MITIS 水野通訳翻訳研究所ブログ

Mizuno Institute for Interpreting and Translation Studies

お知らせ

来月からこのサイトをMITIS(水野通訳翻訳研究所)ブログに変更します。研究所の活動内容は、研究会開催、公開講演会等の開催、出版活動(年報やOccasional Papers等)を予定しています。研究所のウェブサイトは別になります。詳しくは徐々にお知らせしていきます。

『同時通訳の理論:認知的制約と訳出方略』(朝日出版社)。詳しくはこちらをごらん下さい。

『日本の翻訳論』(法政大学出版局)。詳しくはこちらをごらん下さい。

Facebookはこちらです。

IngramのNeurolinguistics

2009年01月27日 | 

数日前、中国から小平や毛沢東の大きな切手を貼った郵便物が届いたのでいったい何事かと思ったらAmazonの中古で注文した本だった。中身はIngram, J. C. L. (2007) Neurolinguistics: An Introduction to Spoken Language Processing and its Disorders (Cambridge Universiry Press)。(なか見検索ができる。)どうみても新品である。こういう教科書的な概説書は定期的に買うことで、自分の手持ちの知識が古くなってしまうのを防ぐのに役立つ。著者や編者の力量に応じてもちろん当たり外れはあるが、これは当たりだったようだ。NeurolinguisticsとPsycholinguisticsの境目はしばしばあいまいで、どう違うのか分かりにくいが、Neurolinguisticsのほうは言語に関わる疾患も扱い、それに伴い事象関連電位や機能的MRIなどの脳画像法を使うことが多い。この本はサブタイトルにもあるように話し言葉だけを取り上げており、また言語産出の面は扱っていない。しかし、新しいだけあって特に語彙の意味論や文処理の内容が充実している。語彙の意味に関しては意味ネットワークという考え方(コネクショニスト)を採用している。これは意味カテゴリーのプライミング効果や疾患の説明に有効だからだ。もう一つ重要なのは、当然といえば当然だがオンラインの文処理における作動記憶の役割が重視されていることである。さらに最後の章では文脈における言語理解-談話処理が取り上げられ、Griceや関連性理論への言及もある。10年前のBrown, C.M. and Hogoort, P. (1999) The Neurocognition of Language (Oxford Universiry Press)にはGriceもSperber and Wilsonも出てこない。(ちなみにGibsonの解析モデルも出てこない。)この辺りは新しい展開と言っていいだろう。ただし談話処理と作動記憶を結びつけるような議論はない。しかし神経言語心理学の比較的新しい知見を得るためにはいい本だと思う。