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アリオラムスの頭骨を観察しよう(10)一応完


Brusatte et al. (2012) は、最後に「新しいボディプランと生態学的習性」という項目で考察しているが、あまり目新しいことは言っていない。
アリオラムスの特徴的に長い頭骨は、タルボサウルスやティラノサウルスのような同時代の他のティラノサウルス類とは異なる生活様式をとっていたことを示唆する。アリオラムスの特徴としては長い吻のほか、全般にきゃしゃな頭骨の骨、互いに入り組んだinterlocking縫合線がないこと、比較的薄い歯、眼窩の上にがっしりした涙骨/後眼窩骨の「ひさし」lacrimal-postorbital barがないこと、顎の筋肉の付着面が比較的小さいこと、体格が小さいこと、頭骨および胴体の骨で含気性が非常に発達していることなどがある。これらの特徴のうちいくつかは、このホロタイプが亜成体であることに関係していると考えられ、どれとどれが成体になっても維持される形質かは予測が難しいという。
 しかし、これまで見つかっているアリオラムスの標本では、大型ティラノサウルス類の成体に特徴的な「噛み潰す」‘‘puncture-pull’’捕食様式はとれなかったことは明らかである。他の大型ティラノサウルス類では、強力な筋肉、太い歯、頭骨の入り組んだ縫合線、圧力を分散させる眼窩の「ひさし」などにより、骨を砕くような強い力で咬むことが可能になっている。少なくとも幼体から亜成体のアリオラムスでは、これとは別の捕食様式をとり、つまりより小型の獲物を狙い、咬む力よりもスピードを重視したのだろうとしている。これはおそらくタルボサウルスやティラノサウルスの幼体にもあてはまることだろう。完全な成体のアリオラムスが「噛み潰す」捕食様式をとれたのかどうかは、成体の化石が発見されて精密な生体力学的解析がなされるのを待たなければならない。

アリオラムス・アルタイのホロタイプと同じ地域からタルボサウルスの化石も見つかっているので、両者は共存していたはずである。このように2種類の大型捕食者が生息していた状況は、ダスプレトサウルスとゴルゴサウルスが共存していたカンパニア期の北アメリカと似ている。これらはニッチ分割niche partitioningによって共存できたと考えられており、タルボサウルスとアリオラムスも異なる獲物を捕食することですみわけていたのだろう、という。(このあたりはもう少し具体的な考察を期待したのであるが、無難なことしか書いていない。)ジュラ紀後期の北アメリカの大型獣脚類相(アロサウルス、ケラトサウルス、トルボサウルス)などと比べて、白亜紀後期では大型捕食者がいずれもティラノサウルス類で構成され、他のグループの獣脚類がいないのが特徴的であるという。

大型ハドロサウルス類やよろい竜はタルボサウルスに任せて、アリオラムスは中型から小型の動物を狙ったのだろう。大型の恐竜がほとんど生息せず、オヴィラプトル類やトロオドン類や哺乳類ばかりが多い地域があれば、アリオラムスにとっては都合がよかったのかもしれない。いずれにしてもタルボサウルスの幼体とは競合すると思われる。
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