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ラハスヴェナトル:南米最古のカルカロドントサウルス類



ラハスヴェナトル・アスケリアエLajasvenator ascheriaeは、前期白亜紀ヴァランギニアン(Mulichinco formation)にアルゼンチンのネウケン州ラス・ラハス近郊に生息した南米最古のカルカロドントサウルス類で、2020年に記載された。南米にはギガノトサウルスからメラクセスまで、大型のカルカロドントサウルス類が複数知られているが、いずれも白亜紀中頃のもので、前期白亜紀の初め頃の知見はなかったため、それらの起源は不明であった。ラハスヴェナトルの発見により、ヨーロッパにネオヴェナトルやコンカヴェナトルが出現するよりはるか以前に、カルカロドントサウルス類は南アメリカを開拓していたことがわかった。

ホロタイプ標本と参照標本があり、頸肋骨の特徴から同一種とされている。
ホロタイプ標本は、吻の前端(前上顎骨と上顎骨の一部)、部分的な歯骨、部分的な夾板骨、関節した4個の頸椎(頸肋骨含む)、最初の胴椎、関節した9個の胴椎、断片的な仙椎、関節した4個の中央の尾椎、腸骨の一部、恥骨の一部からなる。
参照標本は、方形頬骨、歯骨の前端部、断片的な頸椎と頸肋骨、部分的な肋骨、ガストラリア、遠位足根骨からなる。

ラハスヴェナトルは中型の獣脚類で、以下のような固有形質をもつ。1)頸椎の前関節突起に前方突起がある、2)頸椎の後関節突起の側面に唇状の稜がある、3)頸肋骨の基部に二分岐した前方突起がある、である。
 また系統解析の結果からラハスヴェナトルは以下のような形質の組み合わせを示す。1)外鼻孔の下の前上顎骨が前後に長い(高さ/長さが0.5以下)、2)歯間板の表面に条線や稜がある、3)前上顎骨歯が比較的小さい、4)頸椎の前方の関節面に顕著な縁がある、などである。これらの形質はメガロサウルス類にみられるものであるという。

ラハスヴェナトルは推定4m程度の中型の獣脚類であるが、保存された脊椎の神経弓と椎体が完全に癒合していることから、成体と考えられる。

左の前上顎骨はほぼ完全に保存されている。前上顎骨が長いというのは鼻孔下突起subnarial processを含めてのことらしい。前上顎骨体premaxillary body (突起を除いた四角い部分)は長さと高さが大体等しいとある(長さは腹側縁で測る)。外鼻孔はかなり大きく後背方に傾いている。

左の上顎骨の前腹方部分が最初の7個の歯槽とともに保存されている。上顎骨の外側面は大部分が侵食されているが、保存のよい部分を見ると、ギガノトサウルスやマプサウルスのようなカルカロドントサウルス類に特徴的な、前腹方に傾いた溝や深く装飾された粗面がある。Promaxillary fenestra やmaxillary fenestraのある前眼窩窩の部分はほとんど保存されていない。歯間板の表面には縦の稜や溝がある。歯間板の高さは4番目と5番目の間が最も高く、それより後方では歯間板が癒合して一枚の板になっている。癒合した歯間板はアクロカントサウルスやカルカロドントサウルスなど他のカルカロドントサウルス類と似ている。
 参照標本には左右の歯骨の前端が保存されている。ラハスヴェナトルの歯骨の前端は、カルカロドントサウルス類に典型的な四角ばったsquared-off 輪郭を示し、前腹側突起anteroventral process(chin, おとがい)がある。

前上顎骨には4個の歯槽があり、上顎骨では7番目の歯槽まで保存されている。前上顎骨には3本の歯が保存されており、右側の3番、4番と左側の4番である。
 前上顎骨の歯槽の大きさは1番目が最も小さく、2番目が次に小さく、3番目が最も大きく、4番目は3番目よりわずかに小さい。上顎骨の歯槽は、最も前方では後方の前上顎骨歯と同じくらいで、5番目が最も大きい。歯槽の形から上顎骨歯はナイフ状であった。

系統解析の結果、ラハスヴェナトルはカルカロドントサウルス科Carcharodontosauridae の中の基盤的な位置で、コンカヴェナトルやエオカルカリアとポリトミーをなした。ラハスヴェナトルはコンカヴェナトルとは、胴椎に余分なcentrodiapophyseal laminaがあることを共有している。一方、ラハスヴェナトルはカルカロドントサウルスやギガノトサウルス類との間で、上顎骨の外表面に彫刻sculptureがあることを共有している。
 またラハスヴェナトルは、アロサウルス以外の多くのアロサウロイド(内容からカルカロドントサウリアをさすようだ)と、いくつかの形質を共有する。椎体にcamellate 内部構造があること、頚椎のプレウロシールに前腹方と後背方の2つの孔があることなどである。

ネオヴェナトルより古い時代の種類が、すでに上顎骨の装飾や歯骨の前端の「おとがい」をもっていたという点は興味深い。ギガノトサウルスやマプサウルスの角ばったアゴ先は、想像されていた以上に古い起源をもつということである。また成体で4mというのが新しい。カルカロドントサウルス類といえばネオヴェナトルのように、大体アロサウルスくらいの大きさからそのまま大型化したようなイメージがあるが、ティラノサウロイドのようにもっと小型の段階から徐々に大型化した過程があったのだろうか。あるいはラハスヴェナトルは最も小型の種類だったのかもしれないが、カルカロドントサウルス類の多様性が従来考えられたよりも大きかったのは確かだろう。



参考文献
Coria, R.A., Currie, P.J., Ortega, F., and Baiano, M.A. (2020). An Early Cretaceous, medium-sized carcharodontosaurid theropod (Dinosauria, Saurischia) from the Mulichinco Formation (upper Valanginian), Neuquen Province, Patagonia, Argentina. Cretac. Res. 111, 104319.
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スモック(スモク、スモーク)



昨年の三畳紀の爬虫類のときの、ボツ作品。
解説はDr. Polaris の動画、early archosaurians だったか、を見るのがわかりやすい。

三畳紀後期のポーランドの頂上捕食者で、これのものとされる糞化石の分析から、サイほどもある大型単弓類リソウィツィアや迷歯類などを捕食していたことがわかった。つまり、ティラノサウルスのように獲物を骨ごと噛み砕いて食べていた。

最初の記載論文では偽鰐類Pseudosuchia でもアヴェメタターサリアAvematatarsalia でもない、基盤的な主竜類とされたが、ラウイスクス類に過ぎないとの意見もあるらしい。ワニ系でも恐竜系でもない最強動物として、エキゾチックな魅力があると思ったが、ラウイスクス類とすればあまり面白くない。首をS字状に持ち上げると恐竜的になり、水平にするとワニ的になるが、これを描いた時は微妙に折衷案にしたのか。
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ルソヴェナトル:アロサウルスと共存したカルカロドントサウルス類



今年はジュラシックワールドのギガノトサウルスとメラクセスの記載で、カルカロドントサウルス類業界がいつになく盛り上がっている。誠に喜ばしいことである。カルカロドントサウルス類のイメージといえば巨大肉食恐竜で、カルカロドントサウルスやギガノトサウルスのように、ティラノサウルスに匹敵するか上回る巨体に大きな頭、ごつごつした頭骨の装飾、ナイフのように薄い歯といったところである。しかし白亜紀前期のネオヴェナトルの段階では頭骨にはそれほど特色はなく、脊椎や腸骨の含気性構造の発達などが先行していた。それではネオヴェナトルやコンカヴェナトルよりも前の祖先はどうだったのだろうか。

ルソヴェナトル・サントシLusovenator santosiは、後期ジュラ紀キンメリッジアンからチトニアンに、ポルトガルのルシタニア盆地Lusitanian Basinに生息した最古のカルカロドントサウルス類(カルカロドントサウリア)で、2020年に記載された。ホロタイプ標本はキンメリッジアンのPraia da Amoreira-Porto Novo Formationから、尾椎の特徴から暫定的に同種とされた参照標本はチトニアンのFreixial Formationから見つかっている。

ルソヴェナトルのホロタイプ標本は、残念ながら頭骨はなくて胴体の部分骨格であり、環椎・軸椎の一部、頸椎、分離した頸椎の神経棘、胴椎、仙椎の断片、尾椎、血道弓、肋骨の断片、右の腸骨、左右の恥骨、左右の座骨からなる。

他のカルカロドントサウルス類と区別されるルソヴェナトルの特徴のうち、固有形質は1)前方の胴椎の神経弓に、大きな窪みがある、2)中央の尾椎に、前関節突起の先端から後関節突起の後端まで延びるよく発達した軸方向の稜がある、3)腸骨の上寛骨臼突起supraacetabular crestが顕著な腹側方の棚状構造をなす、である。

系統解析の結果、ルソヴェナトルは最も古く分岐したカルカロドントサウリアのメンバーとなった。ここで気になるのは、この部分骨格においてどのへんがカルカロドントサウリアなのかということである。
 ルソヴェナトルがカルカロドントサウリアに含まれることを支持する共有派生形質は、1)前方の尾椎の腹側面に稜ventral ridgeがある、2)腸骨の内側面で寛骨臼の前の切れ込みpreacetabular notchに沿った部位に強く発達した稜がある、3)座骨と腸骨の関節面にpeg-and-socket構造がある、である。そうすると骨同士の結合や筋付着部の構造的な強化・高度化といった外見上はわかりにくい改善が進んだということか。

ジュラ紀後期の肉食恐竜といえば、北米のモリソン層ではアロサウルス、トルボサウルス、ケラトサウルスの3点セットである。この中ではアロサウルスが最も進歩的で、個体数も多く繁栄していた。ところが対岸の西ヨーロッパでは、これらに加えて次世代の肉食恐竜であるカルカロドントサウリアが出現していたということである。アロサウルスはジュラ紀末に絶滅し、カルカロドントサウリアは生き延びて白亜紀に発展をとげた。運命を分けた理由は何だったのだろうか。

蛇足かもしれないが、アロサウルス科とは何ぞや、という気もする。研究の進展とともにアロサウロイドの数は非常に増加したが、白亜紀のアロサウロイドはすべてカルカロドントサウリアであり、アロサウルス科は増えていない。アクロカントサウルスやネオヴェナトルは一時アロサウルス科とされたが、後にカルカロドントサウリアとなった。そして今、ジュラ紀末のアロサウロイドが加わったが、やはりカルカロドントサウリアの一部である。アロサウルスは北米で繁栄し化石が古くから発見されたために「科」となったが、アロサウルス上科の大きな系統進化の中で、アロサウルス(とせいぜいサウロファガナクス)はジュラ紀に分岐した枝に過ぎず、基盤的なカルカロドントサウリアの一部のようなものではないだろうか。

参考文献
Elisabete Malafaia, Pedro Mocho, Fernando Escaso & Francisco Ortega (2020) A new carcharodontosaurian theropod from the Lusitanian Basin: evidence of allosauroid sympatry in the European Late Jurassic, Journal of Vertebrate Paleontology, 40:1, e1768106, DOI: 10.1080/02724634.2020.1768106
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マイプ対ピクノネモサウルス



最大のメガラプトル類と最大のアベリサウルス類、夢の競演。

どちらも想像というところが痛いが、夢だから。

社交ダンスしているのではなく、メガラプトル類としては背後から抱きつくようにして首の血管を切り裂く、必殺技を仕掛けようとしている。でも優しくエスコートしているようにも見えてきた。
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