MITIS 水野通訳翻訳研究所ブログ

Mizuno Institute for Interpreting and Translation Studies

お知らせ

来月からこのサイトをMITIS(水野通訳翻訳研究所)ブログに変更します。研究所の活動内容は、研究会開催、公開講演会等の開催、出版活動(年報やOccasional Papers等)を予定しています。研究所のウェブサイトは別になります。詳しくは徐々にお知らせしていきます。

『同時通訳の理論:認知的制約と訳出方略』(朝日出版社)。詳しくはこちらをごらん下さい。

『日本の翻訳論』(法政大学出版局)。詳しくはこちらをごらん下さい。

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John Benjaminsの新刊から

2009年01月12日 | 通訳・翻訳研究

Hansen, G., Chesterman, A., and Gerzymisch-Arbogast, H. (Eds.) (2009) Efforts and Models in Interpreting and Translation Research: A tribute to Daniel Gile (Benjamins Translation Library 80)という本が出たようだ(注文中)。タイトル、サブタイトルからはDaniel Gileの業績やモデルについて集中的に論じているように思ってしまうが、そうではない。以下、abstractsからの推測。Nadja Grbić and Sonja Pöllabauerの論文はGileの数多くの論文を数量的に分析し、Anthony PymはEffort Model(というよりは綱渡り仮説の方か)と自分のリスク回避仮説を結びついて通訳の脱落の問題を論じている。もう一人、Kurzは非英語母語話者の英語が通訳者の「分析」に影響を及ぼすとしてEffort Modelと結びつけている。他はGileと必ずしも直接関係がない(かもしれない)通訳と翻訳の様々な問題を扱っている。Chestermanは解釈的仮説の有効性を説いている。The MAPにあった記述(p.73以下)を敷衍したものか。Gambier論文は通訳翻訳研究で使われる「方略」の分析で、strategyとtacticを分けることを提案している。Liuは同時通訳者の専門的技能expertiseのよってきたるところを、理解、翻訳、産出の各局面とその相互作用における良く練習された方略であると捉える。相互作用を可能にしているのは通訳者が精神的資源を効率的に管理できることによるという。これはちょっと関心があるが、Liuは博士論文の時からさらにexpertise studyにシフトしているようだ。Christina Schäffnerは博士課程のリサーチスキルの問題。イギリスでは研究資金の獲得手順や自分のキャリア設計までやるようである。それはそれで大変だろう。Aísの論文は通訳者の単調なイントネーションが聴衆に及ぼす否定的な影響を調べている。これは質的研究だ。Lamberger-Felber とSchneiderは20人の通訳者を被験者にして同時通訳における言語的干渉の問題を実験的に研究したもの。Shlesingerの論文はabstractからはどういう目的で何をやっているのか分からない。Hansenは翻訳における改訂能力の問題を扱っている。Pöchhackerが抜けていたが、これはIntroducing Interpreting Studiesの最終章と同じく、通訳研究のsocial turnとqualitative turnを論じているようだ。この問題はちょうど最終の授業で取り上げたのだが、Pöchhackerが主張する状況的認知「社会的コンテクストと相互作用」に対しては、様々な分野で、一般化可能性と反復可能性、因果関係とメカニズムの証明可能性の欠如、変数の交絡といった批判がある。ある程度までは行けると思うが、行き止まりになってre-turnする可能性もあると思う。総じて自分の問題関心とあまり接触しないのでお奨めはしないが、円高の折、買っておくのもいいかもしれない。