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2019古生物学会例会 続き


對比地先生の学術賞記念講演はさすがに圧巻で、多岐にわたるのでここではとても書ききれない。主竜類のS字状の頸の進化に関連した両生類・爬虫類と鳥類の頸部筋群の相同性、ケラトプス類の大きな頭骨を支える頸部筋肉の発達、始祖鳥の環椎(第1頸椎)に頸肋骨があることの発見、ヘビの頸は長くなく、むしろ胴が伸びていること、などですね。
 その中で私が聞いて注目したのは、アヴィミムスのくだりです。鳥類によく似たオヴィラプトロサウルス類で、原始的な鳥類とされたこともあるが、現在は基盤的なオヴィラプトロサウルス類となっている。クルザノフのスケッチでは眼窩と側頭窓がつながっているように描いてあるが、CTスキャンで観察すると眼窩と側頭窓の間を仕切る骨があり、やはりオヴィラプトロサウルス類と同様である。つまり鳥類との類似は収斂であることを裏付けている。とはいっても頭蓋天井の骨が癒合していたり、手根骨・中手骨が癒合しているなど多くの点で収斂している。これについて、FGFシグナルの変化が起きると多くの部位で骨の癒合などが起こるので、少数の遺伝子の変化で多くの形質が変化しうることが収斂現象と関係があるのではないか、ということを言っておられた。これは以前から私も考えていたことである。

 それと関連して興味深かったのは、一般講演のガビアル‐トミストマの問題ですね。昔から、インドガビアルは本当のガビアルだが、マレーガビアルはクロコダイルの一種なんだよ、と習った(読んだ)ものである。形態に基づいた系統分類では、ワニの中でガビアルがかけ離れていて、次にアリゲーターとクロコダイルが分かれ、クロコダイルの中からマレーガビアルやマチカネワニなどのトミストマ類が現れたことになっていた。ところが、DNAを用いた現在の分子系統解析では、ガビアルとトミストマ類が最も近縁と出る。分子系統解析ではクロコダイルの中からトミストマ類が分岐し、さらにその中で急速に特殊化したものがガビアルということになる。この場合も、比較的少数の遺伝子が変異することで、非常に多くの形質が変化したとすればあり得るわけである。
 ちなみに今回の発表によると、食性の影響を受けやすい頭骨の形質ではなく、postcranial(胴体)の形質を詳細に調べると、ガビアルとトミストマ類で共通する形質が多く見出された。例えば第7, 8, 9頸椎の肋骨をみると、アリゲーターでは第7が第8, 9の半分の長さしかないが、クロコダイル、トミストマ類、ガビアルではもっと長い。今回得られた形質を含めて、形態と分子系統の両方を反映した系統解析を行うと、分子系統解析のような結果でもそれほど無理なく解釈できるということであった。

コンカヴェナトルのElena Cuesta さんの講演は、頭骨のCGが回転するのを見ているうちに聞き逃したりしたが、再記載した結果を淡々と説明する標準的な発表と思いました。日本語を勉強したらしく、スライド内に日本語の説明が出てきたが、時々誤りがあったということは自分で書き込んだということですね。日本語を勉強してくれていることはありがたいです。



竜脚類は前肢より後肢の荷重が大きく、方向転換するときは前肢で操舵するが、ゾウは頭が重く後肢より前肢の荷重が大きいので、方向転換するときは後肢で操舵するそうです。

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2019古生物学会例会@生命の星・地球博物館



日本古生物学会第168回例会は、1/25から1/27の三日間にわたり、小田原市の神奈川県立生命の星・地球博物館で開催されました。今回は本当に博物館の中、つまり展示室の隣のミュージュアムシアターなどで講演が行われ、例によって参加者は展示を見学することもでき、非常に楽しい学会でした。懇親会も美味しかったし良かったですね。

初日のシンポジウムは「絶滅生物が生きていた当時の姿を復元するための挑戦と課題」で、研究者はもちろんアマチュアの古生物ファンにとっても楽しめる普遍的なテーマでした。

産総研の清家先生は、にょろにょろ系の生痕化石であるマカロニクヌスについて、姿の見えない生物の生態・行動を解明する試みを発表されました。マカロニクヌスとは、ゴカイのような動物が砂を食べながら移動した痕跡ですが、ランダムな方向のものと、一方向に揃ったものがある。潮間帯にすむ現生のゴカイが作る痕跡の解析から、静穏な天候の時はランダムな方向に移動しているが、荒天時、波が荒れて砂浜が大きく削り取られていく状況の時は、ゴカイが一斉に陸の方に向かって移動していることがわかりました。

名古屋大博物館の加藤先生は、安定同位体比から生物の食性を復元する研究のお話。炭酸カルシウムの殻を持つ貝類では、炭素の安定同位体比(13C/12C)が、海水中のそれとほぼ一致することが知られている。ところが、同じく殻を持つ棘皮動物では、海水と一致しないことが知られていた。現生のバフンウニに、安定同位体比の異なる餌(イタドリとコンブ)を与えて育てる飼育実験の結果、イタドリだけを食べたウニとコンブだけを食べたウニとでは、殻の安定同位体比に有意の差があることがわかった。つまり食べた食物の安定同位体比が、殻の安定同位体比にある程度反映されることがわかった。ただし海水の影響もあるので海水と餌の両方の影響がある。

田中康平博士は、いつも抜群にわかりやすいスライドで、恐竜の卵と巣のお話をされる。1)巣の形状、2)卵を温める熱源、3)親の行動の3つのトピックス。最新の研究は、テリジノサウルス類の丸い卵には、捕食者などに撹乱されることなく、無事に孵化したと思われる跡がある。その孵化の成功率が比較的高いことから、テリジノサウルス類は抱卵こそしないものの、親が巣を守っていたのではないかと推測された。

福井県立大学の河部先生の鳥類の脳・内耳形態のお話が、意外と興味深かったですね。例えば、翼竜の脳では小脳片葉という部分が大きく、翼の皮膜からの感覚情報処理と関連しているのではないか、という研究があった。その後この小脳片葉の発達は、頭や首の姿勢制御・動眼反射などを司ることから、鳥類の飛行能力と関連づけられることが多くなった。ところが、河部先生が多数の鳥類の脳を多変量解析した結果、どうも飛行能力ではなく系統を反映しているような結果を得た。さらに最近の研究では、多数の鳥類の脳を徹底的に比較すると、小脳片葉は飛行能力とは相関しないという結果が報告された。
 内耳のうち聴覚器である蝸牛管の長さは、可聴域の周波数を反映するとされており、最近では頭骨長に対する相対的な蝸牛管の長さが、多くの鳥類・爬虫類で良い指標とされている。可聴域の周波数を求める回帰式も得られている。ところが、ティラノサウルスやゴルゴサウルスでこれを計算しようとすると、マイナス300とか400Hzという数値になってしまい、このままでは当てはめられないことがわかった。頭骨が非常に大きい恐竜のような動物については、おそらく低い音を聞いていたとは言えても、周波数を求めることはできないということである。

最後に、恐竜古生物イラストレーター・伊藤丙雄先生のお話も良かった。一番印象に残ったのは、研究者とタッグを組む古生物イラストレーターの仕事は、研究者が表現できないことを代わりに可視化する、代弁者であるということであった。この場合イラストレーターは、アーティストではなく、自分の絵を描いてはいけないと思っている、という。なるほどグレゴリー・ポールのように知識があり、自分の意見で分類まで変えてしまうようでは、アーティストではあるがイラストレーターには向かないということだろう。なるほど。
 また「恐竜の描き方」にもあるように、まずラフスケッチを描いた後、輪郭の中を暗い色で塗りつぶしてしまうという制作過程も紹介された。その後順番に明るい色を彩色しながら、その過程でイメージを再構築していくということでした。これは私にはなかなかできないので、懇親会で直接、伊藤先生とお話しさせていただいた。研究者と打ち合わせしながら、途中でも大きく変えることは日常茶飯事なので、常にイメージを再構築しているということでした。大変勉強になりました。
 懇親会ではその他にも多くの先生方とお話できて、非常に有意義でした。



地球博物館のオリジナルらしい、夜光フィギュア。


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ネオヴェナトルB




絵としての難しさ

恐竜の姿形や特徴についての知識とは別に、絵を描く上での技術が要る。
古生物の場合、見たものを正確に描写するのではなく、見たことのないものを想像で描くわけだから、より困難があるはずである。

一頭の恐竜の体にもパースの問題がある。距離と視点を決めて矛盾がないようにする必要がある。
明暗の階調も難しい。光源の位置や散乱の度合いを決める必要がある。見たことのない立体物に陰影をなんとなく描いても、正しいという保証がない。

さらに哲学的で厄介なのは、決まるポーズと決まらないポーズがあることである。動物園で動物が歩き回る様子を、連続写真なり動画のコマ送りで見ると、決まるポーズと決まらないポーズがある。恐竜の復元骨格を色々な角度から撮っても、良いアングルというものが決まってくる。なぜ、決まる角度・ポーズというものがあるのだろうか。図鑑や映画などどこかで見たような、典型的なポーズが「決まるポーズ」と認識されるのだろうか?なぜその構図、アングルが「良い」のだろうか。
そんなことを考えてながら描いている。
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