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プロテロチャンプサ (プロテロチャンプサ類)



プロテロチャンプサは、三畳紀後期カルニアンからノリアン初期に、アルゼンチンとブラジルに生息した基盤的なプロテロチャンプサ類である。アルゼンチンのIschigualasto Formationのプロテロチャンプサ・バリオヌエヴォイとブラジルのSanta Maria Formationのプロテロチャンプサ・ノドサの2種がある。
 プロテロチャンプサ・バリオヌエヴォイはかなり昔から知られる主竜形類で、5,6個体の化石が発見されていたが、頭骨のみか頭骨と頸椎といった標本が多かった。Trotteyn (2011) によってほとんど全身の骨格が報告された。すなわち頭骨、ほとんど完全な脊椎、肩甲骨、烏口骨、腰帯、上腕骨、橈骨、尺骨、大腿骨、完全な右の後肢である。

プロテロチャンプサの特徴は、研究の伸展とともに少しずつ記述が変わってきている。
Trotteyn (2011)ではプロテロチャンプサは以下の形質の組み合わせを示す主竜形類としている。頭蓋の側頭部が顕著に扁平になっている;外鼻孔が吻の前方の頂点より後方にある;前眼窩窓、眼窩、上側頭窓が背側を向いている:頭蓋と下顎に、小塊状の突起からなるよく発達した装飾がある;上顎骨と外翼状骨の結合により頬骨がsuborbital fenestraから排除されている;前頭骨が癒合している;前上顎骨が内鼻孔の内側縁の半分を形成する;鼻骨が外鼻孔の内側縁に沿って前上顎骨の背側突起の間に伸びている。
 プロテロチャンプサ・バリオヌエヴォイはプロテロチャンプサ・ノドサよりも、吻の前方部分がより急に細くなっていること、後頭部がより低いこと、外鼻孔が細長く鋭い前端と後端をもつこと、前頭骨の輪郭が不規則でないことなどで区別される。

その後Dilkes and Arcucci (2012) によって頭骨を中心とした詳細な再研究が行われ、プロテロチャンプサの固有形質が定められた。それらは、頭蓋の皮骨に塊状の突起と顕著な稜からなる彫刻がある;前眼窩窩が、前眼窩窓の前端の上顎骨上の長く伸びた窪みに限られる;前上顎骨‐上顎骨の結合より前方で、前上顎骨が側方に拡がっている;上側頭窓の縁に上側頭窩がない;方形頬骨に前方に曲がった突起がある、などである。また共有派生形質として、頭蓋が背腹に扁平で、外鼻孔に加えて前眼窩窓、眼窩、上側頭窓が背側を向いているなどの特徴をもつ。
 Dilkes and Arcucci (2012)ではプロテロチャンプサ・バリオヌエヴォイとプロテロチャンプサ・ノドサの違いも更新されている。バリオヌエヴォイは鼻骨と前頭骨に長軸方向の多数の稜があり、すべての皮骨に多数の突起がある。また上側頭窓が下側頭窓の1/3以上の大きさである。ノドサでは鼻骨と前頭骨の稜は数がより少なく、皮骨の突起も数が少なく、上側頭窓が下側頭窓の1/4の大きさである。

要するにプロテロチャンプサ類の中でも最も頭骨が扁平で、外鼻孔に加えて前眼窩窓、眼窩、上側頭窓が背側を向いている。他のプロテロチャンプサ類では外鼻孔は背側を向いているが、眼窩などはもう少し側方を向いている。また頭蓋表面の装飾(彫刻)が、プロテロチャンプサでは塊状nodularで、長い稜の場合も長さに沿ってボコボコと周期的に膨らんでいる。他のプロテロチャンプサ類では放射状に伸びる細い稜からなる。

どうみてもワニ顔だが、ワニではないところがいい。尾の細さを見るとワニとは違って、水中を泳ぐようにはできていない。また他のプロテロチャンプサ類では正中に1列の皮甲があるが、プロテロチャンプサにはないらしい。
 プロテロチャンプサの生息年代はチャナレスクスやグアロスクスなどより新しいが、系統的には基盤的な位置にきた。水生に適応した祖先から陸に戻ったワニのような姿で、このような祖先からさらにキツネのような軽快なハンターに進化したのだろうか。
 後頭部・側頭部には岩のようなごつごつした突起があり、竜のたてがみのようでもある。プロテロチャンプサ・ノドサの頭骨では上顎の側面にも突起が出ており、竜のひげ状にも見えるところが良い。


参考文献
Trotteyn, M.J. (2011). Material postcraneano de Proterochampsa barrionuevoi Reig, 1959 (Diapsida: Archosauriformes) del Triásico Superior del centro-oeste de Argentina. Ameghiniana 48: 424–446.

Dilkes, D. and Arcucci, A. (2012). Proterochampsa barrionuevoi (Archosauriformes: Proterochampsia) from the Late Triassic (Carnian) of Argentina and a phylogenetic analysis of Proterochampsia. Palaeontology 5: 853–885.
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主竜形類の系譜


Copyright 2016 Ezcurra, M.

恐竜の分類ならある程度知っているが、主竜類の外側となるとなじみがない。いきなりプロテロスクス類とかエリスロスクス類とかいわれてもさっぱりイメージがわかない、という方も多いだろう。まことにもっともである。全体の構図をひと通り説明してから個々のグループを説明すべきだろう。
 恐竜、翼竜、ワニ類が主竜類に含まれることはお馴染みだろう。その外側はどうなっているのだろうか。この辺からスタートしないといけない。当然ながら、よくニュースに取り上げられる恐竜や翼竜以外の主竜類、主竜形類についても、すさまじい勢いで研究が進んでいる。2020年にはチャナレスクスの再記載、ポポサウルスの再記載、エウパルケリアの再記載などが、マイクロCTなどの新しい手法も駆使して研究されている。このあたりはもともと知識がないので、少しはチェックしておかないとまずいと思われた。

日本語のウィキペディアには主竜類はあるが、「主竜形類」という項目はなく、「主竜様類」がある。「主竜様類」の中の記述は最近の研究を大体反映しているようであるが、まだ書きかけの扱いである。主竜類Archosauria を含むより大きなグループとして主竜形類Archosauriformes があり、さらにその外側に主竜様類Archosauromorphaがある。(訳語は古生物学会の用語集などを参照すべきかもしれない)ここでは最新の系統研究の1つとして、Ezcurra (2016)の系統図を見ながら大体のようすを確認してみたい。

まず双弓類の中は主にコリストデラ類、鱗竜形類、主竜様類の3つの系統に分かれる。主竜様類Archosauromorphaの中から、タニストロフェウス類Tanystropheidae、アロコトサウルス類Allokotosauria、リンコサウルス類 Rhynchosauriaが順次分岐し、さらにプロラケルタなどを除いたものが主竜形類Archosauriformesである。主竜形類の中ではプロテロスクス類Proterosuchidae とエリスロスクス類Erythrosuchidaeが順次分岐し、残りのものが真鰐足類Eucrocopodaとなる。真鰐足類の中でエウパルケリアなどが分岐し、残りが広義のプロテロチャンプサ類Proterochampsiaと主竜類に分かれる。広義のプロテロチャンプサ類Proterochampsiaは、水生適応したドスウェリア科Doswellidaeと陸上に戻ったプロテロチャンプサ科 Proterochampsidaeに分かれている。
 主竜類Archosauriaは鳥頸類Ornithodiraと偽鰐類Pseudosuchiaに分かれる。鳥頸類Ornithodiraには翼竜類、シレサウルス類、恐竜類などが含まれる。偽鰐類Pseudosuchiaには植竜類Phytosauria、オルニトスクス類、アエトサウルス類、ラウイスクス類、ワニ形類などが含まれた。この後、テレオクラテルなどの発見により鳥頸類Ornithodiraにアファノサウリアを加えてアヴェメタターサリアAvemetatarsaliaと呼ばれるようになった。偽鰐類Pseudosuchiaもいろいろと研究が進んで、ポポサウルス類が増えたり、いわゆるラウイスクス類は多系群となったりしている。

もちろんこれが確定ではなく、他の研究では異なる解析結果となっている。Ezcurra (2016)ではプロテロチャンプサ類が主竜類と姉妹群をなしているが、Nesbitt(2011)などの研究ではエウパルケリアなどが主竜類と姉妹群をなしている。植竜類Phytosauriaも主竜類の外側にきたりしている。
 そういうわけで主竜類以外の主竜形類としてはプロテロスクス類、エリスロスクス類、エウパルケリア類、プロテロチャンプサ類などがあり、これらが主竜類の共通祖先に近い動物である。

参考文献
Ezcurra (2016) The phylogenetic relationships of basal archosauromorphs, with an emphasis on the systematics of proterosuchian archosauriforms. PeerJ 4:e1778; DOI 10.7717/peerj.1778
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チャナレスクス (プロテロチャンプサ類)



プロテロチャンプサ類は南アメリカに固有の主竜形類のグループで、主竜類へとつながる系統の途中で、おそらくプロテロスクス類やエリスロスクス類の後あたりで分岐したグループと考えられている。プロテロチャンプサ類は三畳紀後期カルニアンのアルゼンチンとブラジルからのみ知られている。一見、ワニに似ているが、ワニではない。恐竜、翼竜、ワニ類は主竜類の中であり、ポストスクスのようなラウイスクス類も主竜類の中でワニ類の系統であるが、プロテロチャンプサ類は主竜類の外側なので、ワニとはかなりかけ離れた動物である。現生ワニから見ると、恐竜や翼竜よりも遠縁の系統である。
 そうはいっても、ワニではないがワニみたいな「槽歯類」だろ、と言われればその通りであるが、ぱっと見て違和感のある奇妙な動物なので、その奇妙さを表現したくて取り上げた。

プロテロチャンプサ類はワニのように扁平な頭骨をもつことから、多くの研究者により水生または半水生の生活を送っていたと考えられてきた。しかしこの仮説は厳密に検証されたものではなく、骨格全体を見ると必ずしも水中生活に適していない。この点について、Arcucci et al. (2019) は形態から生活様式を推定するecomorphologyという観点から、プロテロチャンプサ類の生態について再検討している。

 頭骨はワニのように三角形で吻は細長く、後頭部は幅広く上下に扁平になっている。眼窩や鼻孔などの孔は、おおよそ背側を向いている。二次口蓋が発達している。頭蓋の背側面には装飾ornamentationがあるが、これは伝統的に水生を示すと解釈されてきた。歯は円錐形とあるが側扁していて鋸歯があるという。つまり魚食性と考えられてきたが肉食性ともみえるようだ。
 二次口蓋があって食物を飲み込む際にも呼吸ができることは、水生の四肢動物にとって有利であるが、陸生のワニ類にもあり、哺乳類にも水生とは関係なく進化しているので、二次口蓋の存在自体は必ずしも水生を示すものではないという。
 またプロテロチャンプサ類には口蓋歯が発達しており、そのパターンは水生のドスウェリアやヴァンクレアヴィアとも似ているが、陸生で植物食のアゼンドーサウルスとも似ており、特定の生活様式と結びつけるのは難しい。

ワニやモササウルスなどの水中生活者と異なり、尾は縦に扁平ではない。プロテロチャンプサ類の尾椎は神経棘が短く、横突起が長いので、付け根から中央までむしろ上下に扁平で、後方は円筒形という、トカゲのような尾をしている。形がよく似ている南米のイグアナ類は、完全に陸生である。
プロテロチャンプサ類の四肢は原始的な主竜形類の一般的なパターンを保っていて、特に縮小したり拡大したりした部分はないという。後肢は前肢よりも1/3ほど長い。大腿骨は上腕骨よりも20%長く、よく発達した第四転子がある。足はチャナレスクス、プロテロチャンプサ、トロピドスクスで保存されているが、手は断片的にしか知られていない。プロテロチャンプサ類の足は非対称で、第1,第2指が太短く、第4指が最も長く、第5指は中足骨だけになっている。この第5指の退化は、陸生のラウイスクス類やワニ形類にもみられる。
 ワニのような皮甲の発達は水生動物によくみられるが、プロテロチャンプサ類では皮甲は退化的で、背中の正中に1列だけみられる。このような皮甲はエウパルケリア、ラウイスクス類、スフェノスクス類にみられるが、これらはすべて陸生である。一方全身に皮甲が発達したドスウェリアやヴァンクレアヴィアは水生と考えられている。

Arcucci et al. (2019) はまた、チャナレ層から発見されたプロテロチャンプサ類の骨の横断切片を作製し、組織像を観察している。これらはプロテロチャンプサ類の特徴を示すが、種類までは特定できない大腿骨、脛骨、腓骨である。骨の微細構造と生活様式の関連については、現生の四肢動物でよく研究されている。一般に、陸生動物の長骨は骨髄腔が大きく、中程度に密度の高い緻密骨をもつ。一方、水生動物の長骨は骨髄腔がより小さく、より重く密度が高まるか、あるいはより軽く海綿状になるか(カメ類)のいずれかである。プロテロチャンプサ類の骨組織像からは、陸生または半水生の生活様式が示唆されると著者らは結論している。

チャナレスクスの頭骨は真横から見ると細長いが、スピノサウルス類のように幅が狭いのではなく、実際ワニのように幅が広く上下に扁平な形である。ただしチャナレスクスの頭骨はプロテロチャンプサほど扁平ではなく、やや立体的で眼窩は斜め側面を向いているという。このワニ顔はいかにも水中で獲物を待ち伏せしていそうであるが、胴体は特に水中生活に適しておらず、四肢は細長くイヌのような直立姿勢で復元されている。ただし今回用いた資料の骨格復元図では、後肢は完全に指行性のように描いてあるが、これは確定ではないらしい。チャナレスクスでは足とくに足根部が知られているが、恐竜型とワニ型の中間で、しょ行性とも指行性とも決められないという。そのあたりは少し割り引いて見たとしても、奇妙な動物である。


参考文献
Arcucci, A., Previtera, E., and Mancuso, A.C. (2019). Ecomorphology and bone microstructure of Proterochampsia from the Chañares Formation. Acta Palaeontologica Polonica 64 (1): 157–170.
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