瀬崎祐の本棚

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詩集「からだにやさしい」  宿久狸花子  (2015/11)  青磁社

2015-12-14 21:33:55 | 詩集
 第1詩集。98頁に22編を収める。
 おそらくは若い、女性口調の独白体ですべての世界が構築されている。それはうねり、絡みついて、そこに記述されたことだけがすべてであるようだ。日常があり、希望があり、諦めがあり、他者への思い入れがあり。だから、書きとめることに必死なのだ。
 たとえば「亡霊」。きみが居なくなった部屋で「(略)エアコンの/風により揺れる洗濯物の/比喩を亡霊のように としたら」という思いには、きみの不在に幼い頃の洗濯物まで絡みついてくる。

   待ち人は鍵を
   部屋へ置いていったわけでも持って
   出ていったわけでもなくてというより居なくて
   きみの抜けおちた色素のなかの、
   なのに洗ってもとれないかえらない部屋の
   家賃を前払いして信じてると書いた
   凪いだ海の瑠璃色みたいと書いた

 作品によっては、行換えが音節の途中や接続詞の手前でされる箇所もあり、読み手はつまづきそうになり、そのことが読み手の意識を苛つかせる。もちろん、それが狙いであるのだろう。
 「無差別愛」は散文詩型で、ぐるぐると回りながら”あたし”はどこまでも深みへ降りていく。

   あたしはロンドン橋おちたを歌うのを、切れた膝を舐めて、自分をかわいそう
   がってる人は嫌いと思ってましたけど、同族嫌悪というあれで、あたしもばっ
   ちりかわいそうアンドかわいいやったし、ぼさっとしてたら死にそうになるの
   で、気を確かに持ってなあかん。
   嘘。死なない。

 どこをどのようにうねれば意識が安寧を得られるのか、そのことを模索しているようだ。だから、上っ面だけを書き連ねてなにもさらけ出していないようで、実は本当に必死なのだな、と思わされる。
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