瀬崎祐の本棚

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詩写真集「何か聴こえる」 山本萌 (2024/04) 書肆夢ヽ

2024-05-06 11:06:31 | 詩集
フォト&ポエムと記された32頁、中綴じの瀟洒な1冊。各頁に1葉のモノクロ写真とそれにつけた短い詩句が収められている。

たとえば、ベンチらしい(巧みに焦点をぼかしている)上に小さな古い硝子の小瓶が二つ置いてある写真につけられた詩句は、

   ちょっとそこまで
   同行二人
   ひかって
   かげって
   ちょっとそこまで

硝子の表面に付いた無数の小さな傷で光は輝き、陰を作っている。左の小瓶はわずかに左にかたむいている。背景も明暗が判る程度なので、物語は写真を見た人の数だけ生まれる。作者が付けた物語は少し微笑ましいものとなっている。

作者は子ども時代から絵、書、写真に親しんできたとのこと。それらを組み合わせた個人誌「雲の戸」も長く発行しており、これまでにも写真と詩の本を何冊か出版している。またクレパスによる絵をあしらったカレンダーも毎年制作している。

背後に深い森と山がひろがる草原の一画を横切る線路の縱構図の写真。線路のすぐ向こうには太い木杭とそれを繋ぐ鉄条網が映っている。写真に付けられた詩句は、

   線路は続かない どこまでも 続かない 途切れた先 わたしの胸の中へ ひそかに 鋭く 
   延びてくる

線路は画面の下部をただ白く光って短く横切っているだけである。この左右にどのような光景があるのかは隠されている。写真は光景を切りとると同時に時間も切りとっていて、見る者にその瞬間だけを差し出してきている。

「あとがき」で作者は、「事象は、この瞬間しか存在しない。次にそこを通りかかると、すでに景色はちがうものとなっている。(略)写真だけが事実で、現実は虚(幻)なのだろうか。」とも言っている。
モノクロ写真と詩句が引き合うことで新しい光景も広がっている1冊だった。
コメント
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