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ゲニオデクテス1


 ゲニオデクテスは、今から百年以上も前にアルゼンチンのパタゴニアで発見された謎の肉食恐竜で、1901年にWoodwardによって記載された。吻の一部、つまり大きな歯の付いた上顎と下顎しか見つかっていないので、その全身像は現在でも不明のままである。断片的な標本であるため、メガロサウルス科とされたりティラノサウルス科とされたり、またアベリサウルス科に似ているともいわれてきたが、2004年にRauhutにより再記載された。それによると、ケラトサウルスと最も近縁であるという。また化石の正確な産出地と年代が不明であったが、おそらくチューブート州のカニャドン・グランデのセロ・バルシノ層で、白亜紀前期アプト期からオーブ期と考えられるという。
 おそらくゲニオデクテスとケラトサウルスだけに共通する特徴として、前上顎骨歯が互いに重なった梯形に並んでいることと、最も長い上顎骨歯の歯冠が下顎(歯骨)の最も細い部分の丈よりも長いことがあげられる。ゲニオデクテスとケラトサウルスが異なる点は、ケラトサウルスでは前上顎骨歯が3本であるのに対して、ゲニオデクテスでは4本あることである。
 ゲニオデクテスの前上顎骨は比較的がっしりしていて、吻の先端は腹側からみて幅広いU字型をしている。鼻孔の下の体部は、長さと高さが同じくらいであり、4本の歯を備えている。上顎骨は歯の生えた部分だけが保存されているが、残っている部分には前眼窩窩の腹側縁は含まれていないことから、それは比較的高い位置にあったと考えられる。上顎骨歯が長いので歯槽も深いということだろう。また上顎骨の側面は、少数の孔以外は平滑だったらしいという。下顎の歯骨はややがっしりしていて、歯骨の前端が背側に少し膨らんでいるので、3番目より後ろの歯列が凹型にカーブしている。歯骨の側面では、5番目の歯槽から後方に、歯槽側の縁から高さの1/3の距離に溝がある。前上顎骨、上顎骨、歯骨のいずれにおいても、歯間板は癒合している。
 前上顎骨以外は正確な歯の数はわからないが、他の獣脚類との比較から推察すると、上顎骨歯は15本以下、歯骨歯は14本以下と考えられる。他の多くの獣脚類では長い歯と成長中の小さい歯が交互に並んだパターンがみられるが、ゲニオデクテスではほとんどの歯が同調して成長しているようにみえ、成長中の小さい歯は少ない。前上顎骨歯は上顎骨歯よりも顕著に短い。上顎骨歯はかなり長いが、これは歯槽から抜けかけているというようなアーティファクト(人工産物)ではなく、実際に長いようである。後縁の鋸歯がほとんど歯槽の縁まで存在することや、歯冠と歯根の境界がどの歯にもみられないこと、さらに上顎骨の浸食された所をみると、歯根が歯槽にフィットしていることから、歯の位置が大きくずれてはいないと考えられる。最も長い上顎骨歯は復元すると95 mmに達し、下顎の最も細い部分の高さよりも長い。上顎骨歯は非常に強く側扁している。また歯冠の前縁と後縁に沿って,特徴的な平らな部分がある。

 ゲニオデクテスでは、前上顎骨歯が上顎骨歯よりもかなり小さいが、これはティラノサウルス科の特徴の一つである。しかしゲニオデクテスの前上顎骨歯は、ティラノサウルス類と異なり断面がD字型ではない。上顎骨歯の形状もティラノサウルス類とは全く似ていない。さらに、前上顎骨歯と上顎骨歯の大きさの顕著な違いは、ケラトサウルスにもみられる。
 上顎骨歯の辺縁に沿って平らな領域が存在するという特徴は、ケラトサウルスとアベリサウルス類にみられる。この領域は他の獣脚類では通常凸型であることから、この特徴はネオケラトサウリアの共有派生形質と考えられる。完全に癒合した歯間板は、ネオケラトサウリアを含めていくつかの系統にみられるが、総合的に考えるとこれもネオケラトサウリアの形質とみるべきだろうという。
 ゲニオデクテスの上顎骨歯の特徴の一つは歯冠が非常に扁平なことであり、このように扁平な歯は他にはケラトサウルスとカルカロドントサウルス類にしかみられない。しかしカルカロドントサウルス類の歯は、鋸歯の基部にある下向きの溝やエナメルのしわがある点で,ゲニオデクテスとは異なる。
 ケラトサウルスと共通するもう一つの特徴が,上顎骨歯が非常に長いことである。ケラトサウルス・デンティスルカトゥスでは最も長い上顎骨歯の歯冠が93 mmで、歯骨の最も細い部分の丈に匹敵する。ケラトサウルス・ナシコルニスでも70 mmで、歯骨の最も細い部分の丈より長い。標本が断片的なため得られる情報は限られているが、以上のことからゲニオデクテスはケラトサウルス科(ネオケラトサウリアのうち、アベリサウルス類よりもケラトサウルスに近縁)と結論している。

参考文献
Rauhut, O. W. M. 2004. Provenance and anatomy of Genyodectes serus, a large-toothed ceratosaur (Dinosauria: Theropoda) from Patagonia. Journal of Vertebrate Paleontology 24: 894-902.
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