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カルカロドントサウルス・イグイデンシスも解体される?


これは多分サハリクス

Brusatte & Sereno (2007) によるカルカロドントサウルス・イグイデンシスの模式標本は、ニジェールのEchkar Formation産の分離した上顎骨である。参照標本(部分的な頭骨と脊椎骨)はホロタイプの上顎骨から3 km 離れた地点で見つかったもので、上顎骨は含まれていない。Brusatte & Sereno (2007)は、それらの形態がカルカロドントサウルス・サハリクスとよく似ていることと、同じ地層に3種類(ルゴプス、スピノサウルス類、カルカロドントサウルス・イグイデンシス)以上の大型肉食恐竜がいたことはありそうにないとして、それらの骨をカルカロドントサウルス・イグイデンシスとした。しかし、それに対してChiarenza and Cau (2016) は、ある地層で大型肉食動物の種類が3つに限定される理由はなく、また重複する骨がない場合、同じ層から見つかったすべてのカルカロドントサウルス類の標本を同一種とする理由もないといっている。つまり参照標本はカルカロドントサウルス・イグイデンシスとは限らないというわけである。実際にこの参照標本に含まれる頸椎は、シギルマッササウルスあるいは近縁のスピノサウルス類と考えられることが指摘されている。
 カルカロドントサウルス・イグイデンシスの参照標本のうち、歯骨と脳函は狭い範囲の中で近接して見つかったことから、同一個体のものと考えられる。これらはカルカロドントサウルス科の共有派生形質はもっている。しかし、カルカロドントサウルス亜科(カルカロドントサウルスとギガノトサウルスを含む)の共有派生形質は欠いているという。それらは1)前頭骨の涙骨との関節面が肥厚している、2)上側頭窩の前内側面が深くえぐれている、3)三叉神経の神経孔が項稜nuchal crestよりも後方にある、である。この3つはカルカロドントサウルス・サハリクスとギガノトサウルスのみに共通している。
 カルカロドントサウルス・イグイデンシスとされる脳函は、これらの3つの形質についてアクロカントサウルスなどのより原始的なカルカロドントサウルス類と同じ状態であり、カルカロドントサウルスではなく、もっと基盤的なカルカロドントサウルス類の可能性がある。
 Brusatte & Sereno (2007)はこれらの点についてカルカロドントサウルス・イグイデンシスの固有形質である(原始状態への逆戻りreversal)といっているが、Chiarenza and Cau (2016) はキメラの可能性を避けるため、カルカロドントサウルス・イグイデンシスの名称はホロタイプの上顎骨に限定すべきであるといっている。
というわけで最悪の場合、
 ホロタイプの上顎骨―――――カルカロドントサウルス・イグイデンシス
 歯骨と脳函―――――――――より基盤的なカルカロドントサウルス類
 頸椎――――――――――――シギルマッササウルスまたは近縁のスピノサウルス類

というように解体される可能性もあるということである。もちろんBrusatte & Sereno (2007)の言う通り同一種の可能性もある。しかし同一個体でない標本は、常にこういう可能性も考慮して注意深く扱う必要があるということだろう。

どこかで聞いたような。軽いデジャヴを覚える。Sereno & Brusatte (2008) のアベリサウルス類、クリプトプスも上顎骨と胴体の骨は離れた場所から見つかっている。この上顎骨は胴体に比べて少し小さいのだが、Sereno & Brusatte (2008)はアベリサウルス類ではカルノタウルスのように頭骨が小さいものもいるので、おかしくないと述べていた。しかし最近のアベリサウルス類の論文では、クリプトプスはキメラとして扱われていることが多い。クリプトプスは上顎骨に限られ、胴体の骨(神経棘が高い)は恐らく共存していたカルカロドントサウルス類エオカルカリアのものではないか、ともいわれている。


参考文献
Chiarenza, A. A. and Cau, A. (2016). A large abelisaurid (Dinosauria, Theropoda) from Morocco and comments on the Cenomanian theropods from North Africa. PeerJ 4:e1754; DOI 10.7717/peerj.1754
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カルカロドントサウルスもすごい




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カルカロドントサウルス類のイラストを描きたい場合に、断片的な標本しかない種類だと想像図になってしまうので、いまひとつ盛り上がらない。サウロニオプスを描かないのはそのためである。ギガノトやマプも関節状態ではない。頭骨については、カルカロドントサウルスとアクロカントサウルスがいかに貴重なものであるかわかる。あとはコンカヴェナトルである。



上野の科博で常設展示されていたカルカロ頭骨は、リニューアルで引退してしまった。このSereno et al. (1996) のネオタイプは、前上顎骨、鱗状骨、方形頬骨、方形骨が見つかっていないが、あとはほとんど完全なものである。下顎は見つかっていない。歯骨があるのはイグイデンシスである。



福井に展示されているカルカロ頭骨は別物で、2010年に大阪のゴンドワナ展で展示されたもののようだ。今年のヨコハマ恐竜博でウェブサイトには載っていたが、製作が間に合わなくて展示されなかった(スタッフの方に訊いた)のは、もしかしてこれと同じものだろうか。これも大変迫力がありすばらしいが、どの部分がオリジナルなのだろうか。ある程度の部分が見つかっていて、あとは復元したもののように見える。額のあたりがちょっと凹んでいるのは「ティラノ化」されていることはないだろうか。

カルカロドントサウルス類の頭骨は、幅が狭く丈が高い形をしている。獲物に咬みついた際の衝撃に対して、それなりに頑丈にできているはずだ。ティラノサウルスには及ばないとしても、他の肉食恐竜と比べてどうなのだろうか。

 Snively et al. (2006) は、ティラノサウルス類の摂食装置(歯、鼻骨、頭蓋)がカルノサウルス類に比べて頑強であることを定量的に表した研究をしている。ティラノサウルス類では左右の鼻骨が癒合し、丸天井のように盛り上がっているvaultedことが、強度を高めているというのが中心で、詳しく記述されている。ゴルゴサウルス、アルバートサウルス、ダスプレトサウルス、ティラノサウルスと大型化するにつれて、ティラノサウルス類では鼻骨の強度が指数関数的に増加しているという。それに対してアロサウルス(小、中、大)では直線的に増加しているに留まる。鼻骨についてはコントロール(比較対照)としてアロサウルスだけを用いているので、さらに大型のカルノサウルス類のデータはない。
 次に著者らは、頭骨(頭蓋)全体の強さを比較している。頭蓋全体の形状をコンピュータ上に取り込み、3Dモデルを作成した。その多数の横断面について、台形(殻のような形の断面なので枠状)で近似して断面積や断面二次モーメントを計算した。断面二次モーメントsecond moment of areaは、構造力学の用語で、曲げようとする力に対する梁などの変形のしにくさを表した量である。この場合、上下方向(背腹)の曲げに対する強さと左右方向(内外側)の曲げに対する強さの2通りがある。また、捻るような変形に対する強度は「断面二次極モーメント」で表されるという。
 結果は図のグラフのようになり、一般にティラノサウルス類の頭蓋は同じ大きさのカルノサウルス類の頭蓋と比較して、より大きい断面二次モーメントをもつ。特にティラノサウルスではその傾向が増幅されたもので、どの指標をみてもアクロカントサウルスやカルカロドントサウルスを引き離している。しかし逆にいうと、ティラノサウルス類とカルノサウルス類のラインはダスプレトサウルス以下ではほとんど重なっている。つまりティラノサウルスは確かにすごいが、明らかにティラノサウルス類がカルノサウルス類より頑丈となったのはダスプレトより後ということになる。ゴルゴサウルスの頭蓋は少し大きいアロサウルスの頭蓋よりも頑丈であるが、それは原始的なシンラプトルと同様のレベルである。より大きいアクロカントサウルスの頭蓋はダスプレトサウルスの頭蓋よりも頑丈であることになる。頭蓋の形状については結構そんなものなんだ、というのが感想である。
 左右方向の曲げに対する強さIyでは、ティラノサウルス類(というよりティラノサウルス)の頑丈さが圧倒的であるが、これは吻や後頭部の幅が広いことから納得できる。リスロナクスなども強いのかもしれない。しかし、上下方向の曲げに対する強さIzでは、ティラノサウルス類とカルノサウルス類のラインの差はより小さい。つまり、大型カルカロドントサウルス類が健闘している。この方向の頑丈さでは、カルカロドントサウルスが小さめのティラノサウルスを上回っている。大きさでカバーする面はあるがアクロカントサウルスでさえダスプレトサウルスよりは勝っている。



図 左右方向と上下方向の断面二次モーメントと断面二次極モーメントの比較
Gl: ゴルゴサウルス・リブラトゥス、Dt: ダスプレトサウルス・トロスス、Tr: ティラノサウルス・レックス、Af: アロサウルス・フラギリス、Sd: シンラプトル・ドンギ、Aa: アクロカントサウルス・アトケンシス、Cs: カルカロドントサウルス・サハリクス
Copyright: Snively et al. (2006)

著者ら自身が述べているが、この解析は、有名なRayfield らのアロサウルス頭骨の有限要素解析ほど緻密なものではなく、かなり粗い近似かもしれない。ここで用いた殻状モデルshell-like modelは、頭骨にあいた孔(窓)や関節、口蓋を考慮していない。実際はカルノサウルス類の方が前眼窩窓などの孔が大きい。またティラノサウルス類では二次口蓋が強度を高めているという。頭蓋の3次元形状だけに注目して比較すると、上記のようになるということである。よって孔なども含めて考えるとティラノサウルス類の方がさらに頑丈となるのかもしれない。しかしカルノサウルス類の場合は、頭骨を軽量化しつつなるべく強度を保つという必要に対する最適解のはずだ。

さらに頭蓋の形状だけでなく歯や鼻骨の形も考慮すると、ティラノサウルス類の方が骨までかみつぶす摂食様式に適応していることは間違いない。ただしそれはそもそも戦略の違いであって、カルカロドントサウルス類はコストをかけて骨まで砕く必要はなく、肉を切り取ることに専念すればよかった。そのような環境に適応して進化したともいえるかもしれない。ティラノサウルス類が頂上捕食者として台頭したのはカンパニアン以後であり、白亜紀の大部分はカルカロドントサウルス類の時代であったことは繰り返し指摘されている。ティラノサウルスを讃えるばかりではなく、カルカロドントサウルス類も正当に評価されるべきである。


参考文献
Snively, E., Henderson, D.M., and Phillips, D.S. (2006). Fused and vaulted nasals of tyrannosaurid dinosaurs: Implications for cranial strength and feeding mechanics. Acta Palaeontologica Polonica 51 (3): 435-454.
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ティランノティタン補足



写真はカルカロドントサウルス・サハリクスの上顎骨。孔は1個しかない

カルカロドントサウルス亜科の共有派生形質の1)については、論文の補足資料Appendix S2に解説がある。多くのテタヌラ類では上顎骨の前眼窩窩にpromaxillary foramen と maxillary fenestra の2つの孔がある。アクロカントサウルスなどでは、さらに余分の孔accessory fenestraがある。一方、カルカロドントサウルス亜科のギガノトサウルスやカルカロドントサウルスでは、1個の孔しかない。これをpromaxillary foramen とするか maxillary fenestraとするかの解釈について、これまでの経緯を説明している。
 Sereno et al. (1996) と Brusatte and Sereno (2007) は、カルカロドントサウルス・サハリクスとカルカロドントサウルス・イグイデンシスの前眼窩窩の前方にある孔はmaxillary fenestraであり、promaxillary foramenはないと考えた。Coria and Currie (2006)もマプサウルスの研究で同じようなことを述べており、この孔はmaxillary fenestraに相当するだろうといっている。しかし彼らは系統解析の中では、マプサウルス、ギガノトサウルス、カルカロドントサウルスの状態を「promaxillary foramenのみがある」とコードしている。Currie and Carpenter (2000) は、ギガノトサウルスやカルカロドントサウルスにおける位置から、この孔はpromaxillary foramenと相同ではないかと提唱している。さらにCanale (2010) は、マプサウルス、ギガノトサウルス、カルカロドントサウルスにみられる状態は、成長過程でmaxillary fenestraが二次的に退化し、promaxillary foramenだけが残ったものと解釈している。そのため系統解析の形質状態として「maxillary fenestraの二次的な退化によりpromaxillary foramenだけがある」を追加している。


カルカロドントサウルス亜科の共有派生形質の4)interorbital septum はまた難しい。眼窩間中隔interorbital septumとは、脳函の腹側前方にある構造らしい。爬虫類の脳函の基本構造を勉強しないと十分理解できないが、ギガノトサウルスの脳函の論文(Coria and Currie, 2002)には一応、図が載っている。それによると、interorbital septumは蝶形篩骨sphenethmoidの近くにある。また前方にcultriform processという骨がある。
 アクロカントサウルス、アロサウルス、シンラプトルなど多くの獣脚類では、sphenethmoidとcultriform processの間は離れている(つながっていない)。一方、カルカロドントサウルスとギガノトサウルスでは、sphenethmoidとcultriform processの間が骨化したinterorbital septumでつながっているという。同様の状態はアベリサウルスとカルノタウルスにもみられるという。


参考文献
Canale et al. (2015) Appendix S2

Coria, R. A., and P. J. Currie. 2002. The braincase of Giganotosaurus carolinii (Dinosauria: Theropoda) from the Upper Cretaceous of Argentina. Journal of Vertebrate Paleontology 22:802–811.


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ティランノティタン




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南米のカルカロドントサウルス類といえば、ギガノトサウルスとマプサウルスが有名でメディアにも紹介され、フィギュアなども作られている。その陰にかくれてマイナーな存在に留まっているのがティランノティタンである。
ティランノティタンは、白亜紀前期アルビアン(Cerro Castano Member, Cerro Barcino Formation)にアルゼンチンのチューブート州に生息したカルカロドントサウルス類で、2005年にNovasらによって記載された。その後、2015年に(オンラインが2014、紙が2015)詳細な骨学的記載が出版され、新たにカルカロドントサウルス類の系統解析も行われている(Canale et al. 2015)。(Cerro Castano はカスターニョ)

ホロタイプは一部が関節した部分骨格で、2本の歯が保存された右の歯骨、左の歯骨、関節した第2から第7胴椎、第8から11胴椎、第14胴椎、第1仙椎、前方の尾椎、左の肩甲烏口骨、右の上腕骨、左右の撓骨、断片的な腸骨、座骨、恥骨、左右の大腿骨、左の腓骨、6本の血道弓と腹肋骨の断片からなる。
 パラタイプは右の頬骨、右の方形頬骨、右の歯骨、2本の分離した歯、第7頸椎、第1胴椎、第4胴椎、第6から8胴椎、第12から14胴椎、分離した神経棘、部分的な仙骨、後方の尾椎、肋骨、血道弓、右の大腿骨、左の第2中足骨、左の指骨II-2, II-3, IV-2, IV-3 からなる。

Novas et al. (2005) はティランノティタンの特徴として①歯の前縁(近心)に二分岐した鋸歯bilobated denticlesがある、②歯骨の内側前方に深い溝がある、③後方の胴椎の神経棘に強く発達した靭帯付着痕がある、を挙げていたが、その後の研究で②と③は他のカルカロドントサウルス類にもみられることがわかり、ティランノティタンの固有の特徴から除外された。Canale et al. (2015) ではティランノティタンの特徴として、①に加えて新しく1)2)3)4)の4つを挙げている。
 ①の二分岐した鋸歯は、ティランノティタンのすべての歯にみられるわけではなく、ホロタイプの保存された歯と分離した歯の一部にみられた。よってこれは種内変異や病理的特徴かもしれないが、他の獣脚類にはみられないので、いまのところティランノティタンの特徴として保持されるといっている。
 おそらく最もわかりやすい特徴は、1)歯骨の前端の縁(下顎結合縁symphyseal margin)が側面からみて前腹方-後背方に傾いている、である。派生的なカルカロドントサウルス類では下顎の歯骨の前端が四角ばっている。この前端の垂直な面が、ティランノティタンではわずかに上を向いている。この形質はすべてのカルカロドントサウルス類を含めて他の獣脚類にはみられず、ティランノティタンではホロタイプとパラタイプの両方の歯骨にみられるという。標本の写真をみると確かにそうなっている。ただし、ホロタイプでははっきりしているが、パラタイプでは微妙な傾きである。論文ではパラタイプの歯骨、頬骨、方形頬骨をギガノトサウルスのような頭骨復元図にあてはめているが、この頭骨復元図では歯骨の前端が傾いていることはほとんどわからない。この特徴も下顎のアップならば表現できるかもしれないが、全身の生体復元像で無理に特徴を表現しようとすると、かえって不自然かもしれない。
 2)3)4)はかなり難解で、2)第2と第3胴椎に前方と後方のcentrodiapophyseal laminaeをつなぐ、よく発達したaccessory laminaeがある、3)大腿骨幹のfibular fossaが近位側へ延びている、4)腓骨のproximomedial fossaの前縁が後方に突出している、である。



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Canale et al. (2015) は新しく得られたティランノティタンのデータを含めて、カルカロドントサウルス類の系統解析を行っている。これまでの系統解析では、ティランノティタンはカルカロドントサウルス科の中で比較的基盤的な位置に置かれるか、他のカルカロドントサウルス類とポリトミーをなすことが多かった。
 今回の解析では、ティランノティタンはカルカロドントサウルス科の中でも派生的なものであり、ギガノトサウルスとマプサウルスからなるクレードと姉妹群をなした。そしてギガノトサウルス、マプサウルス、ティランノティタンの3種がギガノトサウルス族Giganotosauriniをなすとしている。ギガノトサウルス族は2つの共有派生形質で特徴づけられる。その1つは、頬骨の後眼窩骨突起の基部が幅広いことである。アロサウルス、アクロカントサウルス、カルカロドントサウルスなどでは、頬骨の後眼窩骨突起は細長く、高さが基部の長さの2倍以上ある。マプサウルスとティランノティタンでは、高さが基部の長さの2倍より小さい。もうひとつの共有派生形質は、大腿骨遠位端の伸筋溝extensor grooveが浅く幅広いことであるという。
 ギガノトサウルス族とカルカロドントサウルス(2種)は姉妹群をなし、これらを合わせてカルカロドントサウルス亜科Carcharodontosaurinaeをなすとしている。これらは巨大で派生的なゴンドワナ産のカルカロドントサウルス類である。カルカロドントサウルス亜科は、頭骨に関する4つの共有派生形質により支持される。1)上顎骨の前眼窩窩にはpromaxillary foramenだけがある、2)上顎骨表面の彫刻external sculpturingが上顎骨の本体を覆っている、3)鼻骨の前半部に強い粗面と隆起がある、4)眼窩間中隔interorbital septumがありよく骨化している、であるという。
 カルカロドントサウルス科Carcharodontosauridaeは、18の共有派生形質により支持される。この中には、上顎骨の後方の歯間板が完全に癒合している、上顎骨の前眼窩窩の前縁が四角ばっている、鼻骨の外側縁が全長にわたって平行、左右の前頭骨が癒合している、前頭骨が頭頂骨と癒合している、涙骨と後眼窩骨が接している、後眼窩骨に眼窩下フランジがある、後眼窩骨に眼窩の上に強く張り出した隆起がある、後眼窩骨の背方の隆起の前半だけに血管溝がある、などが含まれている。
 そうすると、頭蓋天井の強化や後眼窩骨の突起など「目つき」に関する特徴は比較的古くカルカロドントサウルス科全体に共通していて、顔の表面がごつごつしているのは派生的な特徴と考えればよいだろう。

参考文献
Juan Ignacio Canale, Fernando Emilio Novas & Diego Pol (2015) Osteology and phylogenetic relationships of Tyrannotitan chubutensis Novas, de Valais, Vickers-Rich and Rich, 2005 (Theropoda: Carcharodontosauridae) from the Lower Cretaceous of Patagonia, Argentina, Historical Biology, 27:1, 1-32, DOI: 10.1080/08912963.2013.861830
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コンカヴェナトル2014




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コンカヴェナトルの前肢の尺骨には、羽軸こぶquill knob状の構造があり、羽毛のような繊維状構造があったと考えられている。なぜ前肢のこの部位に、長い羽毛などの繊維状構造が発達したのだろうか?
 二足歩行の獣脚類にとって前肢は自由に動かせる部分であり、よってディスプレイ用の装飾構造を備えるのに適した部分だから、あるいはオヴィラプトル類のように抱卵のために腕に長い羽毛をもつことが有利だったから、といった生態学的な説明は古生物学でよくなされる。これらは目的論あるいは機能論的な説明である。また、ヴェロキラプトルの場合は、祖先のパラヴェス類が樹上性で小型の滑空動物だったから、その名残りである、とも考えられる。これは歴史的な説明である。しかし実際にこれらの恐竜の体の中で、前肢のこの部分に特に長い羽毛が生える理由、つまり機械論的なメカニズムについては、推測するしかないだろう。ある特定の動物の系統に特異的な形態形成の機構について、重要な手がかりを与えてくれるのは進化発生学である。

つい最近、東北大学の田村教授のグループによる非常に興味深い研究が報告されたので、簡単に紹介したい。鳥類に特徴的な形態とゲノムを結びつけようという試みである。
 現在では多くの生物について全ゲノム情報が蓄積しつつある。鳥類については、つい最近まで3種の鳥(ニワトリ、シチメンチョウ、フィンチ)の情報しかなかったが、最近、中国のゲノム研究機関BGIによって45種の鳥類の全ゲノム配列が決定された。これは大変な仕事で、哺乳類でもまだ二十数種のゲノム情報しかないという。そこで研究チームは、これら48種の鳥類で保存されていて、かつ鳥類以外の9種の脊椎動物にはないゲノム配列を抽出した。つまり鳥類に共通していて、かつ特徴的なゲノム配列を取得したわけである。多数のゲノム配列が得られたが、その多く(70%以上)はエクソンやイントロンではなく、遺伝子間配列であった。つまり遺伝子そのものではなく、遺伝子の発現を制御するエンハンサーなどの制御領域(シスエレメント)が多いということである。
 次に、そのうち100個のゲノム配列の近傍にある遺伝子を探索した。ゲノム配列の上流、下流10kb以内で直近の遺伝子を同定した。次いで、その100種の遺伝子について、ニワトリ胚を用いたin situ発現スクリーニングを行った。つまり100種類のプローブを作り、in situ hybridizationでニワトリ胚での遺伝子発現パターンを観察するわけである。田村研の主な興味は四肢の発生にあるので、その中から四肢の原基(肢芽)で発現し、特異的なパターンを示すものを選択した。さらに、それらの中で、マウス胚やヤモリ胚の肢芽には発現しない遺伝子、つまりニワトリ胚に特異的なものを探すと、4種類の遺伝子が得られた。
 そのうち1個の遺伝子Sim1は、マウスなどでは体節や腎臓などで発現することが知られている。Sim1は、マウス胚やヤモリ胚の肢芽には発現しないが、ニワトリ胚では肢芽の後縁の、風切り羽の生える位置に特異的に発現していた。Sim1の発現する部位では、羽毛原基で発現するShhやBMP4といった遺伝子の発現がみられた。(ただしShhやBMP4は羽毛原基のできる場所なら全身どこでも発現するものである。)そしてSim1の近傍のゲノム配列は、48種の鳥類の間では非常によく保存されていた。カメ、ワニでもある程度の相同性がみられた。その他の脊椎動物では、アライン(なるべく相同性が高い部分が一致するように並べること)できないくらい似ていなかった。ワニなどの主竜類で前兆がみられることから、この配列はトランスポゾンのように突然挿入されたものではなく、祖先の主竜類で徐々に獲得されてきたものだろう、という。
 羽毛の起源を論じる際に、ワニの四肢にある大きめのウロコが云々という話がされてきた。カメ、ワニのゲノム配列にもある程度兆しがあるということは、これがあながち無関係ではないことを意味するかもしれず、大変興味深いことである。現生動物の中で鳥類に特徴的なゲノム配列ということは、その中に恐竜に特徴的なゲノム配列が多数含まれているはずである。その意味でも、このラインのプロジェクトは注目に値する。少なくとも風切り羽をもっていた獣脚類では、この部分にSim1の発現があり、特別な羽毛が生える位置を指定することができたのだろう。コンカヴェナトル胚の前肢芽にもSim1の発現があった可能性は高い。

参考
田村宏治「鳥類を特徴づける形態と発生機構とゲノム配列」第37回日本分子生物学会年会、2014. 11. 26

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ケルマイサウルス




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ケルマイサウルスは、白亜紀前期バランジュ期からオーブ期(リャンムギン層Lianmugin Formation)に、中国新疆ウイグル自治区ジュンガル盆地に生息したカルカロドントサウルス類である。化石は断片的で、上顎骨の一部と完全な歯骨だけが知られている。
 白亜紀前期のアジアからは大型獣脚類の化石記録が乏しく、同時期の他の大陸の大型獣脚類との比較が困難であった。この時代の貴重な大型獣脚類化石の一つとして、Dong (1973)が記載したケルマイサウルス・ペトロリクスKelmayisaurus petrolicus という上顎骨と歯骨があった。Holtz et al. (2004)はこれを系統不明の基盤的テタヌラ類としたが、Rauhut and Xu (2005) は「模式標本が断片的で、同定可能な形質を欠く」としてケルマイサウルスを疑問名とした。その後、この貴重な化石はアジアの獣脚類の研究から忘れ去られてしまっていた。そこでBrusatte et al. (2012)は、ケルマイサウルスの模式標本を再記載し、初めて詳細な解剖学的記載および他の獣脚類との比較を行った。その結果、ケルマイサウルスは固有の形質をもった、分類学的に有効な種であることがわかった。また系統解析の結果、ケルマイサウルスはカルカロドントサウルス科の一員であることがわかり、シャオチーロンに続いてアジアで2番目のカルカロドントサウルス類となった。

ケルマイサウルスは、歯骨の外側面の前方に、深く刻まれた背側に凹形の溝がある、という固有形質をもつカルカロドントサウルス類である。またケルマイサウルスは、他のどのアロサウロイドにもみられない、ユニークな形質の組み合わせを示す。上顎骨の歯間板の上下の丈が、前後の幅の2倍以上大きいこと、上顎骨に顕著な前方突起があること、そして歯骨の前腹方の「おとがい状」 chin-like の突起がないこと、である。

上顎骨としては、左の上顎骨の前方部分(上方突起の基部から前方)だけが保存されている。はっきりした前方突起が存在する。ケルマイサウルスでは、前方突起の前後の長さ(70 mm)が背腹の高さ(100 mm)より少し小さく、アロサウルス、ネオヴェナトル、モノロフォサウルスに似ている。一方、カルカロドントサウルスやマプサウルスのようなカルカロドントサウルス類では、前方突起は長さよりも高さの方がずっと大きく、はっきりした突起として認めにくい。
 上顎骨はひどく浸食されているが、いくつかの部分では本来の骨の表面が保存されている。外側面では、最もよく保存された部分をみると骨表面は滑らかであり、アベリサウルス類やカルカロドントサウルスのような派生的カルカロドントサウルス類にみられる粗面はない。また腹側縁から約15 mm上方に神経血管孔の列がある。
 上顎骨の内側面は保存が悪く、歯間板はあちこちで破損しているが、歯間板が癒合して一枚の板になっていることはわかるという。ケルマイサウルスでは歯間板の丈が高く、丈の高さが前後の長さの約2倍ある。これはアクロカントサウルス、カルカロドントサウルス、ギガノトサウルス、マプサウルスのような派生的なカルカロドントサウルス類と同様である。それに対してネオヴェナトル、アロサウルス、シンラプトルのような他のアロサウロイドではもっと丈が低い。
 上顎骨には6個の歯槽の痕跡があり、そのうち4個は保存がよい。4番目の歯槽には成長中の置換歯が保存されている。この歯は70 mm の長さで、前縁が強くカーブし後縁はほとんどまっすぐであるが、残念ながらエナメルのしわのような表面の詳細な構造はわからないという。

左の歯骨はよく保存されており、前端と後端のみが少し欠けている。派生的なカルカロドントサウルス類では、顕著なおとがい状の前腹側突起 anteroventral process があるために、歯骨の前端が拡がって四角張っているが、ケルマイサウルスでは前腹側突起がなく、前端は拡がっていない。
 歯骨のほとんどの部分で本来の骨表面が保存されている。主要な神経血管孔の列がはっきりしており、これらは後方では深い神経血管溝 primary neurovascular groove に沿って並んでいる。ケルマイサウルスではこの溝が、特に深くくっきりしている。これはある種のメガロサウロイドやいくつかのカルカロドントサウルス類と同様である。アロサウルスとネオヴェナトルではこのような顕著な溝はない。さらに、5番目の歯槽より前方にも顕著な溝 anterior accessory groove がある。この溝の中には4個の孔がある。この溝は他の基盤的テタヌラ類にはみられないもので、ケルマイサウルスの固有形質と考えられる。
 歯骨には15個の歯槽があり、前端の欠けた部分にもう1個あったと思われる。どの歯槽も楕円形で、幅より前後の長さがずっと大きい。萌出した歯も成長中の歯も保存されていないが、歯槽の形からみると派生的なカルカロドントサウルス類のように、側扁した歯だったかもしれないという。


参考文献
Brusatte, S.L., Benson, R.B.J., and Xu, X. (2012). A reassessment of Kelmayisaurus petrolicus, a large theropod dinosaur from the Early Cretaceous of China. Acta Palaeontologica Polonica 57 (1): 65-72.
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丸ビルでアクロカント(その2)

(文章が急に常体になるが、気にしない。)
 ところでこのアクロカントサウルス骨格は、Currie and Carpenter (2000)の研究に基づいて作製されたはずである。頭骨もその通りになっている。後眼窩骨の眼窩内突起intraorbital process (iop)はあまり目立たない角(カド)になっている(ピンクの矢印)。涙骨側の突起の方が目立つ感じである。一方、最新の研究(Eddy and Clarke, 2011)では眼窩内突起はかなり複雑な形となっている(下図、前の記事の頭骨全体図も参照)。論文にもあまり詳しくは書かれていないが、母岩に埋まっていたということか。反対側の後眼窩骨や他の標本では壊れているとある。





 また、皆さんはちゃんと左右両側から観察されただろうか。
上顎骨の前眼窩窩にはpromaxillary fenestra とmaxillary fenestraの他に余分のaccessory fenestra (foramen) がある。promaxillary fenestra とmaxillary fenestraは左右で同じ位置にあるが、accessory fenestraの位置は左右非対称である(写真と図)。このような頭骨の含気孔の非対称性は、獣脚類では珍しくなく、シンラプトルにもみられるという。










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丸ビルでアクロカント(その1)



 東京・丸の内の丸ビルで、「大恐竜展 in 丸の内2012」という小規模のイベントがありました。福井県立恐竜博物館のコレクションから一部を紹介するもので、丸ビル側としては集客イベント、博物館は首都圏から地元に観光客を誘致したいのでしょう。昨年の東京タワーよりもずっと小規模ながら、オープンスペースで入場無料ということは丸ビル側が費用を出したのでしょうか。ともあれ恐竜が1体でも2体でも、東京で見られるということは首都圏在住の恐竜ファンにとってはありがたいことです。丸ビルのマルキューブ会場ではアクロカントサウルス、プテラノドン、アロサウルス頭部、CG映像、丸の内オアゾ会場にはフクイサウルス動刻、フクイラプトル骨格、両者の化石レプリカといったところでした。先日アクロカントサウルスの文献を読んだところなので、行かない手はないと。



メインはアクロカントサウルス全身骨格で、東京タワーでは背中の棘突起が天井につかえて痛かったのですが、今回の会場(以前クリオロフォも来た)は吹き抜けなので、のびのびしていました。よかったね。
 シンラプトルやヤンチュアノサウルスも棘突起が長めであることを考えると、元々はディスプレイなどではなく、胴が長めのテタヌラ類が大型化する際に、体を安定に支えるための適応のようにも思える。





 幕張や上野の場合と違って無料でもあり、やはり気軽に立ち寄った人が多いようでした。通りすがりの親子連れは子どもの写真を撮るとすぐ立ち去ってくれるので、撮影するにはあまり問題ありません。時間帯によって照明が変わるようで、スポットライトが逆光になると難しい。
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アクロカントサウルスの頭骨の新しい情報




Copyright: 2011 Eddy, Clarke.

 過去の記事にもあるように、アクロカントサウルスの系統上の位置については、アロサウルス科とする意見とカルカロドントサウルス科とする意見があって一致していなかった。最近の系統研究の流れでは、カルカロドントサウルス科という見解が定着してきている。

 アクロカントサウルスの最も保存の良い頭骨の標本NCSM 14345については、 Currie and Carpenter (2000) によって記載されたが、当時はまだクリーニング(プレパレーション)が不完全で、頭骨の個々の骨は分離しておらず、内部に堆積物が詰まっていた。そのため、主に頭骨の外側の形態だけが記載された。その後、ブラックヒルズ地質学研究所とノースカロライナ自然科学博物館によりプレパレーションが進められ、個々の骨が完全に分離された。そこで今回、著者らはほぼ全ての骨について、これまで観察できなかった内面や関節面の形態学的特徴を記載した。また、新たにアロサウロイドの系統解析に有用な24の形質を見いだし、従来用いられた153の形質と併せて、18種類の獣脚類について系統解析を行った。その結果、最近のいくつかの系統解析と同様に、アクロカントサウルスはカルカロドントサウルス科に含まれるという結果が得られた。

 すでに相当研究されている種類ではあるが、今回の新しい知見を追加した研究もまた、膨大な作業を含む労作である。またシャオチーロンやコンカヴェナトルなどの新しいカルカロドントサウルス類との比較もされているので興味深い。本文は、従来記載されていなかった特徴に重点をおいて記載されている。

 鼻骨の表面では、外鼻孔の周りに鼻孔窩narial fossaという浅いくぼみがあって、後背方にのびている。この鼻孔窩narial fossaは、アクロカントサウルス、カルカロドントサウルス、コンカヴェナトルでは細長くなっている。一方シンラプトル、アロサウルス、ネオヴェナトル、モノロフォサウルスでは鼻孔窩はもっと丸く、卵形をしている。
 鼻骨の側方稜lateral ridgeは、ギガノトサウルス、マプサウルス、カルカロドントサウルス、ネオヴェナトル、コンカヴェナトルでは粗面が発達しているが、アクロカントサウルスではシンラプトルやアロサウルスと同様に比較的なめらかである。

 上顎骨の前上顎骨との関節面は、アクロカントサウルスではシンラプトル、マプサウルス、エオカルカリア、シャオチーロン、カルカロドントサウルスと同様に後背方に傾いている。一方アロサウルス、ネオヴェナトル、モノロフォサウルスでは関節面が垂直に近い。
 前眼窩窩にはpromaxillary fenestra とmaxillary fenestraがある。アクロカントサウルスのpromaxillary fenestra とmaxillary fenestraの大きさと位置は、エオカルカリアに最もよく似ている。エオカルカリアの上顎骨には、さらに大きく丸いaccessory fenestraという孔があるが、アクロカントサウルスの上顎骨にも同様の孔accessory foramenがある。ただしエオカルカリアに比べるとずっと小さい。
 上顎骨の後方突起posterior ramusの後端は、エオカルカリアやシャオチーロンと同様に腹方に屈曲している。他のアロサウロイドでは後端はまっすぐである。
 内面では、上顎骨は棚状の部分で口蓋骨と結合している。この口蓋骨との関節面の前端は、アクロカントサウルスではエオカルカリア、カルカロドントサウルス、ネオヴェナトルと同様に8番目の上顎歯槽の上にある。アロサウルスとシンラプトルでは、関節面の前端は7番目の上顎歯槽の上にある。
 歯間板は癒合している。水平の稜線が歯間板を横切っており、これをgroove for dental lamina という。この稜線は前端では下がっており、中程では高く、後方に向かってまた下がるというアーチ状の曲線をなす。このアーチ状のラインはネオヴェナトル、エオカルカリア、カルカロドントサウルス、シャオチーロン、マプサウルスと共通している。シンラプトルとアロサウルスではこの稜線は直線的である。

 涙骨の前方突起は比較的まっすぐで長いが、背側からみると側方にカーブしている。アクロカントサウルスのこの曲がり方はカルカロドントサウルスやギガノトサウルスと同様である。一方シンラプトルとアロサウルスでは前方突起は背側からみてまっすぐである。

 後眼窩骨の前背方にはごつごつした眼窩上突起orbital bossがあり、眼窩の上をひさし状に覆っている。この突起は側面から見ると、全長にわたって前後に伸びる曲線状の血管溝vascular grooveによって区切られている。アクロカントサウルスのこのような突起の形態は、コンカヴェナトル、マプサウルス、カルカロドントサウルスと同様である。エオカルカリアでは血管溝が眼窩上突起の前半部に限られている。この突起は、ギガノトサウルスやマプサウルスのようにpalpebral眼瞼骨と後眼窩骨が癒合してできたものかもしれないという。(ただしアクロカントサウルスでは眼瞼骨と後眼窩骨の縫合線は見られないという。)
 後眼窩骨の腹方突起には、眼窩内に突出する眼窩内突起intraorbital process (下眼窩突起suborbital process, suborbital flange) がある。アクロカントサウルスの眼窩内突起intraorbital processは厚く頑丈で、カルノタウルスのものに似ている。カルカロドントサウルス、コンカヴェナトル、エオカルカリア、ギガノトサウルスのような他のカルカロドントサウルス類にも眼窩内突起はあるが、それらの種類ではもっと薄く比較的小さい。アロサウルス、モノロフォサウルス、シンラプトル、ヤンチュアノサウルスには眼窩内突起はない。

 頬骨の後方突起の先端は、2つの枝に分かれて方形頬骨の前方突起と結合している。この2つの枝の背側の方を背側方形頬骨枝dorsal quadratojugal prong、腹側の方を腹側方形頬骨枝ventral quadratojugal prongという。アクロカントサウルスでは前者が後者の2倍以上丈が高いが、この比率はアロサウルス以外のほとんどのアロサウロイドでみられる。背側方形頬骨枝と腹側方形頬骨枝の間に、小さな小付属枝small accessory prongが外側面にある。このような小付属枝は、マプサウルス、ティランノティタン、そしておそらくカルカロドントサウルスにもあるが、アロサウルスにはない。

 系統解析の結果得られた分岐図では、アクロカントサウルスはカルカロドントサウルス科の中に位置することが強く支持された。ここではヤンチュアノサウルスも扱われており、「シンラプトル科」の位置に入っている。また最近のBrusatte and Sereno (2008) やBrusatte et al. (2009)と同じく、アクロカントサウルスとエオカルカリアが最も近縁(姉妹群をなす)となっている。
 この系統関係は、層序学的データや体長body sizeの分布からみても、アクロカントサウルスをアロサウルスと近縁とする説よりも合理的(最適化される)としている。

参考文献
Eddy D. R., Clarke J. A. (2011) New Information on the Cranial Anatomy of Acrocanthosaurus atokensis and Its Implications for the Phylogeny of Allosauroidea (Dinosauria: Theropoda). PLoS ONE 6(3): e17932. doi:10.1371/journal.pone.0017932
Copyright: 2011 Eddy, Clarke.

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エオカルカリア




エオカルカリアは、白亜紀前期アプト期からオーブ期にアフリカのニジェールに生息した原始的なカルカロドントサウルス類で、カルカロドントサウルス類の系統進化を考える上で重要な位置を占めているようである。

頭骨のいくつかの骨と歯だけが発見されている。完模式標本は後眼窩骨で、その他に上顎骨、前前頭骨、前頭骨、頭頂骨と分離した歯がある。後眼窩骨と前頭骨は、大きさや関節面の形などが一致する。また前前頭骨と前頭骨、前頭骨と頭頂骨はそれぞれ結合した状態で見つかっている。上顎骨の中にある置換歯との比較により、分離した歯は同一種と考えられている。
 エオカルカリアは以下のような固有の形質をもつ大型のカルカロドントサウルス類である。上顎骨のpromaxillary fenestra が亜三角形で側面から見えており、maxillary fenestraよりも大きい、上顎骨の後背方突起に円形の副次的な孔accessory fenestraがある、promaxillary fenestraとmaxillary fenestraの腹側で前眼窩窩が背腹に拡大している、後眼窩骨に細かい文様のある卵形の顕著な突起がある、後眼窩骨の内側に前頭骨の溝にはまり込むプレート状の突起がある、前前頭骨は大きく腹方突起がなく、頭蓋天井からみて亜四角形である、などである。
 エオカルカリアは、後眼窩骨の下眼窩突起suborbital flangeが比較的小さいことで他のカルカロドントサウルス類と異なる。また上顎骨の表面の発達した神経血管溝や、特徴的なエナメルのしわのある薄い歯をもたない点で、マプサウルス、ギガノトサウルス、カルカロドントサウルスとは異なっている。これらの進化したカルカロドントサウルス類と異なり、エオカルカリアには分離した前前頭骨があり、涙骨と後眼窩骨の結合面はあまり発達していない。

上顎骨は比較的平らな骨で、これは他のカルカロドントサウルス類と同様に吻の幅が比較的狭いためと思われる。歯列のある腹側縁はゆるやかにカーブしている。前方突起は長さよりも丈が高い。後方突起の後端(頬骨突起)は水平線から20°の角度で後腹方に屈曲しており、これはアクロカントサウルスの状態によく似ている。アロサウルス、カルカロドントサウルス、シンラプトルなどでは後方突起のごく先端だけが屈曲しているという。
 エオカルカリアの前眼窩窩は、前方のpromaxillary fenestraとmaxillary fenestraの下の部分で特に広がっている。大部分の獣脚類と異なり、前眼窩窩の腹側縁は上顎骨の腹側縁と平行になっている。また前眼窩窩の前腹側のコーナーは角張っているが、これはアクロカントサウルス、ネオヴェナトル、アフロヴェナトル、ドゥブレウイロサウルスの状態に近い。前眼窩窩には3つの孔がある。そのうちpromaxillary fenestraとmaxillary fenestraは亜三角形で、promaxillary fenestraが最も大きい。
 上顎骨には15本の歯があり、萌出した歯は失われていたが多くの歯槽に成長中の歯が残っていた。7番目の歯槽にある歯との比較により、発掘地で見つかったいくつかの分離した歯は暫定的にエオカルカリアと同定された。これらの歯は多くの獣脚類よりも扁平であるが、カルカロドントサウルス、ギガノトサウルス、マプサウルス、ティラノティタンのように特に薄く後縁がまっすぐで顕著なエナメルのしわがあるものではない。

アロサウルスなどの獣脚類には涙骨の内側(前頭骨の前方)に前前頭骨がある。カルカロドントサウルスのような進化したカルカロドントサウルス類では前前頭骨がなく、その部分は涙骨で占められている。構造の比較から進化したカルカロドントサウルス類の涙骨は、涙骨と前前頭骨が癒合したものと考えられる。多くの獣脚類の前前頭骨は、頭蓋天井からみて小さな三角形の骨で、涙骨の内側に伸びる細長い腹方突起ventral processをもつ。エオカルカリアの前前頭骨は、腹方突起がない、前頭骨と比較して大きい、三角形でなく四角形に近い、後部がかなり肥厚しているという点で非常に変わっている。

後眼窩骨にはカルカロドントサウルス類と同定される特徴があり、またその中での位置付けもわかるという。最も顕著な特徴は背側にある肥厚した突起browで、正方形に近い形の前方部分と卵形の後方部分からなる。前方部分には水平の血管溝がある。
 後眼窩骨の前端に、小さいがはっきりした涙骨との関節面があることから、涙骨と後眼窩骨が結合して眼窩の縁から前頭骨が排除されていたことがわかる。ただし、エオカルカリアではこの関節面が他のカルカロドントサウルス類よりも小さい。
 Coria and Currie (2006) はギガノトサウルスとマプサウルスのorbital browには後眼窩骨とは別のPalpebralという骨があるといっているが、エオカルカリアやカルカロドントサウルスにはそのような骨の形跡はないという。
 後眼窩骨の腹方突起には、小さくごつごつした、下方に位置するinfraorbital process (suborbital flange) がある。アクロカントサウルスや進化したカルカロドントサウルス類(マプサウルス、ギガノトサウルス、カルカロドントサウルス)では、この突起はもっと大きく三角形でより上方に位置している。

系統解析では、エオカルカリアはギガノトサウルス、マプサウルス、カルカロドントサウルスよりも原始的で、アクロカントサウルスと最も近縁となった。エオカルカリアの上顎骨の長さはアクロカントサウルスの70%、カルカロドントサウルスの50%であることから、全長は6~8mと推定されている。


参考文献
Sereno, P.C. and Brusatte, S.L. (2008). Basal abelisaurid and carcharodontosaurid theropods from the Lower Cretaceous Elrhaz Formation of Niger. Acta Palaeontologica Polonica 53 (1): 15-46.
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