瀬崎祐の本棚

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詩集「流星は魂の白い涙」 洞口英夫 (2020/04) 思潮社

2020-06-23 17:43:54 | 詩集
 112頁に52編を収める。行分け詩のほとんどが見開き2頁に収まる長さとなっている。

 ふとした瞬間に出会う感情を素早く捉えている。たとえばそれは空中にいる魂を見つけたことだったり(「とびかっている魂」)、長く夢を見ていた自分に気づくことだったり(「長居」)する。
 「青空」では、「自分が落ちたあたりの青空を見」ている。その破けた穴はすぐに消えてしまっている。12行の短い作品で、後半部分は、

   ありったけの郷愁をこめて
   青空を見る

   自分が落ちたあたりの
   青空を見る

 説明はできないのだが誰もが、ああ、何となくそんな気になることがあるな、という感じを巧みに捉えている。油彩画のように感情を幾重にも塗り重ねるのではなく、素描のような簡明さがそこにはある。それが作者の持ち味といっていいだろう。

 自分の意ではないそういった感情の訪れは、ときに自分の存在を不確かなものに感じさせてもしてしまうようだ。自分が立ち去った部屋にもう一人の自分が残っているようだったり(「部屋」)、もうひとつの同じ世界にも自分がいるのではないかと考えたりしている(「みえないが在るおなじせかい)」。
 「異界」でも、散歩の途中で話者はガクっと異次元に入り込む。異次元にもこちらの世界と同じ人物がいるようなのだ。

   自分が二人いて
   こっちの自分が
   異界にはいりこんだり
   あっちの自分が
   こっちに出現したりする

 しかし、果たして異界はどちらなのだろう。あっちの自分が本物ではないと思っているのはこっちの自分だけではないか。作品「異界から抜けでてくるのは」では、あっちの自分がこっちの自分を助けにあらわれたりするのだ。そして作品「めくれ」では、「空中がめくれ/魂の世が現われる」のだ。

 自己の存在をどこか突き放して見ているような、そんな感情に満ちた詩集だった。

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