瀬崎祐の本棚

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詩集「Sillage 夏の航跡」 峯澤典子 (2019/07) 私家版

2019-08-06 17:47:43 | 詩集
 20頁に7編の作品を収めた小詩集。ある詩のイベントに合わせて制作されたとのこと。やや黄色みを帯びた用紙に青インクでのような印字がよく合っている。

 7編のうち詩誌に発表された6編はその都度ごとにすでに読んでいたはずなのだが、こうしてまとめて再読してみると、作者の作品の印象が変わったことに驚いた。私(瀬崎)はこれまでは、作者の作品を外部の事象に対峙する姿勢、意志のあり方でのものだと感じていた。しかし、今回の詩集の作品は外部のさまざまな事象から押し寄せてくるものを受け止める作品だった。それは強さと同時に優しさを孕んでいるものだった。

 「アクアマリン」。雨の気配、花の気配、そんなものが湖の岸に滲んでいる。それは見えたり確かめたりできるような形ではなく、ただ話者の周りにも漂っているのだろう。

   帰るひとよりも
   遠い水辺へと渉ってゆく
   霧雨が
   一夜かぎりの
   わたしの
   星図に変わり

 アクアマリンのピアスは水の匂いに包まれていて、話者にも水の気配にひたされた夜が訪れるのだろう。思わず溜息が出てしまうほどの美しさがここにはある。こういう作品を読むと、詩は理屈などではなく、余分なことは何も言わせない美しさがあればいいのだと思ってしまう。

 「逢瀬」。「ほしが/さいごにふれるのは」「きれいなめ」なのか、それとも「ひふのやさしい かげり」なのか。”約束”、”名”という言葉以外はすべて平仮名で書かれたこの作品は、視覚的にもやわらかなリズムからも、お伽噺のように広がっている。うまれるまえからの約束とはどのようなものだったのだろう。最終部分は、

   もう だれのものでもなく
   ひかりをうけるだけのうつわになった
   くちびるで
   約束の ほしの名を
   すでに ちじょうには いない ふたりに
   つげるために

 このような形でまとめられたものとしてこの7編の作品を読むことができたのは、大変に嬉しいことだった。
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