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トルボサウルスの卵殻と胚:恐竜の卵殻形態の系統的ギャップが埋められる


これまで非鳥型竜盤類で、卵殻と胚が一緒に見つかっているのは、ほとんど竜脚形類マッソスポンディルスとコエルロサウルス類に限られていて、基盤的獣脚類の知見がなかった。Arau´jo et al. (2013) はポルトガルのロウリンニャ層から、メガロサウルス類トルボサウルスと考えられる胚の骨格と卵の化石を発見し、Scientific Reportsに報告している。

卵と胚が共に化石として発見されることは非常にまれであり、竜盤類では1)前期ジュラ紀の竜脚形類マッソスポンディルス、2)後期ジュラ紀の獣脚類ロウリンハノサウルス、3)後期白亜紀のテリジノサウルス類、4)前期および後期白亜紀のティタノサウルス類、5)後期白亜紀のトロオドン類、6)後期白亜紀のオヴィラプトル類、で報告されている。すなわち、基盤的な獣脚類など竜盤類の根元あたりの情報がごっそり抜けている。
 著者らはシンクロトロン放射式マイクロCT、走査型電子顕微鏡、光学顕微鏡などを駆使して、卵殻の形態と特定のグループの基盤的獣脚類の骨学形態を結びつけている。

標本は直径65 cmの集合体で、500以上の卵殻の破片と胚の骨と歯からなっている。2005年にロウリンニャ層Lourinha˜ FormationのSobral Memberから発見され、2005から2006年に発掘され、2009年にロウリンニャ博物館でクリーニングされた。標本には方向の異なる3つの塊が含まれ、いずれもひどく割れているが、3つ以上の卵の集まりと考えられた。胚の骨としては5本の分離した歯、4本の歯のついた上顎骨、4本の歯のついた歯骨、1本の分離した歯骨歯、3個の関節した椎体、その他の同定できない骨が含まれていた。

どうしてこれがトルボサウルスとわかるのだろうか。この標本はまず、非常に長く、先端がカーブして鋭く尖った歯冠をもつことから獣脚類と考えられる(鋸歯はみられなかった)。歯列が眼窩より前方に限られることからテタヌラ類であることが示唆される。また上顎骨の頬骨突起の背側縁と腹側縁が急速にすぼまっていることなどから、メガロサウルス科と考えられた。さらに歯骨の歯の数(下顎結合の前端からMeckelian fossaの前端までの)が10より少ないことなどから、メガロサウルス亜科Megalosaurinaeと思われた。
 多くのテタヌラ類では上顎骨を貫通するmaxillary fenestraがあるが、メガロサウルスやドゥリアヴェナトルでは上顎骨の内側の小さい孔となっている。しかしこの標本のように、窓も含気窩もない上顎骨はメガロサウルス科の中でも非常に限られている。
 この胚は、1)上方突起の基部より後方に(maxillary fenestraなどの)含気構造がない、2)上方突起の基部と上顎骨の腹側縁の間の角度が35°より小さい、3)上顎骨の頬骨突起の先端が舌状の形をしていることから、トルボサウルス属と考えられた。これらの特徴はメガロサウルスにはあてはまらない。さらにトルボサウルスは、以前ポルトガルの同じロウリンニャ層から発見されている。
 ただし、この胚にはトルボサウルスの成体とは異なる点が4つある。1)歯の前縁にも後縁にも鋸歯がない、2)上顎骨の歯間板が癒合していない、3)上顎骨の前方突起が短い、4)上顎骨の歯が6より少ない、である。これらの違いは個体発生上の成長段階による形態変異と考えられた。

卵殻の厚さは約1.2 mmで、次のような特徴がある。(1)表面に、血管網のように互いに吻合した、網目状の装飾構造anastomizing ornamentationがある、(2)卵殻の外側に向かって放射状に並んだ、針状ないし長い剣状の炭酸カルシウムの結晶(方解石)がある、(3)ほぼ1層しかない。多くの場合、卵殻の基底層にmammillae乳頭状突起というものがあるらしいが、この卵殻でははっきりしないらしい。
 卵の化石にはそれなりの形態分類があるようで、今回の卵殻は、Dendroolithidae oofamily の卵に最もよく似ている。Dendroolithidae の卵殻は従来、竜脚類か鳥脚類のものと考えられていたが、今回の胚の形態は明らかにこのタイプの卵殻を獣脚類と結びつけるものである。

系統発生学的意義については次のように述べている。まず鳥類(アヴィアラエ)の卵殻は3層構造をしている。コエルロサウルス類(しかもマニラプトル類)であるトロオドン類とオヴィラプトル類の卵殻は2層構造である。一方、竜脚類ティタノサウルス類の卵殻は1層である。今回のメガロサウルス類トルボサウルスの卵殻は、獣脚類で初めて報告された1層の卵殻であり、これが獣脚類の原始状態plesiomorphic conditionと考えられる。また1層構造と針状の形態は竜盤類の共有派生形質と思われる。
 そこで問題となるのが、同じロウリンニャで発見されている暫定的にロウリンハノサウルスの卵とされている化石である。ロウリンハノサウルスもアロサウロイドなどの基盤的テタヌラ類とされているが、卵殻の構造が全く異なっている。ロウリンハノサウルスの卵殻は表面の装飾構造がなく、コエルロサウルス類のような2層構造である。このことから1)これがロウリンハノサウルスの卵殻であるという同定が間違っている、2)テタヌラ類では卵殻の構造が非常に変化しやすい、3)ロウリンハノサウルスの系統的位置が不明確である(実はコエルロサウルス類である可能性など)、ことが示唆される。


最後に余談であるが、このように上顎骨にmaxillary fenestra やpromaxillary fenestra などの穴がないことが、トルボサウルスの重要な特徴である。同定の根拠とされるほど重要な特徴である。もちろん2006年に報告されたポルトガルのトルボサウルス(ジュラ紀最大の獣脚類という)の上顎骨にも穴はない。
 ところで、レプリカ販売会社 Zoic srl のウェブサイトhttp://www.zoic.it/zoic/zoic.html にはTorvosaurus sp. の復元頭骨がある。これはコロラド州ドライ・メサの新しい標本らしいが、上顎骨に2つ穴がある。しかも貫通しているような…??これは一体どういうことですかね。単にいいかげんな作りとすれば、トルボサウルスに失礼である。今度、バッキア氏に訊いてみようか。

参考文献
Ricardo Araujo, Rui Castanhinha, Rui M.S. Martins, Octavio Mateus, Christophe Hendrickx, F. Beckmann, N. Schell, & L.C. Alves (2013)
Filling the gaps of dinosaur eggshell phylogeny: Late Jurassic Theropod clutch with embryos from Portugal. SCIENTIFIC REPORTS 3 : 1924 / DOI: 10.1038/srep01924

Mateus, O., Walen, A. & Antunes, M. T. (2006) The large theropod fauna of the Lourinha˜ Formation (Portugal) and its similarity to the Morrison Formation, with a description of a new species of Allosaurus. N. Mex. Mus. Nat. Hist. Sci. Bull. 36, 123-129.

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「日本の恐竜化石を復元しよう」






日本の恐竜(フクイラプトルとフタバサウルス)という所がいいですね。福島に住んでいたカナダ人の大学教授の方が、趣味(副業?)でデザインしたペーパークラフトということです。

頭骨の形や尾のラインなど、かなり正確に作られているので楽しく組み立てることができる。細長い後肢に体重をかけないでスタンドで支えることで、スレンダーな体型を再現している。
 肋骨に肩帯をとりつけるところが難しいのではないかと予想した。肋骨に対して肩甲骨の位置が定まらないが、お手本を見ながら調整したところ、接着自体はうまくいった。
 あとはメガラプトル類的な、縦に扁平なカギ爪を自分で作って追加すれば完璧でしょう。

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マシアカサウルスの成長速度




アベリサウロイド(アベリサウルス上科のメンバー)は白亜紀後期のゴンドワナ地域で優勢な捕食者であり多様なグループであるが、多くの種類は化石が不完全なため、詳しい研究が進んでいない。アベリサウルス上科には大型のアベリサウルス科と小型のノアサウルス科が含まれるが、例えばノアサウルス類がどのように小型化したかなどの進化傾向についてもよくわかっていない。
 マダガスカルのMaevarano Formationから発見されたマシアカサウルスは、最もよく保存されたノアサウルス類であり、これまでに大きさの異なる複数の個体の分離した骨が多数見つかっている。これは骨の成長過程の研究に適している。そこで、Lee and O’Connor (2013) は大きさの異なる4本の大腿骨と3本の脛骨を選んで、骨幹中央部の切片を作成し、明視野および偏光光学顕微鏡で組織像を観察した。また個々の標本で成長線の周長を測定し、数理モデルを用いて成長曲線を再構築した。

他の多くの脊椎動物と同様に、マシアカサウルスも限定的成長determinate growthを示している。最も大きい脛骨(UA8685)の切片をみると、外側にexternal fundamental system (EFS) が保存されている。EFSは極端に緩慢な成長しかしない骨組織であり、骨の成長が完了したことを示す組織学的指標とみなされている。EFSの中に2本の成長線LAGがあるので、この個体は体の成長が止まってから少なくとも2年は生存していたことになるという。このことからマシアカサウルスは、(大型の獣脚類の幼体などではなく)比較的小型の状態で成長が止まっていた、小型の獣脚類であることが確認された。

偏光顕微鏡で見ると、マシアカサウルスの大腿骨と脛骨には、平行繊維骨parallel-fibered boneが多くみられる。現生の動物では平行繊維骨parallel-fibered boneは成長が遅い傾向がある。このことから、マシアカサウルスは成長過程を通じてゆっくり成長したと考えられる。成長線LAGの測定と成長曲線の解析から、平均的な個体は、大型犬と同じくらいの大きさに成長するのに8~10年かかったと考えられた。成長速度が最も高いのは3~4才であるが、この時期でさえ大腿骨と脛骨の骨幹中央の周長は1年に約7 mmしか増加していない。

著者らは以前、ワニ(ミシシッピアリゲーター)の骨について研究したことがあるので、今回8個体のアリゲーターの大腿骨の切片について、比較のためマシアカサウルスと同じ手法で解析してみた。その結果、アリゲーターはマシアカサウルスよりも40%遅く成長したことが示唆された。つまりマシアカサウルスの成長は、現生のワニよりは速かった。

しかし、マシアカサウルスの成長速度は、同じような大きさの他の獣脚類とは非常に異なっている。コエロフィシス、リムサウルス、コンコラプトル、ビロノサウルス、ヴェロキラプトルの長骨の組織は、主に繊維層板骨fibrolamellar boneからなっている。繊維層板骨fibrolamellar boneは一般に、平行繊維骨parallel-fibered boneよりも速く形成される骨組織である。さらにコエロフィシスとリムサウルスの成長の予備的な解析からは、最も大きな個体は4~6才であったことがわかっている。コンコラプトル、ビロノサウルス、ヴェロキラプトルについてはデータがないが、組織学的類似性から同じくらいと予想される。もしそうならば、マシアカサウルスの成長速度はこれらの小型獣脚類と比べて約40%遅かったことになる。

この大きな違いの理由は不明であるが、系統学的要因や生態学的要因が考えられる。Maevarano Formationの古生態学的研究からは、この地域が季節によって変動する、半乾燥気候であったとされている。少なくとも乾期には生物資源が不足するような厳しい環境に対する適応として、体の維持コストを下げるために低い成長速度が進化したのかもしれない、としている。


参考文献
Andrew H. Lee & Patrick M. O’Connor (2013) Bone histology confirms determinate growth and small body size in the noasaurid theropod Masiakasaurus knopfleri. Journal of Vertebrate Paleontology, 33:4, 865-876.
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サファリ社のコンカヴェナトル






肉食恐竜好きの方は既にご存知と思うが、これはかなり気に入った。サファリ社は時々この手の商品をリリースしてくれるが、ニジェールサウルスやミラガイアなどと同じく、明らかに恐竜ファン向けの種類選定である。新しいスピノサウルスもよかった。アドバイザーによくわかっている人物がいるということだろう。

これは楽天のソプラノから買った。広告写真では太ってみえたが、実際の商品はほっそりした体型である。
 カルカロドントサウリアンな顔つき、黒目の表情、歯の造形が細かい点、頸から肩にかけてのライン、胴体の幅が狭い感じ、アロサウロイドな体型がよい。透明な支持台が付いてきたが、標準で付属するようになったのだろうか。店頭でバラ売りするときには付いていないような気がするが。このフィギュアもしっぽの先を地につけて3点立ちするパターンであるが、支持台のおかげでほぼ水平姿勢にみえる。前肢には羽飾りなどの装飾構造はついていない。製造工程の都合で省略したのかもしれない。
 コンカヴェナトルも好きなので、復元骨格が待ち遠しい種類である。


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