もあり、ギガントラプトルに次いで最も大型のオヴィラプトロサウルス類の一つである。カエナグナタシア(推定体重5 kg)のような非常に小型の種類もいることを考え合わせると、カエナグナトゥス科は獣脚類の中でも、体のサイズが非常に広範囲にわたるグループということになる。これを裏付けるためにはカエナグナトゥス類の成長や個々の標本の成長段階の研究が必要になってくるという。
 アンズーの頭骨は丈が高く幅が狭く、ヒクイドリのような高いトサカがある。意外なことに、頬骨はオヴィラプトロサウルス類以外の獣脚類のものと似ている。上下の顎には歯がなく、左右が癒合した歯骨の咬合面には特徴的な稜と溝の列が並んでいる。首は長く12個の頸椎からなり、後方にいくにつれて幅が広くなっている。尾椎は含気性が発達していて、後端には特殊化した椎骨が並び、全体として尾端骨状の構造をなしている。胸骨板はオヴィラプトル科のものとよく似ている。手は比較的大きく、末節骨の基部には他の多くのオヴィラプトロサウルス類よりも顕著な唇状の部分lipがある。手の第2指と第3指はアンズーでは不完全であるが、他の手がよく保存されたカエナグナトゥス類(キロステノテス、エルミサウルス)と同様におそらく長かったと思われる。後肢の骨は細長く、脛骨が大腿骨よりもかなり長い。足もアンズーでは不完全であるが、見つかっている部分から他のカエナグナトゥス類と同様に足の指が長かったと考えられる。

顎に歯がなく角質で覆われたくちばしをもつオヴィラプトロサウルス類の食性については、さまざまな推測がなされてきた。最初の仮説はオヴィラプトルが卵泥棒というもので、その後オヴィラプトル類が自分自身の卵を守っていることがわかり、これ自体は否定された。しかしオヴィラプトル類が他の脊椎動物の卵を食べた可能性は否定されていない。Currie et al.は、オヴィラプトル類の上顎骨の口蓋部分にある歯のような突起を、卵を食べるヘビが卵殻を割るための椎骨の突起に例えて、オヴィラプトロサウルス類は卵や小型の脊椎動物を食べただろうと論じている。

Barsboldはオヴィラプトル類の頑丈な顎は貝を割るために用いられたと提唱したが、この説は解剖学的、生物力学的、古生態学的根拠から強く否定されている。Cracraft と Funston and Currieは、カエナグナトゥス類の下顎と、植物食の単弓類ディキノドン類の下顎の類似性に注目した。カエナグナトゥス類とディキノドン類の顎関節の構造は、下顎を前後に大きく動かせたことを示しており、それにより植物を上下のくちばしのある顎で刈り取るのに役立ったかもしれない。とくにFunston and Currieは、カンパニア期のカエナグナトゥス類の下顎とディキノドン類の下顎を詳細に比較し、ディキノドン類で植物食への適応と考えられている5つの特徴のうち4つまでを、カエナグナトゥス類はみたすとしている。面白いことに、アンズーとギガントラプトルではさらに5番目の特徴までみたしている。それは歯骨の側面にあるフランジである。この構造は、ディキノドン類では前方にある内転筋の付着部であると考えられており、この2種のカエナグナトゥス類でも同様に機能したかもしれない。

オヴィラプトロサウルス類が植物食だったという最も有力な証拠は、歯のある原始的な種類でのみ知られている。カウディプテリクスのいくつかの標本には、胃石が保存されていた。またインキシヴォサウルスの前上顎骨の歯は齧歯類の切歯に似ている。さらに、最近記載された基盤的なオヴィラプトロサウルス類、ニンギュアンサウルスの体腔内には多数の卵形の構造物が保存されており、種子かもしれないと考えられている。おそらく基盤的なオヴィラプトロサウルス類は完全にあるいは主に植物食であったが、進化した種類では角質のくちばしが発達して、小動物や卵など広範囲の食物を食べるようになったのではないか、としている。

カエナグナトゥス類の習性については、四肢の骨格の特徴からもいろいろと考察されている。Currie and Russellは、比較的長い後肢と指の長い広がった足先から、カエナグナトゥス類は渉禽類のように浅瀬に入り、水中の無脊椎動物を捕食したのではないかと考えた。彼らはキロステノテスの細長い第3指は、川底や木の割れ目から小動物をかき出すのに役立っただろう、ともいっている。
 カエナグナトゥス類の化石が発見される地層の堆積環境が、生息地を推定する手がかりになるかもしれない。カエナグナトゥス類とオヴィラプトル類では、古生態学的に明らかな違いがあることが、長い間注目されてきた。オヴィラプトル類の化石のほとんどは、乾燥あるいは半乾燥気候の環境とされる地層から発見されているのに対し、多くのカエナグナトゥス類の化石はより湿潤な状態で堆積したと考えられる河川堆積物から見つかっている。よってカエナグナトゥス類は、近縁のオヴィラプトル類よりも水の豊富な、湿潤な環境に適応していたと考えられている。
 アンズーのより完全な2つの標本は、川岸の堆積物と考えられるシルト状泥岩から見つかっている。1つの断片的な標本は河床の堆積物から見つかっている。ヘル・クリーク層の別のカエナグナトゥス類の部分骨格は、やはり有機物の豊富な泥岩から発見されている。これは死体が流された可能性もあるものの、真の古生態を反映しているかもしれない。つまりヘル・クリーク層のような古環境では、カエナグナトゥス類は氾濫原のような湿地を好んだ可能性がある。

結局、アンズーや近縁のカエナグナトゥス類は、当時の北アメリカの沿岸部の平野で湿潤な環境を好み、植物や小動物、卵など何でも食べる雑食動物だったのではないか、としている。

参考文献
Lamanna MC, Sues H-D, Schachner ER, Lyson TR (2014) A New Large-Bodied Oviraptorosaurian Theropod Dinosaur from the Latest Cretaceous of Western North America. PLoS ONE 9(3): e92022. doi:10.1371/journal.pone.0092022


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シティパティ1


 1924年にオズボーンが記載したオヴィラプトル・フィロケラトプスの模式標本は、頭骨の保存が悪く断片化していたため、とさかがあったらしいがどのような形状だったかわからないという。過去には別のオヴィラプトル類の頭骨がオヴィラプトル科の典型として紹介され,学術論文にもオヴィラプトルとして掲載された。また巣とともに発見されたオヴィラプトル類のいくつかの標本は、正確には「オヴィラプトル科の一種」であるのにオヴィラプトル属としばしば混同された。(これは後にシティパティと記載された。)そのため従来オヴィラプトルとして描かれた復元図,模型などのほとんどは、実際にはシティパティの標本に基づいているという。
 現在では、従来オヴィラプトルとされてきた標本の大部分が,オヴィラプトル科の他の属に割り当てられてしまい,オヴィラプトル属自体は特徴がはっきりしないことになってしまった。本来のオヴィラプトル属は吻が長めで比較的原始的な種類であったらしい。頭骨全体にわたる高いとさかをもつ種類オヴィラプトル・モンゴリエンシスは、リンチェニア・モンゴリエンシスとなった。巣の上での抱卵姿勢で発見された低めのとさかをもつ種類は、2001年にクラークらによりシティパティ・オスモルスカエと命名された。さらに、前方に傾いたヒクイドリのようなとさかをもつ有名な標本は、シティパティの一種Citipati sp.または別属unnamedOviraptorineとなった。シティパティはオヴィラプトル科の中では最も大型で、卵もオヴィラプトルの卵より大きい。

 マニラプトル類の中の1グループであるオヴィラプトロサウリアにはアヴィミムス(科)、カウディプテリクス(科)、インキシヴォサウルスなどの他に、北アメリカのカエナグナトゥス科とモンゴルのオヴィラプトル科が含まれる。オヴィラプトル科はオヴィラプトル亜科(オヴィラプトル、リンチェニア、シティパティなど)とインゲニア亜科(インゲニア、コンコラプトル、カーンなど)に分けられる。
 オヴィラプトロサウリアの共有派生形質として、前上顎骨の腹側縁に鈍鋸歯状の突起がある、U字状の下顎結合,下顎(歯骨)に歯がない、恥骨の先端の前方の突起が後方の突起より大きい,などがある。そのうちオヴィラプトル科は前上顎骨や頭頂部の骨が含気性である、上顎骨の腹側縁と頬骨の腹側縁が約120度の角度をなす、下側頭窓が大きく四角く眼窩と同じくらいの長さ、恥骨の長軸が前方に曲がっている、など多数の形質を共有する。オヴィラプトル亜科では頭頂部に沿って含気性のとさかが発達している。
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