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シレサウルス (シレサウルス類)



恐竜以外でも肉食にこだわる人が、どういう風の吹き回しかといぶかる向きもあるかもしれない。「三畳紀の爬虫類」カテゴリーでは、「違和感」を描きたいのである。爬虫類のシカのような奇妙な姿は恐竜にはみられないもので、取り上げる意味がある。

シレサウルス類は、一般的には恐竜に最も近縁な恐竜形類であるが、最近のいくつかの研究では鳥盤類の祖先筋である可能性が指摘されている。元々、三畳紀の地層から竜脚形類や獣脚類は発見されているのに、確実な鳥盤類の化石は全く報告されていなかった。鳥盤類の歯とされたものが、実はシレサウルス類の歯であったりした。さらに最も基盤的な鳥盤類であるピサノサウルスが、シレサウルス類に含まれるという研究や、シレサウルス類が鳥盤類に含まれるという研究が報告されている。その場合は単系群であるシレサウルス類が、典型的な鳥盤類(ヘテロドントサウルス以上)と姉妹群をなすという形であった。
 その後Müller and Garcia (2020) の系統解析では、シレサウルス類は単系群ではなく多系群となり、典型的な鳥盤類に対して順次外群となった。そしてピサノサウルスはシレサウルス類と典型的鳥盤類をつなぐ位置にきた。また、多くのシレサウルス類は歯の形態から雑食ないし植物食であるが、最も基盤的なレウィスクスLewisuchusは歯の形態から肉食性と考えられている。よって鳥盤類は最も早い時期から雑食ないし植物食を獲得した恐竜であるが、それは祖先的形質ではなく二次的に獲得したものであると思われた。これは竜脚形類も同様である。

シレサウルス類が基盤的な鳥盤類ということになると、従来謎であった三畳紀の鳥盤類が実は見つかっていたことになる。もしそうなら鳥盤類の系統は、三畳紀には四足歩行の植物食動物として十分繁栄していたが、それらは三畳紀末に絶滅し、二足歩行のものだけがジュラ紀まで生存し、再び四足歩行や条件的四足歩行になったということか。シレサウルス類がそのまま生き残ってウシやサイのような姿になっていたら面白かったのだが、それは起こらなかった。大型化という点ではやはり竜脚形類の勢いに圧倒されたのだろうか。

参考文献
Müller RT, Garcia MS. 2020 A paraphyletic ‘Silesauridae’ as an alternative hypothesis for the initial radiation of ornithischian dinosaurs. Biol. Lett. 16: 20200417. http://dx.doi.org/10.1098/rsbl.2020.0417
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マプサウルスの成長とカルカロドントサウルス類の進化におけるヘテロクロニー





これはメラクセスの特徴を理解するためにも役立つ背景知識なので取り上げる。この文献はティランノティタンの時に知っていたが、忘れていた。メラクセスのおかげで思い出した。
マプサウルスでは、少なくとも7個体の大きさの異なる分離した骨が発見されているので、重複した骨については、成長段階による形態の変化が比較できる。そこでCanale et al. (2014) は上顎骨、涙骨、歯骨、分離した歯について、成長による変化を観察し、また他のカルカロドントサウルス類と比較している。

上顎骨は5個保存されているが、最も保存の良い2個を主に比較している。大きい方は小さい方よりも19%大きい。図では簡単のために幼体と成体と記している。

上顎骨の外表面に稜や溝からなる彫刻sculpturingがあることは、派生的なカルカロドントサウルス類(カルカロドントサウルス、ギガノトサウルス、マプサウルス)の特徴とされている。マプサウルスの小さい上顎骨(幼体)には外表面の彫刻がなく、歯槽の背側に神経血管孔の列があるのみである。同じような状態はアロサウルスやアクロカントサウルスにみられる。一方、マプサウルスの大きい上顎骨(成体)には外表面全体にわたって顕著な彫刻がある。これはギガノトサウルスと似ている。つまりなめらかな外表面から粗い外表面への個体発生上の変化は、基盤的なアロサウロイドやカルカロドントサウルス類から派生的なカルカロドントサウルス類への系統発生上の変化を再現している。

マプサウルスの幼体では、前眼窩窩がよく発達し、そのなめらかな表面が側面から見えている。その内側縁が外側縁よりも高い位置にあるからである。同じ状態はアロサウルスやアクロカントサウルスでも観察できる。一方、マプサウルスの成体では、前眼窩窩の外側縁が内側縁とほとんど同じ高さまできているので、側面からはほとんど見えなくなっている。同様の状態はギガノトサウルスにみられる。すなわち、前眼窩窩の個体発生上の変化は基盤的なアロサウロイドやカルカロドントサウルス類から派生的なカルカロドントサウルス類への系統発生上の変化を再現している。

多くの獣脚類では上顎骨の前眼窩窩に2つの孔がある。前方のpromaxillary fenestra と後方のmaxillary fenestra である。派生的なカルカロドントサウルス類では、前眼窩窩に1つの孔しかなく、これの相同性について異なる解釈がされてきた。Sereno et al. (1996) とBrusatte and Sereno (2007)は、カルカロドントサウルス・サハリクスとカルカロドントサウルス・イグイデンシスの1個の孔をmaxillary fenestraとした。またCoria and Currie (2006)もマプサウルスについて最初の論文で、暫定的にmaxillary fenestraと考えた。しかしCurrie and Carpenter (2000) はギガノトサウルスとカルカロドントサウルスの1個の孔は、位置からするとpromaxillary fenestraと相同ではないかといっている。
 マプサウルスの幼体では、前眼窩窩に2つの孔がある。Coria and Currie (2006)は前方の孔をmaxillary fenestraと考え、後方にある孔は輪郭が破損したようにみえることから、単に破損した痕と解釈した。しかし、Canaleらが上顎骨を内側から観察するとこの孔の輪郭はなめらかで自然であり、真の孔と考えられた。一方、成体の上顎骨を内側から見ると、後方の孔に相当する部分にわずかな窪みがあった。これらのことから著者らは、後方の孔が真のmaxillary fenestraであり、前方の孔はpromaxillary fenestraと再解釈した。つまり発生過程でmaxillary fenestraが失われることになる。
 このように、maxillary fenestraの喪失に関わる個体発生上の変化は、基盤的なアロサウロイドやカルカロドントサウルス類から派生的なカルカロドントサウルス類への系統発生上の変化を再現している。

著者らは同様に、上顎骨の内側にある口蓋突起の発達や、涙骨の側面や背面の装飾、歯骨の側面の稜lateral ridgeの発達などについても、マプサウルスの幼体から成体への変化とカルカロドントサウルス類の系統進化が対応していることを示している。このことから、カルカロドントサウルス類の進化においてヘテロクロニー(異時性)特にperamorphosis が重要な役割を果たしていると結論している。

メラクセスの上顎骨には2つの孔があるが、背腹に配置しているようにみえるのでアクロカントサウルスと同じ状態ではないようだ。しかし2つの孔があることは、他のギガノトサウルス族よりも基盤的な位置にくることに寄与しているのではないだろうか。


参考文献
Canale, J.I., Novas, F.E., Salgado, L. et al. Cranial ontogenetic variation in Mapusaurus roseae (Dinosauria: Theropoda) and the probable role of heterochrony in carcharodontosaurid evolution. Paläontologische Zeitschrift 89, 983–993 (2015). https://doi.org/10.1007/s12542-014-0251-3 (オンラインが2014、紙が2015)
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