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トルボサウルスの最近の進展(1)博物館に眠っていた化石


トルボサウルスの四肢に関する情報としては、Hanson and Makovicky (2014) が出版されている。しかし、この論文はトルボサウルスの完全な前肢が関節状態で見つかった、というような話ではない。むしろ断片的なものである。
 これは、100年以上も前に発掘された化石の再発見である。この化石標本は1899年にElmer Riggsの調査隊によって、ワイオミング州のFreezeout Hillsで発見されたが、その後手つかずのまま、フィールド自然史博物館の収蔵庫に保管されていた。在庫目録の作成の際に、重要な化石かもしれないということで、2005年にクリーニングされた。
 この標本FMNH PR 3060は、3つの腹肋骨(ガストラリア)の断片、右の第III中手骨、右の指骨III-2、左の中足骨II, III, IV, 左の趾骨I-1からなる。化石の発見された地層は、モリソン層のBrushy Basin Member(ジュラ紀後期チトン期初期、150-148 Ma)に属し、これまで知られているトルボサウルスの生息時期と一致する。

この標本は、中足骨の大きさとプロポーションに基づいて、モリソン層の獣脚類の中でもトルボサウルス・タンネリと同定できる。トルボサウルスでは中足骨の長さが近位端の幅の2~3倍であるが、アロサウルスとケラトサウルスでは3~4倍である。またcollateral ligament pitが広く浅いことは、トルボサウルス、エウストレプトスポンディルス、ピアトニツキサウルスのようなメガロサウルス類にみられる形質であり、アロサウルスやケラトサウルスとは異なる。

これらのうち、後肢の趾骨I-1と前肢の指骨III-2はトルボサウルスでは初めて見つかった骨である。前肢の指骨III-2が知られている他のメガロサウルス類は、スキウルミムスしかいない。この指骨は、骨幹が短縮して三角形に近い形をした、最も短い指骨である点でスキウルミムスの同じ骨と非常によく似ている。

この標本には前肢の手の骨と後肢の足の骨が含まれているが、メガロサウルス類の手・足の標本は非常に乏しいために、手と足の比率などを他のメガロサウルス類と比較するのは困難である。手と足の両方の骨が十分保存されているメガロサウルス類は、幼体であるスキウルミムスだけである。Rauhut et al. (2012) によると、スキウルミムスのプロポーションはジュラヴェナトルのようなコエルロサウルス類の幼体と驚くほど似ているという。その特徴の一つとして、比較的手が長いことがあげられる。スキウルミムスでは手の第2指の長さ(中手骨を含み末節骨は含まない)が第3中足骨の長さと同じくらいである。しかしこの比率はメガロサウルス類の成体には当てはまらないだろうという。Britt (1991) は、トルボサウルスの中手骨や他の前肢の骨は、獣脚類としては比較的短く太いといっている。
 今回の標本は、これまでに記載されたトルボサウルスの標本と同じくらいの大きさである。Jensen (1985)によって記載された標本の第3中足骨の長さは320-365 mmであるが、FMNH PR 3060では356 mmで、この範囲に入っている。今回の標本を含めて、これまでモリソン層で見つかったトルボサウルスの標本はみな同じくらいの大きさの成体であるという。
 比較できる足の骨が知られているメガロサウルス類としてはエウストレプトスポンディルス、メガロサウルス、アフロヴェナトル、ポエキロプレウロン、スキウルミムスなどがあるが、トルボサウルスの足の骨はこれらのどれよりもがっしりしている。比較できる手の骨が知られているメガロサウロイドはスコミムス、レシャンサウルス、スキウルミムスに限られる。スコミムスの第3中手骨はまだ記載されていない。レシャンサウルスとスキウルミムスの第3中手骨は、トルボサウルスよりも華奢なものである。


参考文献
Michael Hanson & Peter J. Makovicky (2014). A new specimen of Torvosaurus tanneri originally collected by Elmer Riggs. Historical Biology: An International Journal of Paleobiology, 26:6, 775-784, DOI: 10.1080/08912963.2013.853056
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