goo

アベリサウルス類の手の問題




大きい画像 マジュンガサウルス1

アベリサウルス類の前肢は結局、どう描けばいいのだろうか?指の骨の数や構成にしても、前肢の角度にしてもどうなっているのか。実は研究者の間でも解釈が一致しておらず、決着していない状況らしい。

マジュンガサウルスについては2005年にほとんど完全な関節状態の肩帯と前肢 (FMNH PR 2836) が発見され、詳しく研究されている (Burch and Carrano, 2012)。これには、左右の肩甲烏口骨、叉骨、右の上腕骨、関節した完全な左前肢が含まれている。この研究によるとマジュンガサウルスの撓骨・尺骨は上腕骨の1/4の長さで、近位・遠位の関節面が広がっている。骨化した手根骨はない。手は4本の指からなり、それぞれの指には短い中手骨と1個または2個の指骨がある。指骨式は1/ 2/ 2/ 1である。(ただし指骨の記述の中で非常に慎重な表現をしており、末端の指骨の先端に関節面があるともないとも言い切れないとしている。よって少なくとも1/ 2/ 2/ 1といっている。)



大きい画像

アウカサウルスについては過去の記事で紹介したように、2002年に簡単な記載だけが出版されており、詳細なモノグラフは出ていない。カルノタウルスよりは前腕が長いこと、指骨式は0/ 1/ 2/ 0とされていることなどを紹介した。ところがBurch and Carrano (2012) によると、アウカサウルスの前肢には重大な疑惑がある。マジュンガサウルスの関節状態の前肢と比較してみると、アウカサウルスの撓骨と尺骨は逆であるというのである。(撓骨とされたのが尺骨で、尺骨とされたのが撓骨である。)撓骨にある突起や、それぞれの形、上腕骨との関係などから、明らかに誤りであると述べている。それに伴って、第I、第II、第III、第IV指とされたものは、実は第IV、第III、第II、第I指であるという。また、指骨がないとされた第I指と第IV指の中手骨の先端にはそれぞれ指骨が癒合していると考えられ、さらには第II、第III指の先端にも関節面がありそうであるという。Burch and Carrano (2012)は、指骨式1/ 2+/ 1+/ 1 としている。してみるとマジュンガサウルスとアウカサウルスは似ており、指骨の形が短く、もう1個くらい指骨があったとしても、爪があったかどうか疑わしい。典型的な獣脚類のような尖ったカギ爪はなさそうにみえる。



大きい画像

カルノタウルスについては、さらにやっかいである。カルノタウルスでは左右両方の手が発見されているが、どちらも完全ではなく、部分的に欠損したり分離した状態である。左手は撓骨・尺骨と関節しているが、各指の個々の骨は位置関係が乱れていて、元々の位置が保たれていない。スペインのRuizらは、カルノタウルスの左右両方の手の標本を詳細に再検討した(Ruiz et al., 2011)。その結果、Bonaparte (1990) の観察に加えて、カルノタウルスに固有の特徴を見いだしたという。それは1)最も顕著な特徴として第IV中手骨が大きく、手の中で最も大きい骨であり、先端は指骨との関節面をもたない尖った円錐形で終わっている、2)第II指、第III指の最も近位の指骨がそれぞれの中手骨よりも長い、3)第III指には末節骨の他には1個の指骨しかない、である。
 復元図を見ていただくと、まず中手骨は第I、第II、第IIIまでは同じような円柱形をしているが、第IV中手骨が異常に長く尖った形をしている。次に指骨については、第I中手骨の先端に関節面があるので1個以上は指骨があるはずだが、それは見つかっていない。第II指、第III指には長めの指骨があるが、第II指の指骨は途中で割れており、正確な長さはわからない。もちろん全部で何個あったかもわからない。第III指の第1指骨は縦に割れており、その先に円錐形の末節骨がある。この通りだとすると、カルノタウルスは末節骨であれ中手骨であれ、かなり尖った指先をもっていたことになる。これはマジュンガサウルスやアウカサウルスとは大きく異なる。ただし、Ruizらの結論となる復元図もかなり推測や解釈が含まれている。実際にこの復元では、同定できない2個の骨(1R, 2Rなど)が“余っている”(!)。
 ちなみに、アウカサウルスでは最も大きい骨は第I中手骨とされている。これが実は第IV中手骨であるとすると、その点はカルノタウルスと一致することになる。ところが、Burch and Carrano (2012)はカルノタウルスの第IV中手骨にも疑問を呈している。確かな関節状態のマジュンガサウルスやアウカサウルスでは中手骨は短いので、カルノタウルスの第IV中手骨とされる長い骨が中手骨であるとは考えにくいといっている。むしろこの骨は、先が尖っており、血管溝があることから、第II指か第III指の末節骨である可能性が高いと彼らは考えている。そうすると指のわりにずいぶん長い末節骨となるが、どうなのだろうか。マジュンガサウルスでもアウカサウルスでも第IV中手骨は指骨と癒合しているようなので、これらのアベリサウルス類では2つの骨が癒合する傾向があり、カルノタウルスではそれらが完全に一体化したと考えればよいのではないだろうか。



大きい画像

アベリサウルス類の前肢は、他のケラトサウルス類と比較して著しく短縮している。ケラトサウルスやリムサウルスの前肢では、上腕と前腕の比率は他の原始的な獣脚類と同様で、撓骨・尺骨の長さは上腕骨の1/3よりも大きい。アベリサウルス科ではすべて撓骨・尺骨が上腕骨の1/3以下である。アベリサウルス科の中では、マジュンガサウルスとカルノタウルスは撓骨・尺骨が上腕骨の1/4で、アウカサウルスはもう少し長くて上腕骨の1/3である。撓骨・尺骨の骨端が骨幹に比べて顕著に広がっていることもアベリサウルス類の特徴と考えられる。
 ケラトサウルスやリムサウルスの手では、近位の指骨がそれぞれの中手骨より短い、つまり中手骨の方が細長い。アベリサウルス類では中手骨が短縮して、指骨とあまり変わらない長さになっている。また、個々の指骨の形も、長さが幅より短いくらいにまで短縮している。マシアカサウルスやノアサウルスの分離した指骨も、同様に短い傾向があるという。リムサウルスの手では、第II指、第III指に比べて第I指と第IV指が極端に縮小しているので、リムサウルスの手の縮小はアベリサウルス類とは独立して生じたと考えられる。


参考文献
Burch, S. H. and Carrano, M. T. (2012). An Articulated Pectoral Girdle and Forelimb of the Abelisaurid Theropod Majungasaurus crenatissimus from the Late Cretaceous of Madagascar. Journal of Vertebrate Paleontology, 32(1): 1-16.

Ruiz, J., Torices, A., Serrano, H., and Lopez,V. (2011) The Hand Structure of Carnotaurus Sastrei (Theropoda, Abelisauridae): Implications for Hand Diversity and Evolution in Abelisaurids. Palaeontology, 54, Part 6, pp. 1271-1277.

Coria, R. A., L. M. Chiappe, and L. Dingus. (2002). A new close relative of Carnotaurus sastrei Bonaparte 1985 (Theropoda: Abelisauridae) from the Late Cretaceous of Patagonia. Journal of Vertebrate Paleontology 22: 460-465.
コメント ( 4 ) | Trackback ( 0 )