goo

ディロング1


 ディロングは白亜紀前期に中国遼寧省に生息した小型で基盤的なティラノサウロイド(ティラノサウルス上科のメンバー)で、2004年に記載された。
 他のティラノサウルス類と異なるディロングに固有の形質は、前眼窩窩の背方に沿って窪みがあり、そこに2つの大きな含気孔があること、鼻骨と涙骨からなるY字形のとさかがあること、鱗状骨の下方突起が非常に長く伸びて顎関節の近くまで達すること、肩甲骨が太くその遠位端が幅広いこと、烏口骨が肥大していることなどである。
 ディロングの頭骨には、多くのティラノサウルス上科の共有派生形質がみられる。前上顎骨の鼻孔より下の部分の丈が高く、上顎骨の前方腹側縁が凸型にカーブしている。上顎骨によって鼻骨は前眼窩窩から明らかに排除されている。鼻骨は癒合し、背面が盛り上がっている。前前頭骨は縮小している。眼窩の真下で頬骨の腹側縁はカーブし,よく発達した角膜突起を形成する。方形頬骨の背方部は拡がって、鱗状骨-方形頬骨フランジを形成している。
 前上顎骨歯は断面がD字形で、鋸歯があり、上顎骨歯よりもずっと小さい。上顎骨歯と歯骨歯は強く側偏しており、ドロマエオサウルス科のヴェロキラプトル亜科、エオティラヌス、ティラノサウルス科の幼体と同様に、前方の鋸歯より後方の鋸歯の方が著しく大きい。
 前肢は長めで、上腕骨は大腿骨の長さの1/2よりも長く,また肩甲骨よりも顕著に長い。これは進化したマニラプトル類と同様であるという。進化したティラノサウルス類と異なり前肢の指は3本あり、第3指は指骨の数,長さとも保たれているが、非常に細くなっている。骨盤は他のティラノサウルス類よりもほっそりしており、腸骨は大腿骨よりもかなり短い。大腿骨に対して脛骨、中足骨が比較的長く、走行に適した体型である。ただしティラノサウルス類の相対成長の研究から,幼体は下肢が長いことがわかっており、ディロングはディロングと同じ大きさの大型のティラノサウルス類の幼体ほど下肢が長くはない。また進化したティラノサウルス類と異なり、ディロングの中足骨はアルクトメタターサルではない。

 ディロングは、ティラノサウルス類の共有派生形質のうち、頭骨に関する特徴の80%を示すが,頭骨以外の特徴は25%しか示さないという。(ちょっと疑問なのは、Supplementary informationには頭骨に関する形質が20/30、頭骨以外の形質が4/24とはっきり書いてある。それぞれ67%と17%のはずであるが、なぜ本文と一致しないのだろう。)このことからティラノサウルス類の進化の過程では、頭骨に関する特徴が先に獲得されたと考えられる。

ディロングが報告された当時、頭骨の写真を見て、小型で華奢な動物のわりには、なかなか不敵な面構えをしていると思ったものである。これを単に小型のコエルロサウルス類として描いたのでは、ティラノサウロイドらしさが表現されない。ティラノサウルス科では左右の鼻骨が癒合し盛り上がっていることが、曲げやねじれの力に対して上顎の強度を高め、強く咬むことを可能にしているという研究もある。ディロングでも既にこのような形質が現れている。

参考文献
Xu, X., Norell, M.A., Kuang, X., Wang, X., Zhao, Q., and Jia, C. 2004. Basal tyrannosauroids from China and evidence for protofeathers in tyrannosauroids. Nature 431: 680-684.
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )