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肉食の系譜
ティランノティタン補足
写真はカルカロドントサウルス・サハリクスの上顎骨。孔は1個しかない
カルカロドントサウルス亜科の共有派生形質の1)については、論文の補足資料Appendix S2に解説がある。多くのテタヌラ類では上顎骨の前眼窩窩にpromaxillary foramen と maxillary fenestra の2つの孔がある。アクロカントサウルスなどでは、さらに余分の孔accessory fenestraがある。一方、カルカロドントサウルス亜科のギガノトサウルスやカルカロドントサウルスでは、1個の孔しかない。これをpromaxillary foramen とするか maxillary fenestraとするかの解釈について、これまでの経緯を説明している。
Sereno et al. (1996) と Brusatte and Sereno (2007) は、カルカロドントサウルス・サハリクスとカルカロドントサウルス・イグイデンシスの前眼窩窩の前方にある孔はmaxillary fenestraであり、promaxillary foramenはないと考えた。Coria and Currie (2006)もマプサウルスの研究で同じようなことを述べており、この孔はmaxillary fenestraに相当するだろうといっている。しかし彼らは系統解析の中では、マプサウルス、ギガノトサウルス、カルカロドントサウルスの状態を「promaxillary foramenのみがある」とコードしている。Currie and Carpenter (2000) は、ギガノトサウルスやカルカロドントサウルスにおける位置から、この孔はpromaxillary foramenと相同ではないかと提唱している。さらにCanale (2010) は、マプサウルス、ギガノトサウルス、カルカロドントサウルスにみられる状態は、成長過程でmaxillary fenestraが二次的に退化し、promaxillary foramenだけが残ったものと解釈している。そのため系統解析の形質状態として「maxillary fenestraの二次的な退化によりpromaxillary foramenだけがある」を追加している。
カルカロドントサウルス亜科の共有派生形質の4)interorbital septum はまた難しい。眼窩間中隔interorbital septumとは、脳函の腹側前方にある構造らしい。爬虫類の脳函の基本構造を勉強しないと十分理解できないが、ギガノトサウルスの脳函の論文(Coria and Currie, 2002)には一応、図が載っている。それによると、interorbital septumは蝶形篩骨sphenethmoidの近くにある。また前方にcultriform processという骨がある。
アクロカントサウルス、アロサウルス、シンラプトルなど多くの獣脚類では、sphenethmoidとcultriform processの間は離れている(つながっていない)。一方、カルカロドントサウルスとギガノトサウルスでは、sphenethmoidとcultriform processの間が骨化したinterorbital septumでつながっているという。同様の状態はアベリサウルスとカルノタウルスにもみられるという。
参考文献
Canale et al. (2015) Appendix S2
Coria, R. A., and P. J. Currie. 2002. The braincase of Giganotosaurus carolinii (Dinosauria: Theropoda) from the Upper Cretaceous of Argentina. Journal of Vertebrate Paleontology 22:802–811.
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ティランノティタン
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南米のカルカロドントサウルス類といえば、ギガノトサウルスとマプサウルスが有名でメディアにも紹介され、フィギュアなども作られている。その陰にかくれてマイナーな存在に留まっているのがティランノティタンである。
ティランノティタンは、白亜紀前期アルビアン(Cerro Castano Member, Cerro Barcino Formation)にアルゼンチンのチューブート州に生息したカルカロドントサウルス類で、2005年にNovasらによって記載された。その後、2015年に(オンラインが2014、紙が2015)詳細な骨学的記載が出版され、新たにカルカロドントサウルス類の系統解析も行われている(Canale et al. 2015)。(Cerro Castano はカスターニョ)
ホロタイプは一部が関節した部分骨格で、2本の歯が保存された右の歯骨、左の歯骨、関節した第2から第7胴椎、第8から11胴椎、第14胴椎、第1仙椎、前方の尾椎、左の肩甲烏口骨、右の上腕骨、左右の撓骨、断片的な腸骨、座骨、恥骨、左右の大腿骨、左の腓骨、6本の血道弓と腹肋骨の断片からなる。
パラタイプは右の頬骨、右の方形頬骨、右の歯骨、2本の分離した歯、第7頸椎、第1胴椎、第4胴椎、第6から8胴椎、第12から14胴椎、分離した神経棘、部分的な仙骨、後方の尾椎、肋骨、血道弓、右の大腿骨、左の第2中足骨、左の指骨II-2, II-3, IV-2, IV-3 からなる。
Novas et al. (2005) はティランノティタンの特徴として①歯の前縁(近心)に二分岐した鋸歯bilobated denticlesがある、②歯骨の内側前方に深い溝がある、③後方の胴椎の神経棘に強く発達した靭帯付着痕がある、を挙げていたが、その後の研究で②と③は他のカルカロドントサウルス類にもみられることがわかり、ティランノティタンの固有の特徴から除外された。Canale et al. (2015) ではティランノティタンの特徴として、①に加えて新しく1)2)3)4)の4つを挙げている。
①の二分岐した鋸歯は、ティランノティタンのすべての歯にみられるわけではなく、ホロタイプの保存された歯と分離した歯の一部にみられた。よってこれは種内変異や病理的特徴かもしれないが、他の獣脚類にはみられないので、いまのところティランノティタンの特徴として保持されるといっている。
おそらく最もわかりやすい特徴は、1)歯骨の前端の縁(下顎結合縁symphyseal margin)が側面からみて前腹方-後背方に傾いている、である。派生的なカルカロドントサウルス類では下顎の歯骨の前端が四角ばっている。この前端の垂直な面が、ティランノティタンではわずかに上を向いている。この形質はすべてのカルカロドントサウルス類を含めて他の獣脚類にはみられず、ティランノティタンではホロタイプとパラタイプの両方の歯骨にみられるという。標本の写真をみると確かにそうなっている。ただし、ホロタイプでははっきりしているが、パラタイプでは微妙な傾きである。論文ではパラタイプの歯骨、頬骨、方形頬骨をギガノトサウルスのような頭骨復元図にあてはめているが、この頭骨復元図では歯骨の前端が傾いていることはほとんどわからない。この特徴も下顎のアップならば表現できるかもしれないが、全身の生体復元像で無理に特徴を表現しようとすると、かえって不自然かもしれない。
2)3)4)はかなり難解で、2)第2と第3胴椎に前方と後方のcentrodiapophyseal laminaeをつなぐ、よく発達したaccessory laminaeがある、3)大腿骨幹のfibular fossaが近位側へ延びている、4)腓骨のproximomedial fossaの前縁が後方に突出している、である。
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Canale et al. (2015) は新しく得られたティランノティタンのデータを含めて、カルカロドントサウルス類の系統解析を行っている。これまでの系統解析では、ティランノティタンはカルカロドントサウルス科の中で比較的基盤的な位置に置かれるか、他のカルカロドントサウルス類とポリトミーをなすことが多かった。
今回の解析では、ティランノティタンはカルカロドントサウルス科の中でも派生的なものであり、ギガノトサウルスとマプサウルスからなるクレードと姉妹群をなした。そしてギガノトサウルス、マプサウルス、ティランノティタンの3種がギガノトサウルス族Giganotosauriniをなすとしている。ギガノトサウルス族は2つの共有派生形質で特徴づけられる。その1つは、頬骨の後眼窩骨突起の基部が幅広いことである。アロサウルス、アクロカントサウルス、カルカロドントサウルスなどでは、頬骨の後眼窩骨突起は細長く、高さが基部の長さの2倍以上ある。マプサウルスとティランノティタンでは、高さが基部の長さの2倍より小さい。もうひとつの共有派生形質は、大腿骨遠位端の伸筋溝extensor grooveが浅く幅広いことであるという。
ギガノトサウルス族とカルカロドントサウルス(2種)は姉妹群をなし、これらを合わせてカルカロドントサウルス亜科Carcharodontosaurinaeをなすとしている。これらは巨大で派生的なゴンドワナ産のカルカロドントサウルス類である。カルカロドントサウルス亜科は、頭骨に関する4つの共有派生形質により支持される。1)上顎骨の前眼窩窩にはpromaxillary foramenだけがある、2)上顎骨表面の彫刻external sculpturingが上顎骨の本体を覆っている、3)鼻骨の前半部に強い粗面と隆起がある、4)眼窩間中隔interorbital septumがありよく骨化している、であるという。
カルカロドントサウルス科Carcharodontosauridaeは、18の共有派生形質により支持される。この中には、上顎骨の後方の歯間板が完全に癒合している、上顎骨の前眼窩窩の前縁が四角ばっている、鼻骨の外側縁が全長にわたって平行、左右の前頭骨が癒合している、前頭骨が頭頂骨と癒合している、涙骨と後眼窩骨が接している、後眼窩骨に眼窩下フランジがある、後眼窩骨に眼窩の上に強く張り出した隆起がある、後眼窩骨の背方の隆起の前半だけに血管溝がある、などが含まれている。
そうすると、頭蓋天井の強化や後眼窩骨の突起など「目つき」に関する特徴は比較的古くカルカロドントサウルス科全体に共通していて、顔の表面がごつごつしているのは派生的な特徴と考えればよいだろう。
参考文献
Juan Ignacio Canale, Fernando Emilio Novas & Diego Pol (2015) Osteology and phylogenetic relationships of Tyrannotitan chubutensis Novas, de Valais, Vickers-Rich and Rich, 2005 (Theropoda: Carcharodontosauridae) from the Lower Cretaceous of Patagonia, Argentina, Historical Biology, 27:1, 1-32, DOI: 10.1080/08912963.2013.861830
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エレクトロニック・グロウラー ヴェロキラプトル ”ブルー”
ジュラシック・ワールド エレクトロニック・グロウラー DXアクションフィギュア ヴェロキラプトル ”ブルー” です。形が良いと思ったので、映画の記念に購入しました。
しっぽを動かすと前肢が動き、咆哮します。わき腹を押しても鳴くのですが、しっぽを動かした時とは鳴き声のトーンが異なる。二種類楽しめます。
それはいいのですが、最大の欠点は、「立たない」。2本足の獣脚類のフィギュアは、一応は立つが不安定で、1日くらいたつと倒れることが多いのですが、最初から立たないとは思わなんだ。説明書きに「いくつかのポーズは支えを必要とします」とあるが、いくつかじゃねーよ。常に支持台が必要じゃないか。野戦病院のベッドのように横倒しにしておくか、元のパドック(箱)に収まるしかないのであった。
しかし造形はなかなか良いと思います。縦長の瞳孔も精密に描いてある。左腕はわりと動くのですが、右腕の可動範囲が小さい。口は開いたまま。まあこんなもんでしょう。こういう形のものを手元に置いておくだけで楽しいです。
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