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アンズー



Copyright Lamanna et al.

アンズーは、白亜紀後期マーストリヒト期(ヘル・クリーク層)に米国ノースダコタおよびサウスダコタ州に生息した大型のオヴィラプトロサウルス類で、2014年に記載された。保存の良い3体分の部分骨格が発見されており、全部合わせると体のほとんどの骨格がそろっている。これまで断片的だった北アメリカのオヴィラプトロサウルス類(カエナグナトゥス科)の形態や系統関係などを解明するのに役立つと期待されている。

大部分のオヴィラプトロサウルス類はアジア、特にモンゴルと中国で発見されている。白亜紀後期のアジア産オヴィラプトロサウルス類のほとんどは、単系のオヴィラプトル科Oviraptoridaeをなす。一方、北アメリカからもオヴィラプトロサウルス類の化石が長く知られているが、残念なことに北アメリカ産のオヴィラプトロサウルス類の標本は非常に不完全なため、その解剖学的形態や分類、系統関係の詳細は明らかでなかった。多くの研究者は、白亜紀後期の北アメリカ産オヴィラプトロサウルス類は、すべて単系のカエナグナトゥス科に属すると考えているが、最近のいくつかの研究ではカエナグナトゥス科は多系群であると考えられている。さらに、多くの研究者がこれらの恐竜の生態・習性について推測しているが、それぞれがまちまちな結論を出している。

系統解析の結果、オヴィラプトロサウルス類の中のいくつかのグループ(カウディプテリクス科 Caudipterygidae、 カエナグナトゥス上科 Caenagnathoidea、 オヴィラプトル科 Oviraptoridae、カエナグナトゥス科 Caenagnathidae)が単系であることが支持された。アンズーは派生的なカエナグナトゥス科のメンバーで、カエナグナトゥスと姉妹群と考えられた。また、白亜紀前期のミクロヴェナトルとギガントラプトルは基盤的なカエナグナトゥス類と位置づけられた。

アンズーの発見によって初めて、カエナグナトゥス科のオヴィラプトロサウルス類のほとんど完全な骨格形態が明らかになってきた。アンズーは推定全長3.5 m、腰の高さ1.5 m、体重200-300 kg もあり、ギガントラプトルに次いで最も大型のオヴィラプトロサウルス類の一つである。カエナグナタシア(推定体重5 kg)のような非常に小型の種類もいることを考え合わせると、カエナグナトゥス科は獣脚類の中でも、体のサイズが非常に広範囲にわたるグループということになる。これを裏付けるためにはカエナグナトゥス類の成長や個々の標本の成長段階の研究が必要になってくるという。
 アンズーの頭骨は丈が高く幅が狭く、ヒクイドリのような高いトサカがある。意外なことに、頬骨はオヴィラプトロサウルス類以外の獣脚類のものと似ている。上下の顎には歯がなく、左右が癒合した歯骨の咬合面には特徴的な稜と溝の列が並んでいる。首は長く12個の頸椎からなり、後方にいくにつれて幅が広くなっている。尾椎は含気性が発達していて、後端には特殊化した椎骨が並び、全体として尾端骨状の構造をなしている。胸骨板はオヴィラプトル科のものとよく似ている。手は比較的大きく、末節骨の基部には他の多くのオヴィラプトロサウルス類よりも顕著な唇状の部分lipがある。手の第2指と第3指はアンズーでは不完全であるが、他の手がよく保存されたカエナグナトゥス類(キロステノテス、エルミサウルス)と同様におそらく長かったと思われる。後肢の骨は細長く、脛骨が大腿骨よりもかなり長い。足もアンズーでは不完全であるが、見つかっている部分から他のカエナグナトゥス類と同様に足の指が長かったと考えられる。

顎に歯がなく角質で覆われたくちばしをもつオヴィラプトロサウルス類の食性については、さまざまな推測がなされてきた。最初の仮説はオヴィラプトルが卵泥棒というもので、その後オヴィラプトル類が自分自身の卵を守っていることがわかり、これ自体は否定された。しかしオヴィラプトル類が他の脊椎動物の卵を食べた可能性は否定されていない。Currie et al.は、オヴィラプトル類の上顎骨の口蓋部分にある歯のような突起を、卵を食べるヘビが卵殻を割るための椎骨の突起に例えて、オヴィラプトロサウルス類は卵や小型の脊椎動物を食べただろうと論じている。

Barsboldはオヴィラプトル類の頑丈な顎は貝を割るために用いられたと提唱したが、この説は解剖学的、生物力学的、古生態学的根拠から強く否定されている。Cracraft と Funston and Currieは、カエナグナトゥス類の下顎と、植物食の単弓類ディキノドン類の下顎の類似性に注目した。カエナグナトゥス類とディキノドン類の顎関節の構造は、下顎を前後に大きく動かせたことを示しており、それにより植物を上下のくちばしのある顎で刈り取るのに役立ったかもしれない。とくにFunston and Currieは、カンパニア期のカエナグナトゥス類の下顎とディキノドン類の下顎を詳細に比較し、ディキノドン類で植物食への適応と考えられている5つの特徴のうち4つまでを、カエナグナトゥス類はみたすとしている。面白いことに、アンズーとギガントラプトルではさらに5番目の特徴までみたしている。それは歯骨の側面にあるフランジである。この構造は、ディキノドン類では前方にある内転筋の付着部であると考えられており、この2種のカエナグナトゥス類でも同様に機能したかもしれない。

オヴィラプトロサウルス類が植物食だったという最も有力な証拠は、歯のある原始的な種類でのみ知られている。カウディプテリクスのいくつかの標本には、胃石が保存されていた。またインキシヴォサウルスの前上顎骨の歯は齧歯類の切歯に似ている。さらに、最近記載された基盤的なオヴィラプトロサウルス類、ニンギュアンサウルスの体腔内には多数の卵形の構造物が保存されており、種子かもしれないと考えられている。おそらく基盤的なオヴィラプトロサウルス類は完全にあるいは主に植物食であったが、進化した種類では角質のくちばしが発達して、小動物や卵など広範囲の食物を食べるようになったのではないか、としている。

カエナグナトゥス類の習性については、四肢の骨格の特徴からもいろいろと考察されている。Currie and Russellは、比較的長い後肢と指の長い広がった足先から、カエナグナトゥス類は渉禽類のように浅瀬に入り、水中の無脊椎動物を捕食したのではないかと考えた。彼らはキロステノテスの細長い第3指は、川底や木の割れ目から小動物をかき出すのに役立っただろう、ともいっている。
 カエナグナトゥス類の化石が発見される地層の堆積環境が、生息地を推定する手がかりになるかもしれない。カエナグナトゥス類とオヴィラプトル類では、古生態学的に明らかな違いがあることが、長い間注目されてきた。オヴィラプトル類の化石のほとんどは、乾燥あるいは半乾燥気候の環境とされる地層から発見されているのに対し、多くのカエナグナトゥス類の化石はより湿潤な状態で堆積したと考えられる河川堆積物から見つかっている。よってカエナグナトゥス類は、近縁のオヴィラプトル類よりも水の豊富な、湿潤な環境に適応していたと考えられている。
 アンズーのより完全な2つの標本は、川岸の堆積物と考えられるシルト状泥岩から見つかっている。1つの断片的な標本は河床の堆積物から見つかっている。ヘル・クリーク層の別のカエナグナトゥス類の部分骨格は、やはり有機物の豊富な泥岩から発見されている。これは死体が流された可能性もあるものの、真の古生態を反映しているかもしれない。つまりヘル・クリーク層のような古環境では、カエナグナトゥス類は氾濫原のような湿地を好んだ可能性がある。

結局、アンズーや近縁のカエナグナトゥス類は、当時の北アメリカの沿岸部の平野で湿潤な環境を好み、植物や小動物、卵など何でも食べる雑食動物だったのではないか、としている。

参考文献
Lamanna MC, Sues H-D, Schachner ER, Lyson TR (2014) A New Large-Bodied Oviraptorosaurian Theropod Dinosaur from the Latest Cretaceous of Western North America. PLoS ONE 9(3): e92022. doi:10.1371/journal.pone.0092022


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