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スキウルミムス




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 これまで羽毛の痕跡が見つかった獣脚類は、ほとんどが中国遼寧省のものであり、すべてコエルロサウルス類であった。
 スキウルミムスは、ジュラ紀後期キンメリッジ期にドイツ南部バイエルン州に生息した獣脚類で、2012年に記載された。化石は保存の良い全身骨格で、孵化後まもない幼体と思われるが、体の各部に羽毛の痕跡が認められた。系統解析の結果、この恐竜はメガロサウルス類と考えられたことから、羽毛の起源がコエルロサウルス類よりもはるかに原始的な段階まで、さかのぼることが示唆された。
 尾に長めの羽毛があることからスキウルミムス(リスもどき)と命名されたが、全体としてはリスには似ていない。仔ワニかトカゲというところである。

系統解析の結果、スキウルミムスは基盤的テタヌラ類であり、基盤的テタヌラ類の中の系統関係を詳細に解析すると、メガロサウルス上科の中でメガロサウルス科の基盤的なメンバーとなった。スキウルミムスにみられるメガロサウルス上科の共有派生形質は、上顎骨の前方突起が長い、maxillary fenestraが内側で閉じている、涙骨の前方突起が非常に細い、涙骨のlateral bladeが前眼窩窓の上に張り出していない、基底後頭顆の腹側に深い凹みがある、歯骨の前端がわずかに背方に膨らんでいる、前方の胴椎の腹側に顕著なキールがある、前肢の第1指の末節骨が拡大している、などである。
 興味深いことに、従来のデータにスキウルミムスを加えた今回の解析結果では、単系の「カルノサウルス類」が復活している。つまりテタヌラ類がまず「カルノサウルス類」とコエルロサウルス類に分岐し、「カルノサウルス類」の中にメガロサウルス上科とアロサウルス上科が含まれる形になっている。この分岐図は、最近のほとんどの系統解析とは異なっており、スキウルミムスが幼体であることを考えると、慎重に考えなければならないと著者自身が述べている。いずれにしても1つの新種を加えるだけで、系統関係に重大な変更が起きてしまうということは、テタヌラ類の系統進化について我々がまだ十分理解していないことを示している、としている。

スキウルミムスは、最も完全に保存されたメガロサウルス類の全身骨格ということになり、これまで知られていなかったメガロサウルス類の解剖学的詳細を解明するのに役立つ。例えばスキウルミムスの手は3本指で、第4中手骨の痕跡はなかった。テタヌラ類は3本指であるが、原始的なアロサウロイドであるシンラプトル、ネオヴェナトル類メガラプトル、原始的なティラノサウロイドであるグァンロンでは、痕跡的な第4中手骨がみられる。このことから、第4中手骨の消失はいくつかの系統で独立して起こったか、あるいはテタヌラ類の祖先で消失したが、いくつかの種類で「先祖返り」的に第4中手骨が出現したと考えられる。

スキウルミムスの模式標本は、いくつかの特徴から非常に若い、おそらく孵化後まもない幼体と考えられた。例えば、頭骨が非常に大きく後肢が短いという体のプロポーションや、骨格に癒合がみられないこと(脊椎全体で神経椎体縫合が閉じていない、仙椎の癒合がない、脳函の各要素が癒合していない)、粗い溝のある骨表面形状、上顎骨の歯の成長パターンが非常に規則的であること(まだ生え替わっていないことを示す)などである。
 スキウルミムスの歯の形態は、ほっそりした鋸歯のない前上顎歯と、後縁のみに鋸歯のある強く反った上顎歯をもつ点で、基盤的テタヌラ類の成体とは著しく異なる。このような特徴はおそらく幼体の形質と思われる。これは大型獣脚類の幼体は成体とは異なる獲物を食べていたという考えを支持する。むしろ、このような歯の形態は、基盤的なコエルロサウルス類と非常によく似ている。よって、このような形態の歯が見つかった場合にコエルロサウルス類と同定するには注意が必要と考えられる。

羽毛は尾、背中、腹部など数カ所に、皮膚の痕跡とともに保存されている。最も顕著なのは前方の尾椎の背側で、そこには非常に細長い、1型羽毛 type 1 feather に該当する毛状の繊維構造がある。この原羽毛は皮膚から生えているように見え、尾の背側で厚い被覆をなしている。また枝分かれしておらず、シノサウロプテリクスの原羽毛と同じくらいのサイズである。
 羽毛の分布から、スキウルミムスはコンプソグナトゥス類と同様に、全身が羽毛で覆われていたと考えられる。スキウルミムスは、これまでに羽毛が報告された最も基盤的な獣脚類であり、少なくとも基盤的テタヌラ類の幼体には原羽毛があったことを示した。これは、繊維状構造が知られている鳥盤類(プシッタコサウルスやティアニュロン)とコエルロサウルス類の間のギャップを埋めるものである。鳥盤類の繊維も獣脚類の原羽毛と形態学的に区別できないことを考えると、羽毛をもつことは恐竜全体の原始形質と考えられる、という。成体でウロコの痕跡が見つかることは羽毛の存在と矛盾するものではなく、大型恐竜の成体では二次的に羽毛を失うこともあっただろう、としている。

参考文献
Oliver W. M. Rauhut, Christian Foth, Helmut Tischlinger, and Mark A. Norell (2012) Exceptionally preserved juvenile megalosauroid theropod dinosaur with filamentous integument from the Late Jurassic of Germany. PNAS 109, (29) 11746-11751; published ahead of print July 2, 2012, doi:10.1073/pnas.1203238109

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