獣脚類を中心とした恐竜イラストサイト
肉食の系譜
タルボサウルス2
1940年代にソ連科学アカデミーのモンゴル発掘調査(1946-1949)によって、モンゴル南部のネメグト盆地から、いくつかのティラノサウルス科の肉食恐竜の化石が発見された。これらの研究から、1955年にマレーエフはまずティラノサウルス・バタールを記載し、続いて同じ年にタルボサウルス・エフレーモフィ、ゴルゴサウルス・ランキナトル、ゴルゴサウルス・ノヴォジロヴィを報告した。それらすべてはその後、1965年にロジェストヴェンスキによりタルボサウルス・バタールに統一された。その後もマレエヴォサウルスやジェンギスカンなどの新属が提唱されたが、現在ではタルボサウルス・バタール一種とされる。
2001年にホルツは、ティラノサウルス科の系統関係について最も詳細な研究を行い、ティラノサウルス科の中でもタルボサウルスはティラノサウルスと最も近縁であり、ほとんど同属と考えられるとした。
2003年にフルムとサバスは、ポーランド・モンゴル発掘調査で得られたタルボサウルスの標本を中心に、モンゴル、ロシアに所蔵されている標本も含めて、タルボサウルスとティラノサウルスの頭骨を詳細に比較し、新たな相違点を見いだした。ティラノサウルスの方が頭蓋の幅が広く,特に頭蓋の後半部(頬部)が著しく幅広くなっているが、最も重要な違いは上顎と下顎の構造にある。
タルボサウルスとティラノサウルスでは、上顎骨、鼻骨、涙骨の結合の様式が異なっている。獣脚類の頭蓋は、前眼窩窓などの穴があることで、獲物を咬んだときに上顎にかかる衝撃を頭蓋全体に分散して吸収する構造になっている。ティラノサウルスでは、上顎にかかる衝撃は主に上顎骨から鼻骨を介して涙骨に伝わるようになっている。それに対してタルボサウルスとアリオラムスでは、鼻骨がほとんど関与せず、上顎にかかる衝撃は上顎骨から直接涙骨に伝わるようになっている。そのためタルボサウルスでは、上顎骨の後背方突起の後端と、涙骨の前方突起の前端が共に太くがっしりしていて、互いに組み合って強く結合している。一方、鼻骨の後側方には(涙骨と強く結合するための)涙骨突起がない。ティラノサウルスでは上顎骨の後背方突起の後端は細く,涙骨の前方突起の前端は鼻骨の後側方の涙骨突起と強固な結合をつくっている。ティラノサウルス以外の北アメリカのティラノサウルス類(ダスプレトサウルス、アルバートサウルス、ゴルゴサウルス)では中間的で、鼻骨の涙骨突起はあるが涙骨の前端は鼻骨と上顎骨の両方と関節している。(ダスプレトサウルスの大型の成体では、涙骨突起はないという。)さらにアロサウルスやシンラプトルなどのより原始的な獣脚類でも,小さな涙骨突起はあるという。つまり、上顎にかかる力を伝達するのに共通の祖先では両方の経路があったが、ティラノサウルスでは上顎骨-鼻骨-涙骨の経路が発達し,タルボサウルスでは上顎骨-涙骨の経路が発達するように進化したということである。
下顎については、タルボサウルスの方がより強固な構造をしている。タルボサウルスでは角骨の前方突起の外側面に垂直な隆起があり、歯骨の後端の内側面としっかり組み合っている。ティラノサウルスにはこの垂直な隆起はない。
前上顎骨歯の数はティラノサウルス科に共通で4であるが、上顎骨歯の数はティラノサウルスの11-12に対してタルボサウルスでは12-13である。また歯骨歯の数はティラノサウルスの12-14に対してタルボサウルスでは14-15である。
タルボサウルスの頭骨を研究したフルムとサバスと、北アメリカのティラノサウルス類の頭骨を研究したカリーとの共同研究による系統解析では、(ホルツの用いた形質の多くを採用せず)このような上顎と下顎の形質を重視して、タルボサウルスはティラノサウルス亜科の中でもより派生的な種類であり、ティラノサウルスと同属ではないとしている。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )