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スピノサウルスの腕



 この大スピノの前肢は、前腕が少し長くないだろうか。スピノサウルス類はトルボサウルスなどと同様に前腕が太短く、上腕骨の1/2くらいの長さとされてきた。従来のスコミムスや最近のアンガトゥラマの復元骨格もそうなっており、以前見たスピノサウルスの動刻でもそのように作られている。今回のスピノサウルスも骨格図では、上腕骨に比べて前腕は明らかに短い。つまり骨格図と復元キャストに違いがある。ラマンナ博士は、前肢・後肢はバリオニクスやスコミムスを参考にするよう指示したとある。しかしキャストは、忠実にその通りにはなっていないのではないか。名古屋市科学館でみたバリオニクスの前肢と比べてみると、やはり骨格図の方が近い。
 またこの大スピノでは、カギ爪の末節骨のカーブがゆるやかであるが、これは実際の標本に基づいているのだろうか。指骨の関節も3本ともかなりまっすぐ伸ばしてあって、オルニトミムス類かテリジノ風であった。なぜこんなに伸ばしたのだろう。

 バッキア氏の小スピノは、「フランケンシュタインの怪物」のようにバラバラの骨を集めて復元したものだから、正確な比率を論じても仕方がないのかもしれない。こちらの前肢はまあこんなものかな、とも思ったが、比率はともかく前腕の撓骨、尺骨の形自体がわりと細長いと思った。これは、成長途上の亜成体だからほっそりしているのだろうか。それともスピノサウルス類の中で、スピノサウルスは前肢が細長い方なのだろうか。こちらの骨格図をみると上腕骨、撓骨、尺骨とも発見されているようである。これらが同一個体のものと考えられるならば、重要な情報を含んでいることになるが、バラバラなのだろうか。もしこの復元骨格の通りのプロポーションとすれば、普通のカルノサウルス類のような前肢にみえる。
 もしもイタリア側の情報をもとに、大スピノの復元キャストも長めに修正したのであれば、そのように記述してほしいものであるが。


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恐竜博の図録

 仕事の方が忙しくなって、更新できずにいたが、死亡したのではありません。恐竜博関連の話題についてもすっかり時期を逸してしまったが、全く触れないのもなんなのでノート替わりに多少記録しておく。

2002年や2005年も獣脚類が多くてよかったが、今年の「恐竜2009砂漠の奇跡」もなかなか充実していたので、「消化する」のに時間がかかった。恐竜博の図録の内容も、うるさい恐竜ファンの希望(旺盛な知識欲?)に応えるべく、昔に比べるとよくなっていると思う。ただ、2005年に「ディロング」だったものが、いつのまにか「ディロン」になったりなど、表記の問題は仕方がないのだろうか。中国語のつづりを正確に発音すること自体、無理があると思う。ラテン語の読みに近くといっても、結局アルバートサウルスはアルベルトにはなっていない。
 「恐竜の正体」の項で、獣脚類の進化史が4ページで簡潔にまとめられているのは大変ありがたいことである。地球規模での「獣脚類の移動と放散の経路」が美しいマップにまとまっている。こうしてみると時空間的にイメージがわく。また文章中には属名が書かれていない部分を、ああ、これはあれのことだな、と当てながら読むのも楽しい。

 獣脚類の系統図は、ヘレラサウルスが中に入っているのでセレノの説であるが日本の恐竜博では伝統的にこうなっている。また執筆者が苦慮されたと思うのは、「ケラトサウルス類」は単系群とする説と単系群でないとする説の両方があるので、この系統図では単系でないのに、「ケラトサウルス類」とくくってある。巻頭に分岐分類で表記するとあるのに、違和感がある。説明する字数もないと思われるが、この系統図なら「コエロフィシス類」(コエロフィソイド)と「ケラトサウルス類」(ネオケラトサウリア)に分けて記述してもよかった。また、系統図の「カルノサウルス類」はアロサウルス類以外の「その他のカルノサウルス類」であろう。マニラプトル形類はオルニトミムス類からと思っていたが、ティラノサウルス類を含めて大半のコエルロサウルス類が含まれるという流れはここで知った。コンプソグナトゥス類をもっと内側にする意見もあるが、その場合は定義が異なるのだろうか。

ちなみに「獣脚類の移動と放散の経路」のマップの中では、デルタドロメウスは原始的なコエルロサウルス類になっている。
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