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引きこもり8000人以上と推計した 横浜市の初調査が「残念」な理由

2013-04-04 09:40:26 | ダイバーシティ
(以下、ダイアモンドオンラインから転載)
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引きこもり8000人以上と推計した
横浜市の初調査が「残念」な理由

 横浜市は3月26日、市内に住む15~39歳の8000人以上が「引きこもり状態にある」とする推計人数を初めて公表した。

 今回の報告については、市が「引きこもり問題」に着目して、初めて調査に取り組もうとした点は評価できる。ところが、今このタイミングにおいてもなお、調査対象者は39歳までとされ、40歳以上の深刻な実態は置き去りにされていた。結果的に、「引きこもり」を語る上で偏った推計が発表されるという残念なものになってしまった。

引きこもり8000人、
予備軍5.2万人、無職5.7万人と推計

 調査は、昨年8月27日から~9月17日にかけて、住民基本台帳から無作為抽出した市内の満15歳~39歳の男女3000人を対象に調査票を郵送。調査員が訪問回収したところ、1386人から有効回答があった。

 この方法は、2010年度に内閣府が実施した「引きこもり実態調査」と同じであり、面接調査よりは正直に回答しやすいといわれている。

<ひきこもり群>の定義は、

<ふだん家にいるが、自分の趣味に関する用事のときだけ外出する>
<ふだんは家にいるが、近所のコンビニなどには出かける>
<自室からは出るが、家からは出ない>
<自室からはほとんど出ない>

 という現在の状態が<6ヵ月以上続いている>と回答した人のうち、現在の状態になったきっかけが<統合失調症または身体的な病気>や<自宅で仕事><妊娠・出産・育児><家事>をしている人は除かれる。

 結果は10人(男性6人、女性4人)で、有効回答数の0.72%。市の15~39歳の人口が113万6000人なので、<ひきこもり群>は約8000人と推計された。

 これも、内閣府と同じ定義である。

 また<ひきこもり親和群>についても、こう定義している。行政用語にするとわかりにくいので内閣府のときも説明したが、言い換えれば、<ひきこもり予備軍>のことだ。

<家や自室に閉じこもっていて外に出ない人の気持ちがわかる>
<自分も、家や自室に閉じこもりたいと思うことがある>
<嫌な出来事があると、外に出たくなくなる>
<理由があるならば、家や自室に閉じこもるのも仕方がないと思う>

 以上の4項目がすべて「はい」、または1項目のみ「どちらかといえばはい」と答えた人の中から、<ひきこもり群>を除いた人数。

 この<ひきこもり予備軍>は63人(男性28人、女性35人)で、有効回答数の4.55%にあたる約5万2000人と推計された。

 さらに、<無職群>についても、こう定義して調査している。

<「あなたは現在働いていますか」の質問に、「派遣会社などに登録しているが、現在は働いていない」「無職」を選択した者>

 この<無職群>は69人(男性37人、女性32人)。有効回答数の4.98%で、約5万7000人と推計された。

 この69人のうち、就職を希望していながら、現在、就職活動していない人と、就職・進学のどちらも希望していない人が16人。その理由は「メンタル的な問題・不安がある」7人、「病気・ケガのため」6人、「知識・能力に自信がない」「人間関係に不安がある」が各4人といった調査もされている点は興味深い。

 また、特徴的なのは、<何らかの困難を抱えながら、支援機関につながっていない>3人に対して、追加で聞き取り調査を行っていることだ。

 パートとして就労し、母親と同居している35~39歳の女性は、<小中高と、必ず親友と呼べる友だちがいたことが大きい。自分から声をかけて、友だちを作るようにしていた>と自力で克服した経緯を明かす。

 契約社員として就労し、両親と同居している30~34歳の男性は、<雇用契約の更新が年度単位で4回までとなっており、来年度末で一旦契約が切れる。職場環境を変えるリスクはできれば避けたい、と継続を希望しているが、雇い止めの可能性もある>などと雇用環境への不安を隠せずにいる。

 調査報告の詳細は、担当した横浜市子ども青少年局のHP上で公開されているのでご覧いただきたい。

 さらに、青少年相談センターなどの支援3機関で、当事者から聞き取りした30の事例も別途資料で紹介されている。

なぜ「39歳まで」が対象なのか
40歳以上の引きこもりが無視される理由

 これが10年前に行った調査なら、画期的な報告書として、きっと誰からも評価されたことだろう。

 しかし、すでに東京都は2008年に出した「引きこもり」相談の報告書の中で、40代や50代の相談者が散見されることを指摘。翌09年3月に公表した追加調査において、35歳以上の高年齢層の「引きこもりの状況」についても明らかにしている。

 2010年の内閣府の調査でも、引きこもる人たちは予備軍を含めて全国に225万人に上ると推計したが、このデータも39歳までが対象だったため、当事者や家族から批判が起こり、議論にもなった。当時、調査を手がけた明星大学人文学研究科の高塚雄介教授も、後に「40歳以上の調査ができなかった」ことに対する逡巡の思いをコメントしている。

 にもかかわらず、横浜市は今なぜ、39歳までの調査だったのか。

 ブログで「引きこもり」に関わる問題などを評論している上山和樹氏は、今回の調査について、フェイスブックで<相変わらず「39歳まで」となっています。40代なんていくらでも居るのに>と指摘したうえで、こんなエピソードを紹介する。

<2011年の「日本社会学会」大会で、引きこもり研究部会に参加したのですが、このときの会場質問の1つは、「どうして若い人の引きこもりばかり研究するのか」でした。その質問者は、おそらく60歳代以上のかたでしたが、ものすごく苛立っておられた。

「思春期の延長」という理解は、最初から医療目線でしかないとも言えます。――論点を描き直す必要を、強く感じています>

 現在「引きこもり」状態にある40代以上の人たちの多くは、様々な状況から社会につながることができず、みんな悲鳴を上げている。

 中には、生活保護のお世話になることだけは避けたいと必死に頑張り続けている人、社会に幻滅して死を考える人もいる。

 しかし、税金を使いながら、実態をねじ曲げた調査によって、結果的に人や金を動かさない魅力のないデータになってしまった。

 もっとも優先的に対策を取り組まなければいけない世代のはずなのに、40代以上の当事者たちを存在しないことにして、追い打ちをかけているのである。

 同市こども青少年局青少年育成課の担当者はこう説明する。

「40歳以上の方で引きこもって社会から孤立してしまって、支援の手が差し伸べられていない深刻な問題があることは承知しています。今回の調査は、20~30代の支援策を考えるための基礎資料としたいという趣旨で実施しました」

 いったい、39歳と40歳の当事者では、何が違うというのだろうか。

「30代で切って支援を考えようと実施したのは確かですが、うちの局でどこまで手を出すのかという問題もある。健康福祉局のように年齢関係なく支援を行う総括的な局もあり、40代以上でこの問題が切れてしまうわけではなくて、継続していく課題だという認識はあります。市として、40代以上の引きこもりの問題について、課題認識を把握することであれば、今後、健康福祉局と連携して調査したり、支援策を実施させたりすることを検討していくことになると思います」

 同課の担当者によると、これまで横浜市は、若年世代の実態を独自に調査したデータがなかったという。

 その過程で、当事者や家族会から意向や意見を直接聞いていない。

 今回の調査は、民間支援団体や公的支援機関、高校長らで構成する「子ども若者支援協議会」の若者自立支援部会を中心に企画したもので、委員を通じて間接的に当事者の視点を入れるなどの意見を聞いたという。

 しかし、支援団体を通した当事者視点だけでは、どうしても支援者のフィルターのかかった意向に絞られてしまう。

委員達も「40歳以上」には言及せず
その意図とは一体何か

 別途資料の中で、若者自立支援部会長の津富宏・静岡県立大学国際関係学部教授は、こう総括している。

<本調査は、若者たちがどのように支援機関につながったかをも明らかにしており、支援につながらない若者へのアプローチを考えるためのヒントにも満ちています>

<本調査は、支援機関との出会いを通じて、若者が自分の人生を取り戻していく過程も詳細に明らかにしており、支援機関における支援のあり方を見つめ直すためのヒントにも満ちています>

 つまり、支援者目線で、若者の「引きこもり」問題を語る一方で、40歳以上の深刻な実態については、一言も触れられていない。

 別途資料には、同部会の委員のうち6人のコメントも紹介されている。しかし、40歳以上の調査ができなかったことへの意見や思いなどに言及する委員は誰もいなかった。

 座長の宮本みち子・放送大学教養学部教授に40歳以上を調査対象にしていない点について尋ねたところ、このような返事を頂いた。

「40歳以上のひきこもりの問題は、私も十分認識しています。若者のひきこもり等への支援がなければ、やがて中年ひきこもりになることは目に見えていますので、早期に子ども若者支援をする必要があるというスタンスで、横浜の若者施策は動いています。

 池上さんが指摘される、『委員からも40歳以上の「ひきこもり」の実態を調査できなかったことに言及がない』という点に関してですが、今回の調査目的が若年層にあったので、調査対象者はその年齢層から選定しているというのが理由です。横浜市において、困難を抱える子ども・若者のために環境を整備するのに資する調査ですので、対象は限定せざるをえませんでした。

 40歳以上のひきこもり問題は、若者問題の延長線に位置付く重要問題だと私も考えております。若者支援の体制のない自治体ほど、中年ひきこもりが多いという感じももっています」

 調査のプロセスに課題はある。ただ、同課によると、来年度以降、市の中期4ヵ年計画や青少年のプランにまとめるうえで、どういう事業を展開していくのかなど、調査結果を基にして活用していく形になる。

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