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丸ビルでアクロカント(その2)

(文章が急に常体になるが、気にしない。)
 ところでこのアクロカントサウルス骨格は、Currie and Carpenter (2000)の研究に基づいて作製されたはずである。頭骨もその通りになっている。後眼窩骨の眼窩内突起intraorbital process (iop)はあまり目立たない角(カド)になっている(ピンクの矢印)。涙骨側の突起の方が目立つ感じである。一方、最新の研究(Eddy and Clarke, 2011)では眼窩内突起はかなり複雑な形となっている(下図、前の記事の頭骨全体図も参照)。論文にもあまり詳しくは書かれていないが、母岩に埋まっていたということか。反対側の後眼窩骨や他の標本では壊れているとある。





 また、皆さんはちゃんと左右両側から観察されただろうか。
上顎骨の前眼窩窩にはpromaxillary fenestra とmaxillary fenestraの他に余分のaccessory fenestra (foramen) がある。promaxillary fenestra とmaxillary fenestraは左右で同じ位置にあるが、accessory fenestraの位置は左右非対称である(写真と図)。このような頭骨の含気孔の非対称性は、獣脚類では珍しくなく、シンラプトルにもみられるという。










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丸ビルでアクロカント(その1)



 東京・丸の内の丸ビルで、「大恐竜展 in 丸の内2012」という小規模のイベントがありました。福井県立恐竜博物館のコレクションから一部を紹介するもので、丸ビル側としては集客イベント、博物館は首都圏から地元に観光客を誘致したいのでしょう。昨年の東京タワーよりもずっと小規模ながら、オープンスペースで入場無料ということは丸ビル側が費用を出したのでしょうか。ともあれ恐竜が1体でも2体でも、東京で見られるということは首都圏在住の恐竜ファンにとってはありがたいことです。丸ビルのマルキューブ会場ではアクロカントサウルス、プテラノドン、アロサウルス頭部、CG映像、丸の内オアゾ会場にはフクイサウルス動刻、フクイラプトル骨格、両者の化石レプリカといったところでした。先日アクロカントサウルスの文献を読んだところなので、行かない手はないと。



メインはアクロカントサウルス全身骨格で、東京タワーでは背中の棘突起が天井につかえて痛かったのですが、今回の会場(以前クリオロフォも来た)は吹き抜けなので、のびのびしていました。よかったね。
 シンラプトルやヤンチュアノサウルスも棘突起が長めであることを考えると、元々はディスプレイなどではなく、胴が長めのテタヌラ類が大型化する際に、体を安定に支えるための適応のようにも思える。





 幕張や上野の場合と違って無料でもあり、やはり気軽に立ち寄った人が多いようでした。通りすがりの親子連れは子どもの写真を撮るとすぐ立ち去ってくれるので、撮影するにはあまり問題ありません。時間帯によって照明が変わるようで、スポットライトが逆光になると難しい。
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ズケンティランヌス





少し大きい画像

 中国山東省の諸城市Zhucheng city近郊の発掘地からは、大型のハドロサウルス類シャントゥンゴサウルスの化石が発見されていた。同じ場所から4本の獣脚類の歯が見つかっており、Hu et al. (2001) によりティラノサウルスの新種Tyrannosaurus zhuchengensisとして記載されていた。近年、シャントゥンゴサウルスの発掘地の近くのいくつかの新しい地点で発掘調査が行われた。その一つ、Zangjiazhuang siteからは多数のハドロサウルス類と角竜類の化石が発見されたが、いくつかの新しいティラノサウルス類の骨も発見された。これらの骨はほとんどが分離した状態で、何個体なのか何種類なのかも不明だったが、その中に交連状態の上顎骨と歯骨が含まれていた。これらの骨は明らかにティラノサウルス科に属するが、これまで知られている種類とは異なっており、新属新種ズケンティランヌス・マグヌスと命名された。

 ズケンティランヌスの模式標本は、右の上顎骨と左の歯骨のみからなる。上顎骨は発見された時には保存の良い状態だったが、残念なことに取り扱い中に事故で破損してしまった。しかし破損する前の写真と精密なキャストは残っている。これらの上顎骨と歯骨は、同じ地層中で30 cm離れて発見されており、骨と歯の大きさの比率からも同一個体のものと考えられた。
 上顎骨は大きく頑丈で、長さが64 cmもある。上方突起ascending processは途中から欠けている。上顎骨の前縁はわずかにカーブしており、腹側縁は強く凸形にカーブし、後方端では腹方に曲がっている。上顎骨の外側面には、腹側縁に垂直に並んだ浅い縦みぞfluteがある。また腹側縁の近くには多数の小さな孔が並んでいる。上方突起の基部付近に、水平の棚状部horizontal shelf がある。
 上方突起は失われているが、後方突起(水平突起)の前眼窩窩は保存されていて、いくつかの孔(窓)の腹側縁がみられる。promaxillary fenestraは保存されていないが、上方突起の内側のくぼみの部分にあったと思われる。maxillary fenestraは、保存された腹側縁の形から約70 mmの長さで楕円形であり、前端に丸い切れ込み状notch-likeの部分があった。maxillary fenestraは、前眼窩窩の長さの大部分を占めていたと考えられる。maxillary fenestraの後方には、この論文でaccessory maxillary fenestra と名付けた小さな孔がある。つまりズケンティランヌスの上顎骨には、maxillary fenestraと前眼窩窓の間に、もう一つ余分の孔(窓)があいていた。Interfenestral strut(maxillary fenestraと前眼窩窓の間の骨の部分)が欠けているので、前眼窩窓の形はほとんどわかっていない。(Interfenestral strutが保存されていないということは「前眼窩窓の前端」は推定ということだろう。)
 上顎骨には全部で12個の歯槽がある。最大の歯槽は6番目であるが、4番から8番までは大体同じくらいの大きさである。7本の歯が保存されていて、2本は成長中で萌出しておらず、2本は部分的に萌出し、2本は大きく萌出している。歯冠は大型のティラノサウルス類に典型的な形で、大きく太く先端が比較的鈍く、断面の形は楕円形である。後縁は直線に近く、前縁は先端部でカーブしている。前縁と後縁に条縁carinaがあるが、1番目の上顎骨歯m1では前縁の条縁mesial carinaが舌側に移動している。保存された最大の歯(4番目)の歯冠の長さは100 mmに達する。


 ズケンティランヌスは大型のティラノサウルス類(ティラノサウルス亜科)で、他のティラノサウルス亜科の種類とは次のような上顎骨の特徴で区別される。上方突起ascending processの基部の外側面に水平の棚状部shelfがある、maxillary fenestraの前縁に丸い切れ込みnotchがある、である。またズケンティランヌスは、次の2つの形質を併せ持つ点でユニークである。A) 前眼窩窓の腹側縁が前眼窩窩の腹側縁よりもかなり高い位置にある、とB) maxillary fenestraの前後の長さが、前眼窩窩の前縁から前眼窩窓の前縁までの長さの1/2以上ある、である。A) はアルバートサウルス亜科にみられる形質で、従来のティラノサウルス亜科には当てはまらない。一方B)はティラノサウルス亜科の形質で、アルバートサウルス亜科にはみられない。よってA)とB)を併せ持つズケンティランヌスはユニークであるということになる。
 分離した歯と中足骨だけが見つかっているTyrannosaurus zhuchengensisについては、ティラノサウルス科であることまでは同定できるが、それより下のレベルまでは同定できないという。つまりズケンティランヌスかもしれないが、他のティラノサウルス類の可能性もある。
 ズケンティランヌスは、同じ東アジアで同時代のタルボサウルスとは、いくつかの特徴で区別される。例えばタルボサウルスでは、上顎骨の頬骨突起の背側に皮下フランジsubcutaneous flangeという構造があり、前眼窩窩の腹側縁を覆うように伸びているが、これはズケンティランヌスにはない。

 実は今回のZangjiazhuang siteの化石には、ズケンティランヌスとは異なる、別の新種のティラノサウルス類の骨も含まれているという。従ってカンパニア期の東アジアからは、タルボサウルス、ズケンティランヌス、未記載の新種の3種類の大型ティラノサウルス類が見つかっていることになる。このことは、同時期の北アメリカ西部にはアルバートサウルス、ゴルゴサウルス、ダスプレトサウルスなどの複数の種類が生息していたことを考えれば決して不思議ではなく、おそらくもっと多様な捕食者が存在していただろう、としている。

参考文献
David W.E. Hone, Kebai Wang, Corwin Sullivan, Xijin Zhao, Shuqing Chen, Dunjin Li, Shuan Ji, Qiang Ji, Xing Xu (2011) A new, large tyrannosaurine theropod from the Upper Cretaceous of China. Cretaceous Research 32, Issue 4, 495-503.

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